目次
はじめに
嶋戸悠祐
自己紹介 嶋戸悠祐
六つの檻 1
六つの檻 2
六つの檻 3
六つの檻 4
六つの檻 5
六つの檻 6
六つの檻 7
六つの檻 8
六つの檻 9
齊藤想(サイトー)
自己紹介 齊藤 想(サイトー)
『オオカミと少年』  イソップ寓話 『嘘を付く子供』(『オオカミ少年』) より
『アリとキリギリス』  イソップ寓話『アリとキリギリス』より
『北風と太陽』  イソップ寓話『北風と太陽』より
カミツキレイニー
自己紹介 カミツキレイニー
【赤ずきん喫茶】
【うんこの話】
【冬オズ】
いづみみなみ
自己紹介 いづみみなみ
赤ずきんちゃん 1
赤ずきんちゃん 2
赤ずきんちゃん 3
赤ずきんちゃん 4
赤ずきんちゃん 5
まるたん
自己紹介 まるたん
八川克也
自己紹介 八川克也
ダンシング・リム 1
ダンシング・リム 2
ダンシング・リム 3
ダンシング・リム 4
ダンシング・リム 5
井上裕之
自己紹介 井上裕之
R大学民俗舞踊愛好部設立前史 1
R大学民俗舞踊愛好部設立前史 2
R大学民俗舞踊愛好部設立前史 3
R大学民俗舞踊愛好部設立前史 4
R大学民俗舞踊愛好部設立前史 5
R大学民俗舞踊愛好部設立前史 6
平渡敏
自己紹介 平渡敏
『アンデルセン童話による3つの変奏』
『北風と太陽』
『本』
一田和樹
自己紹介 一田和樹
昏倒少女 1
昏倒少女 2
昏倒少女 3

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【うんこの話】

「ざけやがってっ……!」
 けんかっ早い栗どんは、あぐらをかいた膝を叩き怒りを露わにした。床に伏せるカニどんの枕元でのことである。
「カニどんしっかりして……」と蜂どんは羽を震わせ、「鬼畜っ……」と寡黙な臼どんも巨体を揺らし鼻息を荒くする。
 意地の悪いサルどんが、気弱なカニどんに渋柿をぶつけたのだ。集まった仲間たちの怒りは最もだった。
「騙されたおらが悪いだぁ……」
 今にも消え入りそうなカニどんの言葉に、仲間たちは益々胸を熱くする。
「そんなことないよカニどんっ!」
「ちょw カニどんww 泡拭け、泡ww」
 部屋の隅に笑い声を聞き、栗、蜂、臼の三人は揃って振り返った。
 牛のフンが落ちていた。
「ちょww こっち見んなしww」
「……あ、彼は牛のフンどんです」
 カニどんが布団の中から、もじもじと説明した。
「牛の……何て?」
「フンどんです……」
 三人はその紹介を聞いて始めて、うんこが喋っていることに気付いたのだった。

 

 

 牛のフンどんは、生まれながらにしてうんこであった。
 外国のカエルの様に魔法にかけられたわけでも、醜いアヒルのように変貌する将来があるわけでもない。正真正銘、生涯かけて、牛のフンであった。
 しかし彼は、泣かなかった。
「ちょw うんこてww 悲惨ww 何で生まれたの俺www」
 彼の最たる不幸は、その環境にあったのかも知れない。例えば〝牛糞の村〟などで生まれ育ち、一生を村の内側で過ごすことができたなら、自身の奇異に気付くことはなかったのかも知れない。尻の形の良い嫁フンを貰い、可愛く元気な子フンを成す幸せもあったのかも知れない。
 しかし悲しいかな、そんな村など無かった。
 喋る牛はそこそこいたが、喋る牛糞は彼以外にいなかった。
 そもそも牛糞が喋って良いはずがなかった。自我を持って良いはずがなかった。「おーい、うんこ」などと呼ばれても立腹する道理さえ無いのだ。だって、うんこなのだから。
 それでも、彼がいじけることは一度もなかった。
「ちょ、うけるww 何で俺作ったの神さまwww 寿命も繁殖方法も分かんないんだけどww 俺の生きてる意味ってなにwww」
 牛のフンは天空を見上げて考えた。意味を。生まれたことの意味を。そうして他人に親切になった。畑仕事を手伝うこともあったし、便所掃除なども買って出た。
 しかしどれも違和感がある。「うんこに畑仕事をさせるわけには……」と人の目を気にする百姓もあれば、「うんこがうんこ掃除してる」と笑う童さえあった。
 しかし彼は諦めなかった。誰が泣いてやるものか。いじけてやるものか。絶対誰かの役に立ってやる。もはやこれは神さまとの勝負。意地であった。
 カニが悪猿に渋柿をぶつけられて重傷――。だからそんな噂を聞けば、誰よりも早く駆けつけた。

