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コンタクト

2000年の夏前に、経歴書を登録していたサイトから連絡があり、私に興味があるとのこと。どんな会社かと思ったら聞いたことのない「サティヤム」という会社。インドが本社らしい。ここまでのところで、私に興味を持った理由に心当たりがあった。当時勤めていた会社で、最初に配属されたのが国際部という部門で、ここではほんの輸出入を担当していた。その中で一番最初に担当したのがインドのお客さんで、そのことを記載していたためだ。

 

私とインドの出会いは入社して配属後の1993年6月。ちょうど前任の方が退職されるということで、その人の持っていた仕事が残りのメンバーに割り振られた。新入社員だった私にはそんなに大きくないところということで、そのインドの会社が割り振られた。1年間の出荷は3回から4回、小口の注文が多かったのでそんなに難しくはないだろうという判断だったと思われる。実際ここの会社との取引は良好で、少ないながらも自分で上げた初めての売り上げとなった。

 

しばらくして先輩から実はインドにはもう1社顧客がいるということを打ち明けられる。ただしここは現在取引は中止状態で、売掛金だけが残っている状態とのこと。同じインドつながりで、こちらも担当してくれということになった。インドでは売掛金に期限があるらしく、もうすぐその期限を迎えるためということであった。同じような目に遭った他の会社からもアドバイスもらいながら何とかほとんど回収できたものの、債権の取立てをする会社に依頼したこともあり、結構な手数料が掛かる結果となった。

 

こんな両極端の経験をしたインドの会社から声が掛かった。何かちょっと因縁めいたものを感じながら、興味が湧いてきて実際に会うことになった。

 


決断

一回目の面談は6月に設定された。新宿御苑のオフィスに行くと、本日は社長が不在ということで、別の人が対応してくれた。いきなりインドの人が出てきたらどうしようかと思ったが、物腰の柔らかな日本人だった。面談というよりこの日は一方的に会社の説明を受けた形となった。何も質問も受けず、逆に質問はありますかと聞かれた。いくつか当たり障りのない質問をしたが、かといってこの会社のことやビジネスのことが分かったわけではない。とりあえず調べてみようということで、その日は失礼する。会社のパンフレットを渡されていて、帰りに読んでみる。不可思議な日本語で書かれており、解読不明。早々に読むのを諦めてしまった。

 

一週間もしないうちに連絡が来て二次面接とのこと、特に何も答えなかった一次面接をパスしたとはどういうことかと思いつつも二次面接に向かうことになった。この日は日本の社長が出てきて面接。さすがに何も聞かれないということはなかったが、今までの経歴や英語のことなど内容的には一般的なことが多かった。最後に会社のPR用のDVDがありますが見ますかということになった。会社を知る手がかりは少しでも多い方がよいので、見せてもらうことに。今では十分に慣れて特に大げさとも思わなくなったが、最初に会社のPR用DVDを見たときはあまりの派手派手しさと仰々しさにこれは洗脳かと思うほどだった。

 

サティヤムは英語で書くとSatyam。オウム真理教のサティアンも英語にするとSatyam。なんか関わりがあるのではという気さえ起きてきた。よっぽどこのことを聞こうかと思ったが、最終的に聞かなかった。別に怖かったわけでもなく、それまでになんとなくこの会社に惹かれるものが出来たためだ。

 

この次は最終面談。ここでは質問は一切なし。オファーレターを渡された。初めての転職で手順も分からなかったが、いきなり給料の書いた手紙を渡されてこれで検討してくださいとのこと。プロ野球選手にでもなったかのような気分だった。少し考えさせてくださいと結論はその場では保留。でもこの場で気持ちは決まっていた。


別れ

決断をしたからにはその時点で勤めていた会社に説明しなくてはならない。忙しい合間を縫ってもらって、上司に話を聞いてもらう。上司ではあるが、元々は担当が別になっている営業マン同士。いろんな悩みを打ち明けあったり、たまには愚痴を言い合い、片方に成果が出ればわがことのように喜ぶという間柄だった。その人に転職の決断を打ち明けるのは勇気のいることだった。後で聞いた話だが、この報告をした後に、普段は飲まない酒を飲んでいたとのこと。顔では笑って自分の決断を尊重してくれたが、実は残念がってもらっていたことは胸を締め付けられる思いだった。

 

でももう決めたことは覆さない。そうと決まったからにはきちんと後の引継ぎをするだけだ。サティヤムに出した唯一の転職条件は決定してから実際に働き出すまで2ヶ月待って欲しいということだった。これはきちんと引継ぎをして禍根を残さないようにするためだった。当時は北海道から静岡まで営業の担当をしていた関係で、厳しい出張スケジュールを組みながらお客様への説明、後を担当していただく方への引継ぎを行なっていった。

