閉じる


<<最初から読む

7 / 32ページ

06 暗殺者(アサシン)たち

 シャッターの音とフラッシュの光。
 その中で水着姿3人がいろいろなポーズをとる。
 広いスタジオの一角にポップな部屋のセット。
 自然に部屋で戯れる女の子たちってイメージみたいだけど、
 優菜には、こんな目の回りそうなカラフルな部屋・・・
 それになぜ水着なのかっていうのが
 理解できなかった。

「優菜、表情固いよ。肩の力抜いて」
 専属カメラマンの百合が声をかける。
「すみませんっ」
 表情を和らげる。
「うん、いいよ」
 シャッターがきられる。
 優菜のブルーの水着に白い身体がフラッシュで光る。

 美作百合・・・
 WITCHESの専属カメラマン。
 でも、その腕は広く世間に知れ渡っていた。
 数々の賞を手にして、他からも撮影の依頼はひっきりなし。
 現にいろいろな引き抜きをうけても、
 本人は全然他に行く気はないらしい。

 彼女達の写真は毎号少年週刊誌の表紙を飾る。
 他のメンバーの時もあるが、基本的にグラビア組の登場回数がダントツである。

「じゃあ、次、真奈美、撮るよ」
 日向真奈美・・・
 優菜の1期先輩に当たる。
 ボーイッシュなショートに小麦色の肌・・・
 オレンジの水着がその肌に似合っている。
 健康的な美少女だ。
 優菜と違って自然にポーズを撮る。
 百合が指示しなくても、思ったとおりにポーズ。
 息がぴったりって感じだ。

「じゃあ、麻衣さん、お願いっ」
「はい・・・」
 ウェーブのかかったロングヘヤー。
 白の水着。
 男の人の人気ナンバーワンの座をずっとキープするNICE BODY。
 口もとのほくろまで艶めかしさを演出している。
 きちっと悩殺ポーズを決める。
 カメラの後ろで優菜も同じポーズをとってみるが、遠くおよばない。

「みんなでいくよっ」
 麻衣さんを中央に優菜と真奈美がその周りを彩る。
 まるで踊るような感じでモニターを確認して何ポーズかシャッターをきる。
 百合が大事にしているのは被写体の表情。
 しゃべったり歌ったりして最高の表情を引き出す。
 それで、満足気にうなづく。
「撮影、終了~~」
 百合が叫ぶと、みんな素に戻る。
 いちおう、撮影中はおすましモードだから。

「おつかれさま」
 でも、麻衣だけは変わらない。
 あくまで、大人っぽい微笑みを浮かべるだけ。
 麻衣にとってはこれが素だから。

「でもさぁ。優菜、こけるんだもん。笑いこらえるのに必死だったよ」
「ポーズに無理があるだけです」
「あっ、あれ。右足と左足まちがえるんだもん。両足上げたらこけるに決まってんじゃん」
 優菜、真奈美、百合はかしましくおしゃべりを始める。
 
 一緒に笑っていた麻衣の笑みが消える。
「だれっ」
 木刀を手に取り、優菜の傍らの壁に突きつける。
 麻衣は剣の達人だ。
 ウィッチーズも歴代、何人かの剣士がいた。
 その中でも最強と言われる腕を持っている。

「あ~あ、もうちょっとだったのになぁ」
 その先に眼鏡をかけた小柄な男が現れる。
「撮影中は立ち入り禁止だよ」
 真奈美が殴りつける。
 難なく避ける男。
 そのまま、消えてしまう。

「何っ、あれ」
 優菜が通風口を指差す。
 そこから、赤いゲル状のものがしたたり落ち、
  白い床に積もっていく。
 だんだん、それは人の形に変わっていく。

 カメレオン男が知らない間に鍵を開けたのだろう。
 ドアが開き
 白い仮面の男が入ってくる。
 タキシードに白い手袋。
 まるでマジシャンのようないでたち。
 鼻までを覆うような白い仮面。
 目じりに笑っているような皺がある。

06 暗殺者(アサシン)たち(2)

