目次
はじめに
嶋戸悠祐
自己紹介 嶋戸悠祐
六つの檻 1
六つの檻 2
六つの檻 3
六つの檻 4
六つの檻 5
六つの檻 6
六つの檻 7
六つの檻 8
六つの檻 9
齊藤想(サイトー)
自己紹介 齊藤 想(サイトー)
『オオカミと少年』  イソップ寓話 『嘘を付く子供』(『オオカミ少年』) より
『アリとキリギリス』  イソップ寓話『アリとキリギリス』より
『北風と太陽』  イソップ寓話『北風と太陽』より
カミツキレイニー
自己紹介 カミツキレイニー
【赤ずきん喫茶】
【うんこの話】
【冬オズ】
いづみみなみ
自己紹介 いづみみなみ
赤ずきんちゃん 1
赤ずきんちゃん 2
赤ずきんちゃん 3
赤ずきんちゃん 4
赤ずきんちゃん 5
まるたん
自己紹介 まるたん
八川克也
自己紹介 八川克也
ダンシング・リム 1
ダンシング・リム 2
ダンシング・リム 3
ダンシング・リム 4
ダンシング・リム 5
井上裕之
自己紹介 井上裕之
R大学民俗舞踊愛好部設立前史 1
R大学民俗舞踊愛好部設立前史 2
R大学民俗舞踊愛好部設立前史 3
R大学民俗舞踊愛好部設立前史 4
R大学民俗舞踊愛好部設立前史 5
R大学民俗舞踊愛好部設立前史 6
平渡敏
自己紹介 平渡敏
『アンデルセン童話による3つの変奏』
『北風と太陽』
『本』
一田和樹
自己紹介 一田和樹
昏倒少女 1
昏倒少女 2
昏倒少女 3

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『アンデルセン童話による3つの変奏』

第1話 「恐怖~~マッチ売りの少女~~」
 少女が売るマッチを擦ると恐ろしい幻覚が見える。「火が消えたあと、現実が素晴らしく思える」ということで大人気だった。しかし、恐怖というものは長続きしない。人々はより刺激の強いマッチを求め、あまりの恐怖に発狂する人が続出した。(自分のせいで……)と頭を抱え込んだ少女は、耐えきれずに「きゃーっ!」と叫び声をあげた…………ところでマッチの火が消えた。


第2話 「賢者の苦悩~~はだかの王さま~~」
 王さまのきらびやかな行列が目の前を進んでいる。豪華絢爛とはまさにこのことだ。中でも王さまのお召し物の美しさときたら……。その柄といい、色合いといい、たとえようのないほどの素晴らしさではないか。噂に聞いていただけのことはある。私が感極まっていると、突然、子どもの声がした。「王さまは何も着ていないじゃないの」。(えっ?)私が驚いていると皆は口々に言い始めた。「何もお召しになっていない」「王さまは裸だ」……。すると王さまは恥ずかしそうになさいながら、私に声をおかけになった。「おまえにもこの服が見えぬか」。私は村で正直者と目されているからお尋ねになったに違いない。私は困惑した。どうやらご自身も含めて皆が皆、王さまの衣服が見えていないらしい。ならばここで私が見えないと言っても罰を与えられることはなかろう。だが、服が見えると言ってしまえばどうだろう。ご機嫌取り、見栄っ張り……。皆が私を非難する声が聞えるようだった。いや、そのくらいですめばよい。下手をすると魔物扱いだってされかねないだろう。私は静かに答えた。「王さまは裸でございます」


第3話 「白鳥~~みにくいアヒルの子~~」
「こ、これがボク?」湖の水面を見て、ボクは喜びに震えた。そこに映っているのは、まぎれもなく白鳥、あの清楚で真っ白な美しい鳥の姿だった。ボクはとっても幸せだった。ボクはみにくいアヒルではなくて美しい白鳥だったのだ。(そうだ、大空を飛んでみよう)ボクは羽を広げて飛び上がった。しかし、10メートルほどしか飛べずに着水してしまう。(うーん、白鳥になったばっかりだからうまく飛ぶのは難しいな)。「ねえ、君、飛び方を教えてくれないか」ボクは仲間の白鳥に声をかけた。「教えてあげてもいいけど、君たちアヒルは長くは飛べないと思うよ」。「えっ、アヒル? でも、さっき湖に……」。「映っていたのはボクの姿さ」


