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  加奈の回想が終わった。


 夫婦で築き上げていく生活には、時には風雨も入れば、地鳴りもある。

 屋台骨さえしっかりしていれば乗り越えられるものだ。

 真っ直ぐな柱だけで建てられた生活こそ、面白味がない。

 それでも小田切家は、柱の内部から侵食されてきている。

 優奈はそんな印象を持った。


 ここまで話し終えて、加奈が化粧室に行く為に席を立ったので、

 優奈は例の怪文書について、加奈に教えるべきではないかと

 常川に打診してみる。

 

 何かヒントになるような有益な情報と言えば、それくらいしかない。

 手紙の差出人と、保育園に手紙を送った人物、ひいては加奈の職場へ

 噂を流したのが同一人物の可能性は大いにある。


 「……ここまで来てしまったら仕方がないだろうな。だが……」


 いつになく歯切れが悪い。

 

 「学校だけでなく、自宅や奥さんの職場にまで迷惑をかけるなんて、

  普通じゃないですよ。私、あの怪文書の事言ってもいいですよね?」


 「……そうだな」


 はっきりしない常川に発破をかけていると、加奈が戻って来た。

 

 これ以上悲しませるのも辛かったが、加奈は真実を知りたがっている。

 優奈はなるべく加奈を傷つけないように配慮しながら、小田切と

 佐々木を名指しする怪文書が届いたことを話した。常川は黙ったままだ。


  加奈は目を丸くしてから、ため息を吐いた。

 大学で嫌なことがあったと小田切から聞いていたけれど、理由が

 分かってほっとしたと、疲れた顔で言った。


 「それで、本当に自殺した人と小田切には何の関係もなかったんですか?」


 「……それは小田切の口から聞かないと意味がない。少なくとも

  死人は出た。それも一人じゃない。それが小田切と関係があるのかは、

  本人に聞かないとな」


  5年前のアカハラ事件については、優奈も断片的にしか知らない。

 怪文書として届いたアカハラ事件の概要も、ちらりと読んだだけ。

 常川も進んで話そうとはしないから、今日の加奈の話で、初めて

 大枠の内容が分かったくらいだ。


 小田切を憎んでいる人物の主張が事実とすると、 

 小田切と佐々木を含む院生たちが5年前に、一人の女子院生に
 嫌がらせの
限りをした挙句、一人の院生の仕業に仕立て
 退学処分にさせた。
その学生はそれを苦に自殺したことになる。

 

 にわかには信じられない内容だ。 

 今の穏やかな研究室に、そんな時代があったなんて、未だに想像できない。

 しかも一人ではないのであれば……。


 「もっと死者がいるということですか?」


 裏返った声で驚く優奈に、しっと口止めする

  常川。周囲の客が一瞬会話を辞めて、こちらをみる。


 「……これ以上は俺も言えない」


 「知っているのなら、もったいぶらないで教えて下さいよ」


 「その時、俺は休学していたからな。ほとんど事情を知らんのよ」


  そう言えばこの人は限界まで休学しまくっていた。

  いなかったほうが多いのだ。


 「つっかえない人ですね。間が悪すぎます」


 デザートのパフェを運びながら、優奈が罵る。

 途端に、常川がパフェのグラスを自分の方に引き寄せようとして、

 取り合いになる。

 それが目に入っていないのか、加奈はため息交じりで話を続ける。


 「小田切は5年前の事件には、自殺した学生が一人でしたことで、

  自分はそれを諫めただけだと繰り返すだけなんです。もう亡くなった

  方から事情を聞く訳にもいきませんし。」


 少し考えてから、小田切は慎重に言葉を選んで言った。


 「5年前に自殺した人間の他に、もう一人死者がいるはずだと

  旦那に聞いてみて。もしかしたら思い出すかもな」


  加奈は真剣な顔でそれをメモをする。


 「でもなあ。知らない方が良いってこともある……」


 「覚悟は出来てます」


 「まあ、無理はしないように。何か不審なことがあったら、

  俺にも電話して。これでも顔は広いんだ」


 「あ、えっと私も協力します。できることなら……」


  優奈の言葉はいかにも付け足したようで格好悪いが、

 嬉しそうに加奈は微笑んでくれた。

 

