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時空間の旅人(叶淳平編)

プロローグ

大学4年の叶淳平は、スポーツが大好き。野球・サッカー・陸上・・・オールマイティー。 しかし、何処にも所属していない。早い話・・・助っ人的存在である。 淳平の得意分野は、物理学だ。 時間を見つけては、研究室に詰めている。 徹夜になるのも、何時もだ。 今朝も・・・研究室の仮眠ベッドで目を覚ます。 長い髪が寝癖でボサボサ・・・

一度・・・教授に言われた事がある。 教授「家に帰ったらどうだ?」

淳平「帰ったって、お袋だけ・・・女の戯れ言なんか聞きたくね~~~」と言うのが決まり文句。

父は淳平が小さな頃に、病気で亡くなり、女手一つで育てられた。 しかし、お袋は若い男といい仲になっていて、滅多に帰ってこない。 早い話、淳平は邪魔者なのだ。だから淳平の方から帰らなくなった、部屋をお袋に明け渡した形である。 何れは、狭いアパートを飛び出し、自分の部屋を借りようと思っていた。 大学の授業料は、お袋の費用だけでは足りないため、バイトで補っている。 バイトの時間以外は、大学の研究室に居るのが殆ど。

今、研究しているのは、タイムマシーン。 皆、真剣ではない、担当教授もしかり・・・そんな不可能な夢を追い続けているのは、淳平だけ。 だから、淳平一人でコツコツ作業をしていた。 今日は、野球チームから4番バッターを頼まれていたのだが・・・どうも雲行きが怪しい・・・今にも降り出しそうな天候だから断った。

タイムマシーンと言ったって・・・50㎝四方のただの箱。しかしその中には回路や色々な歯車などが詰め込まれている。 淳平「我ながら・・・センスがないな~~」とマシーンの上に腰掛けていたのである。 途端にピカッと辺りが真っ白になった・・・ ドカーンと雷が落ちたようである。

 

・・・・・

 

淳平「ひえ~~~っビックリしたな~~もう・・・」

淳平「あれ?」 見渡す限り・・・荒野と化していた。 淳平が腰を下ろしていたのは、ほぼ完成していたタイムマシーンの箱の上・・・ それ以外は、全て様子が変わっていた。 淳平「変だな~~?研究室の中にいたのに・・・」

ふと、マシーン上部隅にある、アクリル蓋の中のパイロットランプが点滅している。 その脇にあるデジタル時計類の数字を見て、ビックリした。 (1923年8月20日)となっている。 淳平は86年前の数字に釘付けになった。 淳平『ま・まさか・・・』

 

   2

 

淳平は、まだ半信半疑だ。 取りあえず・・・マシーンを隠すことにした。 木の枝や草を採ってきて被せる。 それと目標になる物を探した。 少し先に、お地蔵さんが立っている。そこまで歩数を数えておいた。

見渡す限り荒れ地・・・そんな山奥ではない。 自分の居た場所は東京だ。 位置まで変わってないはず。 問題は、1923年と言う時・・・想像するに・・・大正時代である。 昭和の終わりに近い年に生まれた淳平・・・歴史にも疎い・・・どんな時代に来てしまったのだろう・・・

そんなことを考えながら歩いていると・・・突然女の悲鳴が・・・ 「きゃっ~~~」 運動能力が生まれつき優れている淳平。 脱兎のごとく走る。 いましも、若い女が2人組の男に、着ている物を剥がされようとしていた。

淳平「こら~~っ、なにをしてる!」 男達は、ビックリして振り返る。 立っている淳平の身長は180㎝ある長身。 150㎝前後の男達と頭一つ違う。

そのうちの一人が、「すっこんでろ~~っ」と凄味ながら、殴りかかってくる。 淳平は、柔道の心得もある。 拳を除け、胸ぐらを掴み足を払った。 相手は、いきよい良く地面に倒れビックリした表情。 よくよく見ると、18くらいの若者だ。 淳平「小僧達、怪我するよ!」と凄むと、慌てたように逃げていった。

淳平「大丈夫?」と女に声を掛ける。 女は、顔を赤らめ恥ずかしそうに、こっくりと頷く。

淳平「あいつらが、また戻ってくるかもしれない・・・家まで送るよ。」 女は、身繕いが終わり、側に落ちていた鞄を拾う。 淳平「高校生?」 女「コウコウセイ??」不思議そうな顔をしている。 女「あ・有り難うございます・・・」と蚊の泣くような声で礼を言った。 淳平「僕、叶淳平・・・怪しい者ではありません。」と言っても、女はまだ怯えている。 突然、女は走るようにその場を去っていた。 淳平は、あっけにとられ見送った。 淳平『あっそうか~~自分の方が十分怪しい~(笑)ジーンズにTシャツ姿じゃ・・・もし大正時代だとしたら・・・奇異な格好だ・・・学校制度も違うから、高校生が通じなかったんだ~』

 

   3

 

淳平は思った『しかし、今の娘・・・助けちゃって・・・未来に影響出ないだろうか・・・』と心配になってきた。 だが、その心配は直ぐに氷解した。 後ろから自転車で、警察官がやってきたからである。 時間的に自分が助けなくとも、警察官が気付いただろう。

それより別な心配が出てきた。 その警察官、自転車で通りすがりざま、淳平を見て自転車を止めたのである。 淳平『やばっ・・・どうしよう・・・』 その警察官は、立派な髭を蓄えいて、拳銃の代わり短剣を下げている。 まだこの時代、拳銃は所持していなかったようだ。 逃げることも考えたが、相手は自転車だ。 追いつかれてしまう・・・また逃げ回るのも嫌だし・・・。

