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3月11日のおはなし「某」

○男の回想

子ども(女1)「かあさん、この木はなんて木?」
母(男1)「樫だよ、なにガシ」
子ども「ナニガシ?」
母「そう、ナニガシ」
子ども「ナニガシっていうの?」
母「うるさいね。そう言ってるだろう」
子ども「じゃあ樅の木じゃないの?」
母「モミノキ? モミノキじゃないねえ」
子ども「じゃあクリスマスツリーにはできないの?」
母「クリスマスツリー? どうしてまたクリスマスツリーになんかするのさ」
子ども「クリスマスの飾り付けをしたいから」
母「どうしてまたクリスマスの飾り付けなんかしたいのさ」
子ども「クリスマスだからだよ」
母「じゃあ何かい? クリスマスだったらみんな飾り付けしなくちゃならないのかい?」
子ども「みんなしてるじゃないか」
母「みんながしてたらあんたは人だって殺すのかい?」
子ども「殺さないよ。それにみんなは人を殺してなんかいないよ」
母「おだまり!」
子ども「……」
母「……」
子ども「……」
母「おしゃべり!」
子ども「え?」
母「だまってないでしゃべりなさい場が持たないから!」
子ども「そんなあ」
母「うちはね」
子ども「え?」
母「うちはダメなんだよ」
子ども「ええ?」
母「うちはクリスマスはやらないからダメだよ」
子ども「どうして? どうしてやらないの?」
母「うちはイスラム教だからね」
子ども「ええ?」

○現在

男1「それがきっかけ」
女1「それがきっかけ?」
男1「そう。そんな風にしておれはムスリムになったんだ」
女1「なーんだ」
男1「なーんだって何だ」
女1「面白くない」
男1「面白くないって何だ」
女1「だってそれ、冗談でしょ?」
男1「ちっちっち。おまえはおれのおふくろを知らないからそんなことが言えるんだ」
女1「なに、 どういうこと」
男1「本当に改宗したんだ」
女1「本当に改宗した?」
男1「次の日の朝、おふくろは近所のモスクに行って改宗の手続きをしてきた」
女1「そんな。区役所の窓口じゃないんだから」
男1「甘いな」
女1「甘い?」
男1「イスラムに改宗するのは簡単なんだ」
女1「うわー嘘っぽい」
男1「マジだって。本当はモスクに行く必要さえない。二人以上のムスリムの前で信仰告白をすればいい」
女1「信仰告白?」
男1「アシュハド・アン・ラー・イラーハ・イラーッラー、アシュハド・アンナ・ムハンマダン・ラスールッラー」
女1「ええと、イチ、イチ、なんだっけ」
男1「何してんの」
女1「救急車、呼ぼうと思って」
男1「これが信仰告白だよ、
イスラム教の。『アッラーのほかに神はない。ムハンマドはアッラーの使徒である』ってね」
女1「でも先輩が入信したわけじゃないんでしょ?」
男1「親がムスリムなら子どもは自動的にムスリムなの」
女1「いやならやめればいいのに」
男1「別にいやじゃなかったからな」
女1「それ、ほんとなんですか?」
男1「本当だ」
女1「適当に言ってませんか、その、ラーラーとか言うの」
男1「え? 信仰告白を疑ってんの?」
女1「っていうか、全部」
男1「いいんだけどさ。ま、それが、ほら、飲めない理由」
女1「なんかすっきりしないなあ」
男1「おい。人の宗教つかまえてすっきりしないって」
女1「普通に『クルマ乗ってきた』とか言われた方がわかりやすいんですけど」
男1「クルマ乗ってねーし、マジ、ムスリムだし」
女1「ふーん」
男1「あっれー! 信仰の話をして、こんなテキトーな反応がかえってくるのは日本くらいだぞ」
女1「うん。でも、まあ」
男1「まあいいや。じゃあおまえは?」
女1「え? 何が?」
男1「おまえのクリスマスの思い出」
女1「いいですよ私は」
男1「よかないよ。おまえが言い出したんだろ? 子どものころのクリスマスの思い出話しませんかって」
女1「言ったけど」
男1「言ったけど、何だよ」
女1「思ってたのと、違うし」
男1「じゃ、どういうの思ってたんだよ」
女1「えー。そうだなあ」

○女の回想

兄(男1)「バカだなあミホは」
妹(女1)「いるもん」
兄(男1)「いるわけねーじゃん」
妹(女1)「だっているもん」
兄(男1)「俺、去年見たもん」
妹(女1)「何を?」
兄(男1)「おかあさんが夜中にこっそり」
妹(女1)「見てないくせに」
兄(男1)「見たんだって」
妹(女1)「ミホは見てないもん」
兄(男1)「だから俺が見たんだって」
妹(女1)「ミホはお兄ちゃんが寝てたの見たもん」
兄(男1)「そりゃ寝てるときもあったけど」
妹(女1)「ずっと見てたもん!」
兄(男1)「寝ないで見てたのかよ」
妹(女1)「ミホは寝ないで見てたもん!」
兄(男1)「じゃ、サンタも来なかったろ」
妹(女1)「……」 
兄(男1)「おかあさん、来たろ」 
妹(女1)「お兄ちゃんのバカ!」
兄(男1)「おい泣くなよ」
妹(女1)「泣いてないもん!」
兄(男1)「泣くなって」
妹(女1)「サンタさんいるもん!」

   妹、泣き続ける。兄、困ってその様子を見ている。

兄(男1)「あー」
妹(女1)「なに?」
兄(男1)「あれかもしれない」
妹(女1)「あれって?」
兄(男1)「妖精だったかも」
妹(女1)「ようせい?」
兄(男1)「おれが見たの、妖精だったかも」
妹(女1)「どういうこと?」
兄(男1)「おかあさんじゃなくて、妖精だったかも」
妹(女1)「なんで妖精が来るの?」
兄(男1)「あれだよ、サンタさんの手下」
妹(女1)「サンタさんに手下がいるの?」
兄(男1)「だってほら、ひとりで世界中の子どもたちに配るの、大変だろ?」
妹(女1)「ふーん」

○現在

男1「どうした」
女1「ん?」
男1「おまえの思い出話は?」
女1「やっぱやめた」
男1「なんで」
女1「なんかフツーなんだもん」

(「妖精」ordered by Buy on dip かりん。-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)

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著者 : hirotakashina
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