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プレゼンテーション

さて本題のプレゼンテーション。今回は特にお客さんからトピックを特定されているわけではなく、サティヤムとしてこういうことができる、ここが他社とは違う、こういう協業体制を組める、というような話をしてほしいという割合漠然としたリクエストだった。実はこれが一番困る。漠然としていてお客さんの本当の狙いが分からないというのが一点、その狙いを外した話題に行ってしまうと議論が成り立たないというのがもう一点。ここまでは一般的なのだが、一番困るのがこういう状態になると、では自分にしゃべらせろというインド人が多いことである。

 

それなりに組織が大きくなると、部署ごとに競争みたいなことがある。例えば同じ目的を実現するためのテクノロジーとしてAとBがあり、それぞれが別々の部署によって扱われている場合はその部署が同じ社内とはいえ競合状態になってしまう。それぞれがこっちのテクノロジーがいいと言い出してしまうのだ。そうなるとお客さんの前でアピール合戦になってしまう。今回もまさにそれで、事前に各部署が何分ずつプレゼンするというのが決まっていたにもかかわらず、それぞれが長くなってしまい、最後の方に発表者にしわ寄せが来ることになってしまった。

 

かと言ってお客さんがいろいろ聞けてHappyだったかというとそうでもない。いろんな話があり過ぎて消化不良になってしまった感じであった。ましてや英語の雨だったので。日本から来るお客さんについては、やはり聞きたいポイントを明確にした上で訪問されることを提案したい。事前に質問票渡しておいてそれに沿ったプレゼンや議論だと会議の生産性が格段に上がる。インド側もディスカッションのポイントが明確で、力も入る。まさにWIN-WINの関係になる。

 

日本からお客さんがインドに出張する際には、ぜひ食事を一緒にすることがいいこととされている。疲れているだろうから休ませてあげたいなと思いつつ、今回は帰国便の出発が夜中でその前に夕食済ませる必要もありアレンジした。ホテルのビュッフェだが、何かよさそうなものを事前に教えてくれと言われていたので、日本食があるといいんだけどとちょっと無理なリクエスト出しておいた。出てきたのは鶏肉の照り焼き。一部の人には好評だったが、ほとんどの人は疲れていてほとんど手つかずになってしまった。食事の量には気をつけなくてはならない。

 


営業不在

入社早々に他の営業メンバーがそろって退職という事態が発生した。

 

入社当時私の他には2人の営業メンバーがいた。1名はオーストラリア出身の人で外資系を中心に担当するということになっていた。ただ仕事ぶりを聞く限りではどうも真剣にやっているようには感じられない。副業もしているらしいという噂も。彼の恋人(?)のビジネスも手伝っているようで、セールスのアシスタントの女性にも依頼してそちらの方の翻訳してもらったりと、どちらが本業か分からないような状態だった。

 

もう1名は日本人で、こちらは昔からいる営業タイプの人だった。見た目は相当ゴツそうな感じだったが、話をしてみると繊細さも感じられる人だった。この人に面談してもらったわけではないのだが、入社初日に会った時に「いい人採用したと思ったよ」と言われうれしかった。

 

いきなり他の営業が抜けて自分一人が営業になるという事態に陥った。なんかマズいところに転職してしまったかなという気持ちになった。それでもとりあえずやるしかないので一つ一つ引継ぎをした。元々ITの経験がない状態で入社したので、ITについての基本知識を頭に詰め込む必要もあった。そうでないとエンジニアとの会話にもついていけない。また英語についても、それなりにコミュニケーションできるかと思ったが、考えが甘く、何を言っているのか分からない。知識がないと会話の中での手がかりがなく、それでコミュニケーションを見失ってしまう。この2つを一緒に向上させないと通常の仕事がハンドリングできないことに気がついた。最初の頃は日々勉強していた。


人前では怒れない

インドの人については人前で怒って叱るようなことはしてはならないというのは聞いたことはあった。ただ感情が昂ぶってどうしてもそういう状況に陥ることがある。そんなときにインドの人たちはどういうリアクションを取るのか?

