目次
はじめに
嶋戸悠祐
自己紹介 嶋戸悠祐
六つの檻 1
六つの檻 2
六つの檻 3
六つの檻 4
六つの檻 5
六つの檻 6
六つの檻 7
六つの檻 8
六つの檻 9
齊藤想(サイトー)
自己紹介 齊藤 想(サイトー)
『オオカミと少年』  イソップ寓話 『嘘を付く子供』(『オオカミ少年』) より
『アリとキリギリス』  イソップ寓話『アリとキリギリス』より
『北風と太陽』  イソップ寓話『北風と太陽』より
カミツキレイニー
自己紹介 カミツキレイニー
【赤ずきん喫茶】
【うんこの話】
【冬オズ】
いづみみなみ
自己紹介 いづみみなみ
赤ずきんちゃん 1
赤ずきんちゃん 2
赤ずきんちゃん 3
赤ずきんちゃん 4
赤ずきんちゃん 5
まるたん
自己紹介 まるたん
八川克也
自己紹介 八川克也
ダンシング・リム 1
ダンシング・リム 2
ダンシング・リム 3
ダンシング・リム 4
ダンシング・リム 5
井上裕之
自己紹介 井上裕之
R大学民俗舞踊愛好部設立前史 1
R大学民俗舞踊愛好部設立前史 2
R大学民俗舞踊愛好部設立前史 3
R大学民俗舞踊愛好部設立前史 4
R大学民俗舞踊愛好部設立前史 5
R大学民俗舞踊愛好部設立前史 6
平渡敏
自己紹介 平渡敏
『アンデルセン童話による3つの変奏』
『北風と太陽』
『本』
一田和樹
自己紹介 一田和樹
昏倒少女 1
昏倒少女 2
昏倒少女 3

