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最初の仕事

会社に入っての最初の仕事は会社紹介パンフレットの作成。今まではインドで作成している英語のパンフレットを翻訳したものをパンフレットとして使っていた。これがまさに直訳のような日本語で、日本語で読む方が難しく何が書いてあるのか、何が言いたいのか分からないような有様だった。これを分かりやすくして日本のお客さんに配れるようにしてほしいとのこと。

 

会社がどんなことを「売り」にしているのかを知るには絶好の機会で、新しく入ってきた者にとっては仕事と学習を一石二鳥で行なえる。実際のところはそれをやろうとするような人がいなかっただけのようだが。特に英語のオリジナルの文章にはこだわらなくてもよいということで、日本語でわかりやすく伝えようという方針でスタートすることにした。

 

日本用にアレンジするのだから、実際に日本で仕事している人からヒアリングしてみることにした。ただみな言うことが全然違う。最初は営業とかプロジェクトマネージャーとかエンジニアとかポジションの違いで言うことが違うのかと思ったら、どうもそういうことには関係なく、自分たちがどのようなサービスを提供しているのかの共通理解がないようであった。

 

勝手に書いてもいいのかなと思いつつも、やはりコアな部分は変えられない。何回かの議論を経た上で次のようなセールスポイントを挙げてみた。

1.コストの安いインドでプログラム開発をすることでのコスト削減

2.ITに力を入れているインドでは、いろんなテクノロジーをカバーできること

3.一方で言葉の壁が問題にならないよう、日本のオフィスでのサポートがあること

突き詰めるとこういう形になる。これを骨格として文章を作成してパンフレットのような形でまとめてみた。

 

営業の人やプロジェクトの人から評価してもらえるかなと思ったが、あまり彼らは興味がなかったようだった。興味や関心を持ってくれたのは経理やセールスサポートなどのバックオフィスの人たちで、これで自分たちの会社が何しているのか説明がつきやすくなったとのこと。別に社内の人に営業しているわけではないのだが、まぁこれはこれで重要なこと。

 


初めてのインド出張

インドの会社に勤めたからにはいつかはインドに行く日が来るんだろうと漠然とは思っていたが、その日は突然訪れた。

 

プロジェクトに関わっている人だとプロジェクトの中でオフショアのメンバーと打ち合わせをするとかこれから必要になる技術のトレーニングを受けなくてはいけないなど実務上の必要性でインド出張に行くケースが多い。ただし営業にはこういうケースは当てはまらない。営業がインド出張を実現するためにはお客さんがインドを訪問するというのが絶対的な理由になる。これが水戸黄門の印籠のように出張の大義名分になるのだ。

 

そういうことがあったので、お客さん誰彼構わずに「インドを見てみませんか?」とか「一緒に行ってサポートしますよ」というのをアピールして回っていた。そのうちある顧客の役員が急遽インド訪問の意思を示した。それまで担当レベルの人は「いいですね。そのうちに。。。」などと言って言葉を濁していたのだが、親分が行くとなれば話は別。出張日程を組みたいという連絡が入った。

 

今回は特にどういう部分を見たいというよりインドのオフショア開発全般について知りたいということで、自社で一番自信を持って見せられる場所になった。本社のあるハイデラバードという都市にあるSTC(Satyam Technology Center)というのを見てもらうことにした。

 

何分自分も初めてインド本社を訪問するので予備知識はないし、お客さんに対して粗相があってもいけないので先乗りでインドに行くことになった。ハイデラバードには直接行かず、まずはチェンナイという都市に向かうことに。この顧客の対応をしているオフショアのチームはチェンナイにあるためだ。到着は土曜日の夕方で、その日はチームのマネージャーの人がお茶でも飲もうとホテルまで来てくれた。電話で何回か話はしていたものの顔を合わせるのは初めて。なんか不思議な感じがした。お茶を飲んだ後は自宅に招いてくれるという。期せずしてインドのお宅訪問となったが、南国の別荘のような素敵な家だった。奥様と息子さんが迎えてくれた。息子さんは背が高くスリムでかわいらしい顔をしていた。高校生くらいと思ったが、きっともてるに違いない。異国からの珍客を丁重に扱っていただいた。

 

インドは初めての出張の10年位前に旅行で行ったのだが、その時のイメージとはがらっと変わってしまっていた。物乞いや物売りが寄ってきたり、町が汚かったりというイメージがあって構えていったのだが、拍子抜けするくらいにおとなしい感じだ。インドは確かに変わっているんだなあと実感した。

 

