閉じる


急造船

急造船には冷凍室とパイロットを乗せる場所しかなかった。少年は惑星へ帰る船の光が消えると、日常を続けるために家へ戻った。同じ時間に眠り、同じ時間に起きて、同じ言葉を話した。「おはよう、ママ」人にはプログラムし直すだけの時間がなかった。悲しむための心を与える時間も。

真空に棲む生き物

真空に棲む金属の生き物たちは断絶する互いの空隙を埋めるべく冷たく硬い身体を寄せ合い、温もりの代わりに互いの振動を交換した。時の始まりとともに生まれ、放たれ、今も変わらず続くその叫びにも似た振動が、生き別れの兄弟のように己の中で再び出会い、響き合うのを聴くために。

愛の言葉

生命活動の気配を辿り地球に着いた彼らは、交流を開始するべく地上の幾千の言語を読解したが、見つからない誤解なき愛と信頼の言葉を探して未だ軌道上を回り続けており、彼らの通信網から漏れ出した言葉がときおり地上に降り注いだ。ジュテーム、アイラブユー、月が綺麗ですね。

流れる星

三年ぶりに生きた人間を見た。しかもそれは女だった。女は恋人の死体を探して地球の反対側へと旅しているのだと言った。かの戦争以来周回軌道を巡る幾千の残骸、その一つが大気圏に突入する刹那の輝きを掴むのだと。絶え間なく命の流れ続ける空の下、女を留める言葉はないと知った。

防水機能

「一人暮らしなんですって? なのにヒューマノイドの一つも持たないなんて」いつもは苦笑だけ返す彼が、なぜかこの時は私を家に招待してくれた。そこにはシリカゲルに埋もれたロボットがいた。「もう十年になる。……旧型には防水機能がなかったんだ」私にはかける言葉もなかった。

読者登録

遍織さんの更新情報・新作情報をメールで受取りますか?(読者登録について