 

結論からすると両極端な反応が見られる。ひどく落ち込んで泣き出さんばかりの反応を示す人と徹底的に反論を繰り返す人だ。前者の場合は割合簡単というか、叱った側が「言い過ぎた、ゴメン」と謝るしかない。それくらいの落ち込みようを見せるのだ。しかし後者は大変だ。実際の事件はお客さん先のプロジェクトルームで起こった。

 

連絡なくプロジェクトルームに来ないインド人スタッフがいた。日本語が話せないためにバイリンガルのコーディネーターが一緒に仕事をしていたのだが、出社しないので何のしようもない。お客さんのプロジェクトルームの近くに借りたアパートまで呼びに行くと、いろいろ文句を言われたらしい。もう一緒に仕事したくないとマネージャーの女性に訴えていた。

 

その後このメンバーは遅くなって出社してその日の仕事をこなすのだが、帰ろうとしたところをその女性マネージャーが呼び止めて注意することに。最初は穏やかな感じだったが、このメンバーも言い訳が入るようになり、それに起こったマネージャーが反論。このマネージャーが英語が完璧ではなかったため、メンバーのしゃべる時間が長くなってきた。段々イライラしてきたマネージャーは日本語で文句言ったり(通じないのだが)、大きな声で叱るような形になってきた。口論というより口ゲンカに近い形になってきて、ヒートアップしてきた。

 

ここで他のインド人メンバーが止めに入った。女性マネージャーを外に連れ出して話を始めた。おそらくそのマネージャーは自分たちが言い聞かすから任せておいてくれくらいのことを言われるのを期待していたと思う。しかし彼らが言ったのは「あのメンバーに謝ってくれ」ということだった。この女性マネージャーはまた怒りのモードに。何で自分が謝らなくてはならないのかと怒る。この別のインド人メンバーいわく、「彼が悪いのは確かだ。それは態度を改めなくてはならない。ただし、人前で怒ることは別で、謝らないとこの先物事進まない。」ということだった。マネージャーはしばらく納得がいかない状態だったが、プロジェクトが進まなくなることは望むところではなかったので、大声を出したことや怒ったことについては謝罪した。本人も納得して事なきを得た形になった。

 

インドでIT会社に勤めるような人は、きちんと教育を受けてきて大事に育てられてきた人が多いようだ。きっとプライドも高いはず。こういった人々を公衆の面前で叱るのは彼らのプライドを傷つけることになる。今の日本の若者も同じかもしれないが、ここを間違えると人間関係にひびが入りかねない。今回は間を取り持ってくれたインド人メンバーがいて助かったということだろう。

 

 


モチベーション

どこの組織でも共通かもしれないが、人のモチベーションを保つのは組織運営の中では非常に苦労の多いことである。インドの会社では離職率が高く、モチベーションの低下が即転職につながりかねないので要注意である。インドは国策としてITの振興を図っており、年間多くの技術者が大学を卒業してIT企業に就職する。一方で世界各国からのアウトソーシング需要はその数を上回っており、慢性的に技術者不足に陥っているようにも思われる。正しく言えば優秀な人材が不足しており、各社で奪い合いのような状況になっている。

 

技術以外にマネージメントスキル、レアなスキル、別の言語のようなスキルを持った人はそれこそ引く手あまただ。日本では日本語が話せるインド人IT技術者で優秀な人はどの会社からも声が掛かるような状況だ。Satyamにもそういう人はいて、モチベーションを保つためにあの手この手を使う。

 

一番印象に残っているのは、入社間もなく担当することになったお客さんのところに1人でSatyamから行って働いていたエンジニアだ。日本語が出来て人あたりもよく、いかにも日本のお客さんから好まれそうな男性で、歳は私と同じで結構気があった。ある日お客さん先にいる彼を訪ねると、いつもとは違った真剣な様子で質問責めにあった。自分のキャリアをどう考えるべきか、そのために会社が何をしてくれるのか、ということを延々とまくし立てた。誰か他の人が活躍してるというようなニュースが入ったのか、両親が心配したのか、は不明だが何かきっかけになる出来事があったはずである。

 

1人でお客さん先で作業するというのは孤独な感じがあるし、バリューとしては彼一人分の仕事しかない。Satyamのようなビジネスモデルでは、こういう人をテコとしてインドの人材を大きく活用するというのがあるべき姿だ。しかも彼は日本採用でインドの本社を見たこともないし、ろくにトレーニングも受けていないという。こうなると転職も辞さないというモードに入ってしまう。何か考えるからと約束したものの自分も入社したばかりで何をどうすればいいのか分からない。

 

当時インドから長期出張扱いで来ていたビジネスディベロプメントの人に相談してみた。彼の不満や心配を理解してくれて任せろと言ってくれた。その代わり、彼がトレーニングを受けてビジネスを大きくしたら自分のチームに売り上げつけることと私がそれに対して最大限協力することを約束させられた。えらいことになったとは思ったが、こういうことでもしないと事態は動かないというのが現実かと思う。純粋なトレーニングだけ提供するというのはあまりなく、そのトレーニングの結果としてどういうビジネスがあるのか、どういうメリットがあるのかを正当化する必要がある。これは手取り足取りで社員にトレーニングを提供する日本の会社との違いかもしれない。どちらがいいとは言えないが、受身で与えられるトレーニングは受身で参加する傾向が強いのではという印象がある。

 

