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02

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「おつかれさま~」
 舞台が終わって、楽屋に引き上げる。
 先輩たちは個室だけど、わたしたちは5人一緒。
 出迎えてくれる安城さんにみんなハイタッチを決める。
 もう、喉がカラカラ。
 初めて舞台で歌ったり、踊ったりして、
 緊張の後の脱力感と充実感を感じながら、椅子に身体を沈める。
 みんな思い思いの格好でくつろぐ。

「お疲れ~」

 わたしの頬に冷たいペットボトルが当たる。
 それを手で受け取ると、胡桃が微笑みながらわたしの横の椅子に腰をかける。

「うん、お疲れっ」

 笑顔を返す。
 まぁ、ちょっと間違えたけどまあまあの出来かな。
 水のペットボトルの蓋を回して開け、口をつける。
 おいしいっ。
 胡桃はダンス中心だけど、わたしはソロとかもあるし、歌要員かなっ。
 みんなと比べて戦闘力も劣るし・・・・。
 でも、まあ、あこがれの舞台に立てただけでも満足。

 そう、ずっと、ラブウィチーズのメンバーになることを夢見ていた。
 
 うぅん、それしか夢はなかったのかもれない。

 だって、不思議な力って、フォースって言うんだけど、そんなにいいものじゃない。
 わたしだって、普通に生まれたかった。
 フォースがあるってわかったとたん、化け物扱いされる。
 無理もない。
 切れたら、火の玉を出す子なんて・・
 マジで付き合えないって気持ちわかるから。

 だから、わたしたちはすごい孤独だった。

 その時、テレビ画面に現れたのが、卑弥香さんの率いるラブウィッチーズ・・・
 フォースを持った女の子のグループ・・・・
 ダンスして歌うだけでなく、魔獣退治もする・・・・
 たちまち、彼女たちはテレビ画面を埋め尽くした・・・
 歌番組、トーク番組、ドキュメンタリー・・・・
 出すCDやDVDは全部ミリオンセラー・・・・
 それに、魔獣がらみの事件が増えてきて、東都の治安も担うようになった。
 テレビに出るメンバーだけでなく、たくさんのフォースを持った女の子が集まって・・・
 
 それから、
 いままでみんなにシカトされていたわたしも逆にみんなの羨望の的になった。
 だって、フォースを持ってることがメンバーになる最低条件だから・・・
 
 そして、ラブウィッチーズのメンバーになることだけが、わたしの夢になった。

 わたしたちに他の夢なんてありえないし・・・
 第5期メンバーの美耶子さんの存在がわたしの夢に拍車をかけた。
 わたしと同じにチビで光弾使い・・・・
 卑弥香さんみたいな圧倒的なカリスマじゃないけど・・・
 なんにでも一生懸命で、前向きみたいな感じ・・・
 美耶子さんのDVDを何回もみて、歌もダンスも全部できるようになった・・・
 その夢が叶い、美耶子さんと同じステージに立つことができた。
 美耶子さんがリーダーのラブウィッチーズで・・・・

 あとは、美那子さんのグループに入れれば最高なんだけど・・・・
 ラブウィッチーズは12人の子で構成される。
 コンサートとかレコーディングとかの時はみんな集まるんだけど、
 基本的には3人一組のユニットとなって行動する。
 だから、ウィッチーズは4つのグループに分けられる。
 まあ、希美と栞はお子様グループだし・・・
 優菜はお色気組かなっ・・・・
 美那子さんのグループの可能性があるのは胡桃とわたし・・・・
 でも、あとひとつはバラエティ組・・・・・
 今日、どのグループか決まるんだ・・・・

