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07

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 愛莉さんが金槌を振り回す・・・・
 だんだん大きく長くなっていく鉄槌・・・・
 それと動きも速くなっていく。
 でも、鎧武者は避け続ける・・・・
 それも、かわすとかいうより瞬間移動するっていうのが正確かも・・・・
 消えては他のところに現れる・・・・
 まるで、もぐらたたき・・・・

「すばしいっこいねっ。この魔獣・・・」
「魔獣?」
 マントの男は愛莉さんにたずねる。
「そう、そいつ。逃げ回るしか能がないの?」
「そいつ・・・あぁ・・・黒騎士ランスロットことか?」
「そう、そいつ」
「魔獣ではない。わたしたちは彼のことを魔神とよんでいる。」
「逃げるだけの魔神ね。時間を稼ぐのにちょうどいいわね。」
 挑発する愛莉さん。
 でも、息が上がっている。
「逃げるだけではない。」
 魔神の動きが止まる。
 剣を抜く魔神。
 愛莉さんの挑発成功かも。
 力勝負に持ち込む作戦だ。
 愛莉さんは鉄槌を思いっきり振り下ろす。
 粉砕っ・・・・
 そう見えただけ・・・・
 黒い魔神は剣の切っ先で鉄槌を止めている・・・・
 鉄槌にありったけの力を込める愛莉さん。
 黒騎士は軽々と受け止めてる感じ・・・
 そして、鉄槌に亀裂が走る・・・・
 粉々に砕け散る鉄槌・・・・
 粉砕は愛莉さんの方・・・・
 その場にうずくまる愛莉さん・・・・
 そう、魔獣を壊された魔獣使いと同様に・・・・

「大丈夫?」
 愛莉さんをかばうように立ちはだかる沙耶香さん・・・・
「あんまり、大丈夫じゃない」
「休んでなよ。すぐに片をつけるから」
 そう、ブラックホール・・・
 あれなら、いくら強くても関係ない・・・・

 鞭を振ると黒い空間が現れる・・・・
 バチバチと電気を纏いながら飛ぶ黒い球体・・・・
 でも、あの瞬間移動を捕まえられるの?
 
 わたしの想像に反して、鋼鉄の騎士はじっと動かない・・・・
 剣を構えてブラックホールを待っている・・・

「吸い込んじゃうよ。逃げても無駄だけど」
 鞭を振って左右に球体を揺らせる・・・・
 球体は当たる必要がない。
 近くに届けば、すべてを吸い込んでしまう。
 少しくらい逃げても意味がない。
 それにだんだんと大きくなっていき、吸い込む力は増していく。
 まさに最強無敵の技。

「我らに切れぬものはなし・・・」
 マントの男が言う。
「なに?」
 沙耶香さんの顔に動揺が走る。
 騎士にブラックホールが近づいた瞬間。
 騎士は剣を振り下ろす。
 ブラックホールが真っ二つに割れる・・・・
「友の剣は空間さえ切り裂く。」
 次に左右に払われる剣・・・・
 ブラックホールは4つに裂かれる・・・・
 そのまま空間は閉じていく・・・・
「くっ・・・」
 その場で立ちすくむ沙耶香さん・・・・
 でも立っているのがやっとって感じ・・・・