警察官「君!!見かけない顔だな・・・どこから来た?」 淳平は返答に困った。 咄嗟に、「あの山から・・・」と指差す。 指差した方向に、小高い山があったのだ。 警察官「どうも、胡散臭いの~~仕事は何をしておる。」 淳平「・・・まだ学生です。」 警察官「何処の?」 淳平は「○○大学理工学部・・・」 警察官「○○大学理工学部???知らんな~~」 知っているわけがない、昭和初期開校された学校だから・・・ 警察官「これから、何処に行くのじゃ?」 淳平「アテもなく(笑)」 警察官「目的もないのか?・・・なら・・・派出所で詳しく話を聞こう、付いてこい!」 淳平「いや、忙しいんです。」と断ったが・・・ 警察官「喝ッ!!」 淳平はその迫力にタジタジとなり、仕方が無く付いて行くことにした。 別に悪いことをしているわけではないので、拘留される事はないだろうと多寡をくくっていた。

 

   4

 

派出所に着くと、警察官がいきなり腕を掴み捕獲縄で両手を縛り上げた。 その手際の良いことに、淳平は唖然とし何も出来なかった。 淳平「な・何を・・・何も悪い事していない・・・」 警察官「何もしていないが、その格好が尋常じゃない!何処から盗んできた!?」 淳平「え~~っ、このTシャツ・・・僕のですよ~~」 警察官「テーシャツ???、なんじゃそりゃ~~それと胸に書いてある、模様みたいな物はなんだ?」 淳平はヤバイと思った。英語・ローマ字の類この時代、一般には通じないようである・・・ 淳平「・・・ただの絵です・・・」と苦し紛れ・・・警察官は疑わしそうな目で見ている。 警察官「ふーむ・・・見る限り・・・日本人だな!西洋人や物の怪ではなさそうだ。」 淳平「物の怪?・・・人間です。」 警察官「名前は?!!」 淳平「叶淳平です。」 警察官「何!~~か・叶?・・・ま・まさか・・・叶本部長の・・・」 淳平は焦った。「違いますよ~~」 警察官「そうだろうな~~立派な方だ。君のような御子息が居るわけがない・・・ふ~~」 淳平は、先祖を辿ると行き着くかもしれないと・・・思ったが・・・お袋の両親は東北出身だし警察関係に親戚が居たなんて聞いたことがない・・・

淳平「お巡りさん・・・勘弁して下さいよ~~」 警察官「先ほど・・・行くアテがないと、言ったではないか!快適な留置場もある。・・・その格好で彷徨き回られるのも、風紀を乱す。」 淳平「風紀?・・・」 警察官「それにな、わしも50じゃ。この派出所も古い・・・庭木の手入れも、大変なんじゃよ・・・」 淳平「へえ~~お気の毒様・・・(笑)」 警察官「な~~~、物は相談だが・・・捕獲縄を解いてあげるから、わしの家にわらじを脱いでくれんか・・・」 淳平「良いでしょう・・・お手伝いしましょう!どうせ暇なんだし・・・」 警察官「そうか~~~!」 淳平「お腹も空いていることだし・・・」 警察官「うん、判った。」 淳平「ここ二日ばかり、風呂にも入っていないし・・・広い部屋で寝たいな~~~」 警察官「喝~~~ッ、調子に乗るんではない!!」 淳平「はいっ・・・」シュン

 

   5

 

淳平は、捕獲縄を解かれて自由になった。 派出所内を見回して、まず暦(こよみ)を見つけた。 やはり、大正12年8月が表示されていたのである。 淳平は、どう帰るか考える。 ここに飛んだのは、雷の過電流がマシーンに影響を与えたと考えていた。 直接の落雷ではなく、地面を伝わってきた物と思われる。 デジタル時計の設定をした覚えもない・・・やはり過電流で偶々この時間に作動したのかもしれない。 赤のパイロットランプの点滅は、充電切れを意味する。 また、マシーンに雷が落ちたら・・・どこかの時間に移動して消えてしまう可能性がある。 淳平は、心配になってきた。 警察官「どうした?急にソワソワしだして・・・」 淳平「いや・・・何でもありません。」 警察官「そうか・・・そうそう働いて貰うには、本官の名前を知らせておこう・・・吉本寛二巡査部長である。よろしく頼む。」 淳平は上の空で「お願いします。」と頭を下げた。 寛二「淳平君は、いくつになる?」 淳平「えっ・・・はあ・・・21です。」 寛二「若いの~~羨ましい・・・巡査教習所に入れば、体格も良いし立派になれるのに・・・」

そこに「お父様・・・お客様?・・・お茶を入れましょうか?」と若い女が入ってきた。 途端にその女性が「アッ!」と声をあげた。 淳平も振り返って「あっ、あの時の・・・」 寛二「どうした?何故、娘を知っている。」と表情が変わった。 吉本巡査長の後ろで、その娘は口の前で一本指を立てている。 淳平は咄嗟に「いえ・・・偶々、通りがかりのその人に地名を訪ねたんです。それだけです。」 寛二「むっ、これだけは言っておく。娘に手を出すな!いいか!!」 淳平「はい。」 寛二「奈美・・・叶淳平君だ。これから、我が家で働いて貰う使用人だ。」 淳平「使用人?」と憤慨したが・・・顔には出さなかった。 奈美「吉本奈美です。」と会釈して奥に入っていった。