「亀田さん、
 いやはや、アサシンが見つかるようでは・・・」
 大げさに手を広げあきれたというポーズをする。
「しかし・・・石動・・・」
 いいわけをしようとするカメレオン男。
 それを制する。
「まあ、どっちにしても同じことです。
 ここでみんな死ぬんですから、
 われわれの正体がばれることもありません。
 朱雀さまの任務を遂行するだけです」
「ああ、わかったよ。
 すこし舐めすぎたみたいだよ。
 まさか、見破られるとは思わなかったんでな」
 また、一瞬で姿を消す男。
 今度は完全に気配を消しているのか、
 麻衣の目にも戸惑いが浮かぶ。

 ゲル状の人間がまた人間の姿をやめる。
 床に一瞬で広がる。
 彼女たちの足元に・・・
 ゲルの水溜りから蝕手が伸びて、彼女たちの足を掴む。

「なに、これ、キモすぎっ」
 真奈美が足を振りほどこうとするが離れない。
 逆にこけそうになってしまうが、
 それはこらえる。

 時々、カメレオン男が姿を現すが、あらわしたとたん麻衣が木刀でけん制する。

「優菜、凍らせてっ」
 真奈美が優菜に指示をする。
 優菜は頷いて、自分の足元のゲルに手をかざす。
「フローズン・ワールド!」
 優菜の手の部分から白い冷気が発せられる・・・
 ドライアイスのような煙につつまれるジェルのかたまり・・・・
 
「おもしろい技です。
 水沼のゲルは-100度くらいでは凍りませんよ。
 さてお手並み拝見といきましょうか?」
 タキシードの男が笑う。

 全然凍らないゲルの水溜り
 その中から触手が伸び・・・
 優菜の手首を掴む・・・
 そのまま、取り込まれていく優菜。
 他の二人は動けずに見ているだけしかできない・・・

「優菜ぁ!」
「優菜っ」
 2人の声を聞きながら、
 ジェルに飲み込まれていく優菜・・・
 脚・・・
 腰・・・
 腹部・・・
 胸・・・
 肩・・・・
 2人の悲痛な叫びもむなしく・・・
 優菜の頭部がゲルの沼に包まれた。

「優菜を返せっ」
 むちゃくちゃに暴れる真奈美・・・・
 でも、足が掴まれているので動けない。

「フフ・・・あと2人ですね。
 いえ、われわれの姿を見られたからには、
 カメラマンも・・・ですか・・・
 最後におもしろいものを見せてあげましょう」

 仮面の男が手を開くと
 そこから伸びる糸・・・
 それが、麻衣の四肢に絡みつく・・・・

 瞬間、百合がカメラを構える。
 プロ用の大きなレンズのついたカメラだ。
 仮面の男を中心として・・・
 フラッシュがたかれる・・・
 シャッターをきる音・・・

「ユニット3の影、
 マジックフォトグラファー、美作百合」
 男達の動きが固まる。
「これで、1分間動けないよ」
 百合のカメラに写されると、1分間動けなくなる。
 単純だが、強力な技だった。
「麻衣さん、真奈美っ、逃げてっ」
 真奈美が足に絡みつくスライムの手を振り解く。
 かたまったゼリーはすぐに解ける。

「麻衣さんっ」
 麻衣は動かない。
「どうしたの。早く。一分たっちゃうよ」
 百合が麻衣の手をひっぱる。
 でも、反応がない。
「やばいっ。あと20秒」
 心の中でカウントする。
「だめっ。真奈美だけでも逃げて!
 卑弥香さんに伝えて・・・」
「うん、わかった」
 真奈美が背中を向けて走り出す。
 
「ゼロ。」
 仮面の男の声。
「こちらも、なかなか面白い技ですね。
 わたしも見せましょう。
 死のマジックをね。
 マリオネットダンスっ」

 仮面の男が白い手袋の手を身体の前で動かす。
 その指から伸びる糸は麻衣の手足に絡み付いている。
 麻衣が木刀を上段に構える。
 オレンジ色に光る木刀。
 麻衣の目には光がない。
「ビームソード!飛炎」
 木刀を振り下ろす。
 その木刀から一直線にオレンジ色の光が走る。
 真奈美に向かって。
「あぶないっ」
 百合の声に振り返る真奈美。
 でも、もうよけられない。
 光をまともに受け、ふっとぶ真奈美。
 壁にぶつかり、その場に倒れこむ。
「真奈美~~っ」
 叫ぶ百合の足首をゼリーの手が掴む。
 今度は動きを止めるためではない。
 引きずりこむための動き。
 足を撮られ倒れる百合。
 その身体を無数のゼリーの手が掴む。
 みるみるうちにゼリーの山に沈み込んでいく百合。
 その身体はすべてジェルに包まれる・・・
 優菜と同じように・・・
 床に転がった一眼レフを残して・・・

