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「いやあ、そんなこと言われたら、うれしいなあ」
 紺野さんはそう言った。そんなふうにあっさり言った。うれしいと言ってくれたけど、私の言葉を本気にしていない言い方だった。
 私はにこにこしていた。他にどうしたらいいかわからなかったから。そんなふうにあっさりかわされたら、何を言ったらいいかわからなかったから。
 新年会の2次会でみんな、かなり酔っぱらっていた。私も紺野さんも酔っていた。でも、私は実際以上に酔っぱらったふりをしていた。そうしないと、言えなかったから。
 「私、紺野さんのこと好きなんですよ」
 勇気をふりしぼったわりには、冗談めかして言ってしまった。
 こういうのって、真顔で言うのは恥ずかしいよね。それで断られたら、傷つくし。ずるいけど、冗談めかしていうのは、よくある手なのだ。
 でも、冗談ととらずに本気にとってほしいものなのだ。で、返事がほしい。
 それなのに紺野さんは、するりと逃げてしまった。私の本気に気づいてないわけじゃないと思う。うん、たぶん。それなのに、わざと冗談と受け取ったのだ。私にもわかる。告白したら、今までの関係ではいられない。社内恋愛なんて、ややこしいもの。気軽に踏み出せないよね。今、好きでも、後で別れたりするとまわりがうるさいし。「好き」でも、学生の時の「好き」と違って、打算が入っているかな? 大人になったといえば、聞こえはいいけど。
 大人っていうのが、だめなのかもしれない。高校生、いや、中学生ぐらいの気持ちに戻らないと、恋愛ってうまくいかないのかも。好きっていう気持ちだけで夢中になって。
 中学生ねえ。
 改めて告白やってみようか。紺野さんが逃げられないぐらいはっきりと。

 ただいま、私は紺野さんを待ち伏せしています。ほとんどゲリラになったような気分です。そうです、今から二人の関係に革命を起こそうとしているのです。紙袋には手作りの爆弾が入っています。そう、チョコレートです。今日はもちろん2月14日です。


あとがき

 男ではなくて大人の返事する君にチョコレート革命起こす

俵 万智

 

この歌とこの歌の解説から思いついた話です。けど、うまくまとまらなかったなあ。もっと、20枚ぐらい書かないといけない話のような気がします。



この本の内容は以上です。


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