目次
はじめに
嶋戸悠祐
自己紹介 嶋戸悠祐
六つの檻 1
六つの檻 2
六つの檻 3
六つの檻 4
六つの檻 5
六つの檻 6
六つの檻 7
六つの檻 8
六つの檻 9
齊藤想(サイトー)
自己紹介 齊藤 想(サイトー)
『オオカミと少年』  イソップ寓話 『嘘を付く子供』(『オオカミ少年』) より
『アリとキリギリス』  イソップ寓話『アリとキリギリス』より
『北風と太陽』  イソップ寓話『北風と太陽』より
カミツキレイニー
自己紹介 カミツキレイニー
【赤ずきん喫茶】
【うんこの話】
【冬オズ】
いづみみなみ
自己紹介 いづみみなみ
赤ずきんちゃん 1
赤ずきんちゃん 2
赤ずきんちゃん 3
赤ずきんちゃん 4
赤ずきんちゃん 5
まるたん
自己紹介 まるたん
八川克也
自己紹介 八川克也
ダンシング・リム 1
ダンシング・リム 2
ダンシング・リム 3
ダンシング・リム 4
ダンシング・リム 5
井上裕之
自己紹介 井上裕之
R大学民俗舞踊愛好部設立前史 1
R大学民俗舞踊愛好部設立前史 2
R大学民俗舞踊愛好部設立前史 3
R大学民俗舞踊愛好部設立前史 4
R大学民俗舞踊愛好部設立前史 5
R大学民俗舞踊愛好部設立前史 6
平渡敏
自己紹介 平渡敏
『アンデルセン童話による3つの変奏』
『北風と太陽』
『本』
一田和樹
自己紹介 一田和樹
昏倒少女 1
昏倒少女 2
昏倒少女 3

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六つの檻 7

「魔女は子供を殺して、バラバラに切り刻んでその肉を食べてるの……子供の肉は妖気の源になるらしいわ……男の子の肉じゃなきゃ駄目らしいの……それもできるだけ太って肉のついた男の子が……」
 僕はようやくすべてを理解した。不味いスープを無理やり食べさせるのもこのためだ。捕らえた獲物をまるまると太らせ、一番肉のついた獲物を食べる。この檻はそのための装置だったのだ。
「僕は今、何番の檻にいるんだ……」
 何回、檻を移動したのかはっきりとは覚えていない──。ただ、移動したのはすべて同じ方向だった。
「今、お兄ちゃんがいるのは……③の檻よ……そして……明日、検査があるわ……」
 僕は愕然とした。言葉がでない。だが考えるしかない。検査があるということは①か②の檻の、どちらかが殺されるということだ。するとそこに空きができるから自動的に一つ数の少ない檻へ移動となる。ということは④より指が細ければ③のまま、もしも太ければ②へ移動ということだ……。②の檻に入った時点で死へのリーチがかかる……。
「グレーテル、ぼ、僕は④の子供の指と比べてどうなんだ……」
 世話役をしているグレーテルなら④の太り具合も見ているはずだ。だが、グレーテルはうつむき、なかなか口を開こうとしない。
「正直、④の男の子の指の方が細いと思うわ……ここにいる子供たちは皆、私たちと同じように、口減らしで捨てられた子供たちばかりよ。元々、太っている子供なんかいないわ。皆、がりがりに痩せ細っていて……だからどうしても先に入れられてたくさん食べさせられている方が不利になる」
 ようやく口を開いた。その答えはあまりにも残酷だった。
「じゃあ……じゃあ……僕はこのまま殺されてしまうのか!」
 声を荒げた。死にたくない。死にたくない。こんなところで絶対に死にたくない──。
「お兄ちゃん、声をおさえて……気づかれてしまうわ……」
 グレーテルは泣きそうな顔で言った。
「グレーテル……たのむ、助けてくれよ……おまえ、僕の妹だろ……お兄ちゃんを見殺しにする気か……お願いだから助けておくれ……」
 僕は妹に泣きすがるしかなかった。だがグレーテルは何も言わず去っていった。どこかで物音が聞こえたのだ。
 その後、グレーテルのいうとおり検査が行なわれた。結果、僕は②の檻に入れられた。④の子供よりも指が太かったのだ。絶望的な気分だった。移動する直前に絶叫が響き渡った。①か②の子供が連れ去られたのだ。
もう後がない。次、比較相手の子供よりも指が太かったら、僕は生きたまま切り刻まれて殺されるのだ。死にたくない。死にたくない。死にたくない。絶対に死にたくない──。グレーテルはもうあてにはならない。頼れるのは自分だけだ。考えて、考え抜いた。どうしたら助かるのかを──。
 そして僕は、悪魔に魂を売ることに決めた。
 最初から気づいていた。大男の、グレーテルを見る目が、あの変態野郎の父親と同じだということを──。