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R大学民俗舞踊愛好部設立前史 5

 ともあれ、U氏の大学生活の集大成ともいうべき最後の学園祭が幕を開けた。普段から充分に展示物として通用するサークル室を誇る民俗舞踊愛好会は、一層に雰囲気を盛り上げるため窓全面に暗幕を貼り外光を遮断、ディスプレイされた熱帯植物や怪しげな置物の間には本物の松明をセットした。微かな風に揺られ暗闇に浮かび上がる情景はBGMに流れる各国の民俗音楽と相まって混沌とした雰囲気を醸し出したという。そして手前のスペースで1日に3度、カルチャースクールで腕を磨いた後輩達のパフォーマンスが披露された。
 火災が発生したのは日曜日の午後4時頃だった。最後のパフォーマンスを終え、後輩達が着替えのためにサークル室を出たあたりだったと、入場整理をしていた平目氏は証言している。室内に響き渡る絶叫を聞いた平目氏が中を覗くと、1人の客が飛び出してきた。薄暗い室内では椰子の木に立て掛けられていた全長1メートルほどの木の盾が火に包まれており、みるみるうちに周囲の置物に燃え移ったという。
 旧校舎は新校舎が建てられた20年程前に本来の役目を終えており、民俗舞踊愛好会を例外とすると、殆どの部屋が倉庫として利用されていた。スプリンクラーも設備されておらず、演出のために照明を遮断したこの時の室内の状況を冷静に判断することは難しい。辺りは騒然となった。
 学食で遅い昼食をとったU氏が戻ってきたのはその直後である。状況はともあれ、何が起きたのかは誰の目にも明かである。野次馬の輪をかき分け憤怒の形相で現れたU氏に、バケツに水を汲んでいたイリオモテジマ先輩が叫んだ。
「まだ彼女が中にいる!」
 U氏はイリオモテジマ先輩からひったくったバケツの水を頭から被ると、躊躇なく黒煙舞い上がる室内へ駆け込んだという。周囲が呆気にとられた一瞬の静寂の後、イリオモテジマ先輩が部員達に向かって大声で叫んだ。
「みんな、雨乞いの踊りだ!」
 着替えの最中に慌てて戻ってきた後輩達は、イリオモテジマ先輩の剣幕に押され、ちぐはぐな衣裳のまま戸惑いながらも入口前でパプアニューギニアの伝統舞踊である雨乞いの舞いを始めた。BGMはイリオモテジマ先輩が床にひっくり返して叩くバケツである。そこへ各々消火器を抱えたタイ人留学生達が走り込んできて、部室に作り上げた密林の夜はたちどころに消火剤まみれとなった。
 当事者でもある珊瑚女史は後にこう語った。 
「あまり大袈裟なことは書かないでくださいね。ちょっとしたボヤだったんですから。あのときU先輩が助けに来てくれたのは嬉しかったですけど、そうじゃなくても自力で避難は出来たと思います。でも一歩間違えれば大惨事ですからね。学園祭は中止になりました。最終日の夕方だったから、後夜祭がなくなった程度で済みましたけど……。私達はその後警察署で事情聴取を受けました。後から聞いた話だと、生け簀のカメに餌をあげたお客さんが亀と握手しようとして松明をひっかけてしまったそうですね。U先輩の落ち込みようは正直見てられなかったです。あの芸を仕込んだのはU先輩ですし、ある意味あのカメが原因だったんですから」
 白濁した生け簀からはポン子の亡骸が発見された。火と煙のサークル室に飛び込んたU氏が救出したかったのが珊瑚女史だったのか、それともポン子だったのか、それをU氏に追求することはさすがにはばかれる。
 珊瑚女史の証言にもある通り、火災は小規模なもので収まった。この件を機に民俗舞踊愛好会は室内における火気の禁止をはじめ、それまで無許可で使用していた様々な設備の撤去及び許可申請の徹底等の指導を受けたものの、サークルそのものの消滅は免れた。ポン子がいなくなった水槽には他サークルの露天で余ったミドリガメが放たれたそうである。
 そして翌春、イリオモテジマ先輩を初めとするサークルメンバーに見送られながら、U氏は大学を卒業した(註8)。ボヤ騒ぎを通じて急速に縮まったことも充分考えられる珊瑚女史との関係についてであるが、筆者がそれとなく話を振っても、U氏は弱々しい笑みを浮かべて首を横に振るばかりだった。 

 


R大学民俗舞踊愛好部設立前史 6


 足早ではあるが、以上がR大学民俗舞踊愛好会の設立における顛末である。U氏が卒業した春、サークルは部として大学に承認され、民俗舞踊愛好部として正式に発足した(註9)。部長にイリオモテジマ先輩、副部長には珊瑚女史が就任した。以降の同サークルの活躍は周知の通りである。
 最後に、本稿の完成を目前にしてU氏が亡くなられたことに対し、深く哀悼の意を表したい。
「あの人ったらね、私の鼻がポン子に似てるから結婚することに決めたんだ。そう話していたんですのよ。失礼な話よね。そんなこと言われても嬉しくも何ともないのにね」
 本稿の編纂を終え、仏前に報告に伺った筆者の前で、U夫人はそう言って微笑んだ。清々しい表情に刻まれた泣きぼくろが印象的であった(註10)。
 ……幸せ者め。
 仏前でにこやかに笑うU氏の、つるりと禿げ上がった頭頂部を張り倒してやりたい衝動を必死で堪え、筆者は夫人が挽いてくれたコピ・ルアックを一気に啜った。

