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目次

    目    次(上巻)

  一、呪われた醜いPTA規約

  二、学級委員をそつなくこなす方法

  三、誰が隠すのだ

  四、皆を代表して文句を言いに

  五、先生への抗議

  六、仕返しの準備

 

    目    次(中巻)

  一、作戦開始

  二、気分を害する連絡

  三、ばれてしまった作戦

  四、何処へ行っても同じ事が起こる

  五、嘘の連鎖

 

    目    次(下巻)

  一、登校拒否

  二、女子トイレの秘密

  三、臨時保護者会

  四、授業参観と懇談会

  五、風が運んだ魔法の目

  六、夫婦の会話


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なんと呪われた醜い規約であろうか。

 しかしこれだけなら立候補なんて絶対しない。したくはなかったが、仕方なしにしたのである。と言うのは春休み中のことであった。買い物から帰っていると、偶然二年の時に学級委員を務めていた山岸理沙ちゃんのお母さんに出会い、道々学校のことや子どものことを話しながら帰ってきたのであった。娘の由里と理沙ちゃんは、一年・二年と同じクラスで、しかも家が比較的近いということもあり、自然に親同士も会えば言葉を掛け合うような間柄になっていたのである。その時の山岸さんは、とっても晴れ晴れしい気持ちを満面に浮かべてこう話してきたのだった。

 「ああ、すっきりした。これでPTAの役ともおさらばよ。上のお兄ちゃんの時は三年生で、理沙の時は二年生で済ませたから、もう卒業まで役が回ってくることはないわ。これでもう怖いものなしよ。大手を振って学校にも行けるわ。苦手なのよねえ、ああいうのって、私。」

それを聞いていた私は、苦手だなんて・・・、あんなにそつなくこなしていたのに、私に比べたらずっとずっとすごいわよと思いながら、ちらっと山岸さんのかすかに緩んだ口元をみたものだった。ああーこの口を少しの間だけでもいいから貸してくれないかなあなどと思っていると、次に山岸さんはこんなことを話し出したのだった。

 「PTAの役も高学年になるほど大変なのよねえ。上にいくほど色々な問題も出易くなるしねえ。まして六年ともなると卒業式があるでしょ。あんな場で先生への謝辞を言うとなると、余ほど度胸のある人でないと無理よねえ。ああラッキーだったわ。担任の先生も穏やかで話し易かったし、特に問題らしい問題もなかったし。天羽さんも今年あたり考えてみたら・・・。」


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これだけ言うと、我慢しきれなくなった由里の目からは、大粒の涙が頬を伝って流れ出していた。

 「私には分かるの・・・何となく分かるの。意地悪をしていたのが誰か・・・目を見ただけで分かるの。私の上靴をゴミ箱の横に隠したのは誰か、私には何となく分かるの・・・、誰も何も言わないけど。私、一生懸命探したの・・・、裸足で一生懸命探したの・・、二十分休みも、お昼休みも・・・。だって、お父さんが頑張って働いたお金で買った物だもの。ね、お母さん・・・。」

これを聞いた夫は、由里の前だから何とか冷静さを保とうとしているが、その衝撃と怒りから体は小刻みに震え、半分潤んだ目はもうすでに血走っていた。一体誰が由里の上靴を隠すというのだ。由里は穏やかで優しい子である。隠される覚えなどないはずである。一体誰が由里に意地悪をするというのだ。誰かに、憎まれたり恨まれたりするような子ではないはずである。

 「由里、一体誰なんだ。隠しているのは誰なんだ。」

返事はなかった。ただ泣くばかりで、その答えが返ってくることはなかった。夫は一生懸命冷静さを保ちながら違う言い方で尋ねた。

 「何となく分かるって、はっきりは分からないのだな。はっきり分からなくてもいいのだよ。何となくで良いから、誰なんだ。」

やはり返事はなかった。恐らく由里にも、はっきりと名前を上げられる程の自信はないようであった。何度かの問いかけにも、一向に答えない由里に苛立ちを感じている夫であったが、それでもまだ、言葉の上では冷静さを保ちながら別な事を聞いていた。


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  由里のしゃくり上げる嗚咽が体の中に響く度に隠した子への憎しみが心の中を次第に支配していった。一体誰がこのような汚いまねを・・・言いたいことがあれば面と向かって言えばいいのに・・・絶対許せない、絶対犯人を突き止めてやる・・・それにしてもここは学校なのに、教育をする場なのに、先生は何を教えているの。このような単純に人の物を盗ったり隠したりしてはいけないということも教えていないのか。憎しみですっかり一杯になった心は職員室の方へと歩き始めていた。しかしそれは僅か一歩、二歩進んだだけであった。今まで自分の体を預けるように力を抜いて腕の中で泣いていた由里が、ギュッとわたしを抱きしめたのだった。強い力であった。この子にこのような力があるとは考えられないほどの強い力であった。そして涙で濡れた目で私を見上げながら訴えるように首を横に振ったのだった。

 「お母さん、約束よ・・・。ね、約束よ。」

真っ直ぐに私を見つめる潤んだ瞳がそう訴え掛けていた。はっきりと確かに私にはそう聞こえててきたのだった。由里と夫と私と三人で交わした約束、先生に相談するのはもう少し待ってと言う約束、あの夜、三人で泣きながら交わした約束が由里の強い力でよみがえって来た。そして由里との約束だ大切にしないとなと語りかける夫の顔が浮かんできたのだった。

 もう私には残っていなかった。

 「由里ちゃん、よく頑張ったね。偉いよ由里ちゃん・・・・・。」

私には、もうこの言葉しか残っていなかった。暫らくの間、ただひたすら抱きしめ同じ言葉を繰り返していたが、繰り返すたびに私の職員室へ向かおうとする力は次第に失われていった。


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