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18 20階

 カメラマンの百合さんも助け出して、
 全員で20階に向かう。

 これで、睦美さんを除く全員。

 もう、負ける気はしない。

 20階のドアを開けると広い空間・・・・
 この階は多目的ホールになってたみたいだ。

「まってたぜ」
 大きなスキンヘッドの男。
 ボロいコートを纏った小柄な男・・・・
 鉄の爪をつけた痩せすぎのスキンヘッド、
 それと、白衣の男の横に大きな魔獣。
 栞に聞いたトラとライオンの顔。
 それに加えてワニの顔もついている。
 あと・・・・
 黒いマントの男。
 沙耶香さんと愛利さんを倒したあの男だ。
 こんなときにまでわたしたちの邪魔をするなんて・・・

「睦美を返してくれる?」
 美那子さんが言う。
 有無を言わさない迫力。
 後ろではわたしたちが身構える。

「萬屋、返してやれ!」
 コートの薄汚い男が、睦美先輩と栞たちのマネージャーを離す。
「おれっちは、約束は守るからよ」
 満足そうに笑う。
 
 睦美さんとマネージャーは夢遊病者のようにこちらに歩いてくる。

「さてと・・・」
 男は腕を回す。
 なんかすごい筋肉だ。
 
 白衣の男がいきなり魔獣をけしかける。
 それに反応する希美と栞。
 二人で顔を見合わせて頷く。
 やっぱこの子たちも睦美さんを取り戻すためにがんばってるんだって思う。

 鉄の爪の男の前に胡桃が行く。
 ボクシングのフットワークみたいに
 飛び跳ねながら構える。

 萬屋という薄汚れたコートの男の前に
 沙耶香さんが行く・・・・

 マントの男の前には愛莉さん。
「この前みたいにはいかないよっ」
 金槌を構える。
 マントの男が白い歯を見せる。

 リーダーらしき大男の前に美那子さん・・・・
 オレンジ色の光弾で軽くドリブルを始める。

 わたしと麻衣さん、真奈美さんで睦美さんを受け取る。
 わたしは栞たちのマネージャーに声をかける。
 でも、魂が抜けたようになっている。
 睦美さんも同じ。
 とりあえず、
 頬を叩いたり・・・
 いろいろ試してみるけど、
 元には戻らない。

「行くよっ!」
 美那子さんが叫ぶ。
 それを合図にわたしたちの決戦は始まった。


19 希美と栞

 魔獣が栞と希美に向かって吼える。
 空気をつんざくような声・・・・・
 
 でも、まだ2人は何か言い合っている。
 もしかして、作戦でも立ててるの?
 そんな場合じゃないのに・・・・
 
 魔獣が突っ込む・・・・

 でも2人は簡単にかわす。
 そのまま、なんか口論している。
 まさか、またケンカとか・・・・
 
 トラの爪が希美を捕らえようとする。
 でも、大剣でそれを防ぎ、弾き飛ばす。

 今度は栞に・・・・
 でも、栞はその爪の上にヒラリと飛び乗る。

 そのまま、希美にそっぽを向く。
 共同戦線は失敗みたい。

 なんかこの子たちの戦いってイライラする。

「スチールレイン!」
 栞が叫ぶ。

 上から無数の金属の洗面器が落ちてくる。
 もしかして新技。
 でも、どうみてもテレビのコントで落ちてくるアレだ。
 音はすごいけど、あんまり痛くないみたいな・・・・
 やっぱ、この子の技ってよくわからない。

 魔獣に当たるけど全然ダメージを受けない。
 それどころか、希美にまで当たる。
 自分も当たってるよ。
 それも、モロに頭に・・・・・

 希美は希美で、洗面器をはねのけながら・・・
 魔獣に突進・・・・
 大剣で足を払おうとする。
 でも魔獣は爪でそれをはらう。
 希美に隙を見せない。

「ハハハ、もうその攻撃は効かないぜ」
 白衣の男は笑う。
「合成魔獣は進化するんだよ。
 おまえの攻撃なんて見切ってるよ!」
 
 でも、希美はやめない・・・・
 何度でも同じ攻撃をする。

「ドッペルゲンガー」
 栞のあの技だ・・・・
 でも、魔獣の前に現れたのは小さなゼリー状の物体。
 どうして?

