閉じる


ひとり

 

”リア充王”ゆきが大学の授業中に「今日さぁ女子会しない?いつものメンバーいつもの場所でさ。お酒代は私が出すから。ね?いいでしょ?」という鶴の一声ならぬ”ゆきの一声”で急遽決まった今日の女子会。

いつものように恋バナに火が付きみんなが寝静まったのは深夜4時だった。

みんなといってもリア充王と言われているゆきとほかの友達2人で計3人。ちなみにリア充王と呼ばれている所以はその名のとおり、リア充の中で最もリアル充実しているからだ。充実している上に王様って。いや王女さまか。

まあともかく私以外の3人はみんな彼氏持ちで青春を謳歌しているメンツだ。

 

 

はぁ~とため息・・・いや一息ついて、私は机の上に置いてあった手鏡で自分の顔を眺めてみる・・・・・・・あ~ひどい顔。アルコールで顔は赤いわ、目は腫れぼったいわ、肌は手入れしてないわ。(こんなんじゃ彼氏なんかできないぞ!)と自分に喝を入れてみる。でも効果はほとんど無いに等しい。

 

 

「どうしたの?自分の顔じっと見つめちゃって」というゆきの声が聞こえた。

私はとっさに手鏡を閉じた。

「そんなにビックリしなくてもいいんじゃない?誰だって鏡で自分の顔ぐらい見ることあるわよ。」

「なんとなく恥ずかしかったの。で、どう?頭痛いの治った?さっきずっとうなされてたけど。」

「え?うなされてた?けどもう大丈夫。治りましたよ。」とゆきは言った。そっかと私は言い、こたつにスルっと首まで体をつっこんだ。

 

「美佳さぁ~どうなのユウキくんだっけ?うまくいってるの?」とゆきは言った。

「あ~ユウキくん?うまくいってるも何もまだ一回しか一緒に出かけてないよ。なんにもありません。」と私はゆきに背を向けながら言った。その話はしたくありませんオーラ全開で。

 

 

しかしそれとは裏腹にゆきは話を進めていく。

「いいと思うけどなぁ~ユウキくん。結構モテてるし、顔だってまあまあじゃない。しかも美佳、クラス一緒でしょ。ユウキくん美佳のこと絶対守ってくれると思うけどな。」

私は答えた。

「まあかっこいいと思うし、たまにごはん誘ってくれるのはすごくありがたいと思うけど、あの人は違うかなと思う。」

ゆきは少しこわばった顔で「なんで?いいと思うけど・・もしかして美佳って理想ちょっと高いんじゃない?イケメンじゃないとダメとか?」

 

「そんなことないよ。ただ今は恋愛とかそういう気分じゃないの。ユウキくんには悪いけど今は一人で満足してるの。」

ちょっと強がっている自分が腹立たしい。

 

ゆきは「ふ~ん。そう。それなら無理にとは言わないけど。」と言いながらとちょっとおトイレ、と席を立ち今まで我慢していたような足取りでその場を離れた。

 

 

( ほんとは私だってみんなと同じように彼氏と仲良くしてみたいよ。だけどどうしても忘れられない人がいるの。なんて言えない。)

私は目を閉じながらそう思った。

 

 

トイレの流れる音が聞こえ、そこから出てきたゆきが元居た席に戻る。

 

 

私が「もう三年だね~。」とゆきに言った瞬間、

ゆきは「あっ!」と何かを思い出したような声で、私の声を見事にかき消した。私は驚きながら「どうしたの?」と返すと、

「そう言えば、昨年ハルくんっていたよね?ハルくんとはどうなってるのよ?」と言った。

 

 

 

 

 

(ハルくん!?)

私の中で何かが痛かった。

心臓がギュッてなるのをこの時初めて体験した。

 


過去は今カタチを変えて

「ねえ?どうなのよ?ハルくんと連絡取り合ってるの?」

「とってるわけ無いじゃん。付き合ってるわけじゃないんだし。第一、私がハルくんを振ったんだよ。私のことなんて覚えてないよ。きっと。」

「そうかな~。あーあ、なんでふっちゃったかな~。結構いい人だったじゃん。もったいない。」

「だって他に好きな人いたんだもん。しょうがないじゃん。あれでよかったの。ハルくんの話はもういいじゃない。ね?じゃ私寝ようかな。」

「そっ。じゃあおやすみ。」

 

私はおやすみと答えながら、こたつの中に潜り込んだ。明らかに後悔していた。後悔している顔を見られたくなかった。

そう。私は振ったのだ。

昨年の夏の終わりに。

 

 

 

 

ハル君との出会いは大学一年のとき。入学したばかりの私は右も左もわからない状況でもちろん友達さえいなかった。

そんなときに声をかけてくれたのが、ハルくんだった。

 

「ねえ?もしかして一人?よかったら次のオリエンテーション一緒にいかない?どうも一人でいると不安でさ。」

ハルくんは頭をかきながら私に言った。これがハルくんとのはじめての会話だった。

「あっうん。一人だよ。」

「よし。じゃあ行こう。確か場所は・・あっちだ。」と彼は方向を指差して、私はつられるようにゆっくり歩き始めた。

 

「おれ、杉山陽斗っていうんだ。昔からハルって呼ばれてたからハルって呼んで。君の名前は?」

「私は持田美佳。えっと、普通に美佳、でいいかな。よろしくね。」

「美佳ちゃんか。いい名前。けど美佳じゃつまんないから、う~ん。そうだな。”もっち”ってよんでいい?持田のもっち。」

「もっち?なんか変。美佳のほうがいい。」

「ダメ。もっちね。ところでもっち。オリエンテーションもう始まってるんだけど、走れる?」

「え?もう始まってるの?早く言ってよ。走ろ。」

ハルくんは「よし。じゃあ急ぐか。」と言い、私の腕をつかみ、走り出した。私は自然、引っ張られるような形になった。

「大学来てまで本気で走ることになるなんてな」と満面の笑みでわたしに言った。

 

 

まるであの時は、ハルくんと出会ったのが、これで初めてじゃないような気した。男の子とうまくしゃべれないはずの私が普通に喋ってた。

教室に向かってハルくんと走ってる私は、どこまでも走って行ける気がした。


この本の内容は以上です。


読者登録

熱海勘九郎さんの更新情報・新作情報をメールで受取りますか?(読者登録について