目次
はじめに
嶋戸悠祐
自己紹介 嶋戸悠祐
六つの檻 1
六つの檻 2
六つの檻 3
六つの檻 4
六つの檻 5
六つの檻 6
六つの檻 7
六つの檻 8
六つの檻 9
齊藤想(サイトー)
自己紹介 齊藤 想(サイトー)
『オオカミと少年』  イソップ寓話 『嘘を付く子供』(『オオカミ少年』) より
『アリとキリギリス』  イソップ寓話『アリとキリギリス』より
『北風と太陽』  イソップ寓話『北風と太陽』より
カミツキレイニー
自己紹介 カミツキレイニー
【赤ずきん喫茶】
【うんこの話】
【冬オズ】
いづみみなみ
自己紹介 いづみみなみ
赤ずきんちゃん 1
赤ずきんちゃん 2
赤ずきんちゃん 3
赤ずきんちゃん 4
赤ずきんちゃん 5
まるたん
自己紹介 まるたん
八川克也
自己紹介 八川克也
ダンシング・リム 1
ダンシング・リム 2
ダンシング・リム 3
ダンシング・リム 4
ダンシング・リム 5
井上裕之
自己紹介 井上裕之
R大学民俗舞踊愛好部設立前史 1
R大学民俗舞踊愛好部設立前史 2
R大学民俗舞踊愛好部設立前史 3
R大学民俗舞踊愛好部設立前史 4
R大学民俗舞踊愛好部設立前史 5
R大学民俗舞踊愛好部設立前史 6
平渡敏
自己紹介 平渡敏
『アンデルセン童話による3つの変奏』
『北風と太陽』
『本』
一田和樹
自己紹介 一田和樹
昏倒少女 1
昏倒少女 2
昏倒少女 3

閉じる


はじめに

小説現代「ショートショートコンテスト」、S-Fマガジン「リーダーズ ストーリィ」掲載常連5名と、プロ作家3名、マンガ家1名による、ショートショートと短編のアンソロジーです。

前回の「セラエノの小さな物語」では、参加者それぞれが自由なテーマのショートショート5本を寄稿しました。

今回は、誰でも知っている童話をモチーフにした作品を持ち寄りました。形式は、ショートショートもしくは短編。

各人各様の奇想をお楽しみください。

表紙の絵を描いていただいたのは、マンガ家のまるたんさんです。

なお、掲載は誕生日順になっております。

 

2012年2月14日

 

掲載順 嶋戸悠祐、齊藤想、カミツキレイニー、いづみみなみ、まるたん、八川克也、井上裕之、平渡敏、一田和樹

 

前作 『セラエノの小さな物語』


自己紹介 嶋戸悠祐

 はじめまして、嶋戸悠祐と申します。ふだんはミステリーやホラーを書いています。

 第三回福山ミステリー文学新人賞の優秀賞を頂き、昨年8月、講談社よりデビュー致しました。もし、今回の短編で興味をもたれましたら、ぜひ、デビュー作の長編の方もよろしくお願い致します。

 