 強すぎる・・・・
 でも、黒い騎士はそれ以上の深追いはしない・・・・
 愛莉さんと沙耶香さんの前に立ちふさがるだけ・・・・

「まだ、仕事は終わっていない。」

 次はわたし???
 あの黒い玉が通じるの?
 沙耶香さんでも勝てないのに・・・・

「そうですよ。先生。この小娘を捕らえてください。先ほどの謝礼以外にボーナスも払いますから。」
 強い味方を得てテンションがあがるウィザード・・・・

「謝礼?これのことか?」
 懐からお金を取り出すマントの男・・・・
 それを空に投げる・・・・
 風にお札が舞う・・・・

「ふん、しかし、小娘一人だ。わたしが特別に相手をしてやろう」
 宙を指で指す電人桂木・・・・
 それを振り下ろすと、その動きにあわせて雷が落ちる・・・・
 わたしはそれを避ける・・・・
 次のいかづちがわたしを襲う・・・・
 こいつ当てるつもりはないの?
 こんな攻撃でわたしを倒せると思ってるの?
 軽々と雷をよける・・・・
 たぶん、遊んでいるんだ・・・・
 桂木の顔に薄ら笑いさえ浮かんでいる・・・・

 わたしはよけながら光球を呼び出す・・・・
 男が手を振り下ろすと、わたしの出した玉を雷がつつむ・・・・
 こんどの雷はその前と違って持続している。
 光の玉を動かせない・・・・
 あの黒い球も・・・・

「フフフ・・・・まだまだだな。あいつら2人がいないと軽いものだ。」
 こいつこんなに強かったんだ。
 DVDで見たときは単なるやられ役って思ってたけど・・・・
 自分の力のなさがくやしい・・・・

「じゃあ、軽く気絶してもらおうか」
 今度は本気の雷、スピードも半端じゃない・・・・
 だめっ、やられる・・・・
 
 そのとたん黄色い球がわたしの上に飛んでくる・・・・
 雷を受ける黄色い球・・・・
 他の球は野球のボールくらいなのに、
 バスケットボールくらいになってる。

「な・・・なにっ・・・・」
 ウィザードは狂ったようにわたしに雷を落とし続ける・・・・
 それを全部黄色い球が受け止める・・・・
 そのたびに大きくなる球・・・・
 この球は雷を吸収するんだ。

 よしっ、いけるっ・・・
 わたしは立ち上がる・・・・

 そう黄色い球で守りながら、体術で奴を倒す。
 これしかない・・・・
 たぶん、あいつ格闘とか弱いはず。

 わたしは桂木に向かって駆け出す・・・・

「フフ・・・こういうのもあるんだがな」
 男は懐から銃を取り出す・・・・
 うそっ・・・・
 わたしは足を止める・・・・

「手荒なまねはしたくないんだがな。足ぐらいなら打ち抜くぞ。」
 汚い奴・・・・
 その時、心の中で声が聞こえる・・・・
『ぼくを解放して・・・・』
 えっ??????
 誰っ?????
『ぼくを解放して・・・早く・・・』
 頭上で黄色い玉が左右に小さく揺れる。
 あなた・・・なの?
 うなづくように縦に揺れる玉・・・・

「さあ、こっちに来るんだ」
 勝ち誇ったようなウィザード。
「解放?」
『うん、心の中で祈るんだ。魔神トールを解放するって』
「魔神・・・トール・・・・」
「何をごちゃごちゃ言ってるんだ。恐怖で気でもふれたのかなぁ」
 わたしは桂木に向かってゆっくりと歩く。
『わかんない・・・でも・・・・試すくらいなら・・・・心の中で願うだけ・・・』
『うん・・・届いてるよ・・・・』
 わたしの心の声に反応する声。
 わたしはコクンと首を縦に振って微笑む。
 じっとウィザードを見上げる。
『魔神トールを解放する!!』
 黄色い球が弾ける。
 どんな魔神が現れるの?

