閉じる


<<最初から読む

5 / 62ページ

試し読みできます

ちらかというとボール運動は得意な方である。受けることも出来たし、ある程度のスピードで投げることも出来た。しかし三年生の二学期頃から、男の子のボールを投げるスピードが段々と速くなってきたのである。一年や二年では全く感じなかったある種の怖さを感じていたのである。頑張って立ち向かえば受けられないこともなかったが、体が逃げることを優先してしまうのである。この日も同じで、殆ど逃げてばかりであった。唯一受けることが出来たのは、たまたま男の子が投げ損ねた緩いボールが来た時だけであった。しかし、そのボールも中央線まで走り寄って力一杯投げ返したが、軽がると受けられてしまったのである。今まで同じようにドッジボールをしてきたのに、男の子とは何かが違うと感じるようになってきていた。二・三人の女の子は男の子のことを男子と呼んだり、二年までは君付けできちんと名前を呼んでいたのに、呼び捨てにしたりしている。そして由里自身も、次第に男の子を意識する自分が不思議な存在でならなかった。

 突然、二十分休みの終わりを告げるチャイムが鳴り始め、皆が一斉に玄関へと向かって駆け出した。由里もほんの少しスピードを緩めて駆け出した。今まで静かだった玄関は、我先にと下靴から上靴に履き替える子ども達で混雑した。由里は大勢の子ども達に混じって六年生の靴箱の方へと向かった。六年生の靴箱は、間に四年生と五年生の靴箱を挟んでいる為、三年生の靴箱とは少し離れた所にあった。しかも、子どもの人数が少ない為か空いている場所が相当あったのである。素早く履き替えた由里は、通りすがりに三年生の自分の靴箱をチラッと横目で見た。やはり、運動場へ出る時に確かに入れたはずのもう一足の上靴は入っていなかった。しかし探すことはしなかった。そのまま通り過ぎると、平気な顔で教室へと向かったのである。そして、もう少しで教室という所で理沙ちゃんに追いついたのだった。


5
最終更新日 : 2012-02-08 05:02:05

試し読みできます

同じように新品の真っ白な由里の上靴を見ながら理沙ちゃんは尋ねた。

 「絶対六足になるかどうかは分からないけど、多分なると思う。それから由里ちゃんなんか、絶対得よねえ。」

 「ええ、どうして。全然得してないけど。何か得したかなあ。」

急に自分の方へ振られた言葉に、由里はさも上靴なんかには関心がないような素振をみせ外へ向かって歩き出そうとした。

 「だって、由里ちゃんだって同じ新品のまっさらの上靴でしょ。もし失くしてもすぐに落し物の上靴を履いておけばいいのよ。誰にも分かりっこないわよ。あ、そうだ。それにね、少しの間履いて、汚れたらあれと取り替えることだってできるわよ。ラッキー・・・。あっ、でも、やっぱり駄目かも・・・、大きさが合わないかも。」

 「もう、陽子ちゃん変なこと言わないでよ。そんなことしたら落し物泥棒になっちゃうじゃないの。そんなことよりブランコ、早く行こうよ。時間がなくなるじゃないの。」

と由里は上靴のことから話題を逸らそうとしたが、何を思いついたのか突然理沙ちゃんが、折角履いた下靴を脱ぎ始めたのである。陽子ちゃんの、

 「何処へ行くの。おトイレなの。」

という問いかけにも答えず、

 「ちょっとだけ待って。」

と言うなり、落し物置き場の前へ行き、あの上靴をじっと見詰め始めたのである。暫らくすると、理沙ちゃんはどれも同じに見える上靴を一足ずつ確かめるように見始めたが、最後の、昨日置かれたばかりの上靴の前でピタリと止まり、動かなくなってしまったのである。


19
最終更新日 : 2012-02-08 05:02:05

試し読みできます

 「だから僕が、こんなにいっぱい落し物するなよって言っただけなんだよ。だって勿体ないやんか。」

そう言われたお姉ちゃんは、すぐに言い返したのだった。

 「だからさっきから何回言わせるの、私のじゃないって言ってるでしょ。」

さらに、すぐ横に居たもう一人のお姉ちゃんも加勢して言い始めた。

 「ねえ僕、もしこの上靴がこのお姉ちゃんのだったら、このお姉ちゃんは、今、裸足でしょ。裸足かどうか良く見てよ。」

女の子の声はどこか聞き覚えのある声であった。少し声の調子は違うようだが、確かに聞いたことのある声であった。由里は一体誰なのだろうと思い一生懸命に見ようとしたが、一番最後にやって来たということもあり、自分の前には大きな高学年の男の子や女の子が取り囲んでいて、中の様子を見ることは出来なかった。何とか見ることが出来ないものかと初めは背伸びをしていたが、それでも高学年の子たちの身長は高すぎて、とても見ることはできなかった。それではと、今度は逆に腰を屈めて下の方の僅かな隙間から覗こうとしたが、足元や腰の辺りを見るのが精一杯であった。

一年生の男の子は、お姉ちゃんの足元を見ながらもう半分泣いた状態になっていたが、それでも自分の方が正しいとばかりに、

 「だって僕、二十分休みに体育館の裏で、このお姉ちゃん達が真っ白な上靴を持っているのを見たもん。体育館の裏を通ってうさぎ小屋へ行こうとした時に、僕、見たもん。絶対このお姉ちゃんのだよ。」


41
最終更新日 : 2012-02-08 05:02:05

試し読みはここまでです。続きは購入後にお読みいただけます。

この本は有料です。閲覧するには購入する必要があります。
購入するにはしてください。
有料本の購入に関しては、こちらのマニュアルをご確認ください。
販売価格100円(税込)

読者登録

山名 愛子さんの更新情報・新作情報をメールで受取りますか?(読者登録について