目次
はじめに
嶋戸悠祐
自己紹介 嶋戸悠祐
六つの檻 1
六つの檻 2
六つの檻 3
六つの檻 4
六つの檻 5
六つの檻 6
六つの檻 7
六つの檻 8
六つの檻 9
齊藤想(サイトー)
自己紹介 齊藤 想(サイトー)
『オオカミと少年』  イソップ寓話 『嘘を付く子供』(『オオカミ少年』) より
『アリとキリギリス』  イソップ寓話『アリとキリギリス』より
『北風と太陽』  イソップ寓話『北風と太陽』より
カミツキレイニー
自己紹介 カミツキレイニー
【赤ずきん喫茶】
【うんこの話】
【冬オズ】
いづみみなみ
自己紹介 いづみみなみ
赤ずきんちゃん 1
赤ずきんちゃん 2
赤ずきんちゃん 3
赤ずきんちゃん 4
赤ずきんちゃん 5
まるたん
自己紹介 まるたん
八川克也
自己紹介 八川克也
ダンシング・リム 1
ダンシング・リム 2
ダンシング・リム 3
ダンシング・リム 4
ダンシング・リム 5
井上裕之
自己紹介 井上裕之
R大学民俗舞踊愛好部設立前史 1
R大学民俗舞踊愛好部設立前史 2
R大学民俗舞踊愛好部設立前史 3
R大学民俗舞踊愛好部設立前史 4
R大学民俗舞踊愛好部設立前史 5
R大学民俗舞踊愛好部設立前史 6
平渡敏
自己紹介 平渡敏
『アンデルセン童話による3つの変奏』
『北風と太陽』
『本』
一田和樹
自己紹介 一田和樹
昏倒少女 1
昏倒少女 2
昏倒少女 3

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六つの檻 9

 そろそろ隣から絶叫が聞こえてきてもいいはずなのに、物音一つしない。あきらかに変だ。だが一つの可能性を思いつく。
①の檻の子供は大男にやられて虫の息だった。もはや抵抗する力もなくひっそりと
連れ去られて殺されたのかもしれない。そうだ。そうに違いない。
 そのときガチャリと音がした。大男が入ってきた。僕の勝利は間違いない。とりあえずは①の檻へと移動しなければならない。僕は抵抗せず自ら檻を出て、①の檻へと向かった。
 しかし、目を疑った。①の檻の中には男の子がいたのだ。
 入口は閉め切られたまま、男の子は檻の中でぽつんと立っている。
 僕は大男に羽交い絞めにされた。僕を引き摺り、①の檻の先にある、暗闇に向かって歩き出した。
 頭が真っ白になった。何が起きているのかまるでわからない。
 なぜだ──。なぜだ──。僕の指の方が細いに決まってる──。僕は勝ったのだ──。そんなはずはない──。僕は力の限り叫んだ。体をねじり、よじり、死に物狂いで暴れた。僕が勝利していることを訴え、大男が勘違いしていることを叫び続けた。
ぼくはまけてない。まけてない。まけるはずがない──。おまえはまちがえている──。はなせ──。はなせ──。はなせ──。
 最後は言葉にならぬ声で叫んでいた。
 そのとき通路にグレーテルの姿が見えた。
 グレーテルにたすけてくれ、と懇願する。だが、グレーテルは何の反応も示さない。無表情のまま引き摺られる僕を眺めていた。なぜだかグレーテルは右手に大きな包帯を巻いており、それは赤黒く染まっていた。
いつのまにかグレーテルの横には魔女が立っていた。
 魔女は、ヒヒヒ、と気味悪く笑った。
 さらに、①の檻の子供の姿が、通路のそばに見えた。檻の中から鉄格子に顔を寄せている。僕は、卑怯な手を使いやがって、と泣き叫びながら罵った。だが男の子も、グレーテルと同じように、何の反応も示さず、ぼんやりと僕を見ているだけだった。①の檻からもどんどん遠ざかってゆく。仄かに見える灯りも、もう少しで消えてなくなる。
 そして闇に消えゆく最後の刹那、僕には、はっきりと見えた。
 檻の中の男の子が一瞬、掲げたその手の中には、透き通るように細い、グレーテルの人差し指があった。


自己紹介 齊藤 想(サイトー)

 初めて書いた作品が某出版社の「優秀賞」に選ばれたのがきっかけでショートショートを書き始め、それ以来、第7回大阪ショートショート大賞、第14回一休とんち大賞、SFマガジン・リーダーズストーリー掲載8回などの受賞歴を重ねる。
 ひょんなことから、現役のコピーライターで、数多くのシナリオ作成に関わってきたストーリーデザイナー・ぴこ山ぴこ蔵さんから「ショートショートの作り方のコツをみんなに教えてくれ」と口説かれ、実践的掌編作成術を盛り込んだメルマガ『サイトーマガジン』を創刊。今年で連載5年目に突入。また、楽しみながら書き、かつ作品を完成させることを信条とした掌編講座も開講中。
 2010年にサイトーブログを開設。単なる日記にとどまらず、各種公募情報、ネットの海に埋もれている名作紹介など、公募に挑戦を続けるひとたちの助けとなるようなブログを目指している。
 もちろん、現在も各種公募に向けて精力的に執筆中。

