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 あの晩のことは忘れもしない。


 深夜2時に鳴り響く携帯の音。

 要領が良く泣き言等一度も言ったことのない姉の、泣きじゃくる声。

 第一報は、甥が投身自殺を図った可能性があるというものだった。


 場所はフェリーで、甲板の上に遺書と靴、そして大事にしていた

 鏡が落ちていたという。

 遺留品の中に和哉のものとおぼしき学生証が出てきたことや、

 自宅に帰って来ていないことから断定されたと言う。

 最近は以前ほど頻繁には会っていないと言っても、

 自分の息子のように可愛がっていた甥だ。

 相当のショックだった。


 更にショックを与えたのは、和哉がアカデミック・ハラスメントを

 後輩にしていて、その後輩は。それを責められて退学処分をされていた

 ということだ。学生証の返還も要求されていたらしい。


 だが大学側は知らなかったのだ。野坂が和哉の叔母であることを。

 一連のアカデミック・ハラスメントの実情を把握していることを。

 もちろん和哉がハラスメントに関わっていたのは事実だ。

 だがなぜ和哉だけが死ななくてはならない?

 他の加害者は。一番の加害者の人間はのうのうと生きていると言うのに。


 新しく室長となった山瀬に会うたびに、憎しみを抑えるのに精いっぱいだ。

 和哉が亡くなったのは、アカハラ被害者とされる女性の家族が学校側と

 対談してから数週間後のこと。それまでには証拠は改ざんはしなかったものの、

 都合の悪いものは全て廃棄させられた。野坂は甥が関わっていることもあって、

 率先してその作業をした。数週間後に後悔するなどとは知らず。

 それでも表立っては立てつけなかった。このご時世心理士として

 職に就くのは至難の業だ。経験がいくらあっても、職を賭してまで

 山瀬に立てつくことはできなかった。姉夫婦も和哉自身が原因となった

 ことなら、文句を言える立場ではないと腹をくくったようだ。


 長いものには巻かれろ。理不尽でも頭を下げて事が終わるなら、

 事を大仰にするべきではない。

 学部生ならまだしも、大学院生は将来を教員陣に握られている。

 いくらその罪を訴えても、一時的なカタルシスが得られるだけ。

 訴えられるような人間はそもそも倫理規定など守る気すらない。

 勝手な言い分をでっちあげて、その学生を学界から追い出すだけだ。

 全てその学生に罪を圧しつけて。大学側も面倒事を起こす学生の追放には

 協力的だ。だから処世術として野坂は、保身を勧めてきた。

 学生の気持ちに寄り添う努力はした。でも上手くやれない人間が悪いと

 心の片隅で思っていた。実際あくまでそれに応じない者は皆大学を去る

 しかなかった。それは間違いではなかったと今でも思う。処世術は社会に

 出ても重要なこと。

 

 それでも山瀬の顔を見るたびに、己の無力さに腹が立つ。

 本当は怒鳴りつけてやりたいほどなのに。

 でも一番許せないのは、こんなに許せないのに愛想笑いをして

 その場をやり過ごして保身を図っている野坂自身。

 フラストレーションは汚泥となりその域を拡大して、

 野坂は身動きが取れなかった。



1

 

  客が持ち込んだ緊張感のある話題に、心底疲弊した朋谷は、

  彼らの帰宅により漸く人心地がついた。

  ソファーに座った姿勢から、そのまま横向けに倒れ込み、

  目を閉じる。

  最近寝つきが悪いせいか、数分横になっただけで、もう意識が

  遠のいていく。ベッドに戻るのも億劫で、朋谷はしばしの仮眠を

  取ることにした。


  「苦しい。息が。薬を」


  そこは5年前の研究室。

  死んだはずの土岐等が、自分の席で胸を押さえ苦しんでいる。

  発作を起こしたようだ。

  それを朋谷は少し離れた場所から見ている。

  土岐等の周囲には、少し若い佐々木と小田切がいる。

  奴らは指をさして何がおかしいのか、土岐等の苦しむ様を嗤っている。

  

