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本日も快晴。いざ図書館へ。

子供の声が聞こえる。
私の家の近くにある図書館の分館。
2階建ての小さな公民館のさらにその一部。分館らしい佇まいだ。
図書館脇にも設置されている公民館の入り口から入ると、子供が騒ぐ声が聞こえてきた。
どうやら図書館の方からだ。
「ボク、この本借りたいの!」
「ダメ。あんた一人じゃ読めないでしょ。」
「嫌だ!読まないとみんなに馬鹿にされるんだもん!」
そんな声を聞きながら図書館の入り口に近づくと、ひとりの白髪老人が図書館内を見てしかめっ面をしていた。
確かにうるさい。
中に入り、その光景を目の当たりにする。
4歳、5歳くらいだろうか。1人の男の子が1冊の本を胸に抱えてわめいている。
世界的に有名なファンタジー小説だ。確かにもう少し年齢を重ねてから読んでも良い気がするレベルだとは思う。
母親と思われる人物が説得しているが、なかなか治まらない。
耐えかねて若い司書が間に入った。
「すみません、お静かに。読みたいのであれば、借りてあげたらどうですか?」
司書に母親の鋭い視線が刺さる。
「何でこの子に読ませる本をあなたに口出しされなきゃいけないんですか!」
突然の怒り。
思わず子供が泣き止んだ。
私も入り口で視線を奪われたまま凍りついたように動けなくなった。
白髪老人も同じようだ。いや、むしろこの図書館にいる全員が同じ状況だ。
司書にいたっては口をパクパクさせて震えている。
もちろんこんな答えが返ってくるなんて思っていなかったはずだ。
何も答えない司書を尻目に母親は子供から本を奪い、貸し借りを行うためのカウンターにドンと本を置いた。
「帰るわよ。」
そういって母親が子供の手を引いた。
しかし、子供は帰ろうとしなかった。
「何でダメなの?読むの!」
「ダメなものはダメ!」
母親がさらに強い力で手を引こうとすると、子供が母親に体当たりして母親の足を蹴った。
「嫌だ!」
ひたすら母親の足を蹴ったり殴ったりする。
とはいえ所詮は小さい子供の駄々だ。母親の身体が崩れたりすることはない。
ただ、彼女の顔が紅潮していくのが目に見えて分かった。
母親が右手を振り上げる。
狙いは子供の左頬か。
思わず目をつむりそうになったとき。
「やめなさい!」
迫力のある声が響いた。
白髪老人だ。図書館中の視線が集まる。
母親の平手も止まった。
白髪老人はその親子の方に歩いて行って小声で母親に話しかけた。
内容は聞こえなかった。
そして視線を子供に向けると、そちらにもぼそぼそと小声で話しかけ、子供の頭をなでた。
子供は泣き止み、母親の顔から赤みが引いていった。
「ご迷惑おかけしました。」
そういって母親は図書館の中央付近に向かって一礼をした後、子供を抱えて去っていった。
子供はもう抵抗しなかった。

20分後。
図書館はいつもの平穏を取り戻していた。
白髪老人はあの後すぐに帰って行った。
私は借りたい本を4冊抱えてカウンターに向かった。
「これ借ります。」
先ほどの司書に図書館のカードを渡す。
「はい。ご提示ありがとうございます。」
カードのバーコードを機械で読み取りながら司書はそう答えた。
司書もすでに落ち着いているようだ。
それが分かって少し安心し、気になっていたことを聞いてみる。
「さっきあの老人の方って何言ってたんですか?」
近くにいたので、司書には聞こえていると思ったのだ。
「あの人すごかったですねぇ。助かりました。
 確かにあの本は子供も読んだりするんですが、人が死んだりする描写があるので、読ませたがらない親御さんもいるんですよ。でも、あの老人は親のスマートフォンでもいじってもっと良くない情報にさらされるよりも良いんじゃないかって。他にもぼそぼそと言っていましたけど。あと、子供には明日も図書館にきたらワシが読ませてやろうとかって言ってましたね。
 はい。返却は2週間後です。」
司書は話しながらも手早く処理を進め、4冊の本を手渡してきた。
「なるほど。ありがとうございます。」
私は本を受け取って一礼して帰路についた。

快晴だ。
胸いっぱいに空気を吸い込むと気持ちが良い。
白髪老人の言葉は思っていたよりも普通だったが、一方で核心を衝いているとも感じた。
そう思うのも『図書館戦争』のおかげかもしれない。
あの突拍子もないものの、どこかに現実を匂わせる世界観に触れたことにより私の考え方は変わった。
以前の私であれば、おそらく母親の意見に賛同していただろう。
しかし、今は情報リテラシー向上のためにも、子供たちにある程度の情報を与えた方が良いと思っている。
とはいえ、どんな情報にでも与えて良いかというわけではない。
ただ、少なくともこの親子の場合は良かったのではないかと思う。
人の死が意外と身近なものであることも、子供が知っていても良いと思うのも理由だ。
私ももう少しで子供が生まれる。
どんな情報なら子供が触れても良いか、どんな情報ならダメなのか。
その線引きをするためにも、もう一度『図書館戦争』を読んでみようと思った。

奥付



図書館一揆


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著者 : 佐々木コジロー
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