 

ブログ:『サイトーブログ』
メルマガ:『サイトーマガジン』
掌編講座

 さて、今回の作品は、古典作品であるイソップ寓話に現代社会にそぐうような新しい寓意を与えるべく生まれたシリーズです。合わせて3話。じっくりとでも軽くでも寝ながらでも何でも良いので、お楽しみいただければ幸いです。

 

 それでは、どうぞ!


『オオカミと少年』  イソップ寓話 『嘘を付く子供』(『オオカミ少年』) より

 人里からほど近い荒地に、オオカミたちがたくさん住んでいました。そこに、一匹の小さなオオカミがいます。その子オオカミは、何か動いているのを見つけると、すぐにこう叫ぶのです。
「少年がきたぞ!」
 オオカミたちは人里の少年に困っていました。なにしろ、とんでもなく目ざとくて、オオカミが少し近づいただけで村中に触れ回るのです。オオカミの大好物は、人間たちが大切にしている家畜です。ところが、この少年のせいで、村にはなかなか近づけません。オオカミたちは、この少年を捕まえてとっちめてやろうと思っていたのです。
 子オオカミの声を聞いて、大人のオオカミたちが巣穴からでてきました。
「どこにいるのだ」
「ほら、あそこだよ」
 子オオカミは鼻先で山頂を指しました。木の上で何かがゆれています。
「バカだなあ。あれはサルだ。人間は木には登らない。お前は人間とサルとの区別もつかないのか。もっと良く見なさい」
 大人のオオカミはあきれた顔をしながら巣穴に戻ってきました。
 次の日も、子オオカミは「少年がきたぞ」と叫びました。今度こそと大人たちが巣穴から飛び出していくと、杖をついた老人が野原を散歩していました。
「バカだなあ。あれは年を取った人間だ。われらが目の敵としているのは少年だ。杖を持った老人など怖くともなんともない。老人ぐらいで、いちいち大人たちを呼ぶな」
 二回も肩透かしを食わされて、大人たちはおかんむりです。子オオカミは、本当に少年がきたときだけ、大人たちを呼ぶようにと念を押されました。
 また次の日、子オオカミは人間が歩いているのを見つけました。今回はひとりだけでなく、たくさんいます。
子オオカミは「少年が……」と叫びそうになりました。だけど、昨日、大人たちに怒られたばかりです。歩いている人間たちの中に少年がいるのかどうか、子オオカミは見極めようとしました。
 最初は全員が人間かと思いましたが、一人は木に登り始めました。あれはサルだろうと子オオカミは見当をつけました。こちらに向かってくる人間たちは、全員が杖のような道具を肩にかついでいます。あれは老人だろうと子オオカミは思いました。
「なーんだ。少年はいないじゃないか。慌てて大人たちを呼ばなくてよかった」
 子オオカミは安心して、母親の待つ巣穴に戻りました。

 そのころ人間たちは、悩まされてきたオオカミの群れを退治するために、猟師を野山に派遣していました。小柄な大人が木に登りオオカミの居場所を突き止め、その指示を受けた大人たちが猟銃を担ぎながらオオカミの巣穴へと近づいて……。


▼新しい寓意(五七五)△▼△▼△▼

うるさいと 警報とめたら 盗まれた (車失人)


