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お客様訪問準備

月曜日にチェンナイを後にしてハイデラバードに向かう。日本の国内であれば社内のメンバーがお互いに事前に顔合わせして準備進めていくことが可能であるが、なにぶん遠く離れたインドの顔を知らないメンバーと電話やメールでやり取りしてきただけなので、準備がきちんと済んでいるかが不明。そのため本番の前に1日準備に時間を取ることになった。

 

プレゼンテーションを行なうハイデラバードのSTC(Satyam Technology Center)は街中から車で1時間。広大な敷地のキャンパスを持つためには、少し離れないと土地がないことは今となってはよく分かる。けれど当時はオフィスは街中にあるものという既成概念があったり、オフィスとキャンパスというのが考えとしてどうも結びつかなかった。

 

それでもそれは事実なので、予定の中に移動時間をきちんと織り込んでおかなくてはならない。こういった移動、移動のための車、会議室や電話などのインフラ、お茶や食事、などを総称して「ロジスティクス」というが、このロジスティクスがプレゼンテーションに負けず劣らず重要となる。こういったものは実際にインドに行かないとイメージが湧かなかったり、理解できなかったりする。

 

まずは移動だが、インドの交通渋滞を理解しなくてはならない。日本からお客さんが訪問される場合は基本的には車での移動となるが、あまりの渋滞で到着時間がなかなか読めない。現地の道路事情に詳しい人から、何時に出発すべきか、その場合どのくらいの時間が掛かるかヒアリングしておいた方がよい。ただ年々交通渋滞は劇化し、なかなか古い情報だと役に立たないのが現実だ。

 

会議の最中にやたらとお茶やお菓子が出るのもインドの会議の特徴。なぜか必ずカシューナッツやビスケットが置いてある。調子に乗って食べると食事の前にお腹がふくれてしまう。会議中の飲み物も気を遣わなければならないアイテムの一つ。日本人には少なくてもきちんと栓の閉まっているボトルウォーターが必要。再利用する入れ物にドリンキングウォーターと称して水が出されることがあるが、これは自分でも飲まないしお客さんにもお勧めしていない。インドでお腹を壊す話をよく聞くが、大きな理由は水。直接飲む場合もあれば、氷の場合もある。生野菜や果物を洗った水が理由と思われる腹痛も見たことがある。長く日本に滞在しているインド人メンバーでも、このようなケースでお腹を壊すことがある。気をつけすぎということはないだろう。

 

ロジスティクスの中でも極めて重要なのが食事。プレゼンの内容もともかくだが、食事の内容の方が印象に残ったりすることもある。それが会社の評価にも結びつきかねないので要注意だ。

車で遠く離れたキャンパスといわれるところで、お客さんをいきなりフラッと連れていける店はない。社員だけなら社員食堂使うが、お客さんを連れていくわけにもいかない(味は非常にいいのだが)。ということで事前にケータリングサービスなんかを手配しておくことになる。ここでいろいろ考えるポイントがある。お客さんも滞在初期の頃はインド料理の珍しさで、スパイシーなものでも結構食べるが、後半の頃は段々飽きてくるのと疲れも出て食欲が減退してくる。食事を振舞うのが出張のどの段階か見極めてメニューを選ぶことが重要になる。

 

昼食でお勧めなのはサンドイッチ。特に変わったものではないし、お腹にも優しい。一番よいのは食べ過ぎてその後眠くなるということがないことだ。インド料理はスパイスで体があったまるのか、それとも食べ過ぎる傾向があるのか、食事後のプレゼンテーションで寝始める人が続出する。英語が今一つ苦手という人に多い。これでは本来の目的が失われてしまう。そうはならないのと健康のため昼食は軽めでいいのではと思う。ピザもお勧めでピザのデリバリーは結構流行っている。サンドイッチやピザは話ながら食べるランチミーティングにも適している。

 

もう一点気をつけなくてはいけないのが服装。基本的にはビジネスカジュアルで、ネクタイなしでよいのだが、長袖とジャケットを持参することをお勧めする。インドというと暑いイメージがあり、確かに外に出ると暑い。しかしオフィスの中はこれでもかというくらい空調が効いている。半袖でいると風邪をひく恐れがある。私も実際に出張中に風邪にかかったことがある。要注意だ。

 

 


プレゼンテーション

さて本題のプレゼンテーション。今回は特にお客さんからトピックを特定されているわけではなく、サティヤムとしてこういうことができる、ここが他社とは違う、こういう協業体制を組める、というような話をしてほしいという割合漠然としたリクエストだった。実はこれが一番困る。漠然としていてお客さんの本当の狙いが分からないというのが一点、その狙いを外した話題に行ってしまうと議論が成り立たないというのがもう一点。ここまでは一般的なのだが、一番困るのがこういう状態になると、では自分にしゃべらせろというインド人が多いことである。