 とか思ってるうちに。

 美那子さんが部屋に入ってくる・・・・
「お疲れ様です!」
 みんな立ちあがって挨拶をする。
 ここらへんは体育会系のわたしたち・・・・
 上下関係はしっかり教え込まれている・・・
「うん、お疲れっ・・・」
 言いながら美那子さんがこっちに近づいてくる・・・・
 やっぱ美那子さんチーム???
 やさしく微笑む美那子さんにわたしも微笑み返してしまう・・・・
 でも、視線はすぐにわたしから外れる・・・・
「胡桃っ、わたしのユニットだよ。」
 胡桃の緊張した顔が笑顔に変わる。
「えっ、わたし?」
「うん、がんばってねっ。わたしのチーム、案外きついよ。」
「がんばります!よろしくおねがいします。」
 体育会らしく最敬礼。
 よかったね。胡桃っ・・・

 次に入ってきたのは、睦美さん
 わたしより背が小さいけど、23歳。
「おーい!」
 両手を振って・・・・
 わたしたちを注目させる・・・・
 お子様向け番組とかビデオで絶大な人気を誇る・・・
 
 希美と栞の方を向く・・・
 小さいけどすごい迫力・・・・
 やっぱラブウィッチーズのメンバーって違う。
 わたしもあんな風になれるのかなっ。
 あの希美も圧倒されている感じ・・・
「いくよーぉ。栞、希美。」
 栞と希美は顔を見合わせる。
「うん、ついておいでっ」
 駆け足で部屋を出て行く。
 そのあとに2人はつづく。

 あとはわたしと、優菜。
 たぶん優菜はグラビアの仕事が多い麻衣さんのユニットかな?
 スタイルすごくいいし。
 
 そのうち、麻衣さんが入ってくる・・・・
 やっぱり、超華やかなオーラを纏っている。
 優菜に近寄ると2、3言かわして、一緒に出て行く・・・

 わたしだけぽつんって部屋に残った感じになる。

 乱暴にドアが開く・・・・
 立っているのは愛莉さん・・・・
 沙耶香さんのチームの・・・
 天然キャラでクイズ番組とかで活躍している。
 っていっても、クイズが得意っていうんじゃなくて、
 ほとんど正解できないおバカキャラとして。
 沙耶香さんも女王キャラで、
 トーク番組とかで、コメディアンの人たちをびびらせてる。
 研修生の中ではバラエティユニットって言って、いちばん人気のないユニット・・・
 沙耶香さんも厳しいっていうし、愛莉さん以外のメンバーは1期毎に変わっている・・・
 でも、メンバーの中では沙耶香さんが最強って言われている・・・
 あんまり、活躍しているビデオとかないけど・・・

「わたしたちチームだよ。よろしくねっ。」
 わたしの前に来て、手を差し出す・・・・
 テレビで見るより、ずっと美人だ・・・・
「海崎美月です。よろしくお願いします。」
 握手する・・・・
 手が震えそう・・・・
 やっぱ、現役メンバーって迫力が違う・・・
 テレビではボーッとした感じの人だけど・・・・
 それだけでは、ウィッチーズのメンバーにはなれない・・・・
「じゃあ、沙耶香さんのとこに行こうかっ。」
「はい・・・・」
 わたしがうなづくと、愛莉さんはわたしの手をとって歩き出す・・・
 わたしはそれに付き従った。


03

03
「海崎美月です。よろしくお願いします。」
 脚を組んで座ってる沙耶香さんの前で頭を下げる。
 正直言って、恐いくらいの迫力。
 何も言わずに、わたしをじっと見ているだけ。

 愛莉さんは心配そうにわたしと沙耶香さんを交互に見る。
 そういえば、研修の時に聞いた話。
 沙耶香さんに気に入られなかった子。
 3ヶ月で脱退したとか。
 戦いの時助けてもらえず、殉職したとか。
 大丈夫なのかな。

 絶対、ここって場違いな感じするし。

 そして、沙耶香さんが微笑む。
 それにつられてわたしも微笑む。
 ひきつってるけど。

「珍しいわね。普通の子がうちのユニットに来るなんて。」
「わたしも普通だよ。」
 愛莉さんがふくれる。
 一瞬で空気がかわったみたいになる。

「ごめん、ごめん。ここ、バラエティ組だから。」
 沙耶香さんが大きく笑う。
 もしかして思っていたのと違うのかも。
 わたしも、ちょっとリラックスして。
「わたし、沙耶香。一応、このユニットのリーダー。あなたのことは安城から聞いてるわ。よろしくね。」
 ゆっくりと手を差し出す。
 わたしはその手を握って、微笑んだ。
 