 (了)


▼ 作品について  △ ▼ △ ▼ △ ▼ △
アンデルセンにリスペクトを込めた3つのパロディ作品です。
実はもっとたくさん作っています。
ボツにした作品はブログで公開していますので、よろしければ読んでみて下さい。

 


『北風と太陽』

 どっどど どどうど どどうど どどう

 

(北風のやつ、調子こいてやがる。最近あいつが人気者になっているみたいじゃないか。ちくしょうめ。大空の主役は俺様だと決まっているのに)
 太陽はどうも気分がよくありません。
「北風くん、クルミやカリンは吹き飛ばせても、旅人のコートは脱がせる事が出来なかったよね」
「いいや、できるさ」
(ケッ、なんて進歩のない奴)「じゃあ勝負しよう」
「よーし」
 北風はぴゅうと吹きました。すると、旅人の前を歩いていた女の子のミニスカートがまくれあがって、パンツのお尻が丸見えになってしまいました。
「きゃあ」
 女の子がスカートの後ろを押さえると、今度は前から風が吹いてまためくれてしまいます。前を押さえるとまたうしろ。見かねた旅人がコートを脱いで、女の子に着せてあげました。
 今度は太陽の番です。女の子がコートを着ているので、そっちを脱がせる事になりました。
 太陽はじりじりと照りつけます。
 旅人を好きになりかけていた女の子は、コートを返すと旅人が行ってしまいそうでしたので、「紫外線が強いみたいだから、もう少しコートを借りていていいですか」と言って、コートを脱ぎませんでした。

 

 北風は気持ちよさそうに「どっどど どどうど どどうど どどう」とうたいながら去っていきました。
 スカートのことは少しかわいそうでしたが、愛が芽生えたのですからよしとしようではありませんか。

(了)

 

▼ 作品について  △ ▼ △ ▼ △ ▼ △
小説を書き始めた頃の作品です。
イソップと宮沢賢治とO・ヘンリーを足して3で割ったら出来上がりました。
シンプルな作品で個人的には気に入っています。


『本』

 ふと気がつくと、あなたの目の前にすてきな本が置かれている。表紙にはアルフォンソ・ミュシャの絵画。あなたは本を開く。人間関係に少し行き詰まってしまった今の現実から離れたくて。すると、目の前に幻想的な世界が広がる。霧にかすんだ向こうの方からバクがあなたを手招きしている。胴体が黒で頭とお尻は白。どうも色が反対のような気もするけれども、それでよかったのかな。それにしたって、案内役はふつうウサギでしょう。あなたはそんなことをブツブツとつぶやきながらバクの方に近付く。バクは「ついておいで」と言わんばかりに、意外なスピードで走っていく。でも、あなたはなぜか全く疲労を感じることなく、バクをどこまでも追いかけることができる。周りには見たこともない植物が嗅いだこともない匂いをまき散らしている。見慣れない風景の中をずいぶんと長い間走った末、バクは深い穴に飛び込んで行く。あなたは「やっぱり」とひとりごちて、バクに続いて飛び込む。長い長い時間が過ぎて、あなたはふさふさした草の上に落っこちる。穴の中ではパーティが行われている。とっても小さな象の鼻の上には、色とりどりのろうそくが明かりを灯している。テッポウウオが天井にぶら下げられた風船を撃つと、割れた風船からキラキラした紙吹雪が舞い散る。頭にダーバンを巻いたハンサムなインド人が一輪車で走り回っている。向こう側ではチンパンジーのグループがラッパを吹き鳴らしている。中近東の音楽だろうか。(あの子たちシンバル以外も演奏できるんだ)あなたは変なところに感心しながら、ふと、子供の頃母親につれていってもらったサーカスを思い出す。(ピエロの衣装が薄汚れていたのよね)。なんだかもの悲しくて楽しむことはできなかったけれども、どこか懐かしい思い出だ。あなたはお肉の焼けた香ばしい匂いに気付く。(そういえばサーカスを見に行ったときにはお母さんとホットドッグを食べたのよね)そんなことを思い出しながら振り向くと、バクが二本足で立って、湯気の立つお皿を配っている。おなかが空いたな、と思うあなたの気持ちを見透かしたように、肉の皿が前に置かれる。けれどもナイフもフォークもないから、あなたは仕方なく手で食べようとするが、熱くてとても持てない。そこにハンサムなインド人がナイフとフォークを持ってきてお肉を切ってくれる。「ありがとう」とナイフを受け取ろうとするあなたの右手をインド人のナイフが切り刻む。あなたの指が先の方からトントントントンという小気味のよいリズムと共に落ちていく。しかし、痛みは全く感じない。「痛くないならまあいいか。インド人すてきだし」あなたはなすがままにされて、右腕をなくしてしまったけれども、インド人に抱かれる。あぁ、これがカーマ・スートラの秘技なのかしら。あなたはめくるめく時間を過ごして、ふと気がつくと、目の前にすてきな本が置かれている。表紙にはアルフォンソ・ミュシャの絵画。あなたは残された左手で本を開くのだろうか。現実からさらに離れるために。