「とりあえず、任務完了ですね。
 いきましょうか?」
 仮面の男がドアに向かう。
 麻衣も魂が抜けたように男のあとに続く。
「じゃあ、俺はとどめを刺してくる。
 念のためにな」
 亀田はそう言って倒れている真奈美のところへ。
 かがみこみナイフを出す。
 それを真奈美の胸に突き刺す。
「わるくおもうなよ」
 そのとたん、亀田の目に驚愕の色。
 ナイフは真奈美の胸を突き抜け、
 床に突き立つ。
 まるで、幻にナイフを突き立てたみたいに。
 亀田の首に真奈美の手。
「わたしも・・・アサシンだよ。
 ミスティボディ、日向真奈美。
 覚えておきなっ」
 その瞬間、真奈美の手の暗器が亀田の喉笛をかき切った。
 
(暗器=手に隠れるくらいの小さな武器です)


07 朱雀と玄武

「玄武も動いたらしいね」
「はい、壊し屋を使って、一人倒したということです」
 白い仮面の男と妖艶なドレスの女性。

「たったの一人だけ?やっぱ、詰めが甘いね。ハハハ」
「ええ・・・・朱雀さま」
「こっちも2人・・・」
 考え込む朱雀と呼ばれた女性・・・
「でも、ここからは難しくなるわね」

 おもむろに携帯を取り出す。
「玄武?・・・わたし・・・朱雀」
「なんだ」
 不機嫌な声。
「なんか、一人倒したらしいね」
「ああ・・・」
「私のとこは2人だけどね」
「何を言いたいんだっ!」
「これからガードが固くなるわ」
「ああ・・・わかっている」
「このまま、わたしの勝ちかもね。
 白虎も動いてないみたいだし。
 じゃあね」
 一方的に電話を切る。

「石動、玄武を見張って」
「はい・・・」
「あいつバカだから、すぐに何か行動を起こすと思うの。
 それと亀田の代わりは見つけたの?」
「ええ、闇のアルバイト情報を使いました。
 腕は確かなのですが、なにぶん・・・」
「まあいいわ。どうせ捨て駒だし」

「なあ、バイト代安すぎねえか。
 いきなり魔獣とかけしかけやがって」
 茶髪の男、ジーパンに革ジャン。
 顔を半分覆う黒い覆面をしている。
「こいつが?代わり?」
 あきれたように朱雀は男を見る。
 アサシンとはかけ離れた男。
「なぁ、仮面のにいちゃん。
 ちっと考えてくれよ」
 石動は朱雀に耳打ちする。
「傭兵が他に4人集まったのですが、
 力を試したところ、
 めんどくさいから4人一度に相手すると言いまして・・・
 それを一瞬で・・・
 たぶんそんなことができるのは、
 わたしと水沼くらいですか・・・
 腕は保証します」
「ウィザード?」
「いえ、拳法使いです」

「そっちのねえちゃんが雇い主だろ。
 いろいろ入用があるんだよ」
 なれなれしく近づいてきて、朱雀の肩に手を回す。
 覆面男の頬に朱雀の平手が飛ぶ。
 その手首を一瞬で掴む。
 あっけにとられる朱雀。
 そう、女の手といえ、こんな至近距離からの平手・・・
 その手首を簡単に掴む。
 それだけで、男が並の使い手でないことがわかる。
 朱雀は男の目を見て微笑む。
「わかったわ。
 2倍だすわ。
 そのかわり、それだけの働きはしてもらうからね」
「ああ、やっぱトップは物分りがいいよな。
 こっちの下っ端と違って」
 石動はあきれたように両手を開く。
 あくまで仮面の表情は笑ったまま。
「石動、それでいいよね。」
 仮面の男に確認する。
「ええ、仰せの通りに」
 大げさに礼をする石動と言う男。
 その仮面の目が一瞬光ったような気がした。