「この魔獣はね。
 もともとはそんな物体なんだよ。
 しかし、いろいろな魔獣を喰らって大きく強くなるんだ」
 白衣の男がちゃんと解説をしてくれる。
 なるほどって感じだ。
 これでは栞の唯一の必殺技も通じない。

 希美は魔獣の足に狙いを絞っている。
 助走を多くしたり・・・・
 何度も回転したりして工夫はしている。
 でも、魔獣の攻撃の隙をつけない。
 
「ドッペルゲンガー!」
 また、同じ技・・・・
 それは効かないって・・・・
 絶対、二人とも思考回路が子供のまま・・・・
 っていうか子供だし・・・・

 でも、今度はゼリー状の物体は現れない。
 栞の指の先には、
 もうひとりの希美・・・・
 希美の分身を作ったんだ・・・・

 本物の希美の横に行って・・・
 二人とも走り出す・・・・
 一人は右・・・・
 一人は左・・・・
 
 4つ足の魔獣は左右同時に防げない。
 もし両方の前足を上げたとしても、
 後ろ足が無防備になる。

 片方の希美だけを防ぐしかない・・・・
 
 右の希美は弾かれるが、
 左の希美はそのまま魔獣の足を切裂く・・・・

 右前足を折る魔獣・・・・
 大きな唸りを上げる。

 また戻ってきて左右からの攻撃・・・・
 今度はどちらも防げない・・・・
 後ろ足も折る魔獣・・・・

 その低くなった魔獣に容赦なく攻撃を仕掛ける・・・・

「あぁ・・・・
 まさか・・・
 そんな・・・」
 白衣の男は呻くしかない。

 その背後に栞が近寄る。

「スチールレインっ」
 空を指差す。
 男は上を見る・・・・

 さっきと違って、
 一つだけだが、巨大な金ダライ・・・・
 男の顔が恐怖にゆがむ・・・・
 そして、男の脳天をタライが直撃して・・・
 大きな音を立てた。

20 胡桃VS鉄の爪

 別の方で、胡桃が闘っている。

 相手も相当の拳法使い・・・・
 それに手になんか鉄の爪みたいな武器をつけている。
 高速の拳の応酬。
 まるで、カンフー映画のようなアクロバットな動きだ。

 胡桃の腕には、いつの間にか
 鉄の爪痕がついている。
 そういえば脚にも、
 着衣が破れたところもある。

 でも、男の方も余裕という感じじゃない。

「なかなかやるな」
 男は少し間合いをとって鉄の爪を舐める。
 胡桃の血が少しついた爪。
「しかし・・・・
 若いな」
 男が急に前に出る。
 いきなり爪で攻撃する。