寛二「さて・・・暗くなってきた・・・部屋に案内する。別棟だが・・・物が置いてある、3畳ほどの隙間があるし、布団もある。」 案内されたところは、物置だ。 淳平は、夏のこの時期、果たして寝られるだろうかと心配になってきた。 淳平「あの窓の前の物を動かして良いですか?開けて寝たいのですが・・・」 寛二「ああ、かまわんよ。しかし、寝冷えを引くぞ、昼間は暑くても、朝晩冷える。」 淳平は『そうか~~この時代には熱帯夜がないんだ。』と今更ながら感じた。 寛二「さあ、晩飯にしよう。」

 

   6

 

淳平は、寝床を作り終わり、本宅に入っていくと、寛二と奈美、そして割烹着姿の女性がいた。寛二の奥さんであろう・・・ 寛二「ああ・・・女房は初顔合わせだな。ミネだ・・・この男は働いて貰う、叶淳平君。」 ミネ「よろしくお願いします。」 淳平「こちらこそ、よろしくお願いします。」

丸いちゃぶ台の所から少し離したところに、50センチ四方のお膳が置いてあった。 ご飯に味噌汁、たくあんとメザシ2尾のみの質素な夕食だった。 寛二一家も同じ・・・正直淳平はがっかりした。

みんな、一言も喋らず、黙々と食べている。 テレビなんて、この時代にあるわけないし・・・

食後、お茶を飲みながら、寛二が話しかけてきた。 寛二「淳平君は、○○大学理工学部に行っていると言ってたな~~何処にあるんだ?その学校・・」 淳平「はあ・・・なんと言ったら・・・」 この時代、まだ創設されていない学校をどう説明できるだろう・・・困ってしまった。 寛二「嘘か?」 淳平「・・・嘘ではないのですが・・・まだ・・・学校が出来ていない・・・」 寛二「???どういうことだ?」 淳平「話しても・・・理解できないのでは・・・」 寛二「何!!本官を侮辱するのか?一番厳しい巡査教習所を主席で卒業したのだぞ!」 側で奈美も、興味津々という顔で聞いていた。 淳平は徐に「物理学で言う、相対性理論を研究していました。アインシュタインの唱えた理論です。時空間は連続した流れで・・・そこに慣性力などを発生させると、時間に遅れが出る・・・ゆえにその法則を・・・」 寛二「おい!!待て待て!!判らん・・・」 淳平「はあ~~すみません。」 寛二は奇妙な物を見る目つきになった。 奈美が静かに口を挟んだ。 奈美「アインシュタイン博士の著書・・・もう読まれたのですか?まだ翻訳が出来上がっていないと言われていますが。」 淳平「奈美さん、ご存じですか~~(笑)」 奈美「わたくし、物理に興味がありまして・・・でも、先ほどのお話聞いて、わたくしも、全然判りませんでした・・・」 寛二「要するに・・・どういう事なんだ?」 淳平「・・・雷が落ちて・・・気付いたら・・・私も訳がわかりません・・・」と誤魔化した。 寛二・奈美「???」

ミネ「さあさあ・・・難しい話はその辺で・・・お疲れのようですから、休みましょう・・・」と助け船が出たことで、別棟に引き上げた。

 

   7

 

何処でも寝られる淳平だが、流石に物置は寝られない・・・ 夜中にゴソゴソと物音がして・・・ 東の空が明るくなったのと同時に、マシーンの様子を見に行った。

マシーンは、無事で同じ所にあった。 メインのスイッチを入れてみる、赤のパイロットランプは相変わらず点滅状態。 完全充電は1万キロワットまで、計算上ではフル充電で1回飛べるはず・・・ しかし、1万キロワットは、一般家庭で、月約300キロワットだから・・・33ヶ月分・・・3年弱の使用量だ。 その電力を、どう作り出そうか思い悩む。 この時代、電気はあるものの使用量は少ないはず。 とりあえず、間借りをしている物置に運ぼうと思いついた。 派出所までは、そんなに距離がない。 淳平の居た、大学の敷地内に入ってしまうと予測。 あの派出所は、戦後無くなってしまうのだな~~と、哀愁を感じた。 淳平『吉本家はどうなってしまうのだろう・・・』

派出所に戻ってくると、寛二巡査部長が自転車に乗るところだった。 寛二「何処へ、行っていた!?」 淳平「朝の、ランニングです。」 寛二「らん・・・なに?」 淳平はハッと気づき「いえ・・・走ってきたのです・・・」 寛二「走ってきた?こんな朝早く?・・・」 淳平「ええ、持久力付けるため、長い距離を走るのです。日課としていました。」 寛二「物好きじゃの~~一日仕事になるまいに・・・」 淳平「・・・大丈夫です、こう見えても体力ありますから・・・どちらへ?」 寛二「本署じゃよ・・・朝の連絡に行ってくる。」 淳平「お疲れ様です。」 寛二「うむ!」と言って、出掛けていった。 淳平「さてと・・・植木の剪定を涼しいうちにやっておいてと・・・物置に何かあるかな?」

植木を剪定していると、ミネが出てきて「そこ・・・もう少し刈って、その木はあまり刈らないで・・・丸くね」と指示が出た。 淳平「了解(笑)」 ミネ「サッパリしたわ~~若いのに植木の手入れも上手いのね~~」 淳平「いえいえ・・・見よう見まねです・・・」 大学構内には、よく植木職人が入って作業しているし、バイトでもやったことがあったのだ。 ミネ「ご謙遜を~~(笑)」 淳平「あの~~、物置の中も、少し整理します。・・・板とか鉄板があるみたいですけど・・・使って良いですか?」 ミネ「良いけど・・・どうするの?」 淳平「遊びです・・・何か作って見たいな~~と思いまして・・・(笑)」 ミネ「良いわよ、どうせガラクタばかりだけど」

淳平は、物置が宝の山のように感じた。 工具も、代用できそうなものも揃っている。 そして、隅の方にリヤカーがあった。 マシーンを運び込むのに丁度良い。

 