********************

「なんだ、あの女は」
 荒れる玄武という大男。
「それもこれもお前たちがたよりないからだろ!
 2人も逃がしやがって」
「すみません。思ったより手ごわい娘たちで・・・
 しかし奴らは仲間一人を失ったって話ですよ」
「言い訳はいい。次の手は」
「あの本部ビルに殴りこむのは難しいですね。
 おびき寄せるしかないでしょう。
 こいつらを使ってね」
 萬屋の前に2人の女。
 睦美と綾だ。
 でも、その目には生気はなく、
 魂の抜け殻のように立っている。
「すぐに手を打て!」
「はい・・・」
「それと、こいつは何だ!」
 萬屋の後ろにはマントの肌の浅黒いマントの男。
「ええ、壊し屋に入りたいと言って」
 かぶったフードの中から鋭い眼光。
「足手まといにならないだろうな」
「たぶん・・・」
「そうか・・・」
 いきなり玄武はマントの男に殴りかかる。
 乱暴者玄武の挨拶だった。
 少し手加減はしているが、並の使い手なら吹っ飛ぶことは必死だった。
 その拳を簡単に手のひらで受け止めて握る。
 玄武が手を引こうとする。
 でも、握られた拳は相手の手から抜けない。
 それだけでなく玄武の拳は信じられない握力で押しつぶされる。
「わ・・わかった。萬屋よ。面倒みてやれ」
 そういうと、マントの男はその手を開く。
 いきなり離されて玄武はよろけた。

「では、残りの娘を全員、呼び出します。」
 睦美と綾の肩に手を置く、萬屋。
「いいだろう。
 まとめてぶっ壊すというわけだな。
 今度は俺も出る。
 あの朱雀に目にものを見せてやるぜ!」
 舌なめずりする大男。
 大男はもうこの街の支配者になったかのように
 高笑いをした。


08 厳戒体制

 マネージャーの小松原さんのお説教は止まらない。
 携帯を持ってなかったこと・・・
 一人で行動したこと・・・
 写真週刊誌に撮られたら・・・・
 首をうなだれてじっとしてるしかない。
 あの後、ケーキバイキングの前で胡桃と小松原さんと出会って・・・
 二人ともすごい探したらしい。

「わかった?」
「はい・・・」



 終わったのかなっ。
 顔を上げる。

「美月は期待の新人なんだから、ちゃんとしてよ。絶対、美那子みたいに人気者になれるよ。わたしが保証する」
 いつもお説教のあとは熱っぽく語る。
「はい・・・ごめんなさい」
 
「美月・・・集合だって」
 なんか元気がない愛莉さん。
 わたしは、愛莉さんについて会議室へ。

 わたしたちだけじゃなく卑弥香さんや安城さんたち幹部まで集まっている。
「みんなそろったね」
 周りを見回す卑弥香さん。
「睦美と麻衣がやられたんだ」
 えっ。
 睦美さんと麻衣さんが・・・・
 愛莉さん、それで元気なかったんだ。
 睦美さんとすごい仲良かったから・・・

「相手は、この東都のマフィア。
 今まで、小競り合いはあったんだけど、今回はちょっと違うみたい。
 それで、みんなに集まってもらったの」

 後の説明は安城さんがする。
「睦美たちはイベント後を襲撃されて、
 睦美とマネージャーの綾が捕まってる。
 希美と栞は逃げられたんだけど・・・」
 前には泣きそうな顔の栞・・・
 横を向いてなんか考えてるっぽい希美が座っている。

「次に麻衣のチームだけど、
 スタジオを襲われて
 麻衣と優菜とカメラマンの百合が行方不明。
 真奈美だけが戻ってきたの」
 真奈美さんは真剣な顔で座っている。

 でも、優菜が行方不明って・・・
 あの最強の技を持っているのに・・・
 なんか信じられない。
 
「敵は同じですか?」
 美那子さんの質問。

「睦美は希美と栞から聞いた話だけど、魂を抜き取るエナミーにやられたらしい。
 あと、巨大な魔獣と鉄の爪みたいなのを使う男。
 でも、今、確認中だよ。
 真奈美の報告では
 麻衣たちは全く別のエナミー
 相手をマリオネットにして操る男
 ゼリーの身体を持つ男
 それとカメレオンのように周りに同化する男は
 真奈美が倒したって・・・」

「はい。わかりました。続けて下さい」

「今回はLOVE☆WITCHESを狙って仕掛けてきた節があるの。
 それと今日届いた脅迫状・・・」
 画面に脅迫状が映し出される。
 睦美さんとマネージャーの綾さんを人質にしていること。
 それと、返してほしかったら丸重ビルの20階に
 残り全員で現金1億円を持ってくることが書いてある。

