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プロローグ 創造 清浄と汚濁の中から生まれ出づるもの


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2046名

私たち一人一人が生を授かるために
存在した十世代の祖先の数の合計である

 

 


夕刻には
上野に向かった

 

その夜は
久しぶりに
学生時代の仲間達と
約束があった

 

上野公園にて
西郷像に会釈した後
マルイを過ぎ
アメ横の雑踏を
脚を引きずりつつ
目的の伊多利飯店に着いた

 

時の流れをまるで感じさせぬ
彼らがそこにいた

 

変わったのはたぶん私の左足だけだ

約2年前に
悪性腫瘍の摘出のために
私の左下肢は
まるで柔軟性の無い金属の棒へと置換された


「結構 歩けてるじゃん」

「シュワちゃんに 歩き方 教わったのよ
俺をターミネーターと呼んでくれ」


交わした挨拶の中に
リハビリをしていた頃の自虐的な響きは
もはや感じない

 

十年を
とうに過ぎた歳月は

「家庭」というものが
かもし出す
濃厚かつ豊穣な香りを
いやおうなしに
彼らの所作 言端から
私に嗅ぎ取らせた

 

しかるに
私は
弁舌の機会を
失い

 

かくて
ワインを重ねるうちに
「今」 ではなく
これまで語り尽くし
笑い尽くした
「あの頃」 の話に
追随することとなる

 

なんと
私は
無邪気で
野心家で
卑猥で
横暴で
そして
純粋だった


かつて
そして
今も
かように汚濁の匂う男が

 

神聖なる御魂に触れるべく
仏法を行じようとは
この場のだれも
思いよらぬことである

 

今 何をしてるの

友の問いかけに
やはり
少し口は濁った

仏道を行じるには
まだ決定心が足りぬ

 

日付が変わる頃
店を出て
宿泊予定のホテルまで送ってもらった

 

じゃあ また

あの頃
彼らとの「次ぎ」が来ることは
疑いの余地がなかった

 

当然のように
再会し
飲み
騒ぎ
別れ
しばし時が過ぎる



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