   8

 

淳平は、鉄板と木材で発電器を作ろうとしていた。 そう思い付いたのは、銅線が沢山あったからである。 ただ、動力源をどうしようか悩む・・・ 淳平『発動機・・・この時代にあるかも知れないけど、一般家庭には無いだろうな~物置にもそれらしき物はない・・・風力しかないか・・・夏場で風もないからな~~気休め程度の電気量だけど・・・台風の一つも来れば・・・稼げる・・・ケースは、板で良いだろう・・・コイルには鉄板だな~~』そこでハタと困った。磁石がない・・・

そこに、高等女学校から帰ってきた奈美が顔を出した。 奈美「淳平さん?・・・何をしているの?」 淳平「あっ、お帰りなさい。」 奈美「鉄板?・・・何か作るの?」と、途端に破顔になった。興味津々という表情・・・ 淳平「うん・・・ちょっと・・・」と言葉を濁した。 派出所の事務机に座っている寛二から丸見えだからだ。 奈美は、父が見ていることも意にかえさず・・・「手伝わせて~~物作り、大好き。」 淳平「あの・・・その・・・」とチラチラと寛二を気にした。

淳平「奈美さんは、フレミングの右手の法則・・・ご存じですか?」 奈美「勿論!(笑)・・・こう見えても、物理大好きですから~~」 淳平「それなら話が早い。発電機を作ろうと思って・・・」 奈美「発電機?・・・発電所にあるような・・・大きな物?」と言葉を発しビックリしている。 淳平「いやいや、そんなに大きくはない・・・」 奈美「ここにある材料で・・・できるの??」 淳平「一つ足りない・・・永久磁石が。」 奈美「棒磁石なら何本か持っているわ。」 淳平「えっ有り難い・・・貸してくれますか?」 奈美「今持ってくる~~」

奈美と入れ替わりに、寛二が首を出した。 寛二「なんか・・・奈美が嬉しそうにしていたけど・・・変なことするなよ!」 淳平「ハイ・・・判っています・・・」 寛二「何を作ろうとしているのだ?」 淳平「風の力を利用して・・・電気を作り出そうと思っています。」 寛二「ほぅ~~そんなこと出来るのかい?」 淳平「物理学専門ですので・・・(笑)」 寛二「まぁ・・・良いだろう。明日、屋根を見ておいてくれないか?この前、雨漏りがしていた。」 淳平「判りました。」

 

   9

 

淳平は夜遅くまで作業したいのだが、居候の身、何時までも白熱灯を点けておく訳にもいかず、眠れぬ時間をもてあましていた。 徐に、リヤカーを引き出してくる。 マシーンを運ぼうと思ったからだ。

昼間、油を差しておいて良かった。 滑らかに、動き出す・・・。 マシーンに近づいていくと、黒い人影が見えた。 盛んにマシーンを持ち上げようとしている。

淳平「何をしている!!私の物だぞ!!」 走り寄ると、顔が判別できた。 淳平「あっ、お前はあの時の!!」 逃げようとする男を捕まえる。 青年「な・なんだよ~~俺が見つけたんだ~~離せよ~~~」 淳平「この機械は、私の所有物だ。そして、一人では運べない100㎏あるから・・・」 青年「100キロ・・・って?」 淳平「ああ・・そうか~~キログラムという単位は、まだ使われてなかったか~~尺貫法だと・・・26貫目位かな~~」 青年「26貫・・・」と、絶句している。 淳平「お前・・・先日、襲った女性・・・誰だか知っていてやったのか?」 青年は、首を左右に振った。 淳平「巡査の娘さんだ!」 青年「えっ!」と言った瞬間、ブルブル震えだした。 淳平「あの後、直ぐに父親の巡査が通った・・・見つかっていたら・・・大変なことになっていたぞ。」 青年「か・堪忍して下さい・・・」 淳平「ふふっ安心しな、娘さんも言ってはいないし、私も言うつもりはない。」 青年「・・・」 淳平「ただ・・・ちょっと手を貸してくれ、そこのリヤカーに機械を積み込む。」 青年は、渋々手伝った。 淳平「名前・・・なんという?」 青年「・・・」 淳平「言いたくない・・・ふふっ、まあいいだろう・・・悪い事するなよ!まじめに勉強しろよ!」と解放してあげた。

リヤカーを引き始めて間もなく、軽くなった。 振り返ると、先ほどの青年が後ろから押していた。 青年「あの~、その機械に興味があるので・・・」 淳平「触ったのか?!」 青年「小窓の中に・・・色々なものが付いているので・・・いや、触れてはいません・・・」 淳平「まあ・・・いい・・・説明しても理解が出来ないだろう・・・」 青年「あの・・・自己紹介します。僕、林和夫といいます。18歳です。あの子・・・に、一目惚れして・・・声をかけたんだけど・・・無視されたから・・・」 淳平「馬鹿なことを・・・余計嫌われる。」 和夫「ハイ・・・面目ない・・・」 淳平「判った、じゃ・・・家に帰りな。」 和夫「・・・」 淳平「どうした?両親が心配してるだろ!」 和夫「親・・・居ません・・・○○家に奉公しています。」 淳平は、奉公という言葉が理解できなかった。

 

   10

 

数日後、チョコチョコ和夫は遠巻きながら姿を見せる。 奈美が帰ってくると、姿を消す・・・ ただ単に、物陰に隠れているだけだが・・・夜になって手伝ってくれるのだ。 昼間は、奈美が銅線を一生懸命に巻き付けてコイル作りを手伝ってくれている。 淳平はと言うと、材木を削りだしプロペラ作り。 もう少しで完成だ、後は組み立てと物置の屋根に設置する。 銅線でマシーンの充電器に繋げば、終わりである。