  (ああ確かに昔、こんなことがあった)


  これは夢だとすぐに朋谷は分かった。

  先程、あんな話をしていたから、その影響が夢に出たのだろう。

  こいつらはこの悪行のせいで、将来命をもって償うことになる。

  愚かなことだ。


  朋谷は土岐等に、かばんのどこに薬が入っているのかを聞きだし、

  素直に薬を渡す。それが気に入らないのか、二人は今の内に研究

  データを盗ってしまえとけしかける。


  本当の朋谷は、多分言われた通りに嫌がらせに加担していた。

  細かくは覚えていないが、当時の自分に「断る」という選択肢は

  なかった。でも未来を知っている今、こんな危険な選択はできない。

  それにこんな奴らに利用されるの馬鹿らしいことに、気付いたのだ。

  どうせいざとなったら自分を売るのだ。

  どうして忠義立てる必要があろう?

  

  「嫌だ。断る。お前たちがどうなろうと知ったことじゃないが、

   こっちまで巻き込まないでくれ」


  毅然と言い放つ朋谷に、二人は目を丸くする。

  もともと理不尽な要求なのだ。

  正論をかざされると、一気に萎んでしまう。


  くるりとドアに踵を返すと、肩に手を乗せる者がいる。

 

  「自分だけ逃れられると思うなよ」


  こいつの顔は……。

  

  

  ピンポーン。ピンポーン。

  玄関ブザーが一定間隔で鳴るで、目が覚める。

  時計を見ると三十分ほど針が進んでいた。

  

  ピンポーン。

   

  またもブザーが鳴った。

  もう夜も遅い。一体誰だと、眠気が冷めぬままに、玄関の

  インターホンに出る。


 「すみません、忘れ物をしてしまって。ちょっと宜しいですか?」


  モニターに映しだされたのは、野坂だった。

  必要な言葉は交わしたし、もう相まみえることもないだろう相手。

  忘れ物をしたならば、確かに返す機会はない。


 「何か分かれば持って行きますけれど?」


 「薬です。ちいさなケースに入った。ソファーのところにあると思います。

  すみませんが、お水ももってきて頂けますか。薬さえ飲めば直ぐ良く

  なるんですけれど……」


  言われてみれば、どことなく体調の悪そうな声だ。

  朋谷が持って行った方が楽だろう。

  ついでに薬を飲む為に水を持って行った方が良いだろう。


 「分かりました。じゃ、そこで待っていて」


  数分後降りてきた朋谷は、オートロックの扉を開けると、

  野坂の姿は見られなかった。

  呼びだしておいて、どういうことだ?

  眠い目を擦りながら、周囲を見回すと、野坂は駐車場にある

  軽自動車の中で眠っている。


 (先程は具合が悪そうだったが、まさか)


  急いで野坂の眠っている運転席側の窓を叩くが、起きない。

   

  携帯電話番号も知らないので、電話で起こすわけにもいかない。

  良く見ると助手席側だけロックがしていないので、そこを開けて

  起こすことにした。朋谷は助手席に乗り込み、持って来たペット

  ボトルの水を分けようとする。


 「大丈夫ですか、野坂さん?お薬。持って来ましたよ」


  膝だけ乗り出しても、まだ起きない。

  朋谷は、より運転席に近い場所の方へ座り直す。

  薬とペットボトル左手に持ち直して、右手で野坂の肩を揺する。


 「野坂さん!大丈夫ですか?」

 

  カチ。

 

  いきなり全部ドア・ロックされた。


  何が何だか分からない朋谷が狼狽えていると、急に起きた野坂が

  車を急発進させる。慌てて朋谷が尋ねる。

 

