ストーリー1
サラリーマン。
そんな生き方が当たり前になった時代。これはいつからなのだろか。
人類が誕生してからの歴史。それに比べれば対した時間ではないはずだ。
人は恋をする。そして、それを運命だと思いこむ。
人は労働をする。またそれは宿命なのだと思いこむ。
そこには、ときめきや喜び、悲しみや苦しみ。様々なものが詰まっている。
ヒロムは激昂していた。激しい怒りにその身は震えていた。
実は怯えていた。怯えてその身は縮こまり震えていた。
リストラクチャリングの恐怖がヒロムの身に近づいていた。
会社が不況の煽りを受け、早期退職者の募集という名の民族統制を始めたのだ。
自分に寄り添う人間。自分に有益な人間。自分を越さず甘味を分け合えられる人間。
そんな人間同士が集まる、夢のパラダイス銀河な計画が進んでいたのだ。
次々と部署長による面談が進められていた。
ヒロムは胸のどきどきが止まらず、ふーふーと息が荒くなっていた。
「ヒロム君、来たまえ」部署長の向日水がヒロムを呼ぶ。
「今回の早期退職の件、君はどうするんだね?」
ヒロムは緊張のあまり、身体の振るえが止まらず、頬は痙攣し、足は揺れが止まらず、脇からは大量の汗が噴出す。そして、最後には唐突に失禁してしまった。
「部署長の大馬鹿たれ!!」
ヒロムは勢い余って、向日水部長に往復ビンタをかまし、部屋から逃げ去ると見せかけてフェイントをかけ、ローリングエルボーをかましてしまった。
美しい気流を描いたエルボーだった。向日水はぐったりと舌をだし気を失った。
ヒロムは泣いた。酷い。リストラクチャリングは、一生懸命やってきた向日水部長を部下からエルボーをかまされるほどに追い詰めるものなのだろうか。
リストラクチャリングは、こんなにも人の命や人生に大きく影響するものなのだ。
部下が上司に暴力をふるってしまう恐ろしい儀式。リストラクチャネリング。
恐ろしい。恐ろしすぎる。
ヒロムはあまりの恐ろしさに走り出した。オフィスを飛び出し、守衛に挨拶をし、会社の敷地を飛び出し、そして、近所の多摩川に沿って走り出す。走って走って走り抜いた。
川沿いを歩く老人に、頑張れよー、と声をかけられた。
河辺で遊ぶ子供たちに「おじちゃーん」と応援された。
「おにーさんといいなさい」と優しく応対しつつ走り続けた。
ミニスカートの女子高生とすれ違い、振り返りつつも走り続けた。
いい汗をかいた。
多摩川は夕日に照らされ燈色に輝く。美しかった。心洗われ少し涙が出た。
ヒロムは叫ぶ。怪我をした向日水部長がんばれ!負けるな!
リーマンショック許すまじ!ヒロムは走りながら叫んだ。
馬鹿!馬鹿!馬鹿!俺の馬鹿!馬鹿たれ!
そんなこんなして走っているうちに、ヒロムはなんとなく気持ちが軽くなり、失禁で湿ったパンツも乾き、もうそれが尿なのか汗なのかすらわからなくなっていた。
ヒロムは、ふと、今日は帰ろう、そうつぶやくと、ヒマワリのような輝いた笑顔で、定時前に帰宅していった。
ストーリー2
多くの人間が組織に属し仕事をする時代。
時代が下り坂になれば組織では他人を蹴落として自分が生き残ろうと考える人間があふれる。
志のある人間、気持ちの優しい人間達が犠牲になっていく。
他者を犠牲にすることにたけた人間達が群れを作り富を貪る。
誰が幸せになるというのだろうか。
リストラクチャリングの恐怖は未だヒロムにまとわりついていた。
ワーキングホリデーに行こう。ヒロムは半ば諦めつつ考えていた。
ワーキングホリデー、響きが素敵じゃないか。
ヒロムは、それがなにかは知らないが、ワーキングホリデーという言葉を気に入っていた。
友人は、オーストラリアにワーキングホリデーに行ったと語っていた。
なんだか素敵な響きだ。
ヒロムは股間を硬くさせつつ想像を膨らましていた。30歳までOK、ワーキングホリデー。20代以下に優しい感じがたまらなく魅力的じゃないか。ヒロムは股間をさらに熱く硬くさせ想像にふけっていた。ワーキングホリデーいったい何事だろうか・・・。
そして、時は唐突に訪れる。「わたし、ワーキングホリデーに行こうと思うの・・・」
憧れの美人先輩社員、エマニエル山田子が同僚と語っているのをヒロムは聞いてしまったのだ。巨乳でミニスカでオサセで、たまに掛けているメガネが逆にいやらしい感じのエロスな山田子先輩がワーキングホリデーに行くだって!!なんてエロ馬鹿げた話だ!!エロすぎる!!エロで出来ているのかのこの腐った世の中は!!
