目次
はじめに
嶋戸悠祐
自己紹介 嶋戸悠祐
六つの檻 1
六つの檻 2
六つの檻 3
六つの檻 4
六つの檻 5
六つの檻 6
六つの檻 7
六つの檻 8
六つの檻 9
齊藤想(サイトー)
自己紹介 齊藤 想(サイトー)
『オオカミと少年』  イソップ寓話 『嘘を付く子供』(『オオカミ少年』) より
『アリとキリギリス』  イソップ寓話『アリとキリギリス』より
『北風と太陽』  イソップ寓話『北風と太陽』より
カミツキレイニー
自己紹介 カミツキレイニー
【赤ずきん喫茶】
【うんこの話】
【冬オズ】
いづみみなみ
自己紹介 いづみみなみ
赤ずきんちゃん 1
赤ずきんちゃん 2
赤ずきんちゃん 3
赤ずきんちゃん 4
赤ずきんちゃん 5
まるたん
自己紹介 まるたん
八川克也
自己紹介 八川克也
ダンシング・リム 1
ダンシング・リム 2
ダンシング・リム 3
ダンシング・リム 4
ダンシング・リム 5
井上裕之
自己紹介 井上裕之
R大学民俗舞踊愛好部設立前史 1
R大学民俗舞踊愛好部設立前史 2
R大学民俗舞踊愛好部設立前史 3
R大学民俗舞踊愛好部設立前史 4
R大学民俗舞踊愛好部設立前史 5
R大学民俗舞踊愛好部設立前史 6
平渡敏
自己紹介 平渡敏
『アンデルセン童話による3つの変奏』
『北風と太陽』
『本』
一田和樹
自己紹介 一田和樹
昏倒少女 1
昏倒少女 2
昏倒少女 3

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【冬オズ】

 手袋を脱ぐと、凛とした冷たさが肌に触れた。
 見上げれば、灰色の空からいつの間にか粉雪が降り始めている。
「不思議だわ。どうして雪が降っている最中に歩きながら読書なんてできるわけ?」
「どうして? 歩きながら他にやることがないからだろう」
 並んで歩く彼の、眼鏡越しの視線にわざとらしく大きな溜息をつく。
「君ははホント、〝ブリキ〟ってあだ名がぴったりだよね。身も心も冷たいの。すごく、すごーく」
「……ふん」
「そうだよ。例え本を読んでたくさんの知識を身につけたとしてもさ、隣を歩く女の子を楽しませる物語さえ知らないんじゃ意味ないの」
 昨夜より降り積もった雪がブーツに踏まれ、むきゅ、むきゅ、と鳴いている。
 まだ誰も通っていないまっさらな道に足跡をつける様は、何となく嗜虐的で愉快だ。
 むきゅ、むきゅ、むきゅ。
「……」
「何で黙ってるわけ?」
「いや、楽しませる……物語を」
 彼が真剣に悩んでいる表情を見せたので、それが妙におかしくて笑ってしまった。
「手、つなごっか」
「俺は冷たいんだろ? 凍傷になってしまうぞ」
「だから、温めてあげるって言ってんの」
 呆れたように、ブリキの口元がほころぶ。
 彼が本に栞を挟むのを待って、その手を握った。
「うわ、ホント冷たい。手袋しなよ」
「手袋したら、ページが捲れない」
「超、バカ」
 透徹した空気に、吐息が滲んで消えた。
  むきゅ、むきゅと雪は鳴る。物語は、続いていく。

自己紹介 いづみみなみ

はじめまして、いづみみなみです。

 

普段は電撃大王やその他の媒体で漫画を描いております。
今回は一田さんに誘っていただき、久しぶりに小説を書くことになりました。

 

つたない小説ですが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。


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赤ずきんちゃん 1

大事に抱えたバスケットには、パンと葡萄とワインが二本。
とても美味しそうだけど、ピクニックに来ているわけじゃない。
これは「おつかい」なのだ。

 


