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いろいろな人たち

入社当時はサティヤムのオフィスは新宿にあった。地下鉄丸の内線の新宿御苑駅のすぐ近く。場所はよかったものの、ビルは雑居ビル。10階建てで中にはオフィスもあったが、一般の人も住んでいるようで時々自転車を持ち込んでエレベーターに乗る人もいた。以前の会社は完全にオフィスビルで、大きなギャップを感じていた。

 

それでも中は外資系のオフィスといった感じで、一つ一つのスペースが区切られており、キャビネットもついていた。ずいぶんと贅沢な造りになっていた。日本の「島」の座席とは大きな違いだった。インド式とはこういうものなのかと関心させられたりもした。

 

2000年12月1日の初出勤日はやや早めに出勤。出社時刻の9時の20分前くらいに到着。ただあまり人がいる気配がない。受付にあった電話も鳴らしてみるが誰も出ない。しょうがなく立っていると、コーヒーカップを持った男性が一人。スーツではなくてフリースを着ていた。まさかこの会社の人かなと思ったら、果たしてそうであった。こういう業界では服装もそれなりに自由なんだと改めて思う。

 

その後社内に通され、皆さんにご挨拶。思ったより日本人が多いという印象。それもそのはずで、人が集中しているのはインド側の方で、日本ではコーディーネーションを行なう少数の人たちというビジネスモデルだったのだ。しかし会う人会う人個性的な印象を受けた。思いっきり元気よく声の大きな女性、ものすごく派手なシャツを着た男性、ニコニコ笑うインド人、サリーを着ていかにも私はまじめですというようなインド人女性。

 

こういう個性派集団と一緒に仕事をしていくんだなぁと思った。しかし本当の個性派集団は日本ではなく、インドにいた。そのことに気がつくまでにもう少し時間が掛かった。


これは何語?

出社初日は人事的な手続きを少しした後は、特にすることもなく座っていた。疲れもあったし、その日は金曜日でまた翌日は休みになるので、仕事は翌週からだと勝手に決めていた。そのような油断したモードに冷や水を浴びせたかのような出来事が午後に起こった。

 

自分の座っていた席の後ろ側に小さな会議室があり、そこで電話会議が始まった。相手先はインドだというのは直感的に分かった。久しぶりに生の英語が飛び交っていた。挨拶のところはまぁ普通。何を言っているのか分かる。しかし本題に入った後、ここで交わされている会話は何なのか、そもそもこの人たちは何語をしゃべっているのか、まったく意味不明だった。自分はその電話会議のメンバーではなかったのにぐったり疲れてしまった。

 

後から冷静に考えて、理解できなかったのには様々な理由があった。

1.使われている用語が分からない

新しく飛び込んだIT業界。知らない用語はいっぱいある。日本語で聞いても分からない単語は英語にしたからといって分かるはずもない。自分のビジネスを理解していなくてはならない。

2.英語が分からない

これはもう自分で何とかするしかない。ペーパーテストとかは強かったし、大学でもそこそこ勉強したのでこれは慣れで何とかなるのでは。

3.英語がちょっと違う

よく言われることだが、インドの英語はアメリカやイギリスの英語とはやはり異なるようだ。発音もスピードも違う。それがインド英語という一つのカテゴリーとして異なっているのではなく、その中でもまた人によって違う。早くしゃべる人、ゆっくりしゃべる人、発音が明瞭な人、必要以上に巻き舌の人。そしてさらにエキサイトするとスピードが速くなったり、相手の言うことは聞かないでお互いにしゃべりあうという状況になったりする。この状態だと日本語でも理解するのは難しいと思うが、英語ならなおさらだ。しかも人によってはこの興奮した状態になると母国語が入ってくる。この母国語はヒンディー語だけだと思ったら、州によって言語は多く分かれているという。。。

 

電話会議自体は短時間のものだったが、やたらに長く感じたし、カルチャーショックも相当なものだった。この日は定時には退社したがいきなり疲れてしまっていた。翌日は土曜日。大きい書店に行ってITの本と英語の本を購入。この2つは学習で何とかなる部分があるが、インド英語については慣れるしかない。これは相当頑張らないとついていけないという危機感をいきなり持った。


最初の仕事

会社に入っての最初の仕事は会社紹介パンフレットの作成。今まではインドで作成している英語のパンフレットを翻訳したものをパンフレットとして使っていた。これがまさに直訳のような日本語で、日本語で読む方が難しく何が書いてあるのか、何が言いたいのか分からないような有様だった。これを分かりやすくして日本のお客さんに配れるようにしてほしいとのこと。

 