  一段落すると加奈は、すっきりした顔で、手帳をハンドバックに詰め込むと

  娘を保育園に迎えに行く時間なので、今日はこの辺でと言った。

 

 「それじゃあ、話を聞いてくれてありがとうございました!」


   そう締めくくると、加奈は来た時よりも明るい顔で帰って行った。

  多少は役に立てたようだと、優奈は胸をなでおろす。

   こちらが示した情報は、「5年前に自殺した学生が一人、何らかの

  理由で亡くなった学生が一人いたこと」、「小田切と佐々木を名指しする

  怪文書が研究室宛てに届いたこと」と「小田切の帰りが遅いのは

   プロジェクトの仕事の為だが、なぜか佐々木がいつも組んでいること」

   だけ。

 

   後は加奈が夫に聞きだす手腕にかかっている。

   男女関係に疎い優奈は、不思議に思った。

  

 「小田切先生も、初めから奥さんと腹を割って、話合えば

  良かったことかも知れませんね」


  誤魔化そうとするから、後から襤褸が出て、新たな疑惑を呼ぶ。

  悪循環だ。

 

  「信頼してほしい相手だからこそ、言えないこともある。お前には

  まだ早いか。彼氏いなそうだもんな」


  優奈は反論しようとしたが、事実なので言葉に詰まった。

  学部時代から付き合っている人がいると言おうとしたが、

  今更嘘をつくのもあまりに自分が悲しいので「常川さん

  だけには言われたくない」と言い返すに止めておいた。

 


13


「望の発作が起きて、薬を飲んでも中々良くならないの」


 常川達と話し終えた後、車で義両親の元へ向かった加奈は、

 真っ青になった。

 

 夫の愛人らしき人物からの怪文書が保育園に届いて以降、

 望は保育園を休んでいた。小田切は毎日出勤するので、

 用事がある時には、義両親に預けさせてもらうことにした。

 

 理由をまだ小田切には打ち明けていないので、義両親へは

 今日は保育園が無い日だが、用事があるので預かってくれないか

 と頼んだら二つ返事で引き受けてくれた。


 おかげで常川達に相談もでき、情報とアドバイスをもらえた。

 しかしその引き換えがこれでは……。


 一旦駐車したコンビニの駐車場で、加奈は行きつけの病院の

 名前と場所を告げてそこに望を連れていくよう頼んだ後、

 急いで病院に直行した。

 

 病院へ着いた時には、既に望の処置は終わったところだった。

 駐車場で義両親の車へ向かう望が見える。

 義父と手を繋いで、きちんと自分の足で歩いている。


 「望……!」


 駆けよって抱きしめようとすると、その間を小田切が遮った。


 「何をやっていたんだ!」


 義両親から連絡を受けた小田切の方が、先に病院に着いていた。

 すぐに加奈から、望を引き離すと、怒りに満ちた眼で睨んだ。


 「用事ってなんだ?」


 常川達と小田切の浮気や過去の事件について、相談していたとは

 義両親の手前言えず、加奈は黙り込んでしまう。

 それを疾しいことがあるから答えられないと捉えた小田切は、

 感情が高ぶる。


 「子どもを放っておいて、遊びに行っていたのか?」


 「違う!大事な用事があったの!子どもを連れていけるような

  場所じゃなかったし」


 「どこだ?職場じゃないよな?職場には今連絡して、今日は勤務日

  ではないことを確認したよ。だったらどこだ?なぜ保育園に

  預けていないんだ?」


  一方的に批判されるのに腹が立って、加奈もさすがに反論する。


 「……あなたの浮気相談よ。毎日佐々木さんと遅くまで実験している

  時間はあるのに、私が悩んでいることには耳も貸さないで!

