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おばあちゃんの木

おばあちゃんの木
 
 
 
 同い年のしづ子が、縁側に出てきた。
 風は幼子のもとへ、小さな葉を届けてくれた。
 
 
 時代は向かってはならぬ方へ確実に進んでいた。しかしどうすることもできなかった――私は一本の木であったから。
 
 やがて、紅い夜が来た。
 熱い夜だった。
 黒い鉄の鳥達が火薬の糞を落としてゆく。
 人の魂がひとつ、またひとつ空へ消える。
 しづ子が母親に連れられ飛び出す。
 無事に逃げのびることを祈った……その結末も知っていたが。
 まわりを見回すと地獄だった。
 
 
『私はみんな知ってる。結局戦争は、骨しか残らないんだ。
 誰も幸せになれないんだ。確かに時が経てば落ち着くだろうけど、 それは時代も人間も生まれ変わっただけのこと。命ばかり消えるだけ。ああ……』
 
 
 背中の後ろで竹を割ったような音がした。炎が迫っていたのだ。私にはどうすることもできない。
 その結末も知っていたから、私は静かに目を閉じた。
 
「この木はな、おばあちゃんと同い年なんだよ」
 
 私は孫にいつも話した。
「しづ子おばあちゃんと? じゃあ、『戦争』も、知ってるんだよね」
「そうだよ。この木は、空襲で後ろ側が焦げてしまったけど、まだ生きている。おばあちゃんもこの木も、戦争なんて二度とごめんだ、って思っているんだよ」
 優しい風は、私たちのもとへ小さな葉を運んでくれた。
「ありがとう、『おばあちゃんの木』さん。ぼく、大人になっても、 ぜったい『戦争』反対って、言うからね」
 私も木も、嬉しさをに出していた。木も私を見つめているようだった。
 
 
 
 それからしばらくして、私は自分の人生を終えた。
 もしも生まれ変われたら、とよく願っていたせいか、再び目を開くと、私は一本の木になっていた。
 ところがまわりの景色は、私の幼い頃と同じだった。
 またあの時代を体験せねばならないのか。その結末を知っていても、 憂鬱にならずにはいられなかった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 同い年のしづ子が、縁側に出てきた。
 風は幼子のもとへ、小さな葉を届けてくれた。
 
 
 
 
 
(了)  
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


おくづけ

(おくづけ)『おばあちゃんの木』
初稿 平成五年十二月
改稿版(八百字バージョン)平成十四年八月
電子書籍版(改稿版で作成)平成二十四年三月
作 波河海咲(なみかわ みさき)
(c)Misaki Namikawa, Misaki World 141--ob-epub)
twitter: MisakiWorld (公式情報アカウント)・ komiyatatsh(波河個人アカウント)
 

この本の内容は以上です。


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