 そういえば、沙耶香さんってすごく歌が上手いんだった。
 とくにバラード・・・
 コンサートの中盤にソロで歌うのを何度も聞いたことがある。
 アルバムとかにも必ず一曲は入っている。
 基本的には卑弥香さんが作詞とか作曲とかしてるけど・・・
 沙耶香さんも何曲か書いている。
 そういう人と一緒に仕事できるんだって、
 すごく感動かも。

 それと愛莉さんも・・・・
 バカだとか言われてるけど、踊りとかすごいし・・・・
 すごい綺麗だし、
 あこがれてる友達もたくさんいた。

 だんだん気持ちが切り替わってくるわたし。
 現金なもんだって自分でも思う。

 そのとき、ふいに沙耶香さんの携帯が鳴る。
 題名は思い出せないけど、クラシックの曲。
 髪の毛をかきあげて、携帯を耳に当てる。
「はい・・・・」
 沙耶香さんの声・・・・
 愛利さんとわたしの携帯も鳴る。
 メール着信の音楽。
 もちろん、ラブウィッチーズの新曲。
 まだ、ファンの気分が抜けてないわたし。
 
 携帯を開くと、本部からのメール。
 指令内容が簡潔に書いてある。

『ユニット4出動要請
 夢の原公園
 Enamy 5
 魔獣使い 4
 ウイザート1』

 それからエナミーの詳細が添付してある。

 写真を見ると、
 オタクっっぽい人ばかり。
 その中でウィザードの人。
 ニュースとかで見たことある。
 たしか、雷人 桂木とか言って。
 なんか、ウィッチーズの大ファンで、とくに麻衣さんの。
 会うためにわざと事件を起こしたりしてるって。

「仕事、久しぶりですねっ」
 わたしは緊張してるのに、嬉しそうに言う愛莉先輩・・・
「そうだね。あんまりおよびがかからないよね」
「沙耶香さんがむちゃくちゃするからです」
「いや、愛莉も切れたら何するかわかんないし」
「危険人物ですねっ。わたしたち」

 そういえば、このユニットいちばんやばいって聞いたことある。
 あんま戦闘シーンのDVDとかない・・・・
 確か・・・・
 愛莉さんは大金槌が武器・・・
 沙耶香さんは黒い鞭・・・・
 
「やつら、この前、一般人まきこんでるし。殲滅オッケーだって」
「うんうん」
 嬉しそうに話す先輩たち・・・・
 殲滅って・・・・
「じゃあ、いこっか」
 わたしは立ち上がる先輩たちに付いて部屋を出た。


04

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 エレベーターを降りると大きなワゴン車が止まっている。
 黒にネオン字でラブウィッチーズのロゴが大きく書かれた窓のないワゴン。
 それに乗り込む。
 中に入るとスタイリストとメイクの人・・・・
 てきぱきとわたしたちの衣装やメイクを調える・・・
 そう、わたしたちの戦いはライブと同じ。
 常にビデオで撮影されている。
 そして編集されてDVDとして発売される。

 敵は基本的には捕らえるだけだけど、場合によっては殺してしまうこともある。
 卑弥香さんが国家に認めさせたんだけど、基本的には正当防衛の延長ってことらしい。
 研修所で習ったんだけど、いまいちよくわからない。
 自分の身を守るためなら、相手を殺してしまっても大丈夫ってこと???
 そんな感じだ。

 作戦内容のビデオが流れる。
 基本的には愛莉さんとわたしが魔獣をひきつけて、
 沙耶香さんがウィザードを捕らえるって作戦。
 作戦担当の人がCGを使いながら説明する。
 特にわたしと愛莉さんは敵を公園から出さないことにも注意しなくてはならない。
 一般人に被害がおよばないようにする。
 これが第二の目的。
 それと、ウィザードを捕らえたら魔獣使いは無理に追いかけなくてよい。
 作戦内容を頭に叩き込む。