Fin


(註1)取材中、U氏はことある毎にこの説を否定した。「何も人間の女性に相手にされないから雌のカメにその代償を求めたわけではないのです」と。事実、U氏は大学卒業後に職場で知り合った現夫人と数年間の交際の後、結婚している。しかし、その交際のきっかけがスッポンモドキの雌との離別と無関係だったという確固たる証拠もない。
(註2)この初代部長は当時U氏より1歳年上の2年生だったが、卒業までにさらに6年の歳月を要した。結果的に7年ものあいだ部長を務めることになり、名実共に初期の当サークルを象徴する顔となった。
(註3)実際のところ、ペットショップでは幅3メートル超の水槽で飼われていたのに対し、U氏が借りた1Kアパートに備え付けられた浴槽は、大人が足を折り曲げなければ入れない大きさである。イリオモテジマ先輩と出会わずにいたら、結果としてU氏は早々に愛するスッポンモドキを春のうららの隅田川に放流する決断に迫られていたことであろう。
(註4)このことに対し氏は後に、各サークルによる熱心な新入生勧誘の人波から逃れようと旧校舎に辿り着いただけであり、先輩に会いに行った訳ではない、と弁明している。
(註5)インドネシアのバリ島で行われている「ケチャ」であったという。
(註6)このとき部室にいたのが先輩とU氏のみだったことから、U氏は2人目のメンバーを自認していたのだが、実際には先輩の勧誘によりタイ人留学生や平目氏が既に同好会員登録をしている。ただし、この時点ではまだ両者ともサークル設立条件を満たすための数合わせにすぎず、実際に部室に足を踏み入れたのはU氏が2人目である。
(註7)新入生の女子学生が入会したことに対し、イリオモテジマ先輩は頭を掻きながら得意げに「形から入ればいずれ中身はついてくる」と語ったそうである。
(註8)本稿の執筆にあたり、イリオモテジマ先輩から話を伺うことが出来なかったことが残念でならない。U氏の卒業後に入部した後輩の話によると、8年かけて卒業を果たしたイリオモテジマ先輩は、後にサークルに一層世界を盛り込むべく一念発起して海外に出掛けたのだという。雨乞いを舞ったパプアニューギニアへのお礼参りだという説もあるが定かではない。なお、福島県いわき市の観光温泉施設においてイリオモテジマ先輩とよく似た容貌の人物を見掛けたという話も聞いたが、これも噂の域を出ない。
(註9)大学の規定では半年の同好会活動の後、正式に「部」として承認されるとある。しかし、U氏が最初に届け出た書類に不備があり、再提出を怠ったままになっていたことが件のボヤ騒ぎにより発覚した。U氏が大学生活の大半を過ごした愛好会は、単なる学内の私設サークルだったのである。U氏の詰めの甘さが最後になって露呈した結果となった。
(註10)サークル室で偶然目にしてしまった着替え中の珊瑚女史の太ももの付け根のほくろが印象に残ったあまり、後に結婚に至った夫人の顔のほくろの第一印象がそれに被っていたとは言えないと、生前U氏は夫人が席を外した隙にこっそり話してくれた。


自己紹介 平渡敏

小説現代ショートショートコンテストなどに挑戦中のアマチュア小説家、平渡敏です。
本職は弁護士で、好きな作家はウィリアム・サローヤン、O・ヘンリーなど。
今回はプロ作家と肩を並べて作品を発表できるということなので、武者震いをしながら作品を仕上げました。
他の方の作品は短編が多そうですので「箸休めもあっていいかな」などと考えて、オチのあるショートショートを中心に選んでみました。
お付き合いのほど、どうぞよろしくお願いいたします。

平渡敏のブログ


『アンデルセン童話による3つの変奏』

第1話 「恐怖~~マッチ売りの少女~~」
 少女が売るマッチを擦ると恐ろしい幻覚が見える。「火が消えたあと、現実が素晴らしく思える」ということで大人気だった。しかし、恐怖というものは長続きしない。人々はより刺激の強いマッチを求め、あまりの恐怖に発狂する人が続出した。(自分のせいで……)と頭を抱え込んだ少女は、耐えきれずに「きゃーっ!」と叫び声をあげた…………ところでマッチの火が消えた。