 目の前に金髪の男の子・・・・・
 10歳くらい・・・・
 この子が????
 想像と違う魔神・・・・

「あとは任せといて」
 男の子は振り向いてウィンクする。
 キレイな顔・・・・
「なんだ。このガキは?」
 ウィザードは目を丸くしている。
「ガキは嫌いなんだよっ」
 すぐに怒りの表情に戻って、雷を男の子に落とす。
 でも、男の子はそれを手のひらで受け止める。
「ふぅん。まあまあじゃん。両手で雷を操れるなんてね」
 余裕の表情・・・・・
「でも、これくらいはしないとね」
 男の子が天を指差す。
 雷鳴・・・・・
 雲が光って、空から本当の雷が落ちる。
 ウィザードに向かって・・・・・
 ウィザードはうろたえて場所を離れる・・・・
 すごい音・・・・
 ウィザードがさっきいた辺りに大きなクレーターができる・・・・
「久しぶりだからね。外しちゃった」
 頭を掻く少年・・・・
「このガキっ」
 拳銃を抜いて男の子に構える。
 あぶないっ。
 雷には強いのかもしれないけど・・・・
 拳銃では。

 銃声・・・・
 
 わたしは男の子に駆け寄る・・・・
 間に合わない・・・・・

 命中する・・・・

 でも男の子は倒れない・・・・

 空間に小さな雷をまとった弾丸が止まっている・・・・

「ぼくにもこれくらいのことできるよ」
 得意そうにわたしを振り返る。
 ほっとするわたし。

 ウィザードは狼狽する。
「こ・・・こいつ・・・邪魔しやがって」
 でも、もう桂木には打つ手がない。
 こいつの技はこれだけ。

 男の子はウィザードを睨んで、天を指差す。
「動いちゃだめだよっ」
 雷鳴・・・・
 そして、空を切り裂くような雷がウィザードに向かう・・・・
 少年の声に直立するウィザード・・・・
 それをかすめるように落ちる雷・・・・
 前髪が燃え眼鏡が弾け飛ぶ・・・・
 後ろに尻餅を付くウィザード・・・・

 それを両脇からスタッフが取り囲む・・・・
 手錠をかけられ、素直にスタッフに従う桂木・・・・

「さてっ。あいつもかたずけるの?」
 わたしを振り向いて男の子はマントの男を指差す。
 片付けるって・・・・
 愛莉さんや沙耶香さんでも歯が立たない人を?
 でも、わかんない・・・・
 どうするかなんて・・・・

 沙耶香さんの方を見る・・・・
 でも、何の指示もしない・・・・

 わたしの方をマントの男が見る・・・・
 なぜか満足そうな笑顔を浮かべて・・・・
 なぜ???

 そして、鎧の騎士と共に消える・・・・
 一瞬で・・・・

「逃げたみたいだね・・・」
 トールがわたしの方を見る・・・・
 サファイアの瞳で・・・・
 そして、わたしはその場に立ち尽くした・・・・
 スタッフに戻るように促されるまで・・・・


08

08
 ワゴンの中・・・・
 もっと張り詰めた空気が流れてるのかなって思っていた。
 でも、普通みたいな雰囲気。
 マントの男に誰一人歯が立たなかった・・・・
 任務は一応成功だけど・・・・
 なんか・・・やったぁ・・って感じはしない・・・
 
 普通に会話する沙耶香さんたち・・・・
 
「何・・考えてるのっ」
 愛莉さんがわたしに話しかける・・・・
 びくっとして現実に戻るわたし・・・

「あぁっ・・・さっきの戦いのこと考えてたなぁ」
 わたしの首に腕を回す・・・・
「えっ・・・うぅん・・・」
「わっかりやすいねっ。この子。でもねっ。あんなの本気だしたら楽勝だよっ」
 負け惜しみ?
「リミッター・・・って知らない?」
 沙耶香さんが笑いながら言う・・・
「リミッター???」
「この子、まだつけられてないみたいだよっ」
「そう、じゃあつけられるかもね」
「うん、最後の技って反則ぽぃもんね」
 どういうこと???
 わたしの頭の周りに?が飛び交う。
「わかんないみたいだから、説明してやりなよ。愛莉」
「うん、わたしたちの力って封印されてるの。
 たとえばね。
 沙耶香さんのブラックホールが美月のボールくらいのスピードだったら?」
「無敵だと思う・・・・」
「そう、でも戦いを見てて面白くないでしょ」
「わたしも・・・そう・・・」
「たぶん・・・スピードが10分の1くらいにされてると思う・・・」
 両腕にはめたシルバーのブレスレットをわたしの前に出す・・・
 沙耶香さんはゴールドのブレスレットをわたしに見せて、ニコッって笑う・・・・
 そういうことかっ・・・・