「いい度胸してるじゃん。
 私たちを脅迫するなんてね」
 腕を組んだ愛莉さんが、イライラしながら言う。
 今にも飛び出して行きそうな勢い。

「でも、全員でっていうの引っかかるな。
 身代金は一人で来いが普通でしょ」
 美那子さんが疑問点を口にする。
 やっぱ美那子さんはすごい。
 こんな時でも冷静だ。
「そうね。
 まるで・・・・
 WITCHESを呼び出したいみたいね」
 うんうん・・・
 わたしもそれを考えてた。
 わたしたちを呼び出して、
 そして・・・・
 何するんだろう????
 あっ、ちょっと熱っぽいかも。
 あんま、考えると・・・・
 
「いずれにせよ。
 行かなきゃなんないよね。
 睦美を助けに」
 愛莉さんは考えるまでもないよって態度。

「そうだね。
 罠かもしれないけど、
 わたしたちの力見せてやろうよ!」
 美那子さんが激を飛ばす。
 さすがリーダー。

「わかったわ。
 じゃあ、こっちはわたしたちが守るわ。
 だから、救援はなしよ」
 安城さんがみんなに言う。
 これで、決定。
 わたしたちで睦美さんを助けに行くの。
 でも、WITCHESが9人も集まるの初めてじゃないの?
 かなり強力だと思う。
 絶対、無敵って感じで。

「それと、今回念のためリミッターは解除して」
 卑弥香さんが立ち上がる。
 すごい存在感・・・・。

「ねえ、みんな。
 9人で来い、だってさ・・・
 わたしたち舐められてるんだよ。
 わたしたちを舐めたらどうなるか思い知らせてやろうよ」
 沙耶香さんが言う。
 やっぱ、この人影のリーダーかも。
 
「じゃあ、みんな用意して集合だよっ」
 美那子さんの命令で、会議は解散になる。
 愛莉さんがわたしの肩をポンって叩く。
 期待してるよっ☆みたいに。
 わたしは愛莉さんについて、会議室を出て準備室に向かった。
  


09 魔獣ビルディング

 丸重センタービル
 渋谷駅前の40階建てのビル。
 かつてはファッションビルとして、有名だったらしいが、
 今は廃ビルのような薄汚れた風貌を晒している。
 でも、ここには誰もいないのじゃなくて・・・
 たくさんの不法占拠者がいるらしい。
 一度中に入ったら二度と出られないビル。
 そのような噂さえ立っていた。
 でも、普通の人ならまず入ってみようとも思わない。
 それどころか、駅前なのにその一帯だけ
 線を引いたように、人通りが途絶えている。
 人はそのビルの名前を文字って
 魔獣ビルと呼んでいる。

 その20階が今回の取引場所。
 睦美さんがとらわれている場所だ。
 あわただしく走り回るスタッフの人。
 今回の取引は、美那子さんのチームが受け持つ。
 私たち、沙耶香さんのチームはフォローに回る作戦になっている。

 たぶん、愛莉さんや沙耶香さん、希美は何するかわかんないってとこあるから・・・
 もしかして、わたしも同類なの???
 
 9人でビルに入る。
 遠巻きにこちらを見るアンダーグラウンドな人たち。
 でも、なにも仕掛けてこない。
 今回、真剣なわたしたち。
 チンピラを寄せ付けないようなオーラを放っている。
 
 エレベーターホールを抜ける。
 壊れて開いたままのエレベーター。
 マジ、20階まで階段なの???
 がっかり顔のわたしを胡桃が肘でつつく。
 
 愛莉さんが一人の男を捕まえて、
 階段の場所を聞く。
 怯えたように、その方向を指差す男。

 その指の先にいる人たちは、道を空ける。
 薄暗い階段が見える。
「ありがと・・・」
 愛莉さんは軽々とその男を放り投げる。
 普段の愛莉さんと全然違う。
 ピリピリした空気の中。
 私たちは前に進む。