  保育園なんか当分行けないわよ!あなたの愛人らしい人が出した、

  妙な手紙のせいでね!お義父さんとお義母さんの手前だから黙っていた

  けれど、もうたくさん!あなたが私と望の人生を滅茶苦茶にして

  いるの。いい加減気付いてよ!」


  言うだけ言うと、加奈は保育園に届いた手紙を、義両親に渡した。

  小田切も「愛人」の言葉に気がかりの事があるのか、

  一緒に文面を見ている。


 「満夫これは……?」


  義両親にはさすがに動揺が走ったが、小田切はそれをくしゃくしゃに

  丸めた。


  「また嫌がらせとでも言うのか?」


  「何よ。……何なのよ、その目は」


  「言い訳はいい! いくら最近物騒だからと言って、誰でも彼でも

    疑うのはどうかと思うぞ。望まで人間不信になったらどうするんだ!」


   「私はただ望が心配で……。それ以上に『望まで』って何?私が

     人間不信で望に悪影響だって言うの?」


   「最近のお前は異常だよ。昔のことをしつこく穿り返して」


  「……」

 

  言葉が全く伝わらない。

  意味をなしているはずなのに、加奈と小田切との間には

  決定的な断層がある。


   そのまま小田切は自分の車に望を乗せると、義両親の家に

  帰って行った。

   独り家に帰り、加奈は心細さと怒りと、無力感の混じった気持ちを

    持て余す。気分の高揚が収まらず、ソファに突っ伏した。

 

   (私がおかしいのだろうか?)


  もう自分を含めて誰を信じていいのか、加奈には分からなかった。



14

 

 「本当なんですか?」


  加奈は受話器を取り落としそうになった。

  時刻は午後八時。

  その時加奈は一人で夕食をとって、塾で生徒から返された答案を

  採点していた。


  望が義実家で発作を起こして既に一週間が立っていたが、未だ

  小田切は加奈を許す気持ちが収まることはなく、小田切が遅い時は

  義母の家に預けられていた。


  心配している割には、小田切の帰りが遅い日が続いた。

  帰宅時に受けた電話と話している時に、漏れ聞こえた声から、

  相手が佐々木であることがすぐに分かった。


  尋ねてもはぐらかすので、悪いとは思いながらも携帯電話の画面を

  盗み見した。だがやはりロックがかかっていて、中身を見ることは

 できない。悶々としたまま、惰性で日々を送っていた。


  その電話が鳴ったのはそんなときだった。

  この頃は無言電話も、なぜかあまり鳴らなくなっていたのと、

  連日の出来事に気を取られていて、特に躊躇しないで電話に出た。


 「あなたの旦那さんは、人殺しです」


  相手の第一声がそれだった。

  相手の声は確かに女の声だったが、複数の女の声を切り貼りした

  ような統一感の欠けたものだった。

  驚いたものの、すぐにあの噂と結びついた。

  冷静に対処して、可能なら噂を消さなくては。


 「失礼ですが、どちらさまでしょうか? おかけ間違いでは……」


  加奈の声に被せるように、電話の相手は言った。


 「あなたも殺されますよ」


  ガチャ。ツーツー。

 

  もう限界だった。

  加奈は小田切に電話した。

  仕事を邪魔してはいけないといつもは遠慮しているが、

  気にしてなどいられなかった。


 「あなた、私。今変な電話があって……」


 「今大事な話をしているところなんだ。いつもの無言電話か?」


  周囲に人がいるのか、あくまで表面上は愛想良く答えるが、不機嫌な

  気持ちが滲み出ている。いつもは完璧なまでに良い人を演じている

  小田切にしては珍しい。


 「違うの。あなたのこと、『人殺し』だって……」


  それを聞いた途端、小田切の声が荒いものに変わった。

 

 「そんなわけないだろう」


 「……それは分かっている。でも変な電話が自宅まで来るなんて、

   私怖くて」


 恐怖を訴えるが、受話器の向こうからはざわざわと周囲の音が

  妙に聞こえる。小田切が受話器を耳から話しているのか。

  小さな声も聞こえる。

 