 簡単によける胡桃。
 そんな攻撃効くわけないじゃん。
 でも、そこから伸びる爪・・・・
 なんとか腕でガードする胡桃。
 爪は、胡桃の腕を貫く・・・・

「きったねえな」
 胡桃が歯を食いしばる。
 その胡桃に男の蹴りが炸裂する。
 そして振り上げた脚を胡桃の前かがみになった背中に落とす。

 その場に崩れる胡桃。
 
 達人同士の戦い。
 ほんのちょっとしたことが勝敗を分ける。

「正直すぎるんだよ。
 相手が悪かったな」
 その場で伸びている胡桃。

 わたしは助けに入るために光の玉を呼び出す。

 でも、そんな隙は与えない。

 男は倒れた胡桃に蹴りを入れる。
 強力な蹴りに宙に浮き上がる胡桃。

「これで終わりだ」
 男は鉄の爪の手で胡桃を突き刺そうとする。

「胡桃っ、だめぇぇぇ・・・・・」
 光の玉を男に向かって放とうとする。
 でも、間に合わないよ・・・・

「秘技、死んだふりっ、解除っ」
 そのとたん胡桃の眼が開き身体をひねる。
「ライトニングラッシュ!」
 爪を避けて懐に飛び込む。
 そのまま無数の青い拳を男に叩き込む。
 男の動きが静止する。
 宙に足が浮いたまま打たれ続ける。
 だんだんボロボロになっていく男。
「ライトニングフィニッシュ!」
 胡桃が大きく振りかぶったパンチを男に叩き込む。
 男は吹っ飛んでビルの壁にめり込むくらいにぶつかった。


21 悪魔の鉄槌

 金槌を振り回す愛利さん・・・・
 西洋鎧の武者がそれを受け止める・・・・・
 この前みた戦いと同じ・・・・
 でも、鎧武者にこの前みたいな余裕はない。
 愛利さんの息も切れない。
 やっぱ、リミッター解除した愛利さんってすごいかも。

「魔王の鉄槌レベル5!」
 振り回せば振り回すほど進化する武器。
 鎧武者は防戦一方。
 でも、剣技は本物だ。
 大きな身体に重そうな鎧なのに、
 愛利さんの動きについていってる。

「魔王の鉄槌レベル6!まだまだ進化するよっ」
 鎧武者は押され始める。
 でも、マントの男は笑ったまま・・・・
 白い歯を見せている。

 大きな鉄槌を軽々と振り回す。
 さっきより段々大きくなっていくのに、
 軽くなっていくの?
 スピードが加速していく。

 床に落ちるたびに穴が開く。
 このビル大丈夫なの?
 そう思うほど、地響きがしてビルが揺れる。

 もう鉄槌の先は残像しか追いかけられないほどのスピード・・・
 でも、鎧武者は押されながらもそれを弾き返す。

 もう、普通の戦いではない。
 まるっきり神の戦いって言った方がいいかもしれない。
 わたしの目ではその動きはとらえられない。

「なかなかやるねっ」
 愛莉さんが言う。
 なぜか微笑みさえ浮かんでいる。
 好敵手に会えたのが嬉しいように・・・・

 マントの男の方も白い歯を見せる。
 こっちも同様だ。

「魔王の鉄槌レベル7!」
 まだまだ進化する槌。
「いいのかい?」

 えっ???
 今の????

 大きくなった槌の頭の部分に顔がある。
 それがしゃべっている。

「このまま俺の力を解放し続けたら、
 封印が解けちゃうぜ・・・」

 封印???

「いいよ。
 その前にちゃんと仕事をしなよ。
 あんなやつも倒せないの?」

「了解。
 もし封印が解けたら、真っ先にお前を殺してやるぜ。
 ここまで、人遣いの荒いのは初めてだからな」

 なんなの?
 この武器?

「いっけぇぇぇ」
 愛莉さんが叫ぶ。
 鉄槌の柄がしなるほどに振り回す。
 
 マントの男は逃げない。
 そのまま黒騎士の後ろにいる。

 キィィィン・・・・

 金属がぶつかり合う音・・・・

 愛莉さんの鉄槌が黒騎士の剣に止められてる。

「私の負けだ・・・」
 マントの男が呟く・・・
 黒騎士の剣が砕ける・・・・

「まだ、決着はついていないよ」
 愛莉さんは微笑む。

「いや、もういい・・・
 お前らがいれば大丈夫だ」

「どういうこと?」
 愛莉さんが不思議そうに彼を見る。

「美月をたのむ・・・」
 男の口からそう言う言葉が出る・・・・

 えっ???
 どういうこと???
 こんなやつ知らないし・・・

「ああ・・・ちゃんと鍛えてやるよ。
 わたしの妹だからねっ」
 愛莉さんが鉄槌を肩に担ぐ。

 男は白い歯を見せて、愛莉さんに背中を向ける・・・・
 そのまま階段の方へ歩いていく・・・・

 なんにもわからない。
 なんなの?
 あいつ・・・
 説明してよ?