寛二巡査も最近は安心したのか、こちらを向いていない。 寛二は、古い電話機で何か受け答えしている。 古いと言っても、この時代では画期的な物だが・・・ それを見るともなしに、伺っていると、寛二はアタフタと奥に入っていき、再び姿を現した。 どうも、本署からの呼び出しらしい。 淳平「どちらへ?」 寛二「本署じゃよ!、暫く帰れないかも知れない・・・淳平君!留守中・・・頼む!」 淳平「判りましたが・・・何か事件ですか?」 寛二「・・・うん・・・」と暫く考えて「首相が急死したのじゃよ・・・新たな政権が出来るまで警戒に入る。」 淳平「大変ですね・・・家の方は任して下さい。」 寛二「頼む!」といって、自転車で走り去っていた。

奈美「何かあったの?」 淳平「首相が急死したんだって・・・今の首相・・・誰?」 奈美「加藤友三郎首相・・・」 淳平「知らないな・・・」 奈美「えっ・・・知らないの?誰でも知っているわよ。」 淳平「そんなこと言ったって・・・私は、この時代の人間でないから・・・あっ!」 奈美「あ!・・・」 淳平『しまった~~口が滑った・・』

奈美「この時代の人じゃないって・・・どういう事?」 淳平「あの・・その・・」 そこに、物陰に隠れていた林和夫が顔を出した。 和夫「僕も知りたいです、あの機械に関係があるのですか?」 奈美「あっ、あなたは!」 和夫「ごめんなさい。あまりにも素敵な人だったので・・・もうしませんから・・・」 奈美「もうひとりの人は?」 和夫「友達・・・でも・・・田舎に帰った・・・」 淳平「奈美さん、こいつの言い分は、声を掛けたら無視されたと、言っているのですが・・・ほんとですか?」 奈美「はい、そうです。異性と立ち話をしているのを誰かに見られると・・・ふしだらと思われてしまいますもの・・・」 淳平は、信じられなかった「そんなの・・私の所では普通だよ、男と女・・・普通に話しているから・・かえって女性の方が強いかな~~ガハハハハッ(爆)」 奈美と和夫に睨まれていることに気付き、笑いを収めた。

 

   11

 

淳平は、若い二人なら何とか理解してもらえるのではと考え、話し出した。

淳平・・・ ===そこにある、機械・・・タイムマシーンなんだ。タイムマシーン・・・判る?何となく言葉はわかるみたいだね。要するに時間転移装置とでも言うか~~理論だけで私が作り上げた物なんだ。まだ実験もしていない。いやいやここにいると言うことは、成果が出たと言うことだね。(笑)・・・ああそうそう・・・私がいた年代を教えておこう・・・今から86年先の未来、西暦2009年7月5日、年号は「平成」と言い21年にもなる。今の「大正」のあと「昭和」というのが64年あった。この辺一体が○○大学の敷地内だった。そこに在学中の私が、このマシーンの研究をしていたんだ。みんなは夢みたいな無駄なことをと言われていた。自分もいつの間にか不可能なのかと思い始めた時、近くで落雷が発生、1万キロワット以上の電力がマシーンに流れ込んだと思われる。気付いたら・・・ここにいたわけだから・・・凄い物を作ってしまったんだね~~~とにかく、マシーンに電気を充電しなければならない、何時かは元の時間に帰りたいから・・・===

奈美と和夫は、面食らったような表情をしていた。 奈美「淳平さん・・・は、遠い人だったのですね・・・」となんか寂しそうに言う。 淳平「そんなことない、同じ日本人だもの・・・助け合わなくてはね。」 和夫「僕は、機械物が好きなんだ・・・親が居なくて勉強できなかったけど・・・ものすごく興味がある・・・」 淳平「そうか・・・可能な限り・・・教えてあげよう・・」 奈美「淳平さん?帰れるアテは?」 淳平「ない。この風力発電機でどれほど電気が溜まるか・・・」 奈美「家の電気を、使っても良いのよ・・・」 淳平「奈美さん有り難う・・・この時代の電力事情・・・ある程度判っているつもりだ・・・何年かかるか判らない・・・いや・・・雷の電力があればだが・・・雷は何処に落ちるか判らないしね・・・」

数日後、風力発電機も備え付けが終わり、マシーンに充電中。 充電表示ランプは点灯している物の、目盛りは一つも点いていない、想像通りだ。 そして、首相急死後、派出所近辺も何か騒がしい・・・治安が落ちているのだろうか・・・ 淳平と和夫で交代しながら、受付に座る。 男が居るだけで、少しは抑止が働くのだろう・・・ まして、淳平は180センチの長身だ、立ち上がって対応すれば村人が威圧されて、すごすご帰って行く。

 

・・・・・

 

今日は朝から、暑い日差し・・・そよりとも風が吹かない・・・ 和夫は、奉公に行っている家に顔を出してくると、出掛けていった。 淳平は、派出所の机に座り・・・気になっている充電率の計算をしていた。 奥からは、奈美とミネの会話が微かに聞こえてくる。 お昼は、卵焼きか~~と臭いで判り、お腹の虫が鳴った。 平和だな~~と感じていた淳平。その耳朶に「ゴ~~~」という地鳴りのような音を聞いた。

淳平は弾き飛ばされた。 淳平『何?』 建物がきしみ、ガラガラと柱や梁が落ちてくる・・・ 淳平はその時、気付いた。 今日は大正12年9月1日・・・

 

   12

 