『アリとキリギリス』  イソップ寓話『アリとキリギリス』より

 キリギリスは自由でした。
 ひとりで生活しているので、親や上司から命令されることはありません。好きなときに草を食べ、好きなときに歌を歌い、好きなときに求婚をします。
 それにひきかえ、働きアリの惨めさといったら、どうしたことでしょう。
 女王アリが命じるまま、幼虫のエサを探し続け、自分たちはお情けでアブラムシから分けてもらう粗末な液で、細々と命を永らえています。このような人生に、何の意味があるのでしょうか。
 キリギリスは、働きアリたちが可哀想でしかたがありませんでした。そこで、自慢の美声を響かせながら、働きアリたちに近づきました。
「君たちは、もっと自由にならないかい?」
 みんなで協力してセミの死骸を運んでいた働きアリたちは、首を捻りながらキリギリスに顔を向けました。
「自由ってなんだい?」
 この答えに、キリギリスはあきれました。
「自由とは自分の意思で、自分の責任において行動することさ。君たちは女王アリという独裁者の命じるまま、自らの意思に反して働かされている。労働者たちよ。いまこそ立ち上がれ。自由を勝ち取るのだ」
「しかし、女王アリ様は自分たちの母親でもあります」
「それに、私たちがエサを運ばないと、子供たちが困ります」
 キリギリスは憤慨のあまり、六本の足を踏み鳴らしました。
「何をいうか。母親といっても、女王アリに世話をしてもらったことあるか? 自らは安全な巣の奥にいて、娘たちだけを危険な目にあわせている。こんなのは親でもなんでもない。それに仲間がなんだ。彼らは独立できない弱虫だ。自分の弱さを隠すために、自らに言い訳をして、このような不公平な状態に身をうずめているのだ。こんなことが、許されると思っているのか。やつらは、虫権意識のかけらもないのだ。
 ぼくが君たちに声をかけたのは他でもない。君たちが他のアリとは違い、強い心を持っていると信じているからだ。ぼくと君たちが出あったのも何かの縁だ。新しい一歩を踏み出すならいましかない。いますぐにだ」
 働きアリたちは相談を始めました。そして、キリギリスに聞きました。
「自由って本当にいいものですか?」
「ああそうだ。このオレを見るがよい。虫権意識を呼び覚ますのだ!」
 キリギリスは高らかに喜びの歌を歌い上げました。働きアリたちの気持がぐらりと揺れました。働きアリたちは、運んでいたセミを地面に置きました。
「キリギリスさんが言うように、自由とはとてもいいものかもしれない」
「ぼくたちも自分の意思を持ってみよう」
「生きたいように、生きてみるんだ」

 こうして、キリギリスにそそのかされて巣から離れた働きアリたちは、自由に生きるといっても何をしていいかもわからず、かといって、かつての仲間からも相手にされなくなり、暖かい巣穴を思い浮かべながら、ほどなく野垂れ死にをしたそうです。


▼新しい寓意(五七五)△▼△▼△▼

吹き込まれ 雲の上から 落とされて (単純人)


作者注:原作のタイトルは『アリとセンチコガネ』ですが、日本では『アリとキリギリス』として知られているので、通例に倣いました。


『北風と太陽』  イソップ寓話『北風と太陽』より

 あるとき、北風は太陽に相談しました。
「最近、地球温暖化とかで、地球の気温が上昇して人間どもが困っているというではないか。まあ、人間どもが二酸化炭素を増やしたことが原因とはいえ、ここらで地球を冷やしてやらねば、大変なことになるらしい」
「ふむふむ、それなら君がビューっとやってやればいいのではないかね」
「太陽殿もそう思うか。それなら、ひとつ派手にやってみますか」
 北風は地球を冷やすためにびゅーっとやりました。しかし、人間たちは北風に対抗するために、石油ストーブやヒーターをガンガンに焚き始めました。人間が住むあらゆる場所に暖房がいきわたります。おかげで二酸化炭素濃度が上昇し、北風が疲れて吹くのを止めると、よけいに気温が上がるようになってしまいました。
「北風君はいつも力ずくだね。今度はぼくの番だ。いいかい、よーく見てくれたまえ」
 太陽は北風とは逆に地球を温め始めました。人間はストーブやヒーターを使わなくなりましたが、今度は冷房のためにエアコンを回し始めます。エアコンは電力を激しく消費する電化製品です。発電量が上がり、結果として余計に二酸化炭素を排出することとなってしまいました。
「なかなか上手くいかないものだな」
 太陽が腕組みをすると、北風が答えました。
「太陽殿が旅人の服を脱がせたような時代とは違うのさ。世の中の進歩にあわせて、我々も学ぶ必要があるかもね」
「ふむ、北風君には何かいい案がありそうだな」
「いがみ合うのを止めて、お互いの得意分野で協力すればいいのさ。ようするに二酸化炭素の排出を止めればいいんだろ? 二人が力を合わせれば、不可能なことはないと思っているんだ」
 そして、北風は太陽に二人が協力する案を説明しました。太陽が頷きました。
「よし、それでは北風君の案で進めてみよう。これで地球温暖化も解決だな」

 このときから、地球では異常気象が続きました。
 寒い地方では北風が吹き荒れて、作物が冷害にやられて全滅してしまいました。温かい地方では太陽が激しく照り付けて、これまた作物が枯死してしまいました。
 人類は大飢饉に陥り、七〇億いた人口は減り続けて三〇億人となりました。
 人類全体が消費するエネルギー量も人口に応じて減少し、それに伴い二酸化炭素排出量も減りました。こうして北風と太陽の目論見どおり地球温暖化はストップしたそうです。めでたしめでたし。


▼新しい寓意(五七五)△▼△▼△▼

目的と 手段の混同 大惨事 (猪突人)



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