 

それなりに組織が大きくなると、部署ごとに競争みたいなことがある。例えば同じ目的を実現するためのテクノロジーとしてAとBがあり、それぞれが別々の部署によって扱われている場合はその部署が同じ社内とはいえ競合状態になってしまう。それぞれがこっちのテクノロジーがいいと言い出してしまうのだ。そうなるとお客さんの前でアピール合戦になってしまう。今回もまさにそれで、事前に各部署が何分ずつプレゼンするというのが決まっていたにもかかわらず、それぞれが長くなってしまい、最後の方に発表者にしわ寄せが来ることになってしまった。

 

かと言ってお客さんがいろいろ聞けてHappyだったかというとそうでもない。いろんな話があり過ぎて消化不良になってしまった感じであった。ましてや英語の雨だったので。日本から来るお客さんについては、やはり聞きたいポイントを明確にした上で訪問されることを提案したい。事前に質問票渡しておいてそれに沿ったプレゼンや議論だと会議の生産性が格段に上がる。インド側もディスカッションのポイントが明確で、力も入る。まさにWIN-WINの関係になる。

 

日本からお客さんがインドに出張する際には、ぜひ食事を一緒にすることがいいこととされている。疲れているだろうから休ませてあげたいなと思いつつ、今回は帰国便の出発が夜中でその前に夕食済ませる必要もありアレンジした。ホテルのビュッフェだが、何かよさそうなものを事前に教えてくれと言われていたので、日本食があるといいんだけどとちょっと無理なリクエスト出しておいた。出てきたのは鶏肉の照り焼き。一部の人には好評だったが、ほとんどの人は疲れていてほとんど手つかずになってしまった。食事の量には気をつけなくてはならない。

 


営業不在

入社早々に他の営業メンバーがそろって退職という事態が発生した。

 

入社当時私の他には2人の営業メンバーがいた。1名はオーストラリア出身の人で外資系を中心に担当するということになっていた。ただ仕事ぶりを聞く限りではどうも真剣にやっているようには感じられない。副業もしているらしいという噂も。彼の恋人(?)のビジネスも手伝っているようで、セールスのアシスタントの女性にも依頼してそちらの方の翻訳してもらったりと、どちらが本業か分からないような状態だった。

 

もう1名は日本人で、こちらは昔からいる営業タイプの人だった。見た目は相当ゴツそうな感じだったが、話をしてみると繊細さも感じられる人だった。この人に面談してもらったわけではないのだが、入社初日に会った時に「いい人採用したと思ったよ」と言われうれしかった。

 

いきなり他の営業が抜けて自分一人が営業になるという事態に陥った。なんかマズいところに転職してしまったかなという気持ちになった。それでもとりあえずやるしかないので一つ一つ引継ぎをした。元々ITの経験がない状態で入社したので、ITについての基本知識を頭に詰め込む必要もあった。そうでないとエンジニアとの会話にもついていけない。また英語についても、それなりにコミュニケーションできるかと思ったが、考えが甘く、何を言っているのか分からない。知識がないと会話の中での手がかりがなく、それでコミュニケーションを見失ってしまう。この2つを一緒に向上させないと通常の仕事がハンドリングできないことに気がついた。最初の頃は日々勉強していた。


人前では怒れない

インドの人については人前で怒って叱るようなことはしてはならないというのは聞いたことはあった。ただ感情が昂ぶってどうしてもそういう状況に陥ることがある。そんなときにインドの人たちはどういうリアクションを取るのか?

 

結論からすると両極端な反応が見られる。ひどく落ち込んで泣き出さんばかりの反応を示す人と徹底的に反論を繰り返す人だ。前者の場合は割合簡単というか、叱った側が「言い過ぎた、ゴメン」と謝るしかない。それくらいの落ち込みようを見せるのだ。しかし後者は大変だ。実際の事件はお客さん先のプロジェクトルームで起こった。

 

連絡なくプロジェクトルームに来ないインド人スタッフがいた。日本語が話せないためにバイリンガルのコーディネーターが一緒に仕事をしていたのだが、出社しないので何のしようもない。お客さんのプロジェクトルームの近くに借りたアパートまで呼びに行くと、いろいろ文句を言われたらしい。もう一緒に仕事したくないとマネージャーの女性に訴えていた。

 

その後このメンバーは遅くなって出社してその日の仕事をこなすのだが、帰ろうとしたところをその女性マネージャーが呼び止めて注意することに。最初は穏やかな感じだったが、このメンバーも言い訳が入るようになり、それに起こったマネージャーが反論。このマネージャーが英語が完璧ではなかったため、メンバーのしゃべる時間が長くなってきた。段々イライラしてきたマネージャーは日本語で文句言ったり(通じないのだが)、大きな声で叱るような形になってきた。口論というより口ゲンカに近い形になってきて、ヒートアップしてきた。