淳平は、机の下の空間にいた。 咄嗟に潜り込んだのである。 しかし真っ暗だ。 淳平『閉じ込められた!!奈美さん達は?』 淳平は大声で「奈美さ~~ん!!大丈夫か~~」 微かな声で・・・奈美「何とか・・・でも動けない・・・助けて~~~」 淳平「私も・・・建物の下で、動けない・・・それより火は?」 奈美「消火砂をかけて消したわ・・・父に口五月蠅く言われていたから・・・」 淳平「ミネさんは?~~~」 奈美「側にいるけど・・・意識ないみたい・・・」 淳平「呼吸している?」 奈美「息はしてる・・・」 淳平「もう少し、辛抱して~~~何とか脱出するから。・・・」

淳平は、全身の力を振り絞る。 塞いでいる、柱が少しだけ動いた。 外の光が差し込んでくる、微かな隙間が出来たのだ。 その時、和夫の声がした。 和夫「奈美さ~~ん、何処だ~~っ」 奈美「和夫さ~~ん、炊事場付近・・・」 和夫「待ってろ~~~いま、助けてあげる。」 板を剥がすような音が聞こえてきた。 和夫が悪戦苦闘している状況が伝わってくる。 淳平も一つ一つ、柱や板を移動させる・・・しかし太い梁がビクともしない。

また大きな余震が来る。 奈美「きゃ~~~助けて~~~」 淳平・和夫「奈美さ~~ん!!大丈夫~~っ?」 淳平「和夫君~~、物置に大きな釘抜きがあったはずだ!」 和夫「淳平さん、何処にいるのですか?」 淳平「派出所事務室の中・・私は、後で良い、早く奈美さん達を助けてあげてくれ!!ノコギリもあったはずだ!」 和夫「判りました」

淳平は、物置も心配だった。 マシーンは、特殊合金で出来ているから、滅多なことでは壊れない。 それより、風力発電機が心配だった。

メリメリという音や、ギコギコとノコギリをひく音が聞こえてくる。 淳平は、手を拱いて居るのが悔しかった。 どのくらい時間が過ぎたであろう。 和夫の声で「奈美さん、無事で良かった~~~」奈美「和夫さん、有り難う・・・怖かった~~お母さん?お母さん!!気付いた?良かった~~~」という、話し声が聞こえてきて、淳平は安心した。 そのうちに、側でもノコギリをひく音が聞こえてきた。

 

   13

 

夜、淳平のねぐらの物置が奈美とミネの寝床になった。 取りあえず、みんなが寝られるよう物置を片づけるまで、淳平と和夫は外で寝る。 都心の方から・・・異様な喧噪が流れてくる。 昼間は、黒い煙が立ち上っていたが・・・ 夜望むと・・・真っ赤であった・・・そして静かな環境なため、得体の知れない叫びが反響して聞こえてくるのである。 武者震いとは異質な脅え・・・淳平は胸が締め付けられる思いである・・・

奈美「淳平さん・・・眠れないのですか?」 淳平「う・・・ん・・・見てごらん、空が真っ赤だ・・・沢山の人が犠牲になっているんだよ。」 奈美「淳平さんは・・・優しいのね・・・」 淳平の瞳は、濡れていた。 淳平「これも歴史の一コマ・・・私にはどうすることも出来ない・・・何か事を起こすと・・・未来に甚大な影響が出ると思う・・・今回だって、歴史は私に何もさせてくれなかった。一番大切な時に・・・結果的にどういう流れで和夫君が登場し・・・奈美さんとお母さんを助けたのか、知るよしもないが・・・それは絶対の真実・・・私は居ても居なくても・・・その事実は変わらない・・・」 奈美「淳平さん・・・」

二人は、お互いの瞳を見つめ合った。 目を逸らしたのは、淳平であった。 奈美「淳平さん・・・」という言葉が少し震えていた・・・ 淳平「辛い・・・帰りたい・・・平和だった時に・・・」 奈美「・・・」 淳平「都心では・・・何万人という犠牲者が出たと伝えられている・・・こんな辛い時代に来るなんて・・・これからだって・・・もっと辛いことが・・」

奈美「意気地なし!!」と突然、言われて面食らった。 奈美「未来の男は、そんなに軟弱なの?女々しいよ~~~私は負けない!!」と言って、物置に走り込んで行った。 淳平はポツリと「奈美さんを・・・好きになったんだ・・・でも・・・助けたくても・・・どうしようもなかった・・・」

 

   14

 

深夜、雨粒が顔に当たるので目覚めた。 どす黒い雲が空を覆っていて、所々光った。 淳平は、ハッと気付く・・・都心の方を見ると・・・火災による上昇気流が積乱雲を作り出していた。 益々激しくなる雷雨に、物置に避難する。 奈美もミネも・・・横になっているが起きていた。 奈美「淳平さん・・・雷です・・・」 和夫「好機(チャンス)ですね・・・」 淳平は、複雑だ・・・可能性はあるのだが・・・もう少し奈美の側にいたいという気持ちもあるし、母屋の片付けもしなくてはならない・・・ 淳平「・・・今日・・・東京都に・・・いや今は東京市でしたね・・・戒厳令が発令されます。お父さんの寛二巡査部長は、また暫く帰れないでしょう・・・戒厳令・・・とは、どういう物なのか、私には判りませんが・・・」 奈美「戒厳令ですか?・・・それは、軍隊の統治下になるということです。」 淳平「軍隊ですか・・・」 淳平には、軍隊というものがイメージ出来ない・・・自衛隊に近い物と言うのは判るが・・・ 奈美「また、先の戦争のようにならなければいいのですが・・・」 淳平「戦争?第一次世界大戦のことですよね。」 奈美「そうです。父は警察官だったので出兵はしませんでしたが・・・」 淳平「その戦争で、国連理事国入りしたと言うことしか知りません・・・」 奈美「そうです。」