 

 

 サルどんの家にて。フンどんは土間で仰向けになっていた。
 しかしじっとしていることが何より苦手なフンどんは、ついつい吹き出してしまう。
「うはww みんな隠れてんのになんで俺だけむき出しww ばれるww」
「おい黙れクソ野郎」すると囲炉裏に身を隠す栗どんから注意され、瓶の中に潜む蜂どんになだめられた。
「……フンどんは大丈夫。ばれることないと思うから安心して」
 屋根の上に隠れる臼どんからも、「身も心もうんこであれ」とアドバイスを貰った。
 それで慌てて口を押さえる。彼はどきどきしていた。予感があった。みんなで協力して悪猿をこらしめる。俺はこのために生まれてきたのかも知れない。生まれて初めて、誰かの役に立てるかも知れない……!

 

 そうこうしている内にサルどんが帰ってきた。 
 「さみい、さみい」と 秋風に身を震わせるサルどんは土間のフンに気付くことなく、囲炉裏へ直行した。作戦通りである。「今だ!」とばかりに熱で弾けた栗どんはサルどんの鼻っ面に飛び出した。
「ぎゃあああああ! 熱いっ」
 鼻を火傷したサルどんは水を求め、台所の瓶の蓋を開ける。もちろんそこには、蜂どんが自慢の針を尖らせ待ち構えている。「それっ!」
「ぎゃあああああ! 痛いっ」
 尻を真っ赤に腫らしながら、サルどんは外へ追い立てられた。いよいよフンどんの出番であった。心臓の高鳴りを感じながら、フンどんは仰向けのまま両腕を広げた。「さあ俺を踏め!」と。「転べ!」と。しかし。
「――わ、うんこ、ばっちぃ」
 サルどんはぴょん、とフンどんを跨いだ。
「……!」
 何より焦ったのはフンどんである。自分が転ばせなければ、臼どんがサルどんを潰せない。また役立たずのうんこと呼ばれるのか。何しに来たの、と気まずい空気が流れるのか。それだけは避けたかった。サルさえ転ばせられないうんこに、何の価値があると言うのか……。そんなうんこを、誰が仲間と認めてくれるのか……!
 フンどんはサルどんを追いかけた。転ばさなければ、転ばさなければ! その一心で戸口を乗り越え、外へ出た時にサルどんへ追いついた。それはうんこにしてみれば奇跡的な速さであった。が、その懸命さが悲劇を招いた。
 サルどんが転ぶ転ばないに関わらず、臼どんはサルどんの背中に落下した。サルどんは潰れる。その足下に滑り込んだ、牛のフンごと。
 ドシン、と地響きが大地を揺らし、臼どんの巨体から命からがら這い出たサルどんは、悲鳴を上げて逃げていった。
「もう二度と悪さするんじゃねーぞ!」
 這々の体で逃げてゆくサルどんの背中に、栗どんが拳を突き上げて叫ぶ。場は一気に勝利ムードに包まれた。作戦は大成功である。
 お互いにハイタッチする仲間たち。ふと、蜂どんが臼どんの足下にうんこを見つける。ぺしゃんと潰れたうんこ。動くこと適わないただのうんこ。紛れもなく、フンどんだった。
「フ、フンどんっ!?」
 蜂どんの悲鳴で、栗どん、臼どんもその異常に気付いた。駆け寄る三人に囲まれて、牛のフンどんは辛うじて笑顔を作る。
「ちょ……俺、意味ねww 巻き込まれただけ……ww」
 何と声を掛けてよいのか。三人は言葉が見つからない。
「テラわろす……これで死ぬっていみふww ……俺の人生無意味ww」
 そんなことない、そう言ってやれるほど、三人とも器用ではなかった。実際うんこは必要なかった。うんこが無くても、サルは退治できたのだ。
「俺……ホントはどうでもよかったww 親切とか、誰かのためとか、別にそんなに優しくねえしww ただ……」
 ただ、友達が欲しかった。
 それだけだった。
 汚いと疎まれても、臭いと避けられても、ひとりいじけず誰かと関わろうとしたのはそのためだった。涙を流さないのはそのためだった。めそめそ泣いてる暗いうんこを見てくれる者などいない。境遇を嘆いて憎まれ口ばかり叩くうんこに友達などできない。
 そう思ったからこそ、ずっと笑っていたのだ。
 せめて笑っていようと。せめて誰かの、役に立とうと。
「ぐは、死ぬww もう死ぬw ……次は、次は虎とかに、生ま……れ……――」
 泣きながら笑うフンどんを、蔑む者などここにはいなかった。

