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企画 project 俺ビジョン

ストーリー1

 ヒロムは誰かに付けられている気配をずっと感じていた。自分がアメリカマンだと悟った夜から神経は研ぎ澄まされていた。生まれてから24歳になった現在まで自分が何者かに監視され続けていたと感じたのもその夜からだった。

 ヒロムは営業の外回りで横浜の西口を東急ハンズの方へと歩いていた。そのとき、アメリカマンとしてのもう一人の自分が話しかけてきたのだ、あなたは殺し屋に狙われている・・・。

 ヒロムは回りに神経を集中させながら普段と変らぬ素振りで人ごみの中を歩き続けた。自分が相手の存在に気づいているとは知られたくなかったのだ。アメリカマンである自分の正体を相手にさらす必要はない。そう、相手はヒロムがアメリカマンである証拠を探しているだけなのかも知れないのだから。

 しかし、なぜ殺し屋はヒロムを付けているのだろうか。ヒロムはまだアメリカマンに変身したことはない。ずっと監視されているのだから、変身する隙がなかなか見つからなかったのだ。変身してアフガンでの紛争を解決したいと考えているのに・・・。変身していないのに正体がばれたのはおかしい。先日受けたTOEICが原因だろうか、きっとそうに違いない。おそらく心理学的な技術を用いて国家レベルの組織が自分の心を読み取ったのだ。

 その時、ヒロムの耳には銃のゲキテツを引く音が聞こえた気がした。危ない・・・、もう一人の自分が叫んだ。ヒロムはその音に気づくとすぐに側のハンバーガーショップに突っ込んだ。店内のテーブルに突っ込み、テーブルは倒れ上にあったものはあたりに散らばる。子供がテーブルの下敷きになり泣き声をあげ助けを求める。母親らしき女性はパニックになり叫び声をあげ動けずにいる。中の客達はあわてて逃げだし、あたりにはハンバーグやポテトが散らばり踏み潰されてぐちゃぐちゃになっている。道を歩く人間達も何事かと集り好機の目を向ける。「やめるんだ!一般人を巻き込む気か!」ヒロムは興奮し叫び、回りの人間を見渡す。

 銃は撃たれなかったようだ、銃声は聞こえなかった。店内に入ったおかげで照準が合わせられなくなったのだろう。この騒ぎでは殺し屋もひと時諦めざるをえないだろう。危なかった、世界の警察、いや世界のヒーローとして存在する自分がこんなところでむざむざと殺されるわけにはいかないのだ。

 あたりの惨劇を見てヒロムは激怒した、自分ひとりを殺すためにここまでやるとは許せない。しかし殺し屋はもう遠くに逃げているだろう。今はここを離れるのが先決だ。ヒロムは騒ぎを後に営業先へと向かった。 <続く>

ストーリー2

 ヒロムは妖精に付け回されていた。これといって被害を被っているわけではないのだが、うるさくてかなわなかった。緑の洋服を来ていて女の子の姿をしている。手の平にひらりと乗れるだろう大きさで、背中の開いた洋服の間からは綺麗な羽が生えていた。

 ピーターパン・・・、その妖精はヒロムのことをそう呼んだ。「ピーターパン、フック船長が復讐に来ているの」そういってヒロムの回りを飛び回っていた。ヒロムは妖精が始めて現れた夜、妖精の声が聞こえないふりをしていた。触らぬ神に崇りなし、そう思ったのだ。

 このように声が聞こえぬふりをしながら妖精との生活の初日をすごしていた。分かったことは、一般の人達には妖精の声は聞こえないらしいということだった。妖精がいくらわめこうが、周囲の人間が振り向くことはなかった。子供の心を持ったヒーローである自分にしか妖精の声も姿も感じ取ることは出来ないのだろう。

 外回りの途中に昼食として食堂で食事をしていた時、妖精がいつもと違うことを話しかけてきた。「ピーターパン、あなたスパスパ人間学の録画をし忘れているわよ」「そういえばそうだな、サンキュー・・・」しまった、話しかけてしまった。ばれた、自分が妖精の潜在に気が付いていることがばれてしまった。

 もうお終いだヒロムは思った。身も心も妖精に魅せられ、一生廃人の様にこの妖精の下僕として生涯を過ごすのだろう。

 妖精の気に入った可愛げも愛想もない女性と結婚をしやがて自分には似ても似つかない子供が産まれ、それでも家族に人生を注ぐ気になるが子供はなつかず妻には浮気をされ、めげずに働いて働いて家族のためにと金を稼ぐが三十歳を過ぎたある日突然部長に肩をたたかれ「きみ明日から来なくていいよ」などと言われ、金を稼げなくなった自分は家族に捨てられ仕方がなくローンで買った家を売るが新しい仕事が決まらず月々の返済も返せなくなり、あえなく消費者金融に手を出し雪ダルマ式膨らむ金利は返せず借金取りに追われ北へ北へと逃げていくことになり、逃げて逃げてロシアにまでたどり着くがスパイ容疑で捕まり、監獄の中に入れられ日の光を見れない生活が続き、全ての人間に忌み嫌われ蔑まれつつ病魔に冒され監獄の中でそんな儚い人生に終止符を打つのだ・・・。

