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まえがき:12年間を振り返って

今から約12年前の2000年12月に私は当時のサティヤムジャパン株式会社の門を叩きました。20世紀の終わりの他民具で自分もちょうど30歳。何かを変えるのはこのタイミングかと思い、転職をしました。今振り返って勝算が確実にあったかというとそうではありません。当時は興味の方が先に立っていました。まだ若いので失敗しても何とかなるだろうという変な開き直りもありました。まさかその会社に12年もいることになろうとは当時は夢にも思いませんでした。

 

12年間の旅路は決して楽しいことばかりではありませんでした。どちらかというと苦しいことの方が多かった気がします。それでも辞めずにここまで来たのはそれを上回る喜びや楽しさがあったからなのだろうと思います。ただそれが何かというのは明確ではありません。ただ気がつけば日本人でインドのIT企業で働いている人間としては最長になりました。

 

今回このように今までの12年間を振り返ってみようと思ったのは、インドの会社で働いてきたというこの貴重な経験をぜひ共有してみたいと思ったからです。この12年間で日本にもグローバル化の波が強く押し寄せました。海外の人と働くというのはもう決して珍しいことではありません。ただここまでどっぷり浸かって働いた人はあまりいないかもしれないので、今までに自分が経験してきたことを共有することで、何か皆さんに共感いただけることがあったり、参考になることがあれば嬉しく思います。

 

この12年間に起きた様々な出来事、その時に起きた他の人とのやり取り、またその時に自分が感じたことを思い出しながら書いています。ビジネス書のように書くのがいいのか、エッセイのように書くのがいいのか迷いましたが、結局はその混合のような形になっています。時にはシリアスな書き方をしてありますし、時にはおもしろおかしく書いています。いろんな楽しみ方をしていただければと思います。

 

サティヤムでは様々な人々との交流の中で仕事をしてきました。全員について語ることはできないのですが、皆との交流のによってこの物語は紡がれています。そんな皆さんに感謝を込めてこの本を書かせていただきます。

 

 

 


転職

大学を卒業して7年の2000年。30歳になった頃に転職について考え始めていた。元々勤めていたのは日本国内で書籍や雑誌を書店やコンビニエンスストアに卸す「取次」と言われる会社。それなりの規模もあり安定した会社であったし、仕事も楽しくやっていた。しかし、当時から進出のうわさのあったアマゾンなどのネット通販が増えてきたらこのビジネスの存在価値とはなんだろういう疑問、年齢的にそろそろ中間管理職へと向かう頃でこのままで定年まで働き続けるのかなという不安、こんなことが頭をもたげるようになってきた。

 

それよりも何よりも、自分でもっと何かできることはないのかという想いが強くなってきた。今の仕事以外の分野で自分が力を発揮できるのか、自分の力は通用するのか。自分に本当に合った仕事は何なのか知りたいという欲求も強くなってきた。30歳になったばかりであれば、多少の失敗は取り返しがつくだろうという気楽な思いもあった。また21世紀になる前に新しいチャレンジをしてみたいというタイミング的なこともあった。

 

ちょうどこの頃はインターネットが普及し始めた頃で、ビジネスにおいてもシステムやITの力が使われ始めた頃であった。漠然とではあるがITの仕事がしたいという気持ちが湧いてきた。ただし自分は理系の出身ではないし、ここまでシステムの仕事の経験もない。そういう自分が本当にITの仕事ができるのかまずは探ってみなくてはということになった。インターネットの普及で多くのことがシステム上で時間や物理的な制約なくでき始めてきていた。このときの第一歩の転職サイトへの登録もその一つだった。自分の経歴をシステム上でアップロードしておき、企業からのコンタクトを待つ。今では当たり前となった仕組みも当時は非常に新鮮だった。とともに本当にそんなことで物事進むのだろうかという不安もあった。とはいえ仕事が忙しい中で、各企業を訪問するような転職活動はできるはずもなく、まずは経歴書を作成して待つということになった。

 

 

 


コンタクト

2000年の夏前に、経歴書を登録していたサイトから連絡があり、私に興味があるとのこと。どんな会社かと思ったら聞いたことのない「サティヤム」という会社。インドが本社らしい。ここまでのところで、私に興味を持った理由に心当たりがあった。当時勤めていた会社で、最初に配属されたのが国際部という部門で、ここではほんの輸出入を担当していた。その中で一番最初に担当したのがインドのお客さんで、そのことを記載していたためだ。

 