 私たちを待ち伏せるんだから、
 罠とかあるかもしれない。
 でも、このメンバーには関係ない。
 もう、無敵って言っても、言い過ぎじゃない。

 5階まできたところで、廊下を塞いでいる巨大な物体。
 その横に男がいる。
「待てよ。ここからは通さないぜ」
 熊のような、ゴリラのような
 毛むくじゃらの物体。
 美那子さんは歩みを止めない。
「玄武さんに言われてるんだ。
 おまえらをやっつけたら、
 幹部にとりたててもらえるってな」
 美那子さんは返事をしない。
 ただ上っていくだけ。
 牙をむき出して吼える魔獣。
「なんとか言えよ。
 仕方ないやってしまえ!」
 男の声が上ずる。
 美那子さんは魔獣のすぐ前、
 手が届くくらいまで近づいている。

「じゃまだよ!」
 美那子さんはバスケットボール光弾を出し、
 軽くパスするように魔獣に放る。
 鋭いパス。
 光弾は魔獣に跳ね返って、美那子さんの手に戻る。
 それだけで、魔獣は消えてしまう

 まさに瞬殺。
 私たちでなければ、何が起こったのかわかんないくらい。

 カメラを意識した私たちとは違う。
 とりあえず、仲間を助け出すこと、
 これが、私たちの最大の使命だった。

 私たちは、何にじゃまされることもなく、
 階段を上がっていった。


10 氷室優菜

 20階まで、あと5階
 薄暗い階段の踊り場にある数字は
 15階を示している。
 もちろん、電気なんて壊れている。
 
 15階に何か人影。
 そろそろ、何か仕掛けてくるころだと思っていた。

 たぶん、下にいた雑魚とは違う。
 気を引き締めるわたしたち。
 それと、20階に向けて先輩たちの力を温存しなくては・・・・

 胡桃とわたしが美那子さんの前に出る。
 とりあえず、私たちが確認しないと・・・・
 新メンバーだからねっ。
 美那子さんに全部戦わすわけにはいかない。
 どんな敵かわかってから、先輩たちにふればいい。

 階段から見下ろすブルーの水着の女。
 暗くて顔はわかんないけど・・・・
 輪郭で誰かわかる・・・

 えっ。

 優菜・・・・

 そう、優菜がわたしたちを見下ろしている。

 よかった、助かったんだ。

 わたしと胡桃が駆け寄る。

 でも・・・・
 無表情な優菜・・・
 こっちに手をかざしてくる。

 まさか・・・

「胡桃っ、気をつけて!」
 
「フローズン、ナイフ!」
 優菜の手から白いつららが放たれる。
 そして胡桃を襲う。

 胡桃はパンチでその鋭いつららを払う。
 足元に落ちたつららはガラス細工のように砕ける。

「優菜・・・どうしちゃったの・・・わたしだよ。美月だよ」
 優菜に問いかける。
 優菜はゆっくりとこっちを向く。

 うん、わかってくれたんだね。

 でも、そうじゃない。
 優菜はわたしの方に手をかざす。
「フローズン、ナイフ」
 わたしの方にツララが飛んでくる。
「レインボーシュート!」
 青い玉でツララをはじく。

 だめだ。
 これじゃ。
 いいかげん気がついてよ。
 でも、優菜の瞳は輝きを失っている。
 表情も変わらない・・・・
 まるで、ロボットみたい。

 同期の中で胡桃とわたしと希美と栞はよくケンカしてた。
 でも、優菜はいつも笑って、
 その仲裁役をしていた。
 誰も・・・あの希美でさえも・・・
 優菜には逆らわなかった。
 それは優菜が最強ってわかってたから。

 その優菜が相手。
 それもできるだけ無傷でやっつけないと。

 たぶん、操られてるだけだから・・・・

「当身で気絶させるよ」
 胡桃がわたしの方を見る。
「うん・・・」
 光の玉で優菜の注意をこっちに向ける。
 その隙に胡桃が・・・・
 一瞬で胡桃の考えを理解する。
 胡桃とはコンビネーションの練習とかしてたから、
 わりと簡単に目で会話できる。
 フローズンワールドがあるからちょっとでも触られたらだめ。
 