ヒロムは衝撃のあまり激しく失禁してしまった。激しく、そして、慎ましく。だが、股間だけは猛々しくもイキり勃つ。
ヒロムはネットサーフィンをしていたノートパソコンを素早くたたみ、すぐさまトイレに駆け込むと、硬く大きくなった己の股間を前にし、それでもなおワーキングホリデーのことを考えるのを止められない自分を酷く呪った。
馬鹿馬鹿馬鹿、俺の馬鹿。大馬鹿たれ!
そしてワーキングホリデーに行くエマニエル山田子先輩のエロスめがめ馬鹿。
ワーキングホリデー、何事なんだ!!なにごとなのだ!!神は何故にワーキングホリデーを作られたのだ!!しかし、翌々考えてみると、ワーキングなんだかホリデーなんだかわからないじゃないか!!そうだ!!ひどくエロいに違いない!!そうエロいに違いないことだけはわかっているのだ!!エロい!!エロいんだろ!!キング!!デーホリ!!
ヒロムは涙で服の裾を濡らし、失禁でズボンを濡らし、気持ちもだんだん沈んでくると、頑張り過ぎは体に毒だぞヒロム、とつぶやくと、上司から言われた仕事も終わらぬままに、今日は帰ろう、とつぶやきつつ定時前に一番星のような笑顔で帰宅していった。
ストーリー3
ヒロムは逃げていた。
「・・・上司が・・・上司が来る・・・」
労働工場へ向かう搬送バスの窓から飛び降りてからヒロムはずっと走り続けていた。
ヒロムは高速宇宙船時空転移システムのソフトウェア開発を進める国家機関で働いていた。主な作業はシステム計算機が倒れないように手で支える部門の担当を任されていた。国家の技術が結集したシステムを手で支える部門を一人で任され、その重圧に押しつぶされそうな日々をおくっていた。
「・・・俺が手で支えなければこのシステムは横倒しになってしまう・・・」
そんなプレッシャーのなか気が狂いそうな毎日をおくっていた。
ヒロムは突如正義の心がメラメラと沸き立つ性格で、世界の平和のために自分は活動しなければならないと常思っていた。俺はこの星を救わなければならない。属性が悪であるもの全てとヒロムの安眠と怠惰な生活を妨げるもの全てをこの世界から消し去らなければならない、そう強く思っていた。人間はもっと自由に生きられるはずなのだ。
そんな思いが最大限に高まりヒロムは今回の脱走を決意した。捕まれば全裸にされ鞭を打ち込まれた後、本社ビルの入り口にロープで吊るされ公開拷問を受ける事になるだろう。
退職者は額に焼きごてを入れられ、生殖器はパイプカットされ、さらには側頭部には逃亡経験者を認識するICチップを埋め込まれる為もう社会復帰は叶わないかもしれない。そう、会社から内定をもらったときヒロムは何の気なしに契約書に判を押してしまったのだ。バカバカバカ俺のバカ、何度後悔したことだろうか。
世の中は金の発生する場所に支配され、大企業や政治家の思うままになっていた。かつて日本と呼ばれていたこの島国は、アメリカへの合併吸収を自ら望んだ結果、合衆国の一つの州となり存在していた。その当時、多くの日本国民がシベリアへの移住を強制され北の地へと移送されたと言われている。
そして、現在ではピラミッド型の階級制度が引かれ厳しい管理体制が引かれていた。電車は八両あれば、一両が下級国民の車両となりぎゅうぎゅう詰めのなか日に数人は死亡者が出ていた。残り五両は労働者階級の車両となり常に込み合い、残りの二両は高階級者用ながら高階級者は電車にはほぼ乗らないため空き車両同然となっていた。そして、丸井のセールでは労働階級にはランニングシャツとキムチしか売らない、そんな世の中になっていた。
ヒロムは、疲れ果て一軒の定食屋の前に立ち止まった。
搬送バスでハッピーターンを食べて以来もうずっと何も食べていないのだ。どうやら老婆一人でやっている店らしい。金のないヒロムは無銭飲食をする欲求に駆られた。どうせ焼きごてを入れられ後悔拷問を受ける身だ、そんな思いで店へと入っていった。
鯖の味噌煮定食を注文し食事が来るやいなやガツガツと食べきった。懐かしい味だった。何故か昔好きだった公園を思い出した。・・・昔は暗くなるまでそこでポケモンをやったな・・・一人で・・・。ヒロムが食事を食べ終わると定食屋の老婆が包みをもってきてそれを渡した。
「おにぎりだよ持っていきな。あんた逃亡者だろ、うちのだんなも逃亡者だったんだ。シンガポールの米国耳かきの綿毛工場から逃げ出したんだよ。密航してここにたどり着いた後、あたしと結婚してね。いきなり、はらまされちまったんだよあの人にね。昔は美人だったんだよ、あたしゃ。強引だったけど優しいひとだったよ。もう、おっ死んじまったがね。この定食屋も形見ってわけ。おっと、ちょっとおしゃべりしすぎちゃったね。まー、あんたも捕まらないようにがんばんな。見つけな、あんたの道をさ。」