 その間、愛莉さんと沙耶香さんはずっとしゃべっている。
 画面なんて見ていないし、作戦なんてぜんぜん聞いていない感じ。
 大丈夫なの?この人たち。
 
 ワゴンが止まる。
 目的地に着いたみたい・・・

 スライドドアが開けられ、
 わたしたちは外に飛び出す・・・・

 騒然としている公園・・・・
 何人ものスタッフがあわただしく動き回っている・・・
 カメラの準備をする人・・・・
 敵を食い止めている人・・・・
 スタッフの中にも相当な実力者がいるらしいけど・・・・
 スタッフはみんな同じ制服とヘルメットで、表舞台に出ることはない・・・・

「ご苦労様、あとは任せて・・・」
 沙耶香さんが、敵の前にいるスタッフの肩をポンと叩く。
 そのあとに続く愛莉さん・・・・
 わたしも愛莉さんに並ぶようにして歩く・・・
 戦闘もショーのひとつだって教えられている・・・
 観客はスタッフの張ったロープの外にいる・・・

「我々は刃根麻衣を出すことを要求する。さもないと。ん」
 ハンドマイクでしゃべっている男。
 年齢は30くらい・・・・
 黒いフレームの眼鏡・・・・
 長髪に痩せた身体・・・・
 服もネルシャツに刃根麻衣のTシャツ・・・・
 頭に鉢巻まで巻いている・・・
 漫画に出てくるオタクの典型的なパターン・・・
 こいつがウィザードの桂木だ。

「バラエティチームか・・・わたしが会いたいのはおまえらじゃないんだ・・麻衣ちゃんをだせ。」
 沙耶香さんと愛莉さんを指さす。
「それから・・・あとのは・・・・」
 眼鏡のフレームを持ち上げながら、手帳をめくる・・・・
「新人の海崎美月ちゃんじゃないかぁ」
 眼鏡の奥から細い目でわたしを睨む・・・・
 正直・・・きもい・・・・
 ジロジロと品定めするようにわたしを見る・・・
 やめろっ・・・・
「ハハハ・・・デビュー戦というわけだな。わたしは桜沢美那子のユニットに入ると思っていたのだが・・・」
 わたしも入りたかったよ。
 それから、眼鏡は携帯をいじり始める。

「いいだろう。現在、ラブウィッチーズ新人人気ランキング1位、ラブウッチーズ人気ランキング5位・・・人気急上昇中の新人のデビューだ。思う存分戦ってやろう。」
 サイト見てたの?新人ランキング1位だったの?
 わたしたちの人気投票はネットでリアルタイムに行われている。
 嫌なやつだけど、人気ランキング1位は嬉しい。

「では、先生がた、むちゃくちゃにやっちゃってください。美月ちゃんは捕らえるだけね。」
 闇の中から4人の男が現れる。
 そして、その前に魔獣たち。
 そう、彼らの力だ。
 巨大なカマキリとムカデ・・・・
 ゴリラみたいな獣人。手には剣と楯を持っている。
 あとは西洋の鎧に身を包んだ武者・・・

「べつに俺たちはどうでもいいんだが、雇われた身だからな」
 ひとりの中年男が言う。
「じゃあ、仕事にかかりますか」
 腰を上げる禿げた男・・・・

「傭兵か・・・・」
 携帯にメールが入る。
 チラッと見ると、彼らのことが解析できたみたい・・・
 過去の事件とか細かく書いてあるけど、そんなの見てる暇ない・・・
 とりあえずランクだけ確認・・・
 ランクB・・・・
 ウィザードがランクBだったから・・・・
 魔獣使いとしては強い方だ・・・

「こいつら、強いよ。気を抜くなよ!」
 沙耶香さんが緊張気味に言う・・・・
 戦闘モード・・・・
「うん・・・・」
 沙耶香さんがカマキリに・・・
 ゴリラに愛莉さんが対峙する・・・・