「レインボーシュート」
 黒以外の玉を優菜に放つ。
 たぶん、避けられるはず。
 ちょっと手加減気味のスピードで。

 優菜の注意はこっちに向けられる。
「フローズン、シールド」
 優菜の手に氷のシールド・・・
 それが七色の玉をはじき返す。

 今だっ。

 胡桃が猛スピードで横から回り込む。
「優菜、ごめんっ」
 胡桃が優菜のボディにパンチを放つ。
 でも、優菜はその手首を掴む。
 しまった。

「フローズンワールド!」
 胡桃の手が凍る。
 でも、優菜の触れ方も甘い。
 やっぱり、体術は胡桃のほうが上、
 一瞬で離れる胡桃。
 右腕が氷に包まれている。
 一瞬であんなになってしまうなんて、
 あらためて優菜のすごさを感じる。
 味方の時はそんなに思わなかったけど、
 敵にしたらヤバすぎってこと・・・
 
「やばっ」
 胡桃は戻ってくる。
 もう右の拳は使い物にならない。

「おまえら、甘いよ」
 愛莉さんが胡桃の肩を掴む。
「さがってなっ」
 愛莉さんと真奈美さんが前に出る。
 愛莉さんは金槌を振り回す。

 だめっ、優菜だよ。
 操られてるだけだよ。

「まぁ、見てなって」
 わたしの心の声が通じたかのように、
 愛莉さんが振り返る。

「いくよっ。真奈美」
 愛莉さんと真奈美さんが飛び出す。
 いくら先輩でも、フローズンワールドを破ることなんてできないと思う。
 でも、先輩たちが出ると、なんか安心感を与えてくれる。

 愛莉さんは金槌を振る。
 それは氷の楯に受け止められる。
 真奈美さんは別の方向から長い足で蹴りを放つ。
 別の手で払いのける優菜。
 でも、真奈美さんの足をつかむこともできない。
 愛莉さんは何度も楯に金槌を叩き込む。
 だんだんボロボロになっていく楯。
 そう、愛莉さんの槌は進化する。
 だんだん攻撃力とスピードが増していくんだ。
 しなる槌の柄・・・・
 遅れたようにヘッドが飛んでくる。
 この変則的な動きも愛莉さんの武器の特徴。
 
 だんだん耐え切れなくなる優菜。
 その隙に真奈美さんが懐にもぐりこむ。
 真奈美さんを掴もうとする優菜。
 そう、掴まれたらフローズンワールドの餌食。
 でも、優菜の右手は宙を切る。
「わたしを掴むことなんて、できないよ。
 ごめん、優菜」
 真奈美さんは優菜のボディに手を当てる。
「気孔術、衝!」
 気合とともに、優菜の身体がはじかれる。
 手を相手にあてたまま、衝撃波を送る気孔術。
 優菜はそのまま気絶する。
 
「大丈夫、ちょっと衝撃はあったかもしれないけど」
 真奈美さんはわたしたちを安心させるように言う。

 すごい、
 胡桃とわたしのコンビネーションなんかと違う。
 簡単にあの優菜を倒してしまうなんて・・・

 後ろから沙織さん。
 銀色のストレートヘヤーに白いマント。
 光の巫女と呼ばれているメンバー。
 美那子さんのチームだ。

 倒れてる優菜の横にしゃがみこみ、
 真奈美さんが衝撃波を当てたあたりに手をかざす。
 白く光る手・・・・
 ヒーリングだ。
 メンバーでヒーリングを使えるのは沙織さんだけだ。

「うーん」
 優菜の顔に生気が戻る。
 うすく目を開けて周りをみる。
「優菜っ!」
 声をかけると、わたしの方を見て微笑む。
「美月・・・わたし・・・・」
 状況がつかめないようだ。
 仕方ないよ。
 何かにあやつられてたんだから。

「これで大丈夫だよ」
 沙織さんが優菜に微笑むと、
 優菜はゆっくりと立ち上がる。

「大丈夫?」
 胡桃が優菜を支える。
「うん、大丈夫。
 ちょっと油断しちゃったみたい」 
 照れ笑いする優菜。
 でも、無事でよかった。
「じゃあ、リベインジしなくちゃね。
 倍返しでねっ」
 微笑みながら言う優菜。
 でも、これは優菜の怒っているときの目。
 垂れ目がちだから、一般の人にはわかんないけど、
 ずっと一緒のわたしたちにはわかる。
 優菜が無茶苦茶おこってるの・・・・
 そして・・・・
 そういう時の優菜の怖さも知ってる。
「じゃあ、行くよっ」
 優菜が先輩のあとに続く。
 わたしと胡桃は顔を見合わせてその後に続いた。



読者登録

pyon48さんの更新情報・新作情報をメールで受取りますか?(読者登録について