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手紙のはじまり

 もうここに来て約2ヶ月が経ってしまった。早くも有り、遅くもありといった感じだ。

気温は最低-38度、最高-13度が、今の記録で、太陽がある日が前者で、雪が降った日が後者である。ここでは晴れ、特に晴天の日はむちゃくちゃ寒い。

そう、ここは北の北の北の北、北緯62度のイエローナイフという街なのだから当然といえば当然である。そして私は、そこで犬ゾリ師になるべく修行中の身である。

いきさつは後で書くとして、まず僕の仕事の事を書こう。



第1章 仕事編




第1章 仕事編





収入源

まず始めに言っておかなければならないのが、犬が約100匹近く居るという事だ。「101匹ワンチャン」ではないが、これはもう大変な数である。こいつらが一斉に吠えると、もう大変。だが、こいつらの世話をするのはもっと大変だ。

ここはフランクという60歳ぐらいのアイルランド出身の気の良い叔父さんと、その妻らしきビビアンとでやっていて、僕はそこのヘルパーをしている。

まず、ここの収入源となる仕事とその内容についてお話しよう。

「犬ゾリ」と言うと、ハスキー犬を思い浮かべていたが、ここの犬達は違う。ハスキー犬は「物を運ぶ為の犬」としてはパワーも体力もあっていいが、「レースをする為の犬」としてはどうやら適していないらしいのだ。ハスキー犬を犬ゾリに使用しているのは、イヌイット達ぐらいで、ここの犬達は雑種だ。

雑種といっても、良い犬になれば数十万円の単位で、売買される。それがここの基本的な収入源になっている。 犬の価値は、どのレースに勝ったかで決まる。従って、レースに勝たねばならない。レースに勝つ為には、当然トレーニングが必要となって来る訳だが…まあ、その辺の件は、<犬ゾリ・レース編>でお伝えしたい。


それより、他の収入源といえば、犬ゾリレースの賞金も結構な収入源としている様だ。

また、その他の収入源としては観光客を“ボーゲン”と呼ばれる、荷物や人を運ぶソリに乗せて収入を得ている。これがどの様なものか少しお話すると、“ボーゲン”は、1回に3人まで乗る事ができ、10頭引きで行われる。スピードとしては時速約15マイルといったところで、 距離は約5マイルだ。(1マイルは約1.6キロ)ここの家の前は湖になっていて、そこにトレイル(道)を作りそこを走る。トレイルは次の湖まで作ってあり、そこまで行って帰って来るコースになっている。

湖と湖をつなぐ道は、“ポータージュ”という林の中の細い道になっていて、結構スリルが楽しめる。しかし、俺達にしてみれば、他に犬ゾリや、スノーモービルにすれ違うと大変な事になるので、とてもいやな場所だ。料金は一人当たり$35だが、毎日客が沢山来るわけではないので、まあ、これはそれほど大きな収入源とはならない。

他にも、スノーモービルのレンタル業の営んでいて、料金は一人$45、犬ゾリとスノーモービルのセットで一人$60と言ったところだ。

以上が主な収入源である。


僕の仕事

僕の仕事はソリのセットと犬達を連れて来ることだ。犬を連れて来るといっても、犬はとても凄まじいパワーを持っているので大変である。犬の首輪を持って立たせるようにして2匹連れて来るのだが、始めの頃は、2匹などとても持てず腕も引きひぎれそうで、テンテコマイしていた。

基本的に仕事はこれをしなければならないと言うものはなく、何も教えてくれない。見て、考え、覚えなくてはならない。だから、始めの内は勝手に、「これだけか」などと思っていた。ところが、仕事を覚えて来るとドンドン仕事量が増えてきて、最終的には全ての過程を一人でやることになる。一日に客が一回か二回なら、まだ、楽なのだがそれ以上はきつくなる。今までで最高6回と言うのがあった。どんなものか話そう。

  1. まず、犬を連れてきてソリと犬をつなぐ、そしてフランクが客を乗せ、湖へ出て行く。

  2. そして、その間に次の犬を連れてきておく。

  3. フランクが帰ってくると、犬をソリから放し、次の犬をセットする。また、フランクが湖に客を連れて出て行く。

  4. その間に、前に使った犬をその犬達の小屋にもどし、次の犬達を連れて来る





この行程を繰返す事6回、昼食も無ければ休憩も無い。約マイナス30度の世界で、汗だくになり働いている。ここで更に厄介なのが、この汗である。ちょっと外で座るとTシャツにしみこんだ汗が凍る。最悪である。もう元には戻らない。最悪である。その上フランクがレース用の犬をトレーニングさせようものなら、もう1チーム連れて来なければならない。もう、そんな時は何も考えない様にしている。何も考えず、体を動かし、働く。それだけ。

まだ別の問題もあった。犬の名前である。当然全ての犬には名前がついている。しかも英語名!!これは困った。その打開策として、地図を作った。ちなみに犬小屋はテニスコート5面分くらいのところに100ちかくある。これは結構大変な作業だったが、地図が完成した頃には、犬の名前を覚えてしまい地図は必要なくなっていた。

さて、他の仕事としては、毎朝、全ての犬に水をやる事だ。犬達は水が嫌いなので、餌を混ぜてやる。飲まないとすぐ凍ってしまう。

次の仕事としては、犬のフンの始末だ。フンといっても凍っているので、臭くない。まさしく、バナナではなく “フンで、釘が打てる世界” だ。 これは大変というより、時間がかかるので面倒くさい仕事だ。今まで話したのが主な昼の仕事と言ったところだ。

夜は犬達に餌をやる。主な餌はチキンで、他にビーフ、レバー、ドックフードを水で混ぜたもので、デカイごみ処理用ポリバケツ2杯分にもなる。これは僕一人ではなく、フランクと二人で行う。僕が受け持つのは約30匹ぐらいである。でかいバケツで餌を運ぶのだが、これも、物凄く重く、始めの頃は夜になると腕が上がらなくなっていた。

そして、餌をやった後に、次の日の餌作りをやる。これはチキンがブロックで凍っているので、そのチキンを斧で8等分でする。1ブロックが約60パウンド(20キログラムくらい)で、それを毎日1ブロック半使用する。これも結構難しい。始めの頃はチキンは“カットする”。と言うよりもむしろ“砕ける”といった感じで、ぼろぼろにしてしまった。

しかしこれも徐々に慣れ、約1週間もすると、「ナイスショット」と声をかけられるまでになった。そして、この“ナイスショット”作業を終えると、カットしたチキンを人間が2人くらい入ってしまいそうなバケツにいれ、家に持って入り、そこにお湯を入れる。このバケツを置くところと、水が出るところが約10m離れているのだが、ここを何回も、お湯を運ぶ為に往復しなくてはならないのだ、これがツライ。ホースを僕が買ってしまおうかと思ったくらいだ。これでは、まるで昔のジャッキー・チェンの映画のようだ。

 まあ、以上が僕の1日の仕事内容だ。日曜も祭日も何もかも関係なく、淡々と毎日こなさなければならない。犬が好きでなければ、やってられない職業である。


第2章 犬ゾリレース編





第2章 犬ゾリ レース編






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