 

 

 カニどんの住む家の庭には柿の木が生えている。赤橙の柿はとても甘く、集う仲間たちの頬を緩ませた。
 木の根元には墓石がひとつ。刻まれた文字は、〝友よ安らかに〟。
「食べろクソ野郎……うんこが食べれるのかは謎だけどな」
 墓前にひとつ、甘柿を放った栗どんはにやりと口の端を吊り上げた。
「……お前が命をかけて守った柿だ」
「おーい、栗どん! 臼どんが種つまらせて死にそう!」
「おう、今行くぜ」
 仲間に呼ばれ、栗どんはあっさり離れて行く。
 しかしこの小さな墓石の前には、ひとりでは食べきれないほどたくさんの柿が供えられているのだった。

 


「ちょww うっそ!? 死ねてねえしww」
 墓石と柿の隙間から這い出て、牛のフンはひとり爆笑した。
「てかうんこってどーやって死ぬのww 俺の役目終わってねーのかよ神さまww」
 こうしてフンどんは、再び自分の生きる意味を探し始める。
 遠い農村に桃が流れ着き、その果実から生まれた男子が鬼を退治しに行く――。そう聞いて手助けに旅立つことになるのだが、それはまた、別のお話。
 秋晴れの澄んだ空に、うんこの笑い声はいつまでもいつまでも、響いたのであった。めでたし、めでたし。


【冬オズ】

 手袋を脱ぐと、凛とした冷たさが肌に触れた。
 見上げれば、灰色の空からいつの間にか粉雪が降り始めている。
「不思議だわ。どうして雪が降っている最中に歩きながら読書なんてできるわけ?」
「どうして? 歩きながら他にやることがないからだろう」
 並んで歩く彼の、眼鏡越しの視線にわざとらしく大きな溜息をつく。
「君ははホント、〝ブリキ〟ってあだ名がぴったりだよね。身も心も冷たいの。すごく、すごーく」
「……ふん」
「そうだよ。例え本を読んでたくさんの知識を身につけたとしてもさ、隣を歩く女の子を楽しませる物語さえ知らないんじゃ意味ないの」
 昨夜より降り積もった雪がブーツに踏まれ、むきゅ、むきゅ、と鳴いている。
 まだ誰も通っていないまっさらな道に足跡をつける様は、何となく嗜虐的で愉快だ。
 むきゅ、むきゅ、むきゅ。
「……」
「何で黙ってるわけ?」
「いや、楽しませる……物語を」
 彼が真剣に悩んでいる表情を見せたので、それが妙におかしくて笑ってしまった。
「手、つなごっか」
「俺は冷たいんだろ? 凍傷になってしまうぞ」
「だから、温めてあげるって言ってんの」
 呆れたように、ブリキの口元がほころぶ。
 彼が本に栞を挟むのを待って、その手を握った。
「うわ、ホント冷たい。手袋しなよ」
「手袋したら、ページが捲れない」
「超、バカ」
 透徹した空気に、吐息が滲んで消えた。
  むきゅ、むきゅと雪は鳴る。物語は、続いていく。