会社がどんなことを「売り」にしているのかを知るには絶好の機会で、新しく入ってきた者にとっては仕事と学習を一石二鳥で行なえる。実際のところはそれをやろうとするような人がいなかっただけのようだが。特に英語のオリジナルの文章にはこだわらなくてもよいということで、日本語でわかりやすく伝えようという方針でスタートすることにした。

 

日本用にアレンジするのだから、実際に日本で仕事している人からヒアリングしてみることにした。ただみな言うことが全然違う。最初は営業とかプロジェクトマネージャーとかエンジニアとかポジションの違いで言うことが違うのかと思ったら、どうもそういうことには関係なく、自分たちがどのようなサービスを提供しているのかの共通理解がないようであった。

 

勝手に書いてもいいのかなと思いつつも、やはりコアな部分は変えられない。何回かの議論を経た上で次のようなセールスポイントを挙げてみた。

1.コストの安いインドでプログラム開発をすることでのコスト削減

2.ITに力を入れているインドでは、いろんなテクノロジーをカバーできること

3.一方で言葉の壁が問題にならないよう、日本のオフィスでのサポートがあること

突き詰めるとこういう形になる。これを骨格として文章を作成してパンフレットのような形でまとめてみた。

 

営業の人やプロジェクトの人から評価してもらえるかなと思ったが、あまり彼らは興味がなかったようだった。興味や関心を持ってくれたのは経理やセールスサポートなどのバックオフィスの人たちで、これで自分たちの会社が何しているのか説明がつきやすくなったとのこと。別に社内の人に営業しているわけではないのだが、まぁこれはこれで重要なこと。

 


初めてのインド出張

インドの会社に勤めたからにはいつかはインドに行く日が来るんだろうと漠然とは思っていたが、その日は突然訪れた。

 

プロジェクトに関わっている人だとプロジェクトの中でオフショアのメンバーと打ち合わせをするとかこれから必要になる技術のトレーニングを受けなくてはいけないなど実務上の必要性でインド出張に行くケースが多い。ただし営業にはこういうケースは当てはまらない。営業がインド出張を実現するためにはお客さんがインドを訪問するというのが絶対的な理由になる。これが水戸黄門の印籠のように出張の大義名分になるのだ。

 

そういうことがあったので、お客さん誰彼構わずに「インドを見てみませんか?」とか「一緒に行ってサポートしますよ」というのをアピールして回っていた。そのうちある顧客の役員が急遽インド訪問の意思を示した。それまで担当レベルの人は「いいですね。そのうちに。。。」などと言って言葉を濁していたのだが、親分が行くとなれば話は別。出張日程を組みたいという連絡が入った。

 

今回は特にどういう部分を見たいというよりインドのオフショア開発全般について知りたいということで、自社で一番自信を持って見せられる場所になった。本社のあるハイデラバードという都市にあるSTC(Satyam Technology Center)というのを見てもらうことにした。

 

何分自分も初めてインド本社を訪問するので予備知識はないし、お客さんに対して粗相があってもいけないので先乗りでインドに行くことになった。ハイデラバードには直接行かず、まずはチェンナイという都市に向かうことに。この顧客の対応をしているオフショアのチームはチェンナイにあるためだ。到着は土曜日の夕方で、その日はチームのマネージャーの人がお茶でも飲もうとホテルまで来てくれた。電話で何回か話はしていたものの顔を合わせるのは初めて。なんか不思議な感じがした。お茶を飲んだ後は自宅に招いてくれるという。期せずしてインドのお宅訪問となったが、南国の別荘のような素敵な家だった。奥様と息子さんが迎えてくれた。息子さんは背が高くスリムでかわいらしい顔をしていた。高校生くらいと思ったが、きっともてるに違いない。異国からの珍客を丁重に扱っていただいた。

 

インドは初めての出張の10年位前に旅行で行ったのだが、その時のイメージとはがらっと変わってしまっていた。物乞いや物売りが寄ってきたり、町が汚かったりというイメージがあって構えていったのだが、拍子抜けするくらいにおとなしい感じだ。インドは確かに変わっているんだなあと実感した。

 

翌日の日曜日はオフ。靴があまりにもくたびれていたのでインドで靴を買おうと決めていた。ホテルで車を1台手配してもらい、観光がてら買い物へ。ドライバーには靴を買いたいと伝えたのだが、最初に連れていかれたのは土産物屋。一応見るが別に興味はない。そのうち周りに売り込む気持ちまんまんのお店の人たちが。。。やはりここはインドだった。

 

車に戻り、ドライバーに靴が買いたいと再度伝える。すると今度はちょっとしたデパートのようなところへ。これだったら大丈夫かなと思ったが、店員に靴はあるかと聞いたら靴はないという。残念だが帰ろうと思ったら、店員が毅然とした態度で「靴はないが、シャツならある!」と言い放った。

 

「???!」

 