「でも、それって危険すぎじゃないですか?」
 そう、敵がすごい強かったら・・・・
「そうかもねっ。でも、絶対に負けちゃならないの。わたしたちはラブウィッチーズだからねっ」
「愛莉の言うのも本当。わたしたちは負けられないの。それと、1チームに一人『影』がついてるの」
「わたしも見たことないけどねっ。本当にやばくなったら出てくるらしいよ。それで、半端じゃなく強いって話。でもこのチームにはいらないけど。わたしと沙耶香さんがいるし。美月だってなかなかじゃん。たぶん、最強のユニットだよっ」
 沙耶香さんも微笑みながらうなづく。
 なんか照れくさいっていうか。嬉しい。
 愛莉さんや沙耶香さんに認められたみたいで。
 わたし、このユニットでよかったかも。


09

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 ワゴンは、わたしのマンションにつけられる・・・
 本部横のマンション・・・
 それは私たちの寮となっていた。
 養成所の時と違って個室ですごく広い部屋・・・・
 10階は同期の部屋になっていて・・・
 隣が胡桃、向かいが希美と栞になっていた。

 やっと昨日片付いたばかりの部屋・・・
 長い一日だったデビューと初めての現場・・・・
 部屋に入るとすぐにリビングのソファーに倒れこむ。
 でも、自分が夢にまで見た道の第一歩・・・・
 心地よい疲れかもしれない・・・・
 
 その時、ドアベルが鳴る・・・
 だれっ・・・
 わたしは立ち上がって、キッチンのビデオカメラを見る・・・・
 胡桃が手を振ってるのが見える・・・・

 やっぱり、完全セキュリティのこのマンション・・・
 胡桃くらいしかない・・・・
 話したいことがたくさんあった・・・
 聞きたい事もたくさんある・・・
 わたしがドアを開けると胡桃が飛び込んでくる・・・

 ついでに希美と栞まで入ってくる。
「お菓子もってきたよっ」
 お菓子のいっぱい入ったビニール袋をテーブルに置く。
 希美と栞はジュースを置く。

「どうだった」
「うん、もうクタクタ」
「こっちも・・・・」
「でも、美耶子さんと仕事できるからいいじゃん」
 コップとかお皿とかを用意する。
「でも、完全に体育会系のノリ。挨拶から始まって、今日も顔見世だけかなって思ったら、即トレーニング。それも半端じゃないの」
「うーん、そうなんだ」
 美耶子さんならありそう。でも、もともと体育会のノリの胡桃が音を上げるなんてどういうトレーニングなの?
 わたしはダベってただけだけど、ユニットによって全然違うみたい。

 栞と希美は勝手にテレビをつけて、勝手にネコ型ロボットのアニメのDVDを見ている。
 何しに来たんだ、こいつら。
 2人を見てるだけで、こっちのユニットの雰囲気もわかる。

「美月って、今日は大活躍だったらしいじゃん」
「えっ・・・・」
「メールみたよ。美月って雷を操れるんだ」
 わたしも携帯を見る。
 ビデオ付きのニュース・・・・
 ラブウィッチーズの今日の活動記録・・・・
 ビデオを見ると、ムカデを倒したとき、ウィザードを倒したとき・・・・
 ウィザードの映像を見ると、あの少年は映っていない・・・・
 黄色い光の玉が映っているだけ・・・・
 あの子・・・他の人には見えないの・・・・
 声も入っていない・・・・
「うん・・・まあねっ」
 いくら胡桃でも信じてくれないよ。
 
 栞と希美が口げんかし始める。
 だから、こいつら何をしにきたの?