自己紹介 いづみみなみ

はじめまして、いづみみなみです。

 

普段は電撃大王やその他の媒体で漫画を描いております。
今回は一田さんに誘っていただき、久しぶりに小説を書くことになりました。

 

つたない小説ですが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。


ブログ

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赤ずきんちゃん 1

大事に抱えたバスケットには、パンと葡萄とワインが二本。
とても美味しそうだけど、ピクニックに来ているわけじゃない。
これは「おつかい」なのだ。

 


森をぬけ、草原をひたすら歩く。
目指すは大好きなおばあちゃんの家だ。
まだ大人に成りきっていない私の足に、ろくに舗装されていない道を歩くのは重労働だった。
頭上を飛ぶ鳥が、ぎゃあぎゃあと不吉な鳴き声を上げる。
鳥だけじゃない。
ここは村からだいぶ離れた場所だから、危ない動物がたくさんいる。
そう―――他でもないおばあちゃんから教わっている。
例えば狼。
人間を食べる猛獣がこのあたりにはよく出るのだと思い出した瞬間、今まさにどこからか狼が自分を狙っているような気がして、ぶるりと体が震えた。
「狼」に出会ったら、自分がどうすればいいのか考えて、唇をかむ。
幸い周囲に狼の気配はなかったけれど、とても恐ろしくて、白い頭巾を深めに被りなおし、道を急ぐ。


赤ずきんちゃん 2

おばあちゃん。
優しくて、物知りで、いつも頭を撫でてくれたおばあちゃん。
昔は一緒に暮らしていたのに、病気になって、こんなところに一人で暮らすようになったおばあちゃん。
私は知っていた。

 

おばあちゃんが森の奥に来たのは、本当は―――――口減らしだ。

 


私の「おつかい」も、ただの名目。

働けない老婆はいらない。
食い扶持を増やすだけの小娘もいらない。

 


村は困窮していた。
そう大きくない町だ。
流行病が村を襲った。
偉い人達は自分たちの感染を恐れて真っ先に他の町や村に逃げていき、私達は残された。
人が死ぬだけ死んだ。
やっと流行り病がおさまって、今度は―――凶作が続いた。

 

限界だった。
流行り病にかかったおばあちゃんはなんとか生き残ったけれど、きっともう長くはないと皆が言った。
兄弟の多い私の家は、生きるために子供を減らすしかなかった。
器量のいい妹と、一番年下の柔らかい髪をした弟が売られていった。
そして私は―――危険な森の奥に住むおばあちゃんの元へ、「おつかい」に出されたのだ。

 


誰一人帰ってくるとは思っていないのだろう。
死ね。
そういうことだ。
死んで戻ってくるなということだ。
狼にでも食われて、二度と村に戻ってくるなということだ。
いらないものは、捨てられてもしょうがない。
お前はいらないと、共同体からそう烙印を押されてしまった―――死んでいくだけの、小娘。
それが私だ。

 


「お嬢ちゃん」
突然男の声がして、私はびくりと体を震わせた。
そろりと振り向くと、村では見たことのないような汚い服装で、下卑た笑みを張り付かた中年の男が私を見ている。
「こんなところまでおつかいかい?」
男がバスケットの中身から私の体にねっとりと視線を這わせた。
私は理解する。
この男が「狼」。
山賊くずれのならず者。
それが……「狼」の正体。
そうなんだね、おばあちゃん。
「女の子一人で危ねえよお。どうだい、おじちゃんがついて行ってあげようか?」
しまりのない声。しまりのない顔。
手には猟銃を持っていて―――私は思い出す。
「狼」に出会ったら、自分がどうすればいいのか。
「ありがとうおじさま。お礼に葡萄を一房差し上げますわ。代わりに、その銃を触らせてくださらない?お父様は危ないからと触らせてくれないの。」



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