店員の気迫で一瞬分からなかったが、それはおかしい。それでもあまりに強硬な態度でセールスに出る土産物屋の兄さんに抗うことができず、結局シャツを購入することに。まぁシャツは使うものだしとあきらめてお勘定しようとしたら、今度は「家族に土産はどうだ?」と言い出した。ここでもまんまと乗せられて土産を買うことに。。。今なら絶対に断るのだが、当時はインド英語力も、交渉も全然だったんだなとはずかしくなる思い。


お客様訪問準備

月曜日にチェンナイを後にしてハイデラバードに向かう。日本の国内であれば社内のメンバーがお互いに事前に顔合わせして準備進めていくことが可能であるが、なにぶん遠く離れたインドの顔を知らないメンバーと電話やメールでやり取りしてきただけなので、準備がきちんと済んでいるかが不明。そのため本番の前に1日準備に時間を取ることになった。

 

プレゼンテーションを行なうハイデラバードのSTC(Satyam Technology Center)は街中から車で1時間。広大な敷地のキャンパスを持つためには、少し離れないと土地がないことは今となってはよく分かる。けれど当時はオフィスは街中にあるものという既成概念があったり、オフィスとキャンパスというのが考えとしてどうも結びつかなかった。

 

それでもそれは事実なので、予定の中に移動時間をきちんと織り込んでおかなくてはならない。こういった移動、移動のための車、会議室や電話などのインフラ、お茶や食事、などを総称して「ロジスティクス」というが、このロジスティクスがプレゼンテーションに負けず劣らず重要となる。こういったものは実際にインドに行かないとイメージが湧かなかったり、理解できなかったりする。

 

まずは移動だが、インドの交通渋滞を理解しなくてはならない。日本からお客さんが訪問される場合は基本的には車での移動となるが、あまりの渋滞で到着時間がなかなか読めない。現地の道路事情に詳しい人から、何時に出発すべきか、その場合どのくらいの時間が掛かるかヒアリングしておいた方がよい。ただ年々交通渋滞は劇化し、なかなか古い情報だと役に立たないのが現実だ。

 

会議の最中にやたらとお茶やお菓子が出るのもインドの会議の特徴。なぜか必ずカシューナッツやビスケットが置いてある。調子に乗って食べると食事の前にお腹がふくれてしまう。会議中の飲み物も気を遣わなければならないアイテムの一つ。日本人には少なくてもきちんと栓の閉まっているボトルウォーターが必要。再利用する入れ物にドリンキングウォーターと称して水が出されることがあるが、これは自分でも飲まないしお客さんにもお勧めしていない。インドでお腹を壊す話をよく聞くが、大きな理由は水。直接飲む場合もあれば、氷の場合もある。生野菜や果物を洗った水が理由と思われる腹痛も見たことがある。長く日本に滞在しているインド人メンバーでも、このようなケースでお腹を壊すことがある。気をつけすぎということはないだろう。

 

ロジスティクスの中でも極めて重要なのが食事。プレゼンの内容もともかくだが、食事の内容の方が印象に残ったりすることもある。それが会社の評価にも結びつきかねないので要注意だ。

車で遠く離れたキャンパスといわれるところで、お客さんをいきなりフラッと連れていける店はない。社員だけなら社員食堂使うが、お客さんを連れていくわけにもいかない(味は非常にいいのだが)。ということで事前にケータリングサービスなんかを手配しておくことになる。ここでいろいろ考えるポイントがある。お客さんも滞在初期の頃はインド料理の珍しさで、スパイシーなものでも結構食べるが、後半の頃は段々飽きてくるのと疲れも出て食欲が減退してくる。食事を振舞うのが出張のどの段階か見極めてメニューを選ぶことが重要になる。

 

昼食でお勧めなのはサンドイッチ。特に変わったものではないし、お腹にも優しい。一番よいのは食べ過ぎてその後眠くなるということがないことだ。インド料理はスパイスで体があったまるのか、それとも食べ過ぎる傾向があるのか、食事後のプレゼンテーションで寝始める人が続出する。英語が今一つ苦手という人に多い。これでは本来の目的が失われてしまう。そうはならないのと健康のため昼食は軽めでいいのではと思う。ピザもお勧めでピザのデリバリーは結構流行っている。サンドイッチやピザは話ながら食べるランチミーティングにも適している。

 

もう一点気をつけなくてはいけないのが服装。基本的にはビジネスカジュアルで、ネクタイなしでよいのだが、長袖とジャケットを持参することをお勧めする。インドというと暑いイメージがあり、確かに外に出ると暑い。しかしオフィスの中はこれでもかというくらい空調が効いている。半袖でいると風邪をひく恐れがある。私も実際に出張中に風邪にかかったことがある。要注意だ。

 

 



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