翌日の日曜日はオフ。靴があまりにもくたびれていたのでインドで靴を買おうと決めていた。ホテルで車を1台手配してもらい、観光がてら買い物へ。ドライバーには靴を買いたいと伝えたのだが、最初に連れていかれたのは土産物屋。一応見るが別に興味はない。そのうち周りに売り込む気持ちまんまんのお店の人たちが。。。やはりここはインドだった。

 

車に戻り、ドライバーに靴が買いたいと再度伝える。すると今度はちょっとしたデパートのようなところへ。これだったら大丈夫かなと思ったが、店員に靴はあるかと聞いたら靴はないという。残念だが帰ろうと思ったら、店員が毅然とした態度で「靴はないが、シャツならある!」と言い放った。

 

「???!」

 

店員の気迫で一瞬分からなかったが、それはおかしい。それでもあまりに強硬な態度でセールスに出る土産物屋の兄さんに抗うことができず、結局シャツを購入することに。まぁシャツは使うものだしとあきらめてお勘定しようとしたら、今度は「家族に土産はどうだ?」と言い出した。ここでもまんまと乗せられて土産を買うことに。。。今なら絶対に断るのだが、当時はインド英語力も、交渉も全然だったんだなとはずかしくなる思い。


お客様訪問準備

月曜日にチェンナイを後にしてハイデラバードに向かう。日本の国内であれば社内のメンバーがお互いに事前に顔合わせして準備進めていくことが可能であるが、なにぶん遠く離れたインドの顔を知らないメンバーと電話やメールでやり取りしてきただけなので、準備がきちんと済んでいるかが不明。そのため本番の前に1日準備に時間を取ることになった。

 

プレゼンテーションを行なうハイデラバードのSTC(Satyam Technology Center)は街中から車で1時間。広大な敷地のキャンパスを持つためには、少し離れないと土地がないことは今となってはよく分かる。けれど当時はオフィスは街中にあるものという既成概念があったり、オフィスとキャンパスというのが考えとしてどうも結びつかなかった。

 

それでもそれは事実なので、予定の中に移動時間をきちんと織り込んでおかなくてはならない。こういった移動、移動のための車、会議室や電話などのインフラ、お茶や食事、などを総称して「ロジスティクス」というが、このロジスティクスがプレゼンテーションに負けず劣らず重要となる。こういったものは実際にインドに行かないとイメージが湧かなかったり、理解できなかったりする。

 

まずは移動だが、インドの交通渋滞を理解しなくてはならない。日本からお客さんが訪問される場合は基本的には車での移動となるが、あまりの渋滞で到着時間がなかなか読めない。現地の道路事情に詳しい人から、何時に出発すべきか、その場合どのくらいの時間が掛かるかヒアリングしておいた方がよい。ただ年々交通渋滞は劇化し、なかなか古い情報だと役に立たないのが現実だ。

 

会議の最中にやたらとお茶やお菓子が出るのもインドの会議の特徴。なぜか必ずカシューナッツやビスケットが置いてある。調子に乗って食べると食事の前にお腹がふくれてしまう。会議中の飲み物も気を遣わなければならないアイテムの一つ。日本人には少なくてもきちんと栓の閉まっているボトルウォーターが必要。再利用する入れ物にドリンキングウォーターと称して水が出されることがあるが、これは自分でも飲まないしお客さんにもお勧めしていない。インドでお腹を壊す話をよく聞くが、大きな理由は水。直接飲む場合もあれば、氷の場合もある。生野菜や果物を洗った水が理由と思われる腹痛も見たことがある。長く日本に滞在しているインド人メンバーでも、このようなケースでお腹を壊すことがある。気をつけすぎということはないだろう。

 

ロジスティクスの中でも極めて重要なのが食事。プレゼンの内容もともかくだが、食事の内容の方が印象に残ったりすることもある。それが会社の評価にも結びつきかねないので要注意だ。

車で遠く離れたキャンパスといわれるところで、お客さんをいきなりフラッと連れていける店はない。社員だけなら社員食堂使うが、お客さんを連れていくわけにもいかない(味は非常にいいのだが)。ということで事前にケータリングサービスなんかを手配しておくことになる。ここでいろいろ考えるポイントがある。お客さんも滞在初期の頃はインド料理の珍しさで、スパイシーなものでも結構食べるが、後半の頃は段々飽きてくるのと疲れも出て食欲が減退してくる。食事を振舞うのが出張のどの段階か見極めてメニューを選ぶことが重要になる。

 

