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時の女神の足音(2)

時の女神の足音(2)
 
 
 はじめは、駄菓子屋で買った、パチものの懐中時計だった。五百円きっかりという時点で絶対おかしく、あせた金色のねじを巻けば”ぎゅるり、ぎゅるり”とひねくれた音がしぼり出される。しょうもない、とベッドに投げ置こうとしたら、窓の外の夕日がぐっと『上がって』ゆくのを見てしまった。西から東へ空は明るく――ニシカラヒガシヘ、ソラハ、アカルク?!――なんてこった!
 
『時間旅行者』になった。ただし”りゅうず”は右にしか巻けない。だからねじっただけ、過去を繰り返した。でも使い道を思いつくのに、数秒かからなかった――いや一分かかったってそれだけ「巻き戻せば」いいのだ、答案が配られてから昨日に「巻き戻れば」いいのだ、石につまづいたら道を選ぶ前まで「巻き戻ろう」じゃないか!
 
 試験は満点が取れるまで。
  他人の失敗を予言するために。
   マリン・ノートが似合うとわかるまで。
    憧れの先輩がと言えば全て俺を指すように。
 
 俺は、運命の女神を喚(よ)び続けた。
 完璧な人生を求めて。
「成功」だけを、約束した女神を――。
 
 
さあ女神よ、おとついまで、俺を連れて行け。時計を買った頃だ。学校で一年の可愛い娘(こ)とすれ違った。あいつがいちばん、俺を見ると顔を真っ赤にして、素直で、俺が好きらしい。俺も、あのけなげな姿にホレてるんだ。「また会ったね」と言ってから、また二日よけいに「生きなきゃ」ならなくても。何度やろうが、飽きない。
 
このところ、三階の教室までの階段がやけに辛くなってきた、が。制服の腹が苦しかったり、頭がやけに涼しい時もある――そんな小さな悩みも、あいつのほっぺたを見たら一発で吹き飛ぶ。最近は、あの顔にしゃぶりつきたいくらいだ。
 
 
 そう、このねじの音は、女神の足音。
 俺を導いてくれ、最高の青春の日々へと――!
 
 
 ”ぎゅるり、ぎゅるり”

おくづけ

(おくづけ)
初稿 平成三年頃
「タイムトラベラー・時間旅行者(旧題:タイムトラベラー)」平成七年
「時の女神の足音(旧題「女神の足音」)」平成十五年
「時の女神の足音」は、平成十五年にインターネットテキストサイト「ゴザンス」にて三題噺「おとつい」「駄菓子屋の前で」「憧れの先輩が」として発表。「時の女神の足音(1)は、その三題が本文に出ない「サイレントバージョン」として書いています。

(c)Misaki Namikawa, MisakiWorld No.134
http://www.misakiworld.jpn.org/
twitter MisakiWorld (公式情報)・ komiyatatsh (個人)


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