講談社ノベルス『キョウダイ』


六つの檻 1

 耳をつんざくような悲鳴が聞こえた。
 声の主は、泣き叫び、暴れ狂っている。手足を全力で振り回し、必死に抵抗しているようだ。固い壁を爪でガリガリと掻き毟るような音が聞こえて、耳を塞ぎたくなる。ガチャリと何かの音がした。
 同時に悲鳴はまるで怪鳥が嘶(いなな)くような恐ろしいモノとなった。もはや人の声ではない。その悲鳴にさめざめと泣く、幼い声が複数重なる。
 いったい何が起こっているのだろうか──。
 両足が小刻みに震えだした。耳を塞ぎ、絶叫と泣き声を遮断する。僕は震える足で、仄かに灯りの見える方へと進んだ。すると目の前に立ちはだかるものがあった。
縦にいくつも連なる鉄の棒──鉄格子だ。
 両手で握ってみる。ひんやりと冷たい。そのまま全力で引っ張る。次はガンガン叩いた。びくともしない。その隙間は狭く、頭も通らない。
 僕は檻の中に囚われていた──。
 檻のすぐ外には薄暗い通路がはしっていた。小さなランプが一つ、天井からぶらさがり、ゆらゆらと揺れていた。
 鉄格子に顔を押しつけて、絶叫の聞こえる方を見やった。仄かなオレンジの灯りの向こう側、通路の奥の方に、何かが見えた。
 それは──男の子の顔だった──。
 闇の中にぼんやりと浮かび上がったそれは、こちらを向いていた。その顔は恐怖に歪み、涙と鼻水とよだれがまじり合い、テラテラと光っていた。
 そのとき、男の子の背後に恐ろしく大きな影が見えた。男の子はその、大きな何かに、捕らわれ、通路の奥へと引きずられていく。手を振り回し、両足を地面に踏ん張って抵抗しているのだが、影の化物は、ものともしない。男の子の姿は徐々に遠ざかってゆく。その先は完全なる闇だ。そのまま男の子は闇に消えた。
 同時に絶叫もピタリと止んだ。重なり聞こえていた子供の泣き声も、それが合図であったかのように、いつのまにか、耳には届かない。
 僕は鉄格子から手を放した。よろよろとよろめき、そのまま地面に尻餅をついた。地面は土だった。ざらざらとかたく、冷たい。しばらくして立ち上がり、壁を調べた。地面と同じかたさ、そして同じように冷たい土でできていた。耳を当ててみる。何も聞こえない。壁は垂直ではなかった。天井へ向かうに従い、ゆるりと湾曲していた。まっすぐに切り立った山肌の、土の断面を穿って穴を開け、その入口に鉄格子を取り付けて檻をつくった。そんなイメージが頭の中に浮かんだ。
 檻の一番奥には、丸い木の蓋が置かれていた。蓋を開けた。そこには穴が掘ってあり、糞尿が塗れていた。凄まじい臭気に仰け反り、地面に嘔吐した。鼻と口を押さえながら必死に蓋を戻す。
 大きな足音が聞こえる。思考が遮断される。
どこかでまたガチャリと音がした。そして悲鳴──。ずるずると何かを引き摺る音がした──。再びガチャリと音がする──。また悲鳴──。これは別の子供の悲鳴に聞こえた。

六つの檻 2

 そしてまた引き摺る音──。ガチャリ──。悲鳴──。複数のすすり泣きが、またそれに重なる。
 不可解な音の連鎖は徐々に、こちらへと近づいてくる。僕は、かたい地面の上で膝を抱えて、がたがたと震えていた。
足音が聞こえた。近い。あきらかにこの檻を目指している。大きな影が見えた。
 檻の前に、山のように大きな男が現れた。
 男は見上げるほどの高さで、すべてが大きかった。足も、膝も、腹も、手も、胸も、肩も、首も、顔も──それを形成する目も、鼻も、口も、耳も──あらゆる部位が規格外に大きいのだ。
 男は裸だった。腰に布切れを一つだけ巻いている。体中毛むくじゃらだ。何か油みたいなものを塗っているのか、それとも異常に汗かきなのか、体全体がぬらぬらと光っていた。反対に頭はきれいに禿げあがり、髪の毛は一本もなかった。
 男の、大きな二つの目玉が僕をとらえた。すると男はニタア、と笑った。男は檻の一番右端まで歩き、鉄格子の前でガチャガチャと何かをしていた。すると、例のガチャリ、という音がして、鉄柵が三本外れた。そこから男は、のそりと檻の中に入ってきた。僕は後ずさった。だが逃げ道などない。その巨体に似合わず、男の動きは恐ろしいほど素早かった。僕はすぐに捕まった。大声で泣き叫んだ。あらん限りの力を手足に込めて、抵抗しようとするが、羽交い絞めにされたままピクリとも動かせない。男の体は生臭く、獣みたいな臭いがした。そのまま物凄い力で引き摺られて、檻の外に出された。
 薄暗い通路を進み、すぐに、またどこか暗いところに入った。そのまま投げ飛ばされた。固い場所に腹を打ちつけ、息ができずにゴロゴロと転げまわる。
 またガチャリと音が聞こえた──。
 痛みがようやく和らぎ、顔を上げた。信じられない光景だった。先ほどと同じ場所にいた。起き上がり腹をおさえながらゆっくりと歩く。目の前には冷たくてかたい鉄格子が立ちふさがっている。地面は冷たく、かたい土だった。壁も地面と同じようにかたく、天井に向かって湾曲している。檻の一番奥には木製の丸い蓋があり、その隙間から臭気が漏れていた。
 まったく同じつくりだ──。
 一度、檻の外に出たのは間違いないのだ。同じような檻が複数あるのだろうか──。だけど、いったい何のために──。わからないことだらけだった。
 ふと思い立つことがあり鉄格子に近づく。一番右端から三つ目までの鉄柵を確認した。大男は鉄格子を外して中に入ってきたのだ。この檻がさきほどとは別の檻だとしても、まったく同じ仕掛けが施されている可能性は極めて高い。見ると、鉄柵の上下に、二箇所、垂直に並ぶ三本を橋渡しする格好で、水平に鉄の棒が二本、渡っていた。一番右端の、鉄柵の裏側をまさぐると奇妙な形状の凹みがあった。
 わかった。これは鍵穴だ。この三本の棒だけは、二本の橋渡しにより、固定されることで、一枚の扉になっていたのだ。大男はここに鍵を差しこみ、扉を開けたのだ。今はきちんと施錠されて、やはり他の鉄柵と同じようにびくともしない。
 相変わらずどこからか、すすり泣く声が聞こえる。通路を見ると、今は誰の姿もない。急に、体に力が入らなくなり、かたい地面の上へ、大の字に寝転がった。