 「ちょっとどこ行くんですか?」


 「まだ分からないのか?」


  後部座席からの声と、首にスタンガンを押しつけられたのは同時だった。


 「これが最後のドライブだ。楽しみだだな」



2


 目が覚めた時には、全てが終わっていた。

 誰もいない車内。

 先程までいたはずの朋谷も、後ろの男も。

 そっと後部座席を確認するが、誰もいない。


 トランクに潜んでいる男が頭を掠めたが、

 それを確かめる勇気は、野坂にはなかった。


 最後に思い出せる光景は-。

 横で震えている朋谷。

 左腕で羽交い締めする後ろの男が握るスタンガン。


 そして―指定された場所に辿り着いた途端に、

 電気の弾ける音と共に、訪れた強い衝撃をくらった。

 同時に訪れた暗転。


 正直何が起こっているのか、知るのが怖い。

 怖々周囲を見回すが、やはり先程と変わらぬ郊外の

 墓地だった。

 冷静に考えれば、運転席に野坂が眠りこけているのだから、

 移動していないのは当たり前だが。


 急いで110番をしようと携帯を探すが、どこにもない。

 抜かりなく取られてしまったようだ。

 祈るようにカーライトを使って、車のキーを探すと幸い

 エンジンに刺さっていた。

 再度車のロックを確かめて、野坂はゆっくりと車を動かす。


 フロントライトが照らし出したのは、

 意識が無くなる前と同じ場所-車は墓地を見下ろす

 小高い丘の上に駐車してあった。

 自然と墓地を見下ろす格好になる。


 朋谷を探すが、深夜に差し掛かっている時間帯のこと。

 周囲に街灯なんて気の利いた物はなく、様子はほとんど分からない。

 薄くつけたヘッドライトだけが、ぼんやりと前を照らす。

 丘と斜面の下にある国道とをつなぐのは、一本の舗装していない小道のみ。

 両側にガードレールもない小道だから急いでいても、慎重に前進する。

 ここで車が側溝にでも落ちたら、何の意味もない。


 車の斜め前ら辺にある林で、何かが影が動いた気配がした。


 ライトが届かなくて、良くは見えない。

 道幅は車二台がやっと通れるもの。まだ右に幅はある。

 車を少しだけ右側に傾けると、ライトはそれを照らしだした。

 宙に浮くヒトの体だった。

 着衣から直ぐに朋谷と分かった。

 首はダランと垂れ下がり、目に光はない。

 

 野坂は次の瞬間、絶叫しながらアクセルを思い切り踏み込んだ。

 とにかく前だけを見て運転した。

 やっと人家の灯りが見えるところまで来ても、鼓動は治まらず、

 独りでいることがとにかく恐ろしくて、ひたすら灯りを目指す。


 レストランの立ち並ぶ国道沿いまで来て、野坂は漸く少し落ち着いた。

 大きめのファミリー・レストランに車を停め、公衆電話の場所を聞く。

 そのレストランには電話が設置されていたので、通報した。

 恐怖と興奮で落ち着かない気持ちをを押し殺して、第一発見者としての

 証言や、調書を取るのに付き合っていると、すっかり明け方になって

 しまった。

 

 翌朝‐やっとのことで解放された野坂は、朋谷が亡くなったことを

 再認識した野坂は怖れと焦燥で、とても自宅に帰る気にはなれなかった。

 そこで費用はかかるが、ビジネス・ホテルに宿を取り、部屋に着くなり

 待ちきれないというようにベッドに飛び込み、横になる。

 

 でも一番恐ろしかったのは、男が知った顔だということだった。



3


  ホテルの薄いベッドマットに横たわっても、

 興奮しているのか目が覚めてなかなか眠れない。


 寝返りを打っていると、警察署で調書を取っていた時ことを思い出した。

 

 警察と共に再度現場に戻った野坂は、

 朋谷が縄を木にかけて、首を吊っているのを確認した。

 大木にかけた丈夫なロープで首を括り、足元には台代わりの

 古い木箱が転がっている。

 

 今日会ったばかりの人間が、夜には遺体で発見される。

 野坂は衝撃がまた

 遺体の状態はもちろん、朋谷が限りなく他殺なのではと直感したからだ。

 