「優菜はグラビア撮影らしいよ。さっきメールきてたから」
「そうなんだ。」
 グラビア組も忙しいみたい。

「で、なんでみんなこの部屋にきたの?胡桃はわかるけど・・・」
「うん、ここが一番かたずいてそうだから・・・わたしの部屋なんて寝るとこもないし」
「もしかして?こいつらも?」
「そうみたい・・・・」
「・・・・」
「でもさぁ、美月、今度スタッフが来て片付けてくれるらしいし・・・」
 それまで、ここにいるの?
 栞・希美のけんかがエキサイトする。
 どうやら、お菓子の取り合いが原因らしい。
 いつもなら、優菜が彼女たちをまとめてくれるんだけど・・・・

「うるさぁい。けんかやめろぉ!」

 希美と栞が驚いたようにこっちを見る。
 
「いい子ね」
 冷蔵庫から惜しいけどとっておきのプリンを取り出す。
 たしか2個あったはず。
 わたしの大好物なんだけど・・・・
 お皿の上に乗せて、スプーンを添えて、彼女達の前に・・・・

 栞と希美は顔を見合わせる・・・・

「どうぞ・・・」
 大人の笑顔で・・・・
 たぶん、優菜がするみたいな。

 希美は相変わらず無表情で・・・
 栞は満面の笑顔を浮かべて・・・
 お皿を引き寄せる・・・

 まあ、これで大丈夫だろう・・・

 胡桃に向き直って、テーブルに座る・・・・
 わたしたちは、いつものようにとりとめもないおしゃべりを始めた。


10

10
 インターフォンの音で
 朝起きると
 ベットを占領する2人の子供たち・・・・
 胡桃は起きてベランダで筋トレ・・・・
 それを横目に目をこすりながらドアの方へ・・・

 昨日紹介されたマネージャーの小松原さんが立っている・・・
 美那子さんのマネージャーもしてたらしいベテランだ。
 
 わたしは朝食しながら、マネージャーと今日の打ち合わせ・・・
 なんかお仕事してるって感じ・・・
 昨日までと違って、いきなり大人になった気分・・・

 でも、スケジュールもすごい・・・
 もう分刻みって感じで・・・
 
 胡桃や栞・希美のマネージャーもわたしの部屋にくる。
 特に栞・希美のマネージャーは兼任だけど、なんか大変そう。
 しきりにわたしに謝って、
 今日中に2人の部屋をなんとかするらしい。
 どうみても、新人マネージャーって感じ。
 鼻までずれた眼鏡が彼女のあせりを表している。
 大変そう。
 スケジュールを言っても、栞はまだ寝てるし、
 希美は超不機嫌。
 この子の寝起きの悪さは筋金入りって聞いたことある。
 
 胡桃もマネージャーに怒られている。
 昨日、連絡せずに私の部屋に泊まったこと。
 かなり絞られてる。
 やっぱ、体育会系???

 マネージャーに連れられて本部ビルに・・・
 マンションと地下でつながってるから、ジャージ姿で大丈夫。
 マスコミ、ファン対策。
 表に出たら大変なことになるらしい。
 昨日までは普通の女の子だったのに・・・
 
 すれ違うスタッフの人たちと挨拶を交わす。
 わたしもだんだん戦闘モードになる。
 って言っても明るく振舞うだけなんだけど。
 アイドルらしく。

 案内されたお部屋にはいると、もう愛莉さんがいる。
 まだ沙耶香さんはいないけど。

「おはようございます!」
 元気に挨拶する。
「あぁ、おはよう。遅かったじゃん」
「ごめんなさいっ」
 愛莉さんは鏡の前でダンスの練習中。
 しなやかな身体、長い四肢・・・・
 見ていてうっとりするほど・・・・