 「もしもし、ちゃんと聞いてる? 私もう怖くて……」


 「君の仕事はつまらない噂を消すことだろう。ちゃんと毅然とした態度で

  噂を否定したんだろうな?」


 「それは……」


 「君は一児の母親だぞ。しっかりしてくれないと困る」


  あやすような声を出す。

  明らかに周囲に会話を聞かれていることを意識している。


 (ごめん、遅れちゃって)


  冷静な声が受話器越しに聞こえる。

  あの女の声だ。


 (やっぱり一緒に居るんだ)


  この瞬間、加奈の心の中で小田切の存在が劇的に変わった。

 

  思い出は浪費した時間。

  浮気は取引材料へと。



1


 その日小田切が帰宅すると、応接間ではしゃいでアニメのビデオを

 見ている望の傍で、全く内容が目に入っていないかのように放心

 している加奈が座っていた。リビングを照らす明るい光とは対照的に、

 加奈の座るテーブルには、豆電球しか付いていない。


 「何をしているんだ。電気も付けずに」


 「これ……何?」


  応接間の机の上に置かれた封筒は、今朝大学に送られてきたものと全く

 同じだ。まさかと中を検めると、やはり同じものが入っていた。

 差出人不明の封筒は、あれから不定期に郵送されてきており、

 なぜか学生の研究室宛てに封筒が届くので、同封されている文書が

 学生に見られているのではないかと、毎回冷や汗をかく。

 文書の内容は送って来る度に、内容がより細かく、小田切の罪を

 暴いていく。今加奈が手にしているのは、最新の文書と全く同じ

 内容。その内容は5年前の小田切の罪を詳述してあった。

 

 「こんなもの嫌がらせだ。気にするなと言っただろ」


 声を荒げる父親に、娘の望が怯え出した。


 「どうしたの? 喧嘩はだめええ」


 「ああ、ごめん、ごめん。パパが悪かったね。ごめんね」

 

 最近はすっかり娘に甘くなった小田切は、すぐに態度を変えた。

 だが今日は加奈の、勘に触るだけだった。


 「これは本当なのかどうかだけでも、答えて頂戴」


 内容は土岐等あかりに対するアカデミック・ハラスメントについて。

 その後の大学側との交渉の経緯と、その結果一人の院生が罪を

 全て被ったことが淡々と事務的に書かれていた。

 どこかの機関へ提出する為に、経緯を纏めたもののようだ。

 極力主観は排してあるが、その分静かな怒りが感じられる。


 これが塾で問い合わせが合った内容かと、加奈は隅から隅まで

 読んだ。読み進めるにつれて、保護者の気持ちが共感できる。

 この内容が広まっていたのだとしたら、加奈を恐れる気持ちが分かった。

  

 「違う。前にも言っただろうこいつはひどい暴力事件を起こ

  して退学したのを、逆恨みして自殺しただけだ。私たちはただ

  こいつの行動を諫めただけだ」


 「それじゃあ、どうしてこの人はあなたたちの名前を書いているの? 

  やったことだって細かく書いてあるわ。あなたが女子学生にした

  ことは、無視、暴言、実験結果の横どり、集団での吊るし上げと

  書いてあるけれど。まさか本当のことなの? この女子学生は

  どうなったの? この人まで亡くなったんじゃないでしょうね?」


  「落ち着いてくれよ。たちの悪いいたずらだと言っているだろう。

    嫌がらせの為にはいくらだってエネルギーをつぎ込む暇人だって

    いるんだ。ほら、望だって心配しているじゃないか……」


  こんなときにまで、娘をダシに使うところも卑劣だと

 加奈の怒りは増すばかりだ。


  「まま、喧嘩だめ」


  裾を引っ張る望。愛らしさと不憫さで泣けてくる。

   だが今は落ち込んでいる場合ではない。


  「望、今大切な話をしているの。ちょっと待ってね」


  望の為に、新しいアニメをつけると、それを見るように言った。


  「ごまかさないで。……この女の人はどうなったの?」

 