第2話 「賢者の苦悩~~はだかの王さま~~」
 王さまのきらびやかな行列が目の前を進んでいる。豪華絢爛とはまさにこのことだ。中でも王さまのお召し物の美しさときたら……。その柄といい、色合いといい、たとえようのないほどの素晴らしさではないか。噂に聞いていただけのことはある。私が感極まっていると、突然、子どもの声がした。「王さまは何も着ていないじゃないの」。(えっ?)私が驚いていると皆は口々に言い始めた。「何もお召しになっていない」「王さまは裸だ」……。すると王さまは恥ずかしそうになさいながら、私に声をおかけになった。「おまえにもこの服が見えぬか」。私は村で正直者と目されているからお尋ねになったに違いない。私は困惑した。どうやらご自身も含めて皆が皆、王さまの衣服が見えていないらしい。ならばここで私が見えないと言っても罰を与えられることはなかろう。だが、服が見えると言ってしまえばどうだろう。ご機嫌取り、見栄っ張り……。皆が私を非難する声が聞えるようだった。いや、そのくらいですめばよい。下手をすると魔物扱いだってされかねないだろう。私は静かに答えた。「王さまは裸でございます」


第3話 「白鳥~~みにくいアヒルの子~~」
「こ、これがボク?」湖の水面を見て、ボクは喜びに震えた。そこに映っているのは、まぎれもなく白鳥、あの清楚で真っ白な美しい鳥の姿だった。ボクはとっても幸せだった。ボクはみにくいアヒルではなくて美しい白鳥だったのだ。(そうだ、大空を飛んでみよう)ボクは羽を広げて飛び上がった。しかし、10メートルほどしか飛べずに着水してしまう。(うーん、白鳥になったばっかりだからうまく飛ぶのは難しいな)。「ねえ、君、飛び方を教えてくれないか」ボクは仲間の白鳥に声をかけた。「教えてあげてもいいけど、君たちアヒルは長くは飛べないと思うよ」。「えっ、アヒル? でも、さっき湖に……」。「映っていたのはボクの姿さ」


 (了)


▼ 作品について  △ ▼ △ ▼ △ ▼ △
アンデルセンにリスペクトを込めた3つのパロディ作品です。
実はもっとたくさん作っています。
ボツにした作品はブログで公開していますので、よろしければ読んでみて下さい。

 


『北風と太陽』

 どっどど どどうど どどうど どどう

 

(北風のやつ、調子こいてやがる。最近あいつが人気者になっているみたいじゃないか。ちくしょうめ。大空の主役は俺様だと決まっているのに)
 太陽はどうも気分がよくありません。
「北風くん、クルミやカリンは吹き飛ばせても、旅人のコートは脱がせる事が出来なかったよね」
「いいや、できるさ」
(ケッ、なんて進歩のない奴)「じゃあ勝負しよう」
「よーし」
 北風はぴゅうと吹きました。すると、旅人の前を歩いていた女の子のミニスカートがまくれあがって、パンツのお尻が丸見えになってしまいました。
「きゃあ」
 女の子がスカートの後ろを押さえると、今度は前から風が吹いてまためくれてしまいます。前を押さえるとまたうしろ。見かねた旅人がコートを脱いで、女の子に着せてあげました。
 今度は太陽の番です。女の子がコートを着ているので、そっちを脱がせる事になりました。
 太陽はじりじりと照りつけます。
 旅人を好きになりかけていた女の子は、コートを返すと旅人が行ってしまいそうでしたので、「紫外線が強いみたいだから、もう少しコートを借りていていいですか」と言って、コートを脱ぎませんでした。

 

 北風は気持ちよさそうに「どっどど どどうど どどうど どどう」とうたいながら去っていきました。
 スカートのことは少しかわいそうでしたが、愛が芽生えたのですからよしとしようではありませんか。

(了)

 

▼ 作品について  △ ▼ △ ▼ △ ▼ △
小説を書き始めた頃の作品です。
イソップと宮沢賢治とO・ヘンリーを足して3で割ったら出来上がりました。
シンプルな作品で個人的には気に入っています。



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