ヒロムはまた走りだした、おにぎりを抱えて。
・・・ありがとう老婆・・・もう少しで歯が折れるほどに殴り倒してしまうところだった・・・ありがとう・・・俺頑張るよ・・・・。ヒロムの逃亡生活はまだ始まったばかりだ。
ストーリー4
「ついに、サンプルが完成したぞ!」
ヒロムは、半年前より商品企画室の特命プロジェクトに参加していた。
それはエディケーションをテーマにした新ブランドの立ち上げという、 なんともふんわりとした曖昧な特命内容だった。
ヒロムは、鰹節の小型軽量化と、耐水、防風加工に成功し、 「ナイトラン!かつおぶし持っていこ!」という新しい概念を生み出し、 ターザンやアエラでも特集が組まれる大ヒットを生み出していた。 スポーツ時の新しいアミノ酸源として注目を浴びたのだ。
その実績がかわれ、商品企画室長 兼 特命プロジェクトリーダーの カイワレ大根一男に一本釣りされるかたちで、第5鰹研究開発室から 異動となったのだった。
今回、ヒロムたちが打ち立てたテーマは、 大人だってエディケーションしたい、大人で子供な筆記用具シリーズ。 その第一弾として、ヒロムは「コンドームの香りがする練り消しゴム」 の開発に着手したのだった。
一番揉めたのは、コンドーム特有のゼリー状物質を、練り消しゴムへ、 付着させるかどうかだった。 一男とヒロムは、3日3晩議論をつくしたが、その結論は出なかった。 難しい問題たった。ヒロムは悩み不眠症となり、一男は血尿を出した。
今回は、「コンドームの香りがする練り消しゴム」の ゼリー付きバージョンと、ゼリーなしバージョンのサンプルが完成したのだった。
「室長!これから一般ユーザーに使用感のヒアリングに出かけてきます!」
「あー、行ってきたまえ!ヒロム君!行ってくると良い!行ってきたまえ!」
ヒロムは、一男に向けウィンクをし、親指を突き出すと、最高の笑顔で、 「行ってきます!ボス!」と告げ、サンプルを握りしめオフィスを飛び出した! 「さー、老若男女、コンドームの香りがする練り消しゴムの使用感はどうだ!」
ヒロムは、半年前より商品企画室の特命プロジェクトに参加していた。
それはエディケーションをテーマにした新ブランドの立ち上げという、 なんともふんわりとした曖昧な特命内容だった。
ヒロムは、鰹節の小型軽量化と、耐水、防風加工に成功し、 「ナイトラン!かつおぶし持っていこ!」という新しい概念を生み出し、 ターザンやアエラでも特集が組まれる大ヒットを生み出していた。 スポーツ時の新しいアミノ酸源として注目を浴びたのだ。
その実績がかわれ、商品企画室長 兼 特命プロジェクトリーダーの カイワレ大根一男に一本釣りされるかたちで、第5鰹研究開発室から 異動となったのだった。
今回、ヒロムたちが打ち立てたテーマは、 大人だってエディケーションしたい、大人で子供な筆記用具シリーズ。 その第一弾として、ヒロムは「コンドームの香りがする練り消しゴム」 の開発に着手したのだった。
一番揉めたのは、コンドーム特有のゼリー状物質を、練り消しゴムへ、 付着させるかどうかだった。 一男とヒロムは、3日3晩議論をつくしたが、その結論は出なかった。 難しい問題たった。ヒロムは悩み不眠症となり、一男は血尿を出した。
今回は、「コンドームの香りがする練り消しゴム」の ゼリー付きバージョンと、ゼリーなしバージョンのサンプルが完成したのだった。
「室長!これから一般ユーザーに使用感のヒアリングに出かけてきます!」
「あー、行ってきたまえ!ヒロム君!行ってくると良い!行ってきたまえ!」
ヒロムは、一男に向けウィンクをし、親指を突き出すと、最高の笑顔で、 「行ってきます!ボス!」と告げ、サンプルを握りしめオフィスを飛び出した! 「さー、老若男女、コンドームの香りがする練り消しゴムの使用感はどうだ!」
ヒロムはマーケティングの場として、東京都の人気登山ルート、高尾山から陣馬山への縦走コースを選択した。理由としては、冬も終わりに近づき、久々にこのルートをゆっくりと歩きたいという気持ちが高まったからだ。そう、所詮、人間の選択など無意識からの欲求に導かれるオートマチックなる夢の残り香のようなもの。
お気に入りの登山パンツと、フリースを着込むと、リュックには2リットルの水と、行動食としてメロンパンとスニッカーズをもってウキウキと出発するヒロム。しかし、会社を飛び出したものの、昼時も過ぎ、その日に登山を始めるには、もう遅い時間であった。
ヒロムはぐぬぬと唇を噛み締めると、そのまま直帰し、次の日は早朝から高尾山に向かおうと決めるが、なんとなく面倒臭くなり、一先ず目覚ましはセットしないがままにも、その日は早々に床につくのであった。