 ああ、自分の人生は終わった。

 ヒロムが悲しみに涙を流していると、「お客さんどうかしましたか」と食堂の親父が話しかけてきた。

「どうもこうもあるか!俺の悲しみがお前にわかるというのか!ばかたれ!」ヒロムは激怒した。食堂のテーブルをひっくり返し、壁に張られているメニューを全て引き剥がし、皿という皿を妖精に投げつけた。皿は妖精を突き抜け壁にぶつかり粉々に砕け散った。ヒロムは恐怖にかられ店の親父を突き飛ばし代金を投げつけると走って自宅にと向かった。

 今日は仕事どころではない。それどころではないのだ。

 ヒロムが自宅の布団で震えて涙していると妖精はなだめるように優しく話しかけてきた、「私はあなたを救いたいだけよ」「フック船長は恐ろしい男よ」「ピーターパン、あなたを守りたいのよ」妖精は優しい声をしていた。

 そうか、自分は早とちりをしていたのだ、ごめんね妖精さん。自分はどうかしていたのだ。こんな親切な妖精を悪く思っていたなんて・・・。ヒロムはすっかり元気になるとビールを飲み床に着いた。<続く>

ストーリー3

 ヒロムは、ピーターパンとしての記憶を思い出しつつあった。妖精はネバーランドへと戻ることをせかしたが、今のヒロムは飛ぶことが出来なかった。「僕はもう飛び方を忘れてしまったんだ」ヒロムは悲しげにそう答えるしかなかった。

 そう、ヒロムが兄の部屋に忍び込みのぞき見た世界。ヒロムは余念のない男、大人の世界を映したその本が兄の部屋に存在することを知っていた。淫靡であり卑猥な書の世界を一枚繰ったあの時。あの時から僕は飛び方を忘れ始めたのだろう。

 ヒロムは涙を流しながら妖精に詫びた「すまない、すまなかった。罪深きこの僕を許しておくれ」「ばかばかばか!俺のばか!」ヒロムは部屋の畳を叩き泣き続けた。

 元気を出して・・・それよりウェンディーはどうしてるのかしら・・・、妖精は泣き続けるヒロムに問いかける。ウェンディー・・・その名前を聞いたときヒロムの目の前は真っ暗になり、ひとつのビジョンが映し出された。壁の中に誰かが塗りこまれている映像・・・生乾きのコンクリートからは女性のものと思われる白い指が突き出ている・・・その指を消し去るようにさらにコンクリートが塗りつけられていく。

 ヒロムは我に返ると自分の部屋の壁を見た、そこには明らかに不自然に盛り上がった場所があった。ここにウェンディーが入っているというのだろうか、そんなことはありえない話だ。しかし、今の映像はアメリカマンである自分に届いた神憑り的体験かもしれない。

 ヒロムは部屋の壁を小型のシャベルを使って掘り起こし始めた。がりっ・・・がりっ・・・少しずつ壁が掘り起こされていく。がりりっ、何か今までと違う手応えを感じヒロムは手を止めた。壁に開いた穴から映像で見たような白い指のようなものが見えていた。その後は夢中で最後まで手を止めることもなくその全てを掘り起こした。

 それは外国人の女性を形どったマネキンだった。「ウェンディー!!」ヒロムはウェンディーに抱きつくと涙を流した。マネキンであるウェンディーはひび割れていた。ウェンディーの変わり果てた姿にヒロムは取り乱さずにはいられなかった。誰がこんなひどいこと・・・ひどすぎる・・・人間はマネキンにこんなにも恐ろしいことが出来るのだろうか。ヒロムは悲しみと怒りの感情にしつぶされそうになっていた。

 フック船長の仕業よ・・・妖精はそう呟いた。フック船長はあなたのすぐ側にまで来ているはずよ・・・。ヒロムは正直怖かった。フック船長は恐ろしい男よ・・・妖精が何度も呟いた言葉を思い出す。

 しかし、ヒロムはアメリカマンである以上背を向けるわけにはいかなかった。戦いを決心したヒロムの顔は正義のヒーローの顔へと戻っていた。<続く>

ストーリー4

 ヒロムはついにフック船長の隠れ家を発見した。先日、営業回りの途中でヒロムと肩がぶつかり、嫌そうな顔を向けた男がいた。その男がフック船長だったのだ。顔を見合わせた瞬間ヒロムの記憶の断片とも言うべき感性がそう告げた、彼こそフック船長だと。

