世界は愛に。
世界は愛に包まれていた。彼はたくさんの人々の想いに背中を押されてその一歩を踏み出した。大いなる地球の重力が彼を優しく引き寄せ、風が慟哭するように強く彼を包み込む。そして彼は勢い良くアスファルトに激突し潰れた。世界は愛に包まれていた。物理法則に介入することなしに。
模様替え
ある富豪が模様替えをするのに業者を呼んだ。高価な壺や絵画を移動するので、美術品を扱う専門業者だったのだが、終了後何故か作業員がみんな黙りこくってしまった。新人だけが無邪気に不思議がる。「おまえ、気づかなかったか? 重かっただろ。壺も甲冑も、全部、中身が入ってた」
カナリア
Aのあだ名はカナリアだった。いい声で鳴くから……ま、それも間違いじゃないけど。みんながやりたくないことを率先してやるから。空気を読むんじゃなくて吸って、一番に死ぬから。いじめじゃない、あのときも自分から飛び降りたんだ。そして、ここは安全だからおいでって言うんだ。
あしあと
朝起きた時には既に新雪は汚されていた。早起きな寮生もいるものだと毎夜積もった雪に律儀に足跡をつける誰かに感心していた。ある日足跡を辿って初めてそれが何処にも続かないと知った。足の下の雪は溶けるはずもないのに黒い地面を覗かせている。目を上げると先は崖になっている。
夜這い
リア充が爆発し絶滅の危機に瀕した人類は這い制度を作った。夜這いするのは女性側なので引きこもりでも問題ない。コンコン。今夜もだ。夜這いで初めて俺はリアルな女性とは映画やアニメと別物と知った。あれは男の願望の産物。白く巨大で美しい「本物」を俺はうっとりしながら招く。

遍織