 そしたら・・・・
 わたしは?
 必然的に中央の大ムカデの前に・・・・
 待ってよ・・・
 こんなの・・・・
 わたし・・・虫・・・めっちゃ苦手だし・・・・
 特に足の多いの・・・

 わさわさと動く足を見てるだけで、めまいがする。

 でも、カメラがわたしに構えられると、そんなことは言ってられない・・・
 練習したポーズを作る・・・・
 ロッドで宙に円を描く、7つの色とりどりの玉が現れる。
 上半身を起こして、攻撃の機会をうかがう大ムカデの前に対峙する。
 やっぱ脚が多いのダメェ・・・
 逃げ出したい気分を必死で抑える。

「レインボーシュート!」
 空間に浮いている玉がひとつづつムカデに向かって飛び出す。
 赤・青・黄・橙・紫・緑・ピンク
 そう、玉は弾丸となって敵を襲う。
 それもわたしの思ったとおりの弾道を描く。
 わたしの一番初歩的な技。
 とりあえず、相手を確かめる時にこれを使う。

 でも、小さな玉はすべて弾き飛ばされる。
 ムカデの身体は固い鎧みたいになっているみたい・・・
 なんのダメージも受けずにわたしを見下ろすムカデ・・・・

 そういえば、魔獣学の講義でやったことある。
 昆虫系の魔獣って基本的にAランクに位置づけられる。
 知能以外の部分、動きの早さ・パワーどれをとっても最高の部類に位置する。
 それだけじゃなくて、鈍いところも武器。
 脚の一本くらいとれても、戦闘意欲を失わないらしい。

 最初からこんなのに当たっちゃうなんて。
 それも、わたし虫が苦手だし。
 でも、わたしはラブウィッチーズの一員。
 逃げるわけにはいかない。

 ムカデがいきなり攻撃をしてくる。
 大きな身体を倒して、わたしを押しつぶしにくる。
 速い。
 でも、わたしもスピードには自信がある。
 横転して避ける。

 すぐに次の一撃・・・
 それもよけられる。
 この程度なら大丈夫。
 
 隣では先輩たちの戦いも始まっている。
 足をひっぱるわけにはいかない。
 ぎゅっと唇をかみ締める。

 わたしのまわりを回りだす玉・・・・
 そう必殺技しかない。
「レインボーイリュージョン!」
 そう、玉を刃に変えて切り刻む。
 多分、身体の節の部分は弱いはず。
 
 色とりどりの玉が楕円形の軌跡を残して、ムカデの節にぶつかる・・・・
 そう、シュミレーションではゴーレムでも切り裂いた刃・・・・

 これで終わり。
 わたしはポーズを決める。

 でも、すべての玉ははじき返される。

 どうして?

 一瞬、呆然とする。
 その後ろにムカデのしっぽがわたしを捉えようとしのびよっているのも知らずに。

05

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「なかなかやるわねっ」
 大金槌を肩に担ぐ愛莉さん。
 肩で大きく息をしている。
「まったく、バカのひとつ覚えみたいに。」
 すごいスピードの金槌をすべてかわしきった獣人の後ろで中年の男があきれた表情をする。
「まったく、素早いわねっ。ちょっとは止まりなさいよっ。」
 サロペットの肩紐をひとつ外した服・・・
 あくまで、モデルっぽくアクティブな格好・・・・
 ウィッチーズのファンションリーダー的な存在・・・・
 
 獣人の動くままに金槌を振り回す・・・・
 これじゃあ、いつまでたっても終わらないよ。
 さすがランクB・・・・
 シュミレーションとは全然違う・・・
 
 でも、向こうも踏み出せないのは確か・・・・
 逃げながらも愛莉さんの隙を窺っている。

 男の指示も的確。
 戦い慣れしているって感じだ。
 
 しかし、だんだん表情が険しくなる。
 魔獣の方も、余裕でにげまわっていたのに、ギリギリで避ける程度になる。
 普通、大金槌を振り回しているほうが、つかれるのに・・・
 だんだん、スピードが速くなっていく。
 その上、金槌はだんだん長く大きくなっていくみたい。
 そう、DVDで見たことあるけど、愛莉さんは進化する武器の使い手・・・
 