 とりあえず、ダンスのレッスンだった。
 髪をくくって、
 愛莉さんの横で身体をほぐす・・・

「じゃあ、一緒に、ついてきて。昨日のステージ、間違いだらけだったよ。」
 あっ、ばれてたんだ。
 うまくごまかしたと思ってたのに。
 小さく舌を出す。

「ステップはこう・・・一回しかやんないよ」
 なんかダンスの時の愛莉さんって別人みたい。
 愛莉さんのステップを真似る。
「うん、そんな感じ。じゃあ、最初から。あわせて」
 研修所の時のレッスンと全然違う。
「止めるときはピタッと止めて」
 ちょっと緩慢になりがちなわたしのダンスの弱点を一発で見抜く。
「そうそう。でもそんなに息があがってちゃ。歌えないよ。ちゃんと基礎体力つけてね。」
 一緒に踊ってるのに、愛莉さんは息ひとつ乱れない。
 やっぱ、すごい。

「おはよっ」
 沙也香さんが入ってくる。
「おはようございます!!」
 踊るのをやめて挨拶。
「おっ、やってるねっ。感心・・・感心・・・愛利のいうことちゃんと聞くんだよ」
 私の頭をポンポンって叩く。
「はいっ」
 笑顔になってしまう。
「それから、歌はわたしが見るからね。厳しいよ」
「よろしくお願いします」
 ハスキーな沙也香さんの歌声が大好きだった。
 大人っぽいバラードも。
 わたしも沙也香さんみたいになれるかな。

 踊りの練習が終わったら、
 休憩タイム。
 もう、愛莉さんとおしゃべりができるようになっている。
 この先輩ってほんとうにとっつきやすい。

 もう、汗でベトベト・・・
 でもタオルで拭いて、歌の練習に・・・
 沙也香さんがピアノを奏でる・・・
 愛利さんとわたしは発声練習。
 今夜PVの撮影とかあるっていうし、新曲の練習しておかなくては。
 
 一通り、今日の新曲の練習をする。
 時々はいる沙也香さんの厳しいチェック・・・・
 でも、乗せるのもうまいから乗り切れる。
「美月は歌うまいんだから、基本に忠実にね。くずすのはいくらでもできるからね」
 とりあえず、3回くらいでOKがでる。

「美月、これ、歌ってみない?」
 楽譜が渡される。
「知ってるよね」
 コクンって首を縦に振る。
 うん、わたしの大好きな曲。
 沙也香さんがこの前のアルバムでソロで歌ってた歌。
 よく知ってるイントロが流れる。
 わたしは沙也香さんの目を見て歌い始める。

『この冷たい世界で
 なにができるのかな?
 戦いにあけくれて
 疲れ果て傷ついた心

 この荒れ果てた大地で
 何ができるのかな?
 苦しみもがいても
 明日はかわらないけど』
 
 沙也香さんの目が微笑む。
 そして沙也香さんが歌を重ねる
 
『瓦礫の中に埋もれて
 凍えきったこの身体
 暖めてくれるのは
 あなたの思い出

 あなたと笑ったこと
 あなたとケンカしたこと
 あなたとともに闘ったこと
 あなたとKissしたこと』

「うん いいよ。次のコンサートでやるからね」
 沙也香さんが言う。
「えっ、はい」
「じゃあ、最初からねっ」
 わたしたちは沙也香さんのピアノにあわせて歌の練習を続けた。

11

11
 サインを100枚書いて・・・
 ティーンズ雑誌のインタビュー・・・
 ブログに載せるコメント書いたり・・・・
 気がついたら夕方・・・
 まだスケジュールは終わらない。
 あと、PVの撮影がある。
 愛莉さんによると、NGだらけで日付を超えることもあるらしい。
 やばいっ、わたしってNGメーカーだし。
 でも、胡桃とかと一緒に仕事できるってなんか嬉しい。