 

(了)


▼ 作品について  △ ▼ △ ▼ △ ▼ △
2人称・改行なしという実験的なスタイルで書いてみた「不思議の国のアリス」のサイドストーリーです。
最近は2人称の小説も珍しくなくて、長編なども見かけますが、かなりの力業にならざるを得ないようです。
掌編は向いていると思うのですが、本作はその形式を活かすことができたのか、少し不安ですがいかがでしょう?


自己紹介 一田和樹

昨年、島田荘司選 ばらのまち福山ミステリー文学新人賞を受賞し、長編ミステリ『檻の中の少女』を上梓させていただきました。

主にサイバーセキュリティミステリ小説やマンガ原作を書いております。

ネット上で短編やショートショート、ツイッター小説を公開しております。
ご興味ある方は、のぞいてみてください。

 

今回は『雪の女王』をモチーフにした作品を書いたつもりだったのですが、あまりそうは見えないですね。すみません。
楽しんでいただければ幸いです。


好評販売中!
『檻の中の少女』
『サイバーテロ 漂流少女』

 

好評連載中!
『工藤伸治のセキュリティ事件簿』
『オーブンレンジは振り向かない』(マンガ)

 

ネットで公開している作品群は こちら

 


昏倒少女 1

 一七歳の高校生である赤雪刻実(あかゆき きざみ、女、172センチ)は、カイと一緒に住むことにした。恋愛ではない。愛玩である。あきるまでカイを愛で、その口からもれる美しい物語を聞くのだ。そのためには邪魔なものがある。

 

「ひとり暮らしするから」
 刻実は朝食を食べる両親に、そう宣言した。トーストを囓っていたふたりは、一瞬手を止めて刻実を見た。刻実はいつも通りだ。ポールスチュアートの黒いスーツを着こなし、面倒くさそうにコーヒーを飲んでいる。目立った異変はない。
 刻実の顔は非の打ち所がない。美人とは少し違う。いわゆる整った顔だ。左右対称で顔のパーツの大きさが理想的。量産型の女性ロボットを作るとしたら、こんな顔ではないかというような顔だ。醜くはないが、飛び抜けた美しさもない。そして胸はない。
 刻実は立ち上がると自分の部屋に行き、すぐに戻ってきた、銀色のバットを持って。
「お前たちは出て行け」
 刻実はそう言うと、いっぺんの躊躇もなくバットを振った。安普請の壁にバットがぶつかり鈍い音を立てて穴をうがった。両親はなにが起きたかわからない様子で、刻実の顔と壁の穴を見比べている。刻実は、続いて父親の頭にバットを振り下ろした。父親は我に返りあわてて椅子から飛び退いた。バットがテーブルに激突し、皿とコーヒーカップを砕く。食べかけのトーストが飛び、コーヒーが散った。母親の悲鳴が響く。
「出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ出てけ」
 素振り二〇回で気がつくと両親はいなかった。これで我が家を愛の巣にできる。カイを迎え入れる準備はできた。刻実は学校に向かった。

 