私とインドの出会いは入社して配属後の1993年6月。ちょうど前任の方が退職されるということで、その人の持っていた仕事が残りのメンバーに割り振られた。新入社員だった私にはそんなに大きくないところということで、そのインドの会社が割り振られた。1年間の出荷は3回から4回、小口の注文が多かったのでそんなに難しくはないだろうという判断だったと思われる。実際ここの会社との取引は良好で、少ないながらも自分で上げた初めての売り上げとなった。

 

しばらくして先輩から実はインドにはもう1社顧客がいるということを打ち明けられる。ただしここは現在取引は中止状態で、売掛金だけが残っている状態とのこと。同じインドつながりで、こちらも担当してくれということになった。インドでは売掛金に期限があるらしく、もうすぐその期限を迎えるためということであった。同じような目に遭った他の会社からもアドバイスもらいながら何とかほとんど回収できたものの、債権の取立てをする会社に依頼したこともあり、結構な手数料が掛かる結果となった。

 

こんな両極端の経験をしたインドの会社から声が掛かった。何かちょっと因縁めいたものを感じながら、興味が湧いてきて実際に会うことになった。

 


決断

一回目の面談は6月に設定された。新宿御苑のオフィスに行くと、本日は社長が不在ということで、別の人が対応してくれた。いきなりインドの人が出てきたらどうしようかと思ったが、物腰の柔らかな日本人だった。面談というよりこの日は一方的に会社の説明を受けた形となった。何も質問も受けず、逆に質問はありますかと聞かれた。いくつか当たり障りのない質問をしたが、かといってこの会社のことやビジネスのことが分かったわけではない。とりあえず調べてみようということで、その日は失礼する。会社のパンフレットを渡されていて、帰りに読んでみる。不可思議な日本語で書かれており、解読不明。早々に読むのを諦めてしまった。

 

一週間もしないうちに連絡が来て二次面接とのこと、特に何も答えなかった一次面接をパスしたとはどういうことかと思いつつも二次面接に向かうことになった。この日は日本の社長が出てきて面接。さすがに何も聞かれないということはなかったが、今までの経歴や英語のことなど内容的には一般的なことが多かった。最後に会社のPR用のDVDがありますが見ますかということになった。会社を知る手がかりは少しでも多い方がよいので、見せてもらうことに。今では十分に慣れて特に大げさとも思わなくなったが、最初に会社のPR用DVDを見たときはあまりの派手派手しさと仰々しさにこれは洗脳かと思うほどだった。

 

サティヤムは英語で書くとSatyam。オウム真理教のサティアンも英語にするとSatyam。なんか関わりがあるのではという気さえ起きてきた。よっぽどこのことを聞こうかと思ったが、最終的に聞かなかった。別に怖かったわけでもなく、それまでになんとなくこの会社に惹かれるものが出来たためだ。

 

この次は最終面談。ここでは質問は一切なし。オファーレターを渡された。初めての転職で手順も分からなかったが、いきなり給料の書いた手紙を渡されてこれで検討してくださいとのこと。プロ野球選手にでもなったかのような気分だった。少し考えさせてくださいと結論はその場では保留。でもこの場で気持ちは決まっていた。


別れ

決断をしたからにはその時点で勤めていた会社に説明しなくてはならない。忙しい合間を縫ってもらって、上司に話を聞いてもらう。上司ではあるが、元々は担当が別になっている営業マン同士。いろんな悩みを打ち明けあったり、たまには愚痴を言い合い、片方に成果が出ればわがことのように喜ぶという間柄だった。その人に転職の決断を打ち明けるのは勇気のいることだった。後で聞いた話だが、この報告をした後に、普段は飲まない酒を飲んでいたとのこと。顔では笑って自分の決断を尊重してくれたが、実は残念がってもらっていたことは胸を締め付けられる思いだった。

 

でももう決めたことは覆さない。そうと決まったからにはきちんと後の引継ぎをするだけだ。サティヤムに出した唯一の転職条件は決定してから実際に働き出すまで2ヶ月待って欲しいということだった。これはきちんと引継ぎをして禍根を残さないようにするためだった。当時は北海道から静岡まで営業の担当をしていた関係で、厳しい出張スケジュールを組みながらお客様への説明、後を担当していただく方への引継ぎを行なっていった。

 

残り数日となってからも引継ぎをしながら、一方で様々な方々に送別会していただき最終日を迎えた。最後の晩は当時は別部署になってしまったが、人事異動でいろいろ動いて自分を引っ張ってくださった方との送別会。怖い人だったのだが、最後に優しい声を掛けていただいた。明日からは新しい職場で仕事ということで、その日は軽く食事とお酒で失礼した。次にお会いする時には仕事が順調に行っているという報告ができるようになってから来ると心に決めてその場を後にした。



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