 スタジオに行くために外にでたら、
 すごいっ・・・・
 わたしたちに会うためにファンの子がたくさんいて、
 美月って書いたボードとか用意してくれてて・・・・
 一昨日まで、ただの女の子だったのに・・・・
 でも、わたしのファンは男の子が多くて、
 愛莉さんと沙耶香さんは女の子のファンが多い。
 とりあえず、ガードされながら車に乗り込む・・・
 時々手を振ると、ファンの子たちが答えてくれる・・・・
 なんかすごいっ・・・

 それから、スタジオに着くといきなり打ち合わせ・・・
 胡桃としゃべる間もなし。
 美那子さんが歌とダンスの説明をする。
 やっぱ美那子さんってカッコイイ。
 いちファンに戻ってしまう。
 愛莉さんが美那子さんのフォロー。
 ダンスのポイントを解説する。
 やっぱダンスは愛莉さん。
 
 今日のPVは新曲「ロックンロール・ウィッチーズ」って曲
 曲はノリだけで、すごい激しいダンスが売り。
 
「じゃあ、いっぺんやってみようか」
 そのままの服で、みんな自分の位置につく。
 わたしたちは美那子さん、沙耶香さん、麻衣さん、睦美さんを囲むように・・・
 曲が流れたらスタート・・・
 うまくできるかな。
 隣は胡桃・・・・
 目で合図する。
 胡桃もニコって笑う。

 音楽が始まる。
 いきなり激しいんだけど、愛莉さんとの練習のおかげで自然と身体が動く。
 どっちかっていうと胡桃が遅れ気味・・・・
 美那子さんから胡桃にNGがでる。
「すみません!」
 また最初っから。
 3度目でようやくOK。
 
 でも、本番はもっと厳しいらしい。
 カラフルなドレスに着替えて、頭に大きなリボン。
 なんか昔はやった格好らしい。
 胡桃はレザーのホットパンツに白いシャツとレザーのジャケット・・・
 男の子を模した格好・・・・
 みんなどちらかの衣装。

 休憩もなく集められて、リハーサル・・・
 今度のリハは簡単にOKが出ない。
 美那子さんと愛莉さんの怒声が飛ぶ。
 わたしも1度NGを出してしまう。
 みんなの冷たい視線が痛い。
 
 でも、胡桃はもう10回以上NGを出している。
 目が潤んで、すみませんって謝る声が震えている。

「きゅうけーい。一息いれようよっ」
 睦美さんが絶妙のタイミングで声をかける。
「そうだねっ。じゃあ10分休憩っ」
 胡桃が泣き出してしまう。
 胡桃をなぐさめるわたし。
 研修の時は逆だった。
 いつも胡桃に元気づけられていた。

 美那子さんは、沙耶香さん愛莉さんと話をしている。
 時々、こっちを見てるような感じ。
 ちょっと落ち着いた胡桃と2人でダンスの練習をする。
 愛莉さんが近寄ってきて、見てくれる。

「集合っ!」
 美那子さんが手を叩く。
 もう10分たったの?
 わたしたちは美那子さんの前に並ぶ。

「じゃあ、再開っ。それと美月」
 えっ、わたし?
「麻衣と交代」
 麻衣さんと?
 っていうことは・・・・
 真ん中じゃん。
 相手は美那子さん・・・・
 それも、間奏の間ずっとクローズアップされるみたいな・・・・
 よぉし、がんばるぞ。
 こういうときのわたしって案外大胆になる。
「よろしくおねがいします・・・」
 美那子さんの前に行ってあいさつ。
「うん、がんばってねっ」
 美那子さんも笑顔になる。
 胡桃に言わせると、わたしって練習はボロボロでも、本番には強いって・・・
 音楽が始まる・・・・
「カメラを意識してねっ」
 美那子さんが言う。
 夢にまであこがれた美那子さんとの共演・・・
 それが、こんなに早くかなうなんて・・・
 わたしは夢心地の中、音楽にあわせてダンスを続けた。



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