  「知らない。入院している場所へ一度見舞いに行っただけだ」

 

  「入院……。入院させるようなことをしたの?」

 

  「その人はもともと体が弱かったんだ。だから私たちのせいではない」

 

  「それじゃあ、体の弱い人に嫌がらせをしていたの?」

 

   絶句する。

  

  「そもそも嫌がらせなどしていない。見舞いに行ったのがその証拠だ」

 

 「そんなの何の証拠にもならない! 今すぐこの人たちに謝りに行き

    ましょう。死んだ人は無理でも御遺族の人たちの前へ引きずってでも

    あなたを連れて行く。土下座して謝罪してもらうわ」


  「僕は悪いことなど何もしていない。こんないたずらを真に受けて行く

   必要などない。家族よりもこんな怪文書の方をお前は信じるのか。

   それにどうして僕がこんな逆恨みを受けていると思うんだ。お前たちを

   食わせていかなければならないから、嫌なことでも我慢して引き受けてきた

   からじゃないか。僕の苦労がお前に分かるか」


  「……あなたそれ本気で言っているの? 私たちがいたから人を殺す

    ようなことを平気でやったって。……もう無理。あなたはそうやって

    一生自分の罪から目をそむければいい。でも私たちまで巻き込まないで」


   加奈は望を連れて、家を小田切家を出ることを今度こそ決意した。

 

2


 加奈はともかく、望には愛情があった小田切は、親権だけは頑として

  譲ろうとはしなかった。幼子の場合、余程の過失がない限り、子どもは

  母親が親権を持つことになる。小田切は加奈が虐待をしている可能性が

  あると言い張り、無理やりにでも連れて行こうとした。


 「お前は虐待している可能性があるからな。望の将来の為にも、

    俺は絶対に親権をもらう」


 「濡れ衣も大概にして。あなたみたいな卑怯で陰険な人の下に、

    望を預けることなんてできない。殺されてしまう」


 いつもは脅したり賺したりして、なんとか加奈を丸めこむ小田切だが、

 ここまで不満と疑惑が入り混じった加奈を、誤魔化すことはできない。

 結局「親権は絶対に譲れない」と言い残して、その日は家を後にした。

 実家にでも寄るのだろう。


 息子に甘い義両親からの干渉が、予測されたが、それもどうでも

  良いことだ。

 訳が分からずぽかんとしている望を抱きしめて、

  加奈は心が軽くなったのを感じた。


 (小田切から離れれば、普通の生活に戻れる)


 それこそが加奈の願いだった。


 別居して一週間。小田切がいないだけで、平凡な毎日が続いていた。

 いたずら電話も治まった。

 塾への告げ口電話もない。

 保育園にもあれ以降、異変は起こっていないようだ。

 それでも警戒して、望を保育園に行かせていない。


 小田切の言い分を鵜呑みにしている義両親は、頻繁に電話をかけて

 望と会わせて欲しいと懇願する。以前と比べて何かと気を遣うように

  なった義母だが、息子の言い訳を鵜呑みにして、様々な理由を並べ

  立てては、復縁を迫る。

 これにはうんざりしたが、望が会いたがるので止めるわけにもいかない。

 

 小田切が加奈と顔を合わせるのを避けているので、望を義両親に預けて

 仕事に向かう状態が続いている。父親不在で不安になっている望をこれ以上

 傷つけたくなかった。

 小田切が加奈と顔を合わせないのは徹底していて、

 自分の私物も、加奈がいないときに、こっそり取りにきているようだ。

 そんな子どもっぽい態度にも、愛想が尽きてくる。


 ただ来るべきものが来ただけ。

 加奈はむしろ気が楽になった。

 これからは普通に戻れる。


 その矢先のことだった。

 

 -望が姿を消した。

 



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