閉じる


豊洲にて

100億円チャージされた携帯電話を渡すから日本を良くしろ。
そんなこと言われたら、自分ならどうするだろう。
豊洲のショッピングセンターにある映画館脇のレストランのVIPルームで想いをめぐらせる。
ここは『東のエデン』の主人公である滝沢朗が一時的に自宅にしていた場所のモデルだ。
キャンペーン企画のおかげで一定価格以上の食事をするとVIPルームで食事ができるという話を聞き、妻と二人で意気投合して少し高めのメニューを注文した。
ソファに座って向かいの窓に目をやると、壁一面の窓から東京湾が一望できる。
滝沢朗はこの海を見ながら何を思ったのか。
今の日本の何に一番問題を感じていたのか。
まるで、小説や映画の中に入ったかのような不思議な感覚にとらわれた。
歴史のある街に行って当時の喧騒を感じるという話を良く聞くが、それと似たようなものなのかもしれない。
不思議と滝沢朗と自分の感覚が溶けて混ざっていくような、そんな感覚だった。
食事しながら、妻と会話をしながらもどこかでそんな感覚が残っていて、頭の片隅に冒頭の問いに答えようとする自分がいたが、答えは出ないままだった。

食事を終えて、ショッピングセンター裏の水上バス乗り場近くに出る。
海風が少し冷たい。
風に向かって目を細めると、『東のエデン』の情景が見えるような気がする。
そう。ここで滝沢朗は彼なりの一つの答えを見つけたのだ。

日本という国は国民を構成員としたひとつの組織だ。
正常に運営されているように見えても、ときに意思決定権者が自身の利益を得るためにその組織の構成員が不利益を被る選択をする。
結果、不利益を被った構成員を犠牲に利益を得た意思決定権者を中心とした組織が存続する。
さらに、意思決定権者がそういった多数の犠牲になる構成員が力をつけないような仕組みを作り上げ、意思決定権者のみが利益を享受する体制が出来上がる。
結果として、今日本が抱える「閉塞感」が生まれてきた。
滝沢朗はこの「閉塞感」という問題に100億円チャージされた携帯電話で挑んだのだ。

物語の最後に彼なりの一つの答えが明かされる。
簡単に言えば、意思決定権者とそうでない構成員との架け橋になること、だ。
彼自身がそうなることで、日本という国はもっとその構成員たちの活力を生み出せるのではないかと感じたのだろう。
そのときに使ったお金は約1億円。
他の99億円は物語中の様々なトラブルで使った。
最終的に物語の中でも日本が良くなったかどうかは分からない。
ただ、1億円だったから効果が薄かったというわけでもない。
少なくとも、フィクションとノンフィクションの壁を越えて、私にはその想いが伝わった気がする。

「ちょっと寒くなってきたね。」
妻の声によって、ふと現実に立ち戻る。
気がつけば、先ほどのまでの溶けるような感覚はなくなっていた。
ただ、自分自身に訴えかける何かがあった。

ノブレスオブリージュ。
高貴なる者の義務。高貴なる者は高貴なる者としてふさわしい行動をしなくてはならない。
そこまで仰々しい話ではないが、組織の意思決定権者であれば、その立場にふさわしい振る舞いや判断ができなくてはならない。そういうことだ。
そして、それは組織の大小に関わらない。
国でも、都道府県でも、会社でも、学校でも、クラスでも、家族でも同じことだ。
結局は人が集まれば組織なのだから。
どんな組織だろうと、組織の構成員全体の利益を考えた振る舞いや判断をする意思決定権者がいれば、全体が活性化するような原動力を持っている。
そしてその原動力を絶やさずに活動していくことで、より大きな組織にも影響を与えられるのではないか。
100億円から見ればわずかな金額しか持たない自分でも、これならできるのではないか。
その上で、共感してくれる人を一人でも増やすために呼びかけることができるのではないか。
そう強く感じた。

私自身が、自身のためだけでなく、本当の意味で自分が意思決定できる組織の構成員全体のことを考えて常に判断し、行動できる人であらんことを。
そして、全ての意思決定権者がそうあらんことを。
切に願います。

奥付



0円のノブレスオブリージュ


http://p.booklog.jp/book/48463


著者 : 佐々木コジロー
著者プロフィール:http://p.booklog.jp/users/kojio1003/profile


感想はこちらのコメントへ
http://p.booklog.jp/book/48463

ブクログ本棚へ入れる
http://booklog.jp/item/3/48463



電子書籍プラットフォーム : ブクログのパブー(http://p.booklog.jp/
運営会社:株式会社paperboy&co.



この本の内容は以上です。


読者登録

佐々木コジローさんの更新情報・新作情報をメールで受取りますか?(読者登録について