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 混乱している時に、ついつい変なことを考えてしまうということはないだろうか。私はある。

 私は仕事で一応3DのCGのデザイナーをしている。念のために説明すると、CGというのはコンピュータグラフィックスの略である。まぁそれはおいておいて。

 そんな関係もあってかあらずか、趣味で映像製作なんかもしているのだけれど、その関係の知り合いから、3DのCGについて教えてほしい、と言われた。なんでも、自分の映像製作で、3DのCGを使いたいらしい。けれど、聞いたところ、全くの初心者だそうだ。

 確かに私は仕事でCGをやっているし、以前に趣味でCGの映像作品を作ったこともある。しかし教えるというのは初めてだ。仕事でさえ、なんだか未だに下っ端な感じで、教えるというよりも教えられることの方が多い(謙遜しているだけだと思いたい…)。

 さらに、知り合いであるとはいえ、そんなに話したこともない。会ったのも1度か2度ほどだけである。その上私は、極度に人付き合いが苦手なのだ。それで、頼まれるたびにまぁ時間があればね、だとか、そのうちね、だとかごまかしていたのだけれど、ついにごまかしきれなくなった。その人は関東の人なのだけれど、わざわざ関西まで来るというのである。

 もちろん事前の予防策として、教えるのは下手だから、だとか最近あまりCG作っていないからなぁ(ウソだけれど)、だとか伝えてはおいたけれど、その日が近づくにつれ、不安は募る。うまく教えられるだろうか。もし相手が何の糧も得ないまま帰ってしまうことになったらどうしようか。

 しかし、ぐだぐだと考えていても仕方がないから、とりあえず、何とか教える流れなどを考え始めた。3DのCG製作というのは、アナログ的に言えば、パソコンの中で粘土をこねたり彫刻を削ったりする作業に似ている。だから、操作に慣れることも大事だけれど、空間把握能力が結構大事な気がする。

 そんなふうに考えながら、ふと、囲碁だったら喜んで教えるのになぁ、と思った。実は私は、年よりくさいなぁと周りに言われながらも、囲碁を趣味にしているのである。

 そして、その時、ふ、と閃いたのである。囲碁だって空間把握能力は大切ではないか。実際、デザイン関係など右脳を使う仕事をしている人は囲碁が強くなりやすいらしい。そして思ったのだ。

 -ああ、いっそのこと、3DCGを覚えるにはこれを覚える必要があるのでございますよ、これで空間全体を見つめる訓練が必要なのですよと碁盤を取り出して囲碁を教えてしまおうか-

 もちろんすぐにそんな思考は消し去ったけれど。 


 そして当日。家にやってきた相手に早速教え始めたのだけれど、10分ほども経たないうちに相手のまぶたが閉じそうになり、直前に食べたお昼ご飯のせいで眠たくなってきたなぁなどと言うものだから、とりあえず10分ほどの仮眠を与え、その後、まぁなんだかぐだぐだしたけれど、とりあえず一通りのことは伝え、無事にその日を終えたのだった。
 
 その後。彼がCGを始めたという話は、未だに聞いていない。

この本の内容は以上です。


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