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秋月

板の朽ちたベランダのくすんだ赤い屋根に座っていた

その日は息も白い秋の終わりで
ただなお白く輝く月を見つめていた
古い毛布にくるまって

月明かりが眩しくて
雪のにおいがかすかに近づいていたあの日

私はただその月の姿に夢中で
全てはあの空気のように濁りなかった

あの日はもう遠い昔

哀しみも寂しさも本当には知らなかった

ただ密かに感じていただけ
自分の生きていることの不確かさ
この手の感触のぎこちなさ

あの秋の月
美しかったあの日の月
ただ今は恋しくてたまらないよ
あの頃に戻ることはないけれど
もう一度見れるのかな

もう一度見たいよ


2006.7.29.

gone.



空は晴れていて 静かに風なんか吹いていて

「小春日和」

私はここにいるのに ここにいない
 

風がさらう

自分で作った小さなジンクスに逆らって 長く伸ばした髪

他人には見えて 自分には見えない何処かへ

 
私は現実に居て

声を出せば誰かに聞こえる 答えが来る

 
でも私は何も見えない

私は答えない

私には声が聞こえない

 
来ないはずの未来が見えた日

 
来ない未来を葬った日
 

来ない未来と一緒に私は行ってしまった

 
2002.10.25.

花霞



在りし日の形を追い続け 口を閉ざして

触れないように 触れないように

 
壁紙の色褪せる様は年月を刻む

変わらないように振舞う人々の前で


本当は何もかもが変わって

何もかもが別のものになったのに

私たちだけが何もなかったように

横を向いて 砕けている

砕けているのに…

 
2002.4.14.


雪解け

あちこちから聞こえる春の音

ひたひたと地に染み込む雪解けの

色を落とし雪の下で地に張り付いて待っていた

強い緑が身体を持ち上げる静かな呼吸の

厳しさを穏やかに生きるもの

まだ残されているもの


2007.3.23.

土葬

土に埋まった時のこと想えるんだ

苦しみとかじゃなくて

周りにある息づくもの

そのものたちと呼吸を合わせる感覚を

虫怖いけどミミズがお腹を這うのも愛でることができる気がする


2007.4.29.


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