「協力者」がターゲットにした人間が、次々に不幸に見舞われ、

 命を落として行く。野坂も何のおとがめもなくのうのうと生きている

 ターゲットたちを忸怩たる思いで見てたのだから、

 その転落に胸がすく思いがしていた。

 しかし良心が咎めて自ら死を選んだのではなく、殺されたのだとしたら。

 話は違ってくる。


 小田切は山で毒草を煎じた茶を誤飲したことによる自殺。

 佐々木は崖からの転落死。

 そして朋谷は首吊り自殺。


 野坂は、知らずにとんでもない罪を背負わされているのではないか。

 協力自体、罪深いものではないか。

 自分の行動を省みて、恐ろしくなり、顔面が蒼白になる。

 警官は怯える野坂を、遺体を発見したショックだと解釈し、

 気遣いながら、調書を書いてくれた。


 小田切と佐々木は、それぞれ自殺をしてもおかしくないような

 理由を持っていた。だからこそ野坂もその結末に納得をした。 

 それでは朋谷はどうか?

 確かに朋谷はハラスメント加害者として、処分されている。

 だがそれを理由に自殺するだろうか。

 

「遺体を発見した経緯を教えて頂けますか?」


 当然の質問だった。


 野坂が目覚めた時に居たのは、郊外にある古い墓地の駐車場。

 郊外とはいえ、交通の便が悪く、人家からも距離がある。

 街から墓地に通じる車道は狭く、その先は山に繋がり、林業関係者

 くらいしか利用しない。その為街灯も道沿いに二本あるだけで、夜に警察

と実況見聞に付き添った時には、墓地全体が暗闇に閉ざされていた。

普通なら地元の人間でも、あんな時間に近づくことなどあり得ない。

不審に思われても仕方がない。


しかし後部座席の男の顔を思い出すと……。


中々口火を切らない野坂を、警察官がゆっくりでいいからと励ます。

出されたお茶を飲んで少し落ち着いた野坂は、机の木目を数えるように

下向きのまま口を開いた。


「実は……」


 


4


 その朝、常川と優奈は携帯メールをもらった。

 差出人は野坂。


 一つ目は、朋谷が亡くなったと言うショッキングなもの。

 もう一つは、一連の事件の犯人が分かったので会いたいという

 内容だった。

 

 重要なニュースが二つも含まれていて、興奮さめやらない優奈を

 常川は学生食堂に連れて行った。山瀬のCOEプロジェクトに関わっている

 者‐つまりは研究室のほぼ全員は面識がある人間が自殺したという

 ショッキングなニュースは、軽々しく研究室内では話せない。   


 「おかしいですよね……。朋谷さん、昨夜は確かに誰かに怯えて

いましたけれど、自殺するような雰囲気ではなかったと思うんです。

むしろ生きることを諦めたくないって強い意思すら感じたのに」


朋谷は、自分や小田切たちを脅している人物に心当たりがあるようだった。

頑として口を割らなかったが、すぐにでも警察に保護を頼むと言っていた

矢先のことだ。


 「私昨日の事を警察に……」

  他殺の疑いがあれば、警察に情報提供すべきだ。
  今までの小田切や佐々木の死も、タイミング的におかしい。
  それも3人目となれば、おかしいと感じるのが普通だろう。


 「駄目だ」

 「どうして!あんなに怯えていたじゃないですか!何かあったんですよ」

 朋谷が怯えていた事情を知る者は、朋谷の職場にはいないはずだ。

 同級生で秘密を共有していた仲間たちも既に亡くなっている。

 なにより以前から解せなかったのだ。
 常川はいつも脅迫の件に関しては、なかったことにしようと努める。

 常川はなぜ言わない?

