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奇跡の出会い

今日から初めての中学校生活が始まります。うさぎは、楽しみで楽しみでたまりませんでした。

「どんな友だちができるかな?」

「何の部活に入ろう。」

などと考えていました。

入学式を終えて、うさぎは校門近くにある桜の木を観に行きました。すると、もう一人女の子がさびしそうに立っていました。うさぎは、

「こんにちは、どうしたの?」

と声をかけてみました。その女の子は

「ううん。大丈夫です。」

と答えました。うさぎは、

「じゃあ、自己紹介。私は、山口うさぎ。あなたは?」

「蒼井百花です。」

そして百花はにっこりわらって、

「友だちになってくれますか?」

と言いました。

「うん!もちろん!」

うさぎはすぐに答えました。

その時です。2人の間に、どこからともなくさわやかな風が吹いてきました。

そして、その風に乗ってゆれるようにふわふわと・・・。桜の花びらが2枚、うさぎの手のひらに舞い降りました。

うさぎはその花びらを1枚差し出し、

「百花ちゃん、これ、今日2人が出会った証だよ。2人の宝物にしよう。」

「ありがとう!うさぎちゃん。大切にするね。」

こうして、2人の中学校生活が始まったのです。


共に歩んだ日々

2人は、休み時間も昼休みも一緒でした。百花はよく咳をするけど、おしとやかで賢い子でした。うさぎは、とっても元気でいろんなことにチャレンジする活発な子でした。うさぎが、面白いことを言って笑わせると、百花は、にこにことそれは嬉しそうに笑っていました。授業でうさぎが居眠りしかけた時も、にっこり微笑み先生に隠れてそっと起こしてくれました。うさぎがお弁当を家に忘れてしまった時には、自分の持ってきたサンドウィッチを自分の分よりたくさんうさぎに差し出して、またまたにっこり笑っていました。だから、こんなに性格の違う2人だけど、けんかをしたことはただの一度もありません。いつも2人の間には見えないベールがあり、優しく2人を包み込んでいるようでもありました。

やがて2年の月日が流れ、卒業式を翌日にひかえた小春日和の日。2人は校舎を出て歩き出しました。そして気がつくと、あの桜の木の下に立っていました。すると突然、百花が、

「うさぎちゃん、ありがとう。」

と言いました。うさぎは、びっくりして、

「なんでありがとうなの?」

と不思議そうに尋ねました。百花は、

「理由はわからない。でも、どうしてもこの言葉が伝えたくって・・・。」

と言いました。それから2人は、しばらくの間、桜の花びらに包まれながら静かに見つめ合っていました。

 

 

 


突然の別れ

そして、卒業式当日。

百花と待ち合わせした桜の木の下で、うさぎはずっと待っていました。

「うさぎちゃん、お待たせ。」

そう言って、遠くからかけてくる百花の姿をずっとずっと待っていました。でも、百花はやってきませんでした。

心配になったうさぎは、百花の家に電話をかけました。

「おはようごございます。あのおばさん、百花ちゃんは?卒業式に待ち合わせしたんだけど、なかなか来なくって。」

「あ、あの、うさぎちゃん、ごめんね。百花は、百花は、今朝、ベットに起こしにいったら、目を閉じたまま起きなくって、急いでお医者さんに来ていただいたのだけど・・・。もう2度と目を開くことはないって・・・。」

「えっ。それって、もしかして、百花ちゃんが亡くなったってことなんですか?どうして?昨日まであんなに元気だったのに。どうして・・・。」

「実は、百花は先天性の持病を抱えていてね。生まれた時から長くは生きられないって言われていたの。長くても12歳ぐらいまでの命だって。でも百花は、2年前うさぎちゃんに会ってから変わったの。急に元気になってね。見違えるように生き生きして、病気のことも忘れてしまうぐらい楽しい中学校生活を送っていたの。だから、おばさんも突然のことで、どうしていいのか・・・。ただ、うさぎちゃんには病気のことを決して言わないでって口止めされていたから・・。ごめんなさいね。うさぎちゃんもびっくりしたでしょう・・・。」

消え入るように話すおばさんの声がうさぎの耳に遠く響きました。電話を切ると、うさぎは走り出しました。いてもたってもいられなくなったのです。泣きながら、ふるえながら、百花の家に向かってただただ走り続けました。

「突然来てすみません。あの、百花ちゃんに会いたくて。」

百花の家には急な知らせに慌てて駆けつけた人たちが何人もいました。お父さん、お母さんはもちろん。おじいちゃんやおばあちゃん、いとこやおじさん、おばさんらしき人まで・・・。その人たちに深く会釈をした後、うさぎは百花の寝ている部屋へ入りました。百花の顔はそれはそれは美しく、まるで生きているかのように、少し頬を赤らめて微笑んでいるようにも見えました。

「うさぎちゃん、これ、百花の机の中から見つかったの。うさぎちゃん宛ての手紙みたい。」

百花のお母さんがピンク色の手紙をわたしてくれました。

「ありがとうございます。」

うさぎは手紙を受け取り、目を真っ赤にしながら百花を家をあとにしました。

うさぎは、手紙を握り締め、学校へもどりました。そして、2人のあの大切な桜の木の下に辿り着くと、手紙を開きました。

「うさぎちゃんへ。

今まで病気のことを黙っていて本当にごめんなさい。でも、私はうさぎちゃんに私の心配なんかしないで、いろんなことにチャレンジしてほしかったんだ。うさぎちゃん、桜の花びらのこと覚えてる?私たちの絆の証だと思ってるよ。もし、うさぎちゃんと離れ離れになる日が来ても、この桜の花びらは友情の証として2人の絆として、心の奥にしまっておこうと思っています。うさぎちゃんは、永遠の友だち、そしてたった一人の親友です。」

手紙を読み終えると、うさぎは泣き崩れました。どうしようもなく後から後からとめどなく涙が流れ出ました。声にならない声を出し、心の底からあふれ出る涙を押さえきれないようでした。すると、どこからともなく、あの時のさわやかな風が・・・。その風は、たくさんの桜の花びらを揺らし、地上へと舞い降りさせました。その中から、桜の花びらが1枚・・・そして、また1枚とうさぎの握り締めた手紙の上にも。

「百花ちゃん、卒業式の後、一緒にこの花びらを持って帰りたかったね。でも、この花びらは2人の宝物。ずっといつまでも一緒だよ。」

そうつぶやくと、うさぎは卒業式の行われる会場に少しだけ微笑んで入っていきました。そして、会場に入る瞬間、

「うさぎちゃん、ありがとう。」

うさぎの耳に、昨日の百花が言ったあの言葉がはっきりと聴こえたように感じました。昨日の百花の笑顔とともに・・・。

 


この本の内容は以上です。


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