 でも、男は振り向かずにドアの向こうに消えた。

22 死神と魔女

 コートの男の前に沙耶香さんが立つ。

 鞭も構えず・・・・
 ブラックホールも出さない・・・・

「ふっ、よくお分かりですね。
 武器を出しても仕方ないってね。
 そうですよ・・・・
 その前にあなたの魂を吸い取りますからね」

「やってみなよ!」
 沙耶香さんは言う。
 でも、唇の端は笑っている。

 睦美さんをこんなにした敵・・・・
 どう対応すればいいの?

「いいでしょう。
 ゆっくりと魂を抜いてさしあげましょう」
 男は甲高い声で笑う。
 その男の後ろに黒いマントを羽織った骸骨。
 手に大きな鎌を持っている。

「できるんならねっ」
 沙耶香さんの落ち着いた声。

「死神の恐怖に震えるがいい!」
 いつのまにか沙耶香さんの後ろに立っている死神。
 その骨の手が沙耶香さんの額に伸びる。
「ソウル・イーター」
 沙耶香さんの額から黒い糸・・・・・
 それを死神は指に巻き取り始める・・・・

 沙耶香さんと対峙している男。
 その男の顔が驚愕に満たされる。

「なぜ・・・
 やめろっ・・・・
 死神っ」

 でも死神はその糸を巻き取り続ける・・・・

 沙耶香さんは魔女の微笑みを浮かべる。

 死神の動きがおかしくなる・・・・
 苦しむように自分の喉をかきむしる・・・・
 死神が大きな口をあける・・・・
 その中から白い玉が宙に吐き出される・・・・
 それのひとつがゆらゆらと飛んで睦美さんの中に溶け込むように消える。

「どうして・・・・
 黒い糸なんだ・・・・」
 男は沙耶香さんに詰め寄る。

「フフ・・・わたしは魔女だよっ」
 男は沙耶香さんに背を向け逃げようとする。

 その背後に睦美さんがいる。
 男に向かってニコリと微笑む。
 ゆっくりと、
 腕のリミッター・・
 ピンクゴールドのブレスレットを外す・・・・

「本当に面白い技だったね。
 でも・・・・
 わたしも魔女だよっ。
 もっと面白い技、見せてあげる
 イン・ザ・ホラーハウスっ」
 幼い声が部屋に木霊する。
 
 睦美さんの能力・・・
 イン・ザ・ワンダーランドは見たことがある・・・
 睦美さんが支配する別の世界を作り出すことができる能力・・・
 その中では睦美さんが、思ったとおりのことが起こる・・・
 本当に不思議な世界だ・・・
 でも、ホラーハウスって???

 いきなり、大きな紙が現れる・・・
 何か絵がかいてある・・・
 それが自然に折りたたまれていく・・・・
 人が一人入るような家の形に・・・・
 窓・・・煙突・・・屋根・・・・
 まるでお菓子の家のようなメルヘンチックな家だ・・・
 それが最後に男を包み込む・・・・

 しばらくして・・・・
 その中から男の悲鳴・・・・
「やめろ!やめてくれ!」
 その声はだんだんすすり泣きに変わる・・・・
 そして、声がしなくなる・・・

 睦美さんが合図をすると、
 家はまた宙に浮き折りたたまれる・・・
 
 後に残ったのは膝をついた男。
「やめ・・・やめてくれっ・・・」
 無茶苦茶に腕を振り回す。
 ガタガタと震える男。
 だんだん、黒い髪は白くなっていく。
 そして、顔に皺が増えて一気に老人になっていく。
 その姿で失神する男。

「あら、よっぽど怖いものを見たみたいね。
 何を見せたの?」
「秘密っ」
 沙耶香さんの言葉に睦美さんはいつものように微笑んだ。


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