 たまに見せる正義感の強さと矛盾して、今日こそは問い詰めてやろうと

 優奈は語彙を強めた。


 「……一連の事件が自殺ではなく、犯人があの事件の関係者だとしたら、

  俺はとっ捕まって処罰されろなんて思えない。奴なりの正義で

  動いているんだ。それが社会通念では間違っていたとしても。最初に

  非道なことをして罰も受けない奴らを制裁した気持ちはわかる」


 「でも、皆がそんなことをしていたら、世の中滅茶苦茶になりますよ。

  もし人殺しで報いを受けさせていたのだとしたら。脅迫だって立派な

  犯罪なんですよ」


 「分かっている。でも俺は逃げた人間だから、そいつに意見する権利は

  ない。そいつは真っ直ぐに戦っている。自分を誤魔化していない。

  だから掴まって欲しくはない。

  その前に一緒に協力して、改悛させる別の方法を考えたい。

  俺だって加害者の一人だからな。知っていて逃げ出した。それは

  一生代えられない事実だ」


 優奈はとても賛同できなかったが、一旦保留にする。

 野坂が犯人を知っているのなら、それを聞いてから行動しても

 遅くはない。待ち合わせの三時まで、あらゆるシチュエーションを考えて

 やきもきした。


 場所は、恐ろしくて家に居られないという野坂が現在滞在している

 ビジネスホテルを指定して来た。その場所と部屋番号を教えてもらい、

 常川と二人で向かう。

 ホテルは正面に大きな川の見える五階建ての幅の狭い構造だった。


「野坂さん?」


 時間通りなのに、ノックをしても野坂は出てこない。

 部屋番号はあっているのに。念のためにドアノブを回すと呆気なく開いた。


「おかしいな。あれほど怯えているような文面だったのに、開けっ放しなんて」


 中の様子を伺いながら、中の動静を探る。優奈がきゅと常川の袖を引く。


 「様子がおかしいですよ……。警察に通報した方がいいかも……」


 常川は構わず、さっさと中を検める。

 優奈は中で野坂が倒れているのではないか。その犯人が傍で隠れている

 のではないかと、戦々恐々としながら、こわごわトイレとお風呂を

 確かめる。当然のように誰もいない。


 中は12畳ほどのベッドルームとテーブルが兼用の部屋と、トイレと

 バスルームだけの簡素な部屋。隠れるようなスペースはない。

 玄関からは短い廊下があって、その横にトイレとバスルームがある。

 その奥がベッドルームになるが、玄関からは、机しか見えない。角に

 当たる部分にベッドとテレビが置いてある。常川がどんどん奥へ入りこむ

 のと対照的に、優奈はまだ靴も脱がず玄関に立ちつくしていた。


 キイ。


 突然後ろのドアが開き、人が入って来た。


 「焔さん?」


 入って来たのは焔だった。

 

 「あのどうしてここに?」


 確かに一連の事件を少しばかりは聞きかじってはいいるだろうが、今回の

 話は人が死んでいる。それも限りなく他殺と思える方法で。此の事件は

 あくまで山瀬研究室内部で起こっていること。それを外部に漏らしても

 いいものなのか。


「置き手紙があるぞ」


 奥から常川の呑気な声がする。


 『警察の方から朋谷さんのことでお話しを聞きたいと言われましたので、

 申し訳ありませんがお茶でも飲んで、ここでお待ち下さい』


 テーブルの上には、確かに小さな盆の上に湯のみが3つと、この地方の

 名産のお茶のティーパックが添えられていた。ドアが開けっぱなしという

 のは不用心だが、貴重品も置いていないようだし、警察に呼ばれたのなら

 しかたないだろうと、皆茶を飲み待つことにする。


 「ああ。焔も少しは事情知っているもんな。そんなに深い因縁があるのなら

 初めから教えてくれればいいのに。水臭いな」


 「……」


 今日の焔は大人しいと言うよりも、死んだように話をしない。

 疲れているようにも見えないが、なんだか動作の一つ一つが億劫に感じる。

 優奈の嫉妬がますますあり得ない方に由来で行く。

 季節は既に秋だが、駅から歩いて来ると少し汗をかくというものだ。

 すぐに二人も用意されたお茶を飲んだ。


 数十分後、すっかり眠くなった二人はそのまま倒れ込んだ。

 ベッドの空いたスペースを分け合うように、常川と優奈は二人とも

 ほぼ同時に倒れた。少しだけ意識が無くなるのがおそかった優奈は、

 二人が倒れたのを確認するとゆらりと立ちあがるのをみた。


 そのまま優奈は意識を失った。

 



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