「悪魔の鉄槌!」
 愛莉さんは、おもいっきり金槌を振り下ろす・・・・
 逃げる魔獣・・・・
 でも、その魔獣を空から大きな鉄の塊が押しつぶした。

「粉砕完了っ」
 愛莉さんはポーズを取る。
 現実の魔獣もコアを潰されれば消える・・・・
 コアどころか身体ごと潰されたって感じだ。
 魔獣は魂みたいに魔獣使いの身体に戻る。

 魔獣を操っていた男はその場に倒れこむ・・・・
 放心状態で・・・
 
 そう、魔獣を壊されても術者は肉体的なダメージは受けない・・・
 でも、精神的に大きなダメージを受ける・・・・
 普通は気絶するらしい・・・・
 男はかろうじて意識を持っている・・・
 でも、身体は動かないみたい・・・・

 サポートの人が彼に集まり手錠を掛け確保する。
 このまま逮捕ってことになるみたい・・・・

 わたしは敵に注意しながら沙耶香さんの方に目をやる・・・・

 大きなカマキリと対峙する沙耶香さん。
 でも、冷たい感じさえする表情もいつものまま・・・・
 長い鞭を自由自在に振る・・・・
 大丈夫・・・・
 沙耶香さんの技ってウィッチーズでも最強だから・・・・
 さっきから鞭を受けてもカマキリはビクともしない・・・・
 まるでハエを追い払うように鎌を動かすだけ・・・・
 そして時々、鋭い動きで鎌を沙耶香さんに振り下ろす・・・・
 ヒラリとかわす沙耶香さん・・・・
 こっちも余裕だ。

「このままじゃ終わらないね。仕方ないわ」
 沙耶香さんが円を描くように鞭を振る・・・・
 そこに黒い玉が生じる・・・・・
 ゆっくりしたスピードでカマキリに向かう・・・・・
 そう、沙耶香さんの必殺技「ブラックホール」・・・・
 周りのなんでも飲み込む空間を作り出す能力。

 だんだん大きくなっていく黒い玉・・・・・
 周りの空間を吸い込んでるんだ・・・・
 その動きにしたがって、地面のものが浮かび上がり吸い込まれていく・・・・
 沙耶香さんは鞭でその動きをコントロールするだけ・・・・
 カマキリの動きが止まる・・・・
 必死で地面を踏みしめ吸い込まれるのを防ぐ・・・・
 でも、もう無理みたい・・・・
 地面から引き剥がされるように巨体が浮き上がる・・・・・
 そのまま、黒い玉に向かって吸い込まれていく・・・・
 信じられないような力・・・・
 直径1メートルくらいの玉に3メートルはある巨大な昆虫が吸い込まれていく・・・・
 そして、後には魔獣をコントロールしていた男だけが残る・・・・
 恐怖の表情で座り込んでいるだけ・・・・
 そう、このまま行けば男まで吸い込んでしまう・・・・
 宇宙空間とつながっているとかいう噂もあるけど・・・・
 吸い込まれたら、たぶん死んでしまう・・・・・

 早く消さないと・・・・
 でも、沙耶香さんは笑っているだけ・・・・
 だんだんと大きくなる黒い宇宙・・・・
 男は恐怖の表情を浮かべるだけしかできない。
 殺しちゃうよ。

 わたしが目を閉じようとした瞬間・・・・
 沙耶香さんが素早く鞭を振る・・・・
 一瞬で閉じる漆黒の空間・・・・
 そして残されたのは精神を破壊された男だけだった。