森をぬけ、草原をひたすら歩く。
目指すは大好きなおばあちゃんの家だ。
まだ大人に成りきっていない私の足に、ろくに舗装されていない道を歩くのは重労働だった。
頭上を飛ぶ鳥が、ぎゃあぎゃあと不吉な鳴き声を上げる。
鳥だけじゃない。
ここは村からだいぶ離れた場所だから、危ない動物がたくさんいる。
そう―――他でもないおばあちゃんから教わっている。
例えば狼。
人間を食べる猛獣がこのあたりにはよく出るのだと思い出した瞬間、今まさにどこからか狼が自分を狙っているような気がして、ぶるりと体が震えた。
「狼」に出会ったら、自分がどうすればいいのか考えて、唇をかむ。
幸い周囲に狼の気配はなかったけれど、とても恐ろしくて、白い頭巾を深めに被りなおし、道を急ぐ。


赤ずきんちゃん 2

おばあちゃん。
優しくて、物知りで、いつも頭を撫でてくれたおばあちゃん。
昔は一緒に暮らしていたのに、病気になって、こんなところに一人で暮らすようになったおばあちゃん。
私は知っていた。

 

おばあちゃんが森の奥に来たのは、本当は―――――口減らしだ。

 


私の「おつかい」も、ただの名目。

働けない老婆はいらない。
食い扶持を増やすだけの小娘もいらない。

 


村は困窮していた。
そう大きくない町だ。
流行病が村を襲った。
偉い人達は自分たちの感染を恐れて真っ先に他の町や村に逃げていき、私達は残された。
人が死ぬだけ死んだ。
やっと流行り病がおさまって、今度は―――凶作が続いた。

 

限界だった。
流行り病にかかったおばあちゃんはなんとか生き残ったけれど、きっともう長くはないと皆が言った。
兄弟の多い私の家は、生きるために子供を減らすしかなかった。
器量のいい妹と、一番年下の柔らかい髪をした弟が売られていった。
そして私は―――危険な森の奥に住むおばあちゃんの元へ、「おつかい」に出されたのだ。

 


誰一人帰ってくるとは思っていないのだろう。
死ね。
そういうことだ。
死んで戻ってくるなということだ。
狼にでも食われて、二度と村に戻ってくるなということだ。
いらないものは、捨てられてもしょうがない。
お前はいらないと、共同体からそう烙印を押されてしまった―――死んでいくだけの、小娘。
それが私だ。

 


「お嬢ちゃん」
突然男の声がして、私はびくりと体を震わせた。
そろりと振り向くと、村では見たことのないような汚い服装で、下卑た笑みを張り付かた中年の男が私を見ている。
「こんなところまでおつかいかい?」
男がバスケットの中身から私の体にねっとりと視線を這わせた。
私は理解する。
この男が「狼」。
山賊くずれのならず者。
それが……「狼」の正体。
そうなんだね、おばあちゃん。
「女の子一人で危ねえよお。どうだい、おじちゃんがついて行ってあげようか?」
しまりのない声。しまりのない顔。
手には猟銃を持っていて―――私は思い出す。
「狼」に出会ったら、自分がどうすればいいのか。
「ありがとうおじさま。お礼に葡萄を一房差し上げますわ。代わりに、その銃を触らせてくださらない?お父様は危ないからと触らせてくれないの。」


赤ずきんちゃん 3

弾丸を発射した銃口が、細い煙を吐き出しているのをぼんやりと見た後、草むらに視線を落とす。

 


足元には、無残に転がる「狼」の死体があった。
これで―――「狼」を一匹仕留めた。
あと何匹の「狼」が森にいるのかわからない。
だけど、これで後から「おつかい」に来るはずの兄弟たちの危険を、少しでも取り除くことが出来ただろう。
そう思うと、小さな胸がほんの少しだけ高鳴った。
やった、やったわ。ちゃんと殺せた。
死体を漁って見つけた銃弾を、同じく「狼」から奪った銃に補充する。
最初の「狼」から武器を手に入れることが出来たのは幸先がいい。
銃は少しばかり重いけれど、油断させて至近距離で打てばなんとか当たることを、私は知っている。
バスケットに忍ばせていたナイフを使うより効率的だ。
ぶるり、と再び悪寒が私を襲う。
まだ終わっていない。
これからだ。
あと何匹いるかわからない「狼」を、一匹でも多く、私は殺さなければならない。
考えに考えて、「おつかい」に行く前に決めたことだ。
これが、私に出来る精一杯。
残された兄弟たちが、どうにか生き延びられますように。
私はこの命を最大限利用する。



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