昼食でお勧めなのはサンドイッチ。特に変わったものではないし、お腹にも優しい。一番よいのは食べ過ぎてその後眠くなるということがないことだ。インド料理はスパイスで体があったまるのか、それとも食べ過ぎる傾向があるのか、食事後のプレゼンテーションで寝始める人が続出する。英語が今一つ苦手という人に多い。これでは本来の目的が失われてしまう。そうはならないのと健康のため昼食は軽めでいいのではと思う。ピザもお勧めでピザのデリバリーは結構流行っている。サンドイッチやピザは話ながら食べるランチミーティングにも適している。

 

もう一点気をつけなくてはいけないのが服装。基本的にはビジネスカジュアルで、ネクタイなしでよいのだが、長袖とジャケットを持参することをお勧めする。インドというと暑いイメージがあり、確かに外に出ると暑い。しかしオフィスの中はこれでもかというくらい空調が効いている。半袖でいると風邪をひく恐れがある。私も実際に出張中に風邪にかかったことがある。要注意だ。

 

 


プレゼンテーション

さて本題のプレゼンテーション。今回は特にお客さんからトピックを特定されているわけではなく、サティヤムとしてこういうことができる、ここが他社とは違う、こういう協業体制を組める、というような話をしてほしいという割合漠然としたリクエストだった。実はこれが一番困る。漠然としていてお客さんの本当の狙いが分からないというのが一点、その狙いを外した話題に行ってしまうと議論が成り立たないというのがもう一点。ここまでは一般的なのだが、一番困るのがこういう状態になると、では自分にしゃべらせろというインド人が多いことである。

 

それなりに組織が大きくなると、部署ごとに競争みたいなことがある。例えば同じ目的を実現するためのテクノロジーとしてAとBがあり、それぞれが別々の部署によって扱われている場合はその部署が同じ社内とはいえ競合状態になってしまう。それぞれがこっちのテクノロジーがいいと言い出してしまうのだ。そうなるとお客さんの前でアピール合戦になってしまう。今回もまさにそれで、事前に各部署が何分ずつプレゼンするというのが決まっていたにもかかわらず、それぞれが長くなってしまい、最後の方に発表者にしわ寄せが来ることになってしまった。

 

かと言ってお客さんがいろいろ聞けてHappyだったかというとそうでもない。いろんな話があり過ぎて消化不良になってしまった感じであった。ましてや英語の雨だったので。日本から来るお客さんについては、やはり聞きたいポイントを明確にした上で訪問されることを提案したい。事前に質問票渡しておいてそれに沿ったプレゼンや議論だと会議の生産性が格段に上がる。インド側もディスカッションのポイントが明確で、力も入る。まさにWIN-WINの関係になる。

 

日本からお客さんがインドに出張する際には、ぜひ食事を一緒にすることがいいこととされている。疲れているだろうから休ませてあげたいなと思いつつ、今回は帰国便の出発が夜中でその前に夕食済ませる必要もありアレンジした。ホテルのビュッフェだが、何かよさそうなものを事前に教えてくれと言われていたので、日本食があるといいんだけどとちょっと無理なリクエスト出しておいた。出てきたのは鶏肉の照り焼き。一部の人には好評だったが、ほとんどの人は疲れていてほとんど手つかずになってしまった。食事の量には気をつけなくてはならない。

 


営業不在

入社早々に他の営業メンバーがそろって退職という事態が発生した。

 

入社当時私の他には2人の営業メンバーがいた。1名はオーストラリア出身の人で外資系を中心に担当するということになっていた。ただ仕事ぶりを聞く限りではどうも真剣にやっているようには感じられない。副業もしているらしいという噂も。彼の恋人(?)のビジネスも手伝っているようで、セールスのアシスタントの女性にも依頼してそちらの方の翻訳してもらったりと、どちらが本業か分からないような状態だった。

 

もう1名は日本人で、こちらは昔からいる営業タイプの人だった。見た目は相当ゴツそうな感じだったが、話をしてみると繊細さも感じられる人だった。この人に面談してもらったわけではないのだが、入社初日に会った時に「いい人採用したと思ったよ」と言われうれしかった。

 

いきなり他の営業が抜けて自分一人が営業になるという事態に陥った。なんかマズいところに転職してしまったかなという気持ちになった。それでもとりあえずやるしかないので一つ一つ引継ぎをした。元々ITの経験がない状態で入社したので、ITについての基本知識を頭に詰め込む必要もあった。そうでないとエンジニアとの会話にもついていけない。また英語についても、それなりにコミュニケーションできるかと思ったが、考えが甘く、何を言っているのか分からない。知識がないと会話の中での手がかりがなく、それでコミュニケーションを見失ってしまう。この2つを一緒に向上させないと通常の仕事がハンドリングできないことに気がついた。最初の頃は日々勉強していた。



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