この後会社の中で「ビジネスケース」という単語を頻繁に聞くことになるが、思えばこれが始まりだった。トレーニング一つも投資である。それに見合った成果を上げなくてはならない。

 

先ほどの彼は無事にインドにトレーニングに行くことができて、会社全体のことやマネージメントについて学んで帰ってきた。それから少し間が空いたものの、彼は日本側のプロジェクトマネージャーとしてインドのオフショアにいるエンジニアを統率しながら大きい仕事をしてくれるようになった。その後はコンサルティングのような仕事もできるようになった。トレーニングの原資は十分に回収されたのである。


プロジェクトの難しさ

よく言われる話だが、オフショアを使った開発を成功に導くのは難しい。ただこれは別にオフショアプロジェクトに限った話ではない。一般的にシステム開発のプロジェクトを成功に導くのは難しい。プロジェクトを成功に導くのが難しい要因を一般的なもの(オフショア開発でも国内開発でも共通のもの)、オフショア開発ならではのものに分けて考えてみたい。前者についてはいろいろなところで言われていることで、ここでは特に触れない。後者について掘り下げてみたい。

 

1.一般的なもの

  • 納期に制約がある。
  • 要件が決まるのが遅く、後から変更が発生して一部やり直しになることがある。
  • コミュニケーション上の問題で、伝達したと思っていたことが相手方に伝わっていないことがある。

2.オフショア開発独自のもの

  • 日本語と英語の言語差がある。
  •  日本の習慣や一般常識と言われるものが理解しづらい。
  • 時差がある。

挙げればキリがないがまずはこのあたりでどういう問題が発生するか、どういう対応策が考えられるか検討してみたい。

 

日本語と英語の違いだが、これはインドのオフショアを使う上で避けて通れないポイントである。同じオフショア開発を行なう中国では、日本語を理解できる人材が多く、また漢字で何となくの意味は通じることがあってハードルが屋や低い。日本のシステム開発の中でオフショアを使う場合に90%以上が中国になっているが、これは言語が一番大きい理由になっていることに間違いない。インドでも 日本語を話せる人は増えてきたが、まだ数はそんなに多くはない。またオフショアで開発するメンバーはほとんど日本語ができない。さてどうするべきか?

  • 日本語と英語の出来るバイリンガルスタッフを客先(日本)にアサインする。一般的にオンサイトと言われる。これは国籍は問わないのだが、何かしらの付加価値が必要になる。お客さんとのコミュニケーションに長けている、プロジェクトで使用する技術に精通している、英語でオフショアに対して強いマネージメントができる、などなど。プロジェクトの特性によってどういう人がアサインされるかが決まる。新規の開発や他システムとの連携が多いプロジェクトでは日本人で他のステークホルダーとのコーディネーションが出来る人、技術に特化したプロジェクトの場合はインド人で技術に強く現場で説明が出来る人、といったマッチングが考えられる。
  • 日本の習慣というのはなかなか他の国の人には理解しづらい。しかし仕事ではそんなことは言ってられない。以前都道府県別のリストアップするという機能があった。通常は北は北海道からという順番なのだが、なぜか青森からしか出てこない。どうも道と県は違うカテゴリーに入ってしまったようで、同じリストの中に順番通りに入ってこなかった。思えば日本人だって都道府県のそれぞれの定義を明確に言える人は少ないはずで、何となく都道府県を同列に扱って北から並べるだけだ。そういったところは他国の人には丁寧に説明しなくてはならない。そして当然このようなことはシステムの要件とか仕様書には出てこない。
  • 日本とインドの時差は3時間半。日本でお昼の頃にインドはようやく出勤という形だ。そのギャップにいらだつこともあるが、これは変更できるものではなく、変更しようとするならインド側にシフト勤務を強いることになる。短期ならまだしもいつまでも続けられるものではない。そうであればこのギャップを有効活用することを考えた方がよい。日本の午前中にはオフショア側にやってもらうことの決定とか、オフショアからの質問事項に対する回答を用意しておく。それを午前中にメールしておき、必要に応じて日本時間の午後に出勤したオフショアメンバーと確認する。夕方はあとはこれだけ今日中にやっておいてという確認をした上で翌日の朝に出来上がったものをチェックする。もちろんこれは理想的な形で、なかなかそうはいかないことも多い。それでもこういうすり合わせの時間帯が持てるのは日本のビジネスには合っていると思われる。アメリカではインドとは昼夜逆転していて、すり合わせなく仕事が行なわれるケースも多いようだが、これは文化的なことと言語(同じ英語を使っている)ということに起因しているようだ。

インドオフショアを使った開発で何に気をつけるべきかもっと理解すれば、活用はさらに広まると思うのだが、なかなかそうはいっていないのが現実だ。

 



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