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ピアノを弾く悪魔

やめろ、もうやめてくれ
頭がおかしくなりそうだ
ああ…

 

耳のすき間から
ピアノの音色と悪魔が入ってくるんだ
地獄の叫び声が聞こえる
誰か耳をふさいで
耳をふさいで
何も知りたくない…

 
神経遮断
その日から僕は何も 食べなくなった
悪魔の声以外聞こえない

 

 
 


悪魔はピアノを弾く
ピアノの音色を聴くと
胸がざわざわして熱くなる

聴いていたいのかいたくないのか
よくわからないよ


低い笑い声が
耳のすき間から侵入してくると
頭の中の何かが切れて
僕は闇の世界へと堕ちる


 

 

そうだ僕は
人間界では死にかけてた
僕は死んだのか?
両手はちゃんとある


息ができるよ
なぜかわからない
闇の世界が心地良い

 


もう帰れない
帰っても居場所などない
頭を抱えて 悪魔のピアノの
狂った旋律 悲しげな音色を聴いた
不思議と懐かしいような気持になる
あれほど拷問のようだったのに

 

意識が遠くなる
誰かにとってあなたは悪魔
でも
死ぬ寸前の僕を救ってくれた…

 

 


その日、僕は発狂した
悪魔になりたいと願ってしまったから


意思というものを失くしてしまった
全て人間のおかげだ
指が音色に絡まってはなれない
僕は虜になっていた

 

 

薄暗いここでは息ができる
意識が操られているのか
綿にくるまれたような感覚
黒の中に美しいピアノが響く
激しい、狂おしい音色が胸をかき乱す
動けないけれど 目頭が熱くなった


人間界で僕は 密かに殺されようとしていた
悪魔は僕に憑いて
新しい鼓動をくれた
だとしたら
人間と悪魔の違いはなんなのか…

 

 


暗闇から2本のつたが伸びてきて僕を縛る
そのまま石になった
すばらしい観客席だ


闇の世界が僕の帰る場所
もう一度出逢った時の曲を聴かせて
僕は悪魔になる
覚悟はできている…


手錠と共に 僕は旅に出る

手錠をはめて 僕は旅に出る
鎖を体に巻きつけて
鎖は僕が
ここに安住する事を許さなかった

 

鎖は重く
体にのしかかる
吹き付ける雨と風
草が無言の痛みに耐えてる


彼方に光が見えた
虹のアーチをくぐる
白い世界が広がった
僕の旅立ちを祝うかのように

 

 

 

地の果てまで限界を捜しに行くんだ
鎖の中で暴れる心臓
鎖は僕に
痛みと小さな安らぎをくれた

 

手錠が雨にぬれて輝く
何もかも失った僕は
ある日君に逢いたいと願った
崖の上の君に

 

 


手錠をはめて 僕は旅に出る
こんな気持ちになったのは初めてだ
激情が爪痕を残して
胸の中から消えていく

 

孤独を恐れないよ
この叫びを止める事は出来ない
手錠と共に
この崖を登るまで

 

 


手錠と共に 僕は旅に出る
虹のアーチを超えて
新たな旅人に祝福を
草も花も無い
荒れた大地の声を感じる

 

体に走る
無情な痛みだけが僕を認めてくれる
今は旅立ちの時
左側に見える青空に
いつか見た君の姿を描いた

 


初雪~僕がいなくなってから

初雪
凍えるような冬を言葉で照らして
離れ離れになった二人を
優しく包んで

 


僕は君の前から 突然いなくなった
でも僕が死んだわけじゃない
生きているから 二人が望む限り
またどこかで出逢えるよ

 

約束して
どんなときも心はそばにいると
思い出の中の日々のように
もう隣にはいられないけれど

 

 

 

 
初雪
本格的な冬がやってくる
君と語り合ったささやかな思い出
古いコートの中に残ってる

 

あの学校にもまた 冬がやってくる
出逢いと別れは止まることがない
たとえ歩く道は違っても
この初雪が君の目にも届いてるかな

 

 

 

僕がいなくなってから
君が何を思ったかは                 
いいよ 聞かないでおこう
もう過ぎ去ったこと

 

どうか風邪引かないで
この道がもし
離れていく道であっても
約束して
どんなときも心はそばにいると
いつまでも君のために祈るよ

 

 

 

初雪
うっすら地面は白くなる
この季節になったら
あの日誓ったこと
夢の中みたいに思い出してる


ヒーロー

僕は たくさんの命を犠牲にしてきたけど
あなたの命を救った そうでしょう

あなたは たくさんの命を犠牲にしてきた
でも僕を救った そうでしょう

 

誰もが一人じゃ生きていけないから
支えてくれるヒーローを求めるのに
求める人ばかり

 

 


あなたは たくさんの命を犠牲にしてきた
でもあのとき 一匹の虫を救った

僕は たくさんの命を犠牲にしてきたけど
あのとき 知らない誰かを支えた


小さなことでいいんだ つまんないことでいいんだ
なけなしの愛をはたいて 何かつまんないことをしよう
その誰かにとって あなたはヒーロー

 

 


僕は 多くの人にとって穀潰し
でも 誰かにとって最高のヒーロー

あなたは 多くの人にとって役立たず
でも 誰かにとって最高のヒーロー


なけなしの愛をなくさないように
自分と今日を大切にして
生きていればいつか見える その時が

 

あなたは 多くの人にとって 知らないシャイな人
でも誰かにとって
あなたはヒーロー


Cafe 虫の息

 

ここにはさまざまな病気の人がいる
喘息の人、癌の人、線維筋痛症の人

薬でろれつの回らない歌手が歌う
「この世界はクソで絶望的だ」と

会場に拍手がまき起こる

 

みんな思ってる
この痛みから逃れる方法はない…

 


ひとりの若者が立ち上がって言った
「嘘をつくなよ
このカフェにみんなで集まったのは
全員で絶望する為なのか?
少しでもこの悪循環から
抜け出したいからじゃないのか?」

 

誰一人答える者はいない
カフェ中がざわざわする

 

 


手の震えるウェイトレスが コーヒーをはこんでくる
会場の窒息しそうな雰囲気が
少しだけ暖かくなった

 

さっきの若者が咳をして続ける
「俺は統合失調症さ
この年齢から発症すれば 治る可能性などない
それでも生きてる
どんな小さな虫でも 息してるのさ」


どんな小さな虫にも 生きる権利がある
苦しそうな音がきこえるのが 俺達の生きてる証拠…

 


 

絶望
身を刺すほど冷たかったそれが
今は暗く穏やかに見える

 

半身の動かない老人の口に
ウェイトレスがケーキをはこぶ
ここには生きててよかったと思える瞬間がある

 

明日はどうなるかわからない
不安が消えた訳でもない
ただカフェでお互いに話し、ぶつけ合って
少しだけわかりあえた今日を
みんなは永久に忘れないだろう

 

 

このカフェに絶望しに来た者はみな
希望を手にして帰ってゆく

カフェ 虫の息
その名前を誰がつけたのか
今は誰も知らない


 



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