その時、ピカッと光った瞬間、ドカーンと来た。 奈美「きゃ~~~っ」と淳平にしがみついてくる・・・和夫は微妙な顔をしている。 淳平は、マシーンが消えていないか気になっていた。 奈美「淳平さん・・・マシーンの所に、居ないと・・・」 淳平は躊躇している。 和夫「・・・後は、僕に任してください。」 奈美「淳平さん!!早く!」 淳平「・・・」 奈美「淳平さんの生活は未来にあります。ここに居てはいけないのです。私たちのことは心配いりません・・・さあ・・・」と、気持ちの整理が出来たという表情で言った。 淳平「うん・・・」徐にマシンに腰掛け、出発時間を確認、その時間に飛ぶようにセットした。

それから、2回、落雷があった。 しかし、変化はない・・・ 淳平「上手く、落ちてくれないようだ・・・やはり駄目か・・・」と立ち上がりかけた時、3度目の落雷・・途端に周囲が真っ白になった。

 

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奈美とミネ・和夫は見た。横から地面を這ってくる稲妻を・・・ マシーンに吸い込まれた瞬間、淳平もろとも消えていった。 奈美「淳平さん・・・さようなら・・・忘れません・・・」

 

   15

 

淳平は、気を失っていた。 前回、タイムスリップした時より何倍も衝撃があった。 その威力で、飛ばされていたのだから。

どのくらい、時間が経っているのだろう・・・ 腕を、掴まれ盛んに引きずられている。 「淳平さん!!気付いて!!マシーンが爆発する!!」 淳平は、気付いた・・・ マシーンは真っ赤になっていて煙を出している・・・ 淳平「はっ、危ない!!」と立ち上がるとともに、手を引っ張っていた人を庇うように回転レシーブし離れた瞬間・・・マシーンは大音響とともに爆発した。

マシーンの破片が、バラバラと淳平の背に落ちてくる。 淳平「アチチチチ・・・」と飛び上がり、慌ててTシャツを脱ぐ。 側にいた女性が、再び手を引いて表に連れだし・・・水道水を背中にかけてくれた。 ダッダッダッと数人が走って来る。 「大丈夫か~~」 「大丈夫・・・講堂の中の・・・火を消してください!」

淳平「奈美さん・・・冷たい・・・」 「奈美?・・・私は奈緒!奈美ではないわ!」 淳平「えっ」と、その女性をしげしげと見た。 淳平「いや、服とか違うけど・・・奈美さんだ・・」 奈緒「・・・奈美は私の曾祖母よ・・・この時間にここに来るよう言われて待っていたの。」 淳平「???」 奈緒「兎に角・・・学長室に・・・裸ではなんですから・・・」 淳平「学長室?」

淳平「な・奈緒さん?・・・今、何年ですか?」タイムスリップしたことが何となく判ったので、尋ねてみた。 奈緒「平成21年7月5日、淳平さんが落雷とともに・・・タイムスリップして行った日よ。ちゃんと戻ってきたの・・・」 淳平「どうしてそのことを・・・」 奈緒「奈美お婆さまから聞いたの。」 淳平「!!?」

学長室には、○○大学の林和之学長が待っていた。 林和之「戻ったね(笑)」 淳平はポカンとしていた。 奈緒「お爺さま、マシーンが壊れてしまいました。」 和之「まあ・・・いい・・・淳平君が無事なら。さあ、早くこれを着て!急いでくれ!」とシャツを用意した。 淳平は、何が何だか判らないが・・・目の隅に記憶ある物が飾られているのに気付いた。 和之「これか?君が作った物ではないか~~(笑)」 そう、淳平と奈美・和夫三人が作った、風力発電機が飾られていた。

 

   16

 

学長専用車に乗せられた淳平・・・気になったことを奈緒に尋ねた。 淳平「奈緒さん・・・学長さんをお爺さまと呼んでいたけど・・・林・・・って?」 奈緒「うん、私の名は林奈緒・・・曾お婆さまの名も林・・奈美・・・これで判ってもらえる?」 淳平「そうか・・・和夫君は・・・林という名字だった・・・一緒になったんだね・・・」 奈緒「そうよ。」 林和之学長「和夫と奈美は、私の両親だ。」 奈緒「そして、奈美お婆さまは・・・今でも健在。」 淳平「えっ・・・」 和之「これから、淳平君に会ってもらうため、連れ出した。会いたいという母の希望なのだ・・・」 淳平「ちょっ・ちょっと待ってください・・・健在だとすると・・・100・・・」 奈緒「そうよ、104歳になるわ(笑)」

淳平は、複雑であった・・・18歳の若く美しい奈美しか知らない・・・ 淳平は心の中で『ひぇ~~・・・会って、どんな顔をすりゃいいんだよ・・・』

和之「母は立派だった・・・戦後・・・この大学創立の土台を作り上げたのだから・・・しかし父は太平洋戦争で・・・戦死と伝えられている・・・私は物心ついていなかったから、顔も知らない・・・母一人で頑張った。その意志を継いだのが私だ。何とか創立できて良かった。創立しないと淳平君も登場しないからね~~責任重大だったよ・・・ふふふっ」 淳平は、歴史の重みを痛感して胸が痛んだ・・・『奈美さんは、どんな苦労をしたのだろう』と、タイムマシーンなんて作り上げたのを後悔し始めた。 淳平「大変なことを・・・しでかした・・・」 和之「ん??なんでそう思う?」 淳平「奈美さん達の、人生を・・・ねじ曲げて苦労させてしまったのだろうかと・・・」 和之「それは違うな~~君がタイムマシーンを作り上げたこと・・・両親に出逢ったこと・・・そして母が大学を創立しようと考えたこと、すべて歴史の流れなんだ!!」 淳平は、それを聞いて「ハッ」としたし、肩の力が抜けていくのが感じられた。 すべては、歴史に組み込まれていた。 しかし、淳平の脳裏に、もやもやした物がある・・・なんだろう・・・