 教室に入ると、ぶさいくで太った女子が、刻実の机に脂肪のついた尻をのせて前後の席の男子となにか話していた。ふだんの刻実なら、豚がどくまで黙って待っているが、今日はバットがある。
「おいしいとんかつを作るには、まず肉をよく叩く」
 刻実は、とんかつの作り方を説明しながら、金属バットをスイングした。豚は、バットを避けようとして前の席の男子に覆い被さる格好になった。きわどいところで女子の肩をバットがかすめる。
 スイングはそのまま止まらず前の席の男子の隣の女子に激突した。ちょうど顔の真ん中にぶつかったため、ものすごい勢いで鼻血が噴き出した。小柄で貧相な女子は死にそうな悲鳴を上げて顔を押さえる。数名の女子が、その鼻血女子を引っ張って刻実の近くから離した。阿鼻叫喚の騒ぎになり、刻実の周囲から生徒が逃げ出した。
── みんな怖がっている。あたしを怖がっている。いい気分だ。
「豚を叩く」
 刻実は、前の席の男子にしがみついている豚に鉄槌を振り下ろした。その一撃で豚の茶色の髪から鮮血が吹き出した。ぴぎゃあと豚は叫び、両手をむちゃくちゃに振り回す。二撃目で顎がずれた。豚の声が出なくなった。苦しげな息の音が、ぶーぶーと響くだけだ。三撃目で目玉が飛び出した。細いなにかでかろうじて眼窩にぶらさがっている。豚はまるで暗闇を手探りで歩いているように両手をあらぬ方向に向けて振りだした。
「おもしれえの。これ、まだ見えてんのか?」
 刻実は、手を伸ばすと、ぶらぶら揺れている目玉をつかんだ。そして黒目を自分の方に向ける。
「あたしの顔が見えるか?」
 刻実は豚に言ったが、答えはない。ただ手を振り回してわめくだけだ。
「つまんないの」
 刻実ははき出すように言い、目玉を引っ張った。眼窩から伸びていた細いひものようなものがぶちりと切れた。
 刻実は、金属バットについた血をぬぐいながら、教室を見回した。もう誰もいない。廊下は、逃げた生徒と見物に来た生徒であふれかえっている。
 刻実は昨日までの自分は、どんな人間だったっけと思った。
── 廊下で震えてる連中と同じだったはずだ。でも、実感ないわー。今のが本当の自分って気がする。身体中に力があふれて無敵って感じ。いやほんとに無敵だろ、これは。
 刻実は愉快になったので笑った。静まりかえった教室に乾いた笑いが響く。それから隣の教室に向かった。そこにカイがいる。刻実の王子様。
 彼女が歩くと、正面の人垣が割れた。ささやきすらもれず、ただみんな恐ろしそうに刻実を見ているだけだ。教師たちもなにも言わない。

 

 隣のクラスは授業中だったが、刻実には関係ない。教室に入ると、まず教壇に立っている教師の頭をバットで殴った。コンと軽い音がして右側頭部が大きく陥没した。眼球がくるりと回って白目になり、そのまますとんと床に倒れる。少し遅れて花火のように血が飛び散った。教師は壊れたロボットのように両手両足をバタバタと動かしながら、教室に血の噴水をばらまいた。
 同時に静かだった教室は泣き声と悲鳴でにぎやかになった。教室から逃げ出す生徒たちは、もともと廊下にいた野次馬たちとぶつかって大混乱になった。
 刻実は、面倒なことになったな、と思った。急がないとカイが教室から逃げてしまうかもしれない。その時、カイの姿が見えた。
「カイ、こっち来い」
 刻実が叫ぶと、彼女とカイの間を結ぶ道が開けた。刻実は、黙ってその道とその先にいるカイを見た。雪のように白く華奢な男子。とっくりの黒いセーターにジーンズ。刻実を見る目は、まるで捨てられた子犬のようにおびえている。
 刻実は、カイの正面に立つとゆっくりと顔を近づけた。
「あんたの話が好き。毎日聞かせて」
 恥ずかしに刻実の声がかすれた。男子に好きだと言うのは初めてだ、と刻実は思った。だが、カイは青ざめて震えるだけでなにも答えない。
「嘘でしょ」
 ややあってカイはつぶやいた。
「嘘じゃない。言うことをきかないと、あんたの家族を皆殺しにして家に火をつける」
 こうして刻実はカイを手に入れた。



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