 

ここで他のインド人メンバーが止めに入った。女性マネージャーを外に連れ出して話を始めた。おそらくそのマネージャーは自分たちが言い聞かすから任せておいてくれくらいのことを言われるのを期待していたと思う。しかし彼らが言ったのは「あのメンバーに謝ってくれ」ということだった。この女性マネージャーはまた怒りのモードに。何で自分が謝らなくてはならないのかと怒る。この別のインド人メンバーいわく、「彼が悪いのは確かだ。それは態度を改めなくてはならない。ただし、人前で怒ることは別で、謝らないとこの先物事進まない。」ということだった。マネージャーはしばらく納得がいかない状態だったが、プロジェクトが進まなくなることは望むところではなかったので、大声を出したことや怒ったことについては謝罪した。本人も納得して事なきを得た形になった。

 

インドでIT会社に勤めるような人は、きちんと教育を受けてきて大事に育てられてきた人が多いようだ。きっとプライドも高いはず。こういった人々を公衆の面前で叱るのは彼らのプライドを傷つけることになる。今の日本の若者も同じかもしれないが、ここを間違えると人間関係にひびが入りかねない。今回は間を取り持ってくれたインド人メンバーがいて助かったということだろう。

 

 


モチベーション

どこの組織でも共通かもしれないが、人のモチベーションを保つのは組織運営の中では非常に苦労の多いことである。インドの会社では離職率が高く、モチベーションの低下が即転職につながりかねないので要注意である。インドは国策としてITの振興を図っており、年間多くの技術者が大学を卒業してIT企業に就職する。一方で世界各国からのアウトソーシング需要はその数を上回っており、慢性的に技術者不足に陥っているようにも思われる。正しく言えば優秀な人材が不足しており、各社で奪い合いのような状況になっている。

 

技術以外にマネージメントスキル、レアなスキル、別の言語のようなスキルを持った人はそれこそ引く手あまただ。日本では日本語が話せるインド人IT技術者で優秀な人はどの会社からも声が掛かるような状況だ。Satyamにもそういう人はいて、モチベーションを保つためにあの手この手を使う。

 

一番印象に残っているのは、入社間もなく担当することになったお客さんのところに1人でSatyamから行って働いていたエンジニアだ。日本語が出来て人あたりもよく、いかにも日本のお客さんから好まれそうな男性で、歳は私と同じで結構気があった。ある日お客さん先にいる彼を訪ねると、いつもとは違った真剣な様子で質問責めにあった。自分のキャリアをどう考えるべきか、そのために会社が何をしてくれるのか、ということを延々とまくし立てた。誰か他の人が活躍してるというようなニュースが入ったのか、両親が心配したのか、は不明だが何かきっかけになる出来事があったはずである。

 

1人でお客さん先で作業するというのは孤独な感じがあるし、バリューとしては彼一人分の仕事しかない。Satyamのようなビジネスモデルでは、こういう人をテコとしてインドの人材を大きく活用するというのがあるべき姿だ。しかも彼は日本採用でインドの本社を見たこともないし、ろくにトレーニングも受けていないという。こうなると転職も辞さないというモードに入ってしまう。何か考えるからと約束したものの自分も入社したばかりで何をどうすればいいのか分からない。

 

当時インドから長期出張扱いで来ていたビジネスディベロプメントの人に相談してみた。彼の不満や心配を理解してくれて任せろと言ってくれた。その代わり、彼がトレーニングを受けてビジネスを大きくしたら自分のチームに売り上げつけることと私がそれに対して最大限協力することを約束させられた。えらいことになったとは思ったが、こういうことでもしないと事態は動かないというのが現実かと思う。純粋なトレーニングだけ提供するというのはあまりなく、そのトレーニングの結果としてどういうビジネスがあるのか、どういうメリットがあるのかを正当化する必要がある。これは手取り足取りで社員にトレーニングを提供する日本の会社との違いかもしれない。どちらがいいとは言えないが、受身で与えられるトレーニングは受身で参加する傾向が強いのではという印象がある。

 

この後会社の中で「ビジネスケース」という単語を頻繁に聞くことになるが、思えばこれが始まりだった。トレーニング一つも投資である。それに見合った成果を上げなくてはならない。

 

先ほどの彼は無事にインドにトレーニングに行くことができて、会社全体のことやマネージメントについて学んで帰ってきた。それから少し間が空いたものの、彼は日本側のプロジェクトマネージャーとしてインドのオフショアにいるエンジニアを統率しながら大きい仕事をしてくれるようになった。その後はコンサルティングのような仕事もできるようになった。トレーニングの原資は十分に回収されたのである。



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