歴史、それは流れてきた時間の証明でもある。 マシーンも壊れる定め、奈美との出会いも定め、奈美と再会するのも定めなんだと、ようやく気付いた。

 

   エピローグ

 

淳平は、何故か不安を禁じ得ない・・・なんなのだこの胸騒ぎは・・・ 何か、大切な物が抜け落ちているような・・・

大きな屋敷の奥まった部屋・・・ 重々しいドアが開けられた。 ほぼ中央に、車いすに腰掛けた老婆が待っていた。 和之「お母様、お連れしました。」 奈美「・・・淳平さん・・・」と嗄れた声・・・ 薄くなった白髪がストレートに襟元まで伸びていて、良く梳かされている。 姿勢が良く、顔も沢山の皺があるが小作り・・・眼光はキラキラ光って鋭かった・・・とても104歳には見えない・・・

奈美「和之・奈緒・・・2人だけにしてください・・・」 退席した2人を見届けて・・・ 奈美「淳平さん・・・お懐かしい・・・こちらへ・・・」 淳平の手を握る奈美。 奈美「あなたは、未だこんなに若い・・・」 奈美は、嫉妬のような表情を浮かべた。 淳平は、また後悔した。タイムマシーンを作り上げたのが間違いだったと・・・ 淳平「奈美さん・・・ごめんなさい・・・震災で大変な時に、帰って来てしまって・・・」 奈美「おや?覚えていないの?」 淳平「???」 奈美「震災の時は・・・離れたところに落雷したので、パワーが少なかったと、仰ってたじゃない・・・」 淳平「えっ!・・・」 奈美「昭和10年に、降り立ってしまったのですよ・・・私は30歳でした。」 淳平「お・・・覚えていない・・・」 奈美「あなたは、マシーンの不具合もあるからと・・・一生懸命修理しました・・・物がない時代でしたから・・・3ヶ月かかりましたよ。」 淳平「・・・」 奈美「やはり・・・記憶が飛んだのですね・・・昭和10年の時の雷は10mと離れていない所に落ちたんで・・・」 淳平「そうか~~至近距離だと・・・人体に与える衝撃も計り知れない・・・」 奈美「でも、無事に帰って来られた・・・」

淳平は、震災時の記憶はあるのに、昭和10年の時の記憶だけが無いなんて・・・ そして、未だ収まらない胸騒ぎ・・・

奈美は、淳平の手を握ったまま、淳平の心を見透かすかのように見つめている。 奈美「思い出さないみたいね。」 淳平「・・・」 奈美「和夫さん・・・戦死ではないの・・・」 淳平「?!」 奈美「妻の不貞を知って、身を引いたのよ。故郷・満州に帰っていった。」 淳平「えっ!和夫君・・・満州人だったのですか?」 奈美「そのことは、あなたも知っているはず・・・」 淳平「?!」 奈美「あなたは、頭脳明晰・スポーツ万能で体力があった・・・私が止めなかったら、あなたは殺人者になっていたでしょう・・・」 淳平「お・・・思い出した・・・」打ちのめされて倒れている和夫の姿が蘇ってきた。 ショックであった。

奈美「震災のあった年、初めてあなたにお会いして・・・それが昭和10年にまた再会したものだから・・・私も30とは言え若かったので、あなたに夢中になりました。・・・」 淳平「そうだった・・・和夫君は大怪我をして・・・恨んでいるだろうな~~」 奈美「あなたは、私を守る為だったのに・・・自分の取った行動を最後まで悔やんでいた・・・和夫さんは、私を殺そうとしたのですよ。正当防衛です。」 淳平「理由はどうあれ・・・人を傷付けたことに変わりはない・・・」 奈美「優しいのね・・・出発間際まで悔やんでいました。」 淳平「・・・そのことを伝えるために、ここへ呼んだのですか?」 奈美「そのこともありますし、私の愛した人ですから・・・死ぬ前にもう一度会いたくて・・・」 淳平「そんな・・・」記憶がないままにして欲しかったのにと・・・恨めしく感じた・・・

奈美「和夫さんとの間に、子供が出来なかった・・・」とポツリと呟いた。 淳平は、それを聴いた瞬間、膝が崩れ落ち立っていられなくなった・・・ 奈美「そう・・・曾孫の奈緒を好きになられては困るの・・・それを伝えないことには・・・出来れば・・・この大学から去って欲しいのです。」 淳平「・・・判りました・・・奈緒さんは・・・私の曾孫・・・」 淳平は、タイムマシーンの恐ろしさに、今更ながら脅えていた。

 

<完>

 

==あとがき==

 

皆様、この物語を最後まで読んでいただき感謝申し上げます。 この歴史バージョンでは、タイムトラベルの恐ろしさを表現したかった。 淳平は、頭が良くて体力的にも恵まれ・・・運動神経も良い。 しかし21歳の若者、異性に恋もする。 過去で、事を起こせば・・・甚大な影響が出る。 ましてや、そのことが自分に跳ね返ってくるのです。 もし奈美が生きていなかったら・・・ 奈緒と恋に落ちるのが目に見えている・・・ 苦しむのは・・・奈緒だけではないですね。

 


この本の内容は以上です。


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