 フック船長はちいさなマンションの一室に隠れ家を持っていた。昼間は背広を着込みサラリーマンを装い会社に通い、その恐ろしい正体を隠しているらしかった。・・・彼がフック船長に違いないわ・・・ヒロムを着け回していた妖精さんもそう告げていた。

 フック船長は若い女と小学生であろう少年少女を、人質として隠れ家に住まわせているらしかった。人質達は部屋の出入りを自由に許されているらしいが、不思議な事に必ずその一室へと戻って来た。・・・きっと薬付けにでもされているのよ・・・薬欲しさに戻ってくるのよ・・・、妖精さんはそうヒロムにナイスアドバイスをした。

 ヒロムはそんな不道徳な行ないに対してアメリカマンとしての正義の心が何か感極まり、その悪巣へ突入することを突然に決心した。今日行くしかない・・・そうするべきだ。

 ヒロムはそう決心した夜、フック船長の隠れ家を急襲した。
「あけろやボケー!」ヒロムはそのドアを何度も蹴り付け。チャイムを連打した。

 チェーンの掛かったドアがカヂャっと開きフック船長が顔を出した。
「な、なんなんですか、あなた。警察を呼びますよ」

 ヒロムはカチンときた。
「警察呼びますよだー!お決まりの台詞をはきやがっって!おれの魂取れるもんなら取ってみー!家に女と子供がいるだろ!どうなるか分かってんだろうな!人質のつもりか!アメリカはテロには屈っしねーらしいぜー!どうなんだ、お前はテロには屈するのか!どうなんだ!大切な人がテロリストに捕まったときお前はどうする?アメリカは屈しないがお前はどうする!銃を向けられたらお前はどうする!相手はお前が資本主義の犬だと言ってきて気にいらねーと言ってきて死ぬかわりにお前を殺すと言ってきてんだ!どーすんだ!子供がオンラインゲームで敵にやられそうになっていたらお前はどうする!回線つないで助けに行くのか!お前の大切な人のホームページで掲示板がアラシにあってたらおまえはどうする!屈するのか!回線つないでやり返すのか!報復は報復を生むんだよ!ボケ!救ってみろお前の大きな愛で全てを救済してみろ!」

 ヒロムは涙を流しながら怒った。家の中からは子供の泣き声と、子供をなだめる女の声がする。
 女、子供を泣かせる奴は許せない。ヒロムはアメリカマンとしての力を解放し始めた。変身していないため力は五万分の一程度しか出ないだろうが、この男相手になら問題は無いだろう。

 ヒロムは手の平をフック船長に向けた。
「んーー!ん!ん!ふーーーん!!はーーーん!!!」
 ヒロムは奇声をあげて力を解放した。手のひらから波動が発せられた。
 フック船長は音もなく崩れ落ちた。
「たのむから、もう勘弁してくれ。もう帰ってくれ」
 ヒロムはもう大丈夫だろうと思った。これでフック船長も悪さをしないだろう。一件落着だ、そう納得した。

「今日のことは誰にも言うなよ。言えば奥の女や子供達の命が困った事になるぞ」
 そう、人質がアメリカマンである自分がした善行に関わったが為に、悪漢に命を狙われるなどといったことは避けたかった。粋な計らいだ、ヒロムはそう思いつつ素早くその場所を離れていった。

 ヒロムは最寄の駅に向かいなが河原沿いの道を歩いていた。
「ティンカーベル、君とももうお別れだね」
 ヒロムはそうつぶやいた。妖精は嬉しいような悲しいような複雑な表情を見せた。

 ・・・ピーターパン・・・やっと思い出してくれたのね・・・・・・けど・・・もうお別れのようね・・・・・・・ピーターパン・・・・・・さようなら・・・・・・・愛してるわ・・・・・・・・・さようなら・・・・・・。

 ティンカーベルは柔らかな光に包まれ、その光が弱まっていくとその姿も淡くなり消えていった。その弱々しい光が消えたとき、そこに姿はなかった。

「僕も愛しているよ。さようなら・・・。」

 数日後、ヒロムは公園のベンチで日向ぼっこをしていた。「暖かいなー」気持ちは晴れ晴れしていた。

 フック船長の隠れ家には誰も住んでおらず既に売りに出されていた。きっとネバーランドへと帰って行ったのだろう。そう、やっと平和が訪れたのだ。

 ヒロムの耳には今でも時折あの可愛らしい妖精さんの声が聞こえてくる。
 ・・・ピーターパン・・・あなたの命は狙われているの・・・私が守ってあげるわ・・・


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