06

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 わたしの身体が一瞬で後ろから捉えられる・・・・
 そう、沙耶香さんの方に気をとられた隙に、
 背後から迫っていたムカデの尻尾・・・・
 それに巻きつかれたのだ。
 やばいっ・・・・
 そう思ったけど、もう遅い・・・・
 沙耶香さんと愛莉さんの方を見る・・・・・
 仕方ないねって顔・・・・
 でも、助けようとはしない・・・・
 2人で何かしゃべってるだけ。

 わたしはむちゃくちゃに7色の玉をムカデに当てる・・・・
 でも、固い身体にはぜんぜん通じない・・・・
 わたしを掴む力が強くなり、大きく上に持ち上げられる・・・・
 足をバタバタさせるだけ・・・・

 その背後に鎧を纏った漆黒の武者が控える・・・
 それを操る長身の男。
 時代遅れの黒いマントを羽織っている・・・・
 その中から鋭い目が光る・・・・
 この人・・・・・
 他の人たちと何か違う・・・・
 30代くらいだけど、けっこうイケメンの部類・・・
 そして、他の人は欲望に紛れた目をしている。
 でも、この人は違う・・・・
 うまくいえないけど、そんなのを超越した目・・・・
 なにか懐かしい感じさえする・・・・
 その男が前に手を突き出す・・・・
 わたしの方へ・・・・・

 何・・・・・
 手のひらが熱い・・・・
 その手の平を見ようとする。
 
 そこから飛び出す黒い鉄球・・・・
 そう、こんな玉が出るのは初めてだった。
 いつも7個まで・・・・
 黄・橙・赤・緑・紫・青・ピンク
 
 男はわたしを見てうなづく・・・・

 黒い玉・・・・
 どんな意味があるの?
 1つくらい増えたところで意味ないのに・・・・

 でも、ムカデはわたしを捕らえたまま上下に振る・・・・
 地面に叩きつける寸前で持ち上げる・・・・

「ハハ・・・そう、美月ちゃんをこっちへ渡すんだ。傷つけないようにな。」
 ウィザードが魔獣使いに指示をだす。
 ムカデの尻尾はわたしをウィザードの元に連れて行く。
 だめっ。
 何とかしないと。

「まぁ、仕方なないね。愛莉」
「そうですね。沙耶香さん」
 2人がこっちに向かおうとする。
 その前に鎧武者が立ちふさがる。
 やっぱ敵なの。あの人。

 わたしは黒い玉を振り回す・・・・
 いけーーーっ。
 たぶん効かないと思うけど・・・・
 ムカデの目に向けて精神を集中する。
 黒い玉はすごいスピードで飛び出す・・・・
 ムカデの目に向けて・・・・
 でも、素早い動きでくねると頭で跳ね返そうとする。
 そう、目以外に当たったとこで効かないと思う。

 でも、予想に反して黒い玉はムカデの装甲を貫く・・・・
 えっ・・・・
 そのまま、また目に向けて飛び出す・・・・
 逃げても別の部分に当たりそこを貫く玉・・・・

 ムカデはそれに気をとられ、わたしを放す・・・
 かなり高いところで離されるわたし・・・・
 でも、こういうのは訓練している。
 猫のように回転して地面に下りる。

 そのままロッドを振る・・・・
「レインボーイリュージョン」
 わたしの周りを8個の玉が回り始める・・・・
 そのまま射出する。
 たぶん、光の玉の中では黒い玉は見分けにくいはず。
 黒い玉は目に向けて・・・
 他の玉は顔全体に向けて・・・・・
 
 黒い玉がムカデの目を捉える・・・・
 横から両目を貫く・・・・
 大きくうねる長い身体・・・・
 その身体が崩れていく・・・・
 そう、コアを捕らえたんだ・・・・

 気絶した魔獣使いをスタッフが捕らえる。
 とりあえず、戦闘終了・・・・
 他の人みたいにカッコよくないけど。
 なんとかって感じ・・・・

 でも、愛莉さんの声・・・・
「ウィザードを倒して!」
 後ろを振り返る。
 愛莉さんと沙耶香さんは鎧武者に足止めされている。

 作戦とは違うけど・・・・
 わたしは、ウィザードの方に駆け出した。



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