六つの檻 3

 気がつくと、僕はそのまま眠りに落ちていた──。

「──ちゃん……」
 誰かの声が聞こえる。
「──にいちゃん……」
 聞き覚えのある、この声は──。僕は眠りから覚めた。
「お兄ちゃん……」
「グレーテル!」
 僕は叫んでいた。目の前にいるのは妹だった。それはまぎれもなく妹のグレーテルなのだ。駆け寄った。だが鉄格子が邪魔をして抱きしめることはできない。涙で視界が濁る。
「グレーテル……グレーテル……おまえ無事だったのか……」
「お兄ちゃん、だめ、小さな声で話して、大男と魔女にみつかってしまう……」
 グレーテルはそう言って唇に人差し指をあてた。
「魔女……?」
「おぼえてないの? わたしたち魔女につかまったのよ……」
 魔女に──。どうも記憶がはっきりとしない。
「わたしたち……お父さんとお母さんに森へ捨てられたの……そのまま森をさまよってたら、お菓子でできたお家があって……それに気をとられている隙に……魔女に襲われたのよ……」
 思い出した──。僕は今、はっきりと思い出していた。
 そう。僕たち二人は両親に捨てられたのだ。僕は捨てられる前の晩の、二人の会話を盗み聞いていた。
(もう限界なの……あなたもわかるでしょ……このままじゃ四人全員が餓死してしまうわ……もともと無理だったのよ……子供二人なんて……明日、森へ二人を連れて行くわ……)
(まあ、待てよ。それはいくらなんでもかわいそうだ……そうだ、二人は無理でも、一人なら何とかなるんじゃないか……グレーテルだけでも……女の子一人分の食べ物なら、それほど負担にならない……)
 母親の影が動いた。影は無言のまま、ゆっくりと首を振っていた。
 こうして次の日、僕ら二人は森に捨てられた。
二人のことは許さない。愛情のかけらも無い冷酷な母親。そして変態野郎の父親は、生きて帰ったら絶対に殺してやる──。
 グレーテルの目から涙がこぼれ落ちた。
煤や泥で汚れた頬に二筋の細い道ができる。グレーテルの肌は雪のように真っ白で透きとおっていたのに──。今や見る影もない。
「可哀そうに……大丈夫……大丈夫だよ……グレーテル……お兄ちゃんが、ここを抜け出して必ず助けてやるからな」
 グレーテルは嗚咽しながら頷く。僕は指先でグレーテルの涙を拭いてやった。
 グレーテルは薄汚れた薄い布のようなものを着ていた。そして裸足だった。両足には金属の足枷が嵌められていて、その先には丸い鉄の塊があった。よく 見ると膝や腕にいくつもの傷があり、血が滲んでいる。



読者登録

一田和樹さんの更新情報・新作情報をメールで受取りますか?(読者登録について