 

残り数日となってからも引継ぎをしながら、一方で様々な方々に送別会していただき最終日を迎えた。最後の晩は当時は別部署になってしまったが、人事異動でいろいろ動いて自分を引っ張ってくださった方との送別会。怖い人だったのだが、最後に優しい声を掛けていただいた。明日からは新しい職場で仕事ということで、その日は軽く食事とお酒で失礼した。次にお会いする時には仕事が順調に行っているという報告ができるようになってから来ると心に決めてその場を後にした。


いろいろな人たち

入社当時はサティヤムのオフィスは新宿にあった。地下鉄丸の内線の新宿御苑駅のすぐ近く。場所はよかったものの、ビルは雑居ビル。10階建てで中にはオフィスもあったが、一般の人も住んでいるようで時々自転車を持ち込んでエレベーターに乗る人もいた。以前の会社は完全にオフィスビルで、大きなギャップを感じていた。

 

それでも中は外資系のオフィスといった感じで、一つ一つのスペースが区切られており、キャビネットもついていた。ずいぶんと贅沢な造りになっていた。日本の「島」の座席とは大きな違いだった。インド式とはこういうものなのかと関心させられたりもした。

 

2000年12月1日の初出勤日はやや早めに出勤。出社時刻の9時の20分前くらいに到着。ただあまり人がいる気配がない。受付にあった電話も鳴らしてみるが誰も出ない。しょうがなく立っていると、コーヒーカップを持った男性が一人。スーツではなくてフリースを着ていた。まさかこの会社の人かなと思ったら、果たしてそうであった。こういう業界では服装もそれなりに自由なんだと改めて思う。

 

その後社内に通され、皆さんにご挨拶。思ったより日本人が多いという印象。それもそのはずで、人が集中しているのはインド側の方で、日本ではコーディーネーションを行なう少数の人たちというビジネスモデルだったのだ。しかし会う人会う人個性的な印象を受けた。思いっきり元気よく声の大きな女性、ものすごく派手なシャツを着た男性、ニコニコ笑うインド人、サリーを着ていかにも私はまじめですというようなインド人女性。

 

こういう個性派集団と一緒に仕事をしていくんだなぁと思った。しかし本当の個性派集団は日本ではなく、インドにいた。そのことに気がつくまでにもう少し時間が掛かった。


これは何語?

出社初日は人事的な手続きを少しした後は、特にすることもなく座っていた。疲れもあったし、その日は金曜日でまた翌日は休みになるので、仕事は翌週からだと勝手に決めていた。そのような油断したモードに冷や水を浴びせたかのような出来事が午後に起こった。

 

自分の座っていた席の後ろ側に小さな会議室があり、そこで電話会議が始まった。相手先はインドだというのは直感的に分かった。久しぶりに生の英語が飛び交っていた。挨拶のところはまぁ普通。何を言っているのか分かる。しかし本題に入った後、ここで交わされている会話は何なのか、そもそもこの人たちは何語をしゃべっているのか、まったく意味不明だった。自分はその電話会議のメンバーではなかったのにぐったり疲れてしまった。

 

後から冷静に考えて、理解できなかったのには様々な理由があった。

1.使われている用語が分からない

新しく飛び込んだIT業界。知らない用語はいっぱいある。日本語で聞いても分からない単語は英語にしたからといって分かるはずもない。自分のビジネスを理解していなくてはならない。

2.英語が分からない

これはもう自分で何とかするしかない。ペーパーテストとかは強かったし、大学でもそこそこ勉強したのでこれは慣れで何とかなるのでは。

3.英語がちょっと違う

よく言われることだが、インドの英語はアメリカやイギリスの英語とはやはり異なるようだ。発音もスピードも違う。それがインド英語という一つのカテゴリーとして異なっているのではなく、その中でもまた人によって違う。早くしゃべる人、ゆっくりしゃべる人、発音が明瞭な人、必要以上に巻き舌の人。そしてさらにエキサイトするとスピードが速くなったり、相手の言うことは聞かないでお互いにしゃべりあうという状況になったりする。この状態だと日本語でも理解するのは難しいと思うが、英語ならなおさらだ。しかも人によってはこの興奮した状態になると母国語が入ってくる。この母国語はヒンディー語だけだと思ったら、州によって言語は多く分かれているという。。。

 

電話会議自体は短時間のものだったが、やたらに長く感じたし、カルチャーショックも相当なものだった。この日は定時には退社したがいきなり疲れてしまっていた。翌日は土曜日。大きい書店に行ってITの本と英語の本を購入。この2つは学習で何とかなる部分があるが、インド英語については慣れるしかない。これは相当頑張らないとついていけないという危機感をいきなり持った。



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