六つの檻 8

 そして食事を運んできたグレーテルに対して、僕は言った。
 グレーテルは泣きながら拒否した。僕はグレーテルを殴った。
 するとグレーテルは、とぼとぼと歩き、檻の入口を塞いでいる大男の前に立ち、薄汚れた腰巻を下ろし、その股間に顔をうずめた。
 最初、大男は驚いた風だったが、すぐにそれは、変態野郎と同じ淫猥な表情へと変わった。僕はスープを飲むフリをして、少しずつだが、中身を地面にこぼした。大男は、チラチラとこちらを見ていたが、快楽に溺れるのに夢中で、僕の行為に気づいていない様子だった。
 僕は空になったカップを掲げて、大男に見せた。ようやくグレーテルは顔を上げた。ゴボゴボと咳をして、激しくむせていた。
大男は何も言わず去って行った。僕は地面にこぼしたものをかき集め、汚物入れに投げ捨てた。
 この方法で僕は何度か食事を回避した。これで次の検査に向けてだいぶ有利になったはずだ。だが絶対ではない。もしも相手よりも指が太かったら──その敗北は死を意味するのだ。できることはすべてやらなければならない。僕は、またグレーテルを殴り、命令を出した。
 グレーテルは命令に従い、頼んだモノを持ってきた。グレーテルの、手の中にあったモノは、子供の、右手の人差し指だった。魔女に気づかれないようにして、切り刻まれた子供の、人差し指だけを盗んでくるよう、命令したのだ。
思ったとおりだった。その青白い指は血が抜けて、僕の人差し指よりもかなり細い。グレーテルの指までとはいかないが、①の子供の指の太さに負けるわけが無かった。そのとき、①の檻で叫び声が聞こえた。身をかたくする。何が起きたのか──。だが、その声は恐怖に怯えるような声音ではなかった。例えるなら、何かに立ち向かっていく雄叫びのような──。
 僕は立ち上がり、鉄格子に顔を押しつけて、①の檻の様子を窺った。入口に大きな影が見えた。どうやら①の子供は食事中のようだ。鈍い音がして、床か壁に何かが勢いよくぶつかる振動が伝わる。
 次にグレーテルの悲鳴が──。その後、グレーテルはしくしく泣いていた。二人が去った後、耳をすますと①の檻から子供の呻き声が聞こえた。
 どうやら生きては、いるようだ。
 何が起こったかは、だいたい想像がついた。おそらく大男は、我慢できなくなりグレーテルを求めたのだろう。その姿を見て、①の子供はグレーテルを助けようと大男に立ち向って行ったのではないだろうか──。そうだとすれば、何て馬鹿なことをしたのか──。これは命を懸けた戦いなのだ。その状況で、なすべきことはグレーテルを助けることじゃない。それを利用して僕のようにスープをこぼし、食事を誤魔化し、数ミリでも指を細くすることなのに──。僕に負ける要素は一つも見つからなかった。
 そして魔女が現れた。
 僕は切り刻まれた子供の、右手の人差し指を、魔女の前へ出した。魔女がその指を握る。魔女の目は相変わらず、皺に埋もれている。魔女はすぐに握った指を放し、そのまま①の檻へと向かった。うまく誤魔化せた。僕は①よりも指が細いことを──勝利を確信した。
 しかし──様子がおかしかった。

六つの檻 9

 そろそろ隣から絶叫が聞こえてきてもいいはずなのに、物音一つしない。あきらかに変だ。だが一つの可能性を思いつく。
①の檻の子供は大男にやられて虫の息だった。もはや抵抗する力もなくひっそりと
連れ去られて殺されたのかもしれない。そうだ。そうに違いない。
 そのときガチャリと音がした。大男が入ってきた。僕の勝利は間違いない。とりあえずは①の檻へと移動しなければならない。僕は抵抗せず自ら檻を出て、①の檻へと向かった。
 しかし、目を疑った。①の檻の中には男の子がいたのだ。
 入口は閉め切られたまま、男の子は檻の中でぽつんと立っている。
 僕は大男に羽交い絞めにされた。僕を引き摺り、①の檻の先にある、暗闇に向かって歩き出した。
 頭が真っ白になった。何が起きているのかまるでわからない。
 なぜだ──。なぜだ──。僕の指の方が細いに決まってる──。僕は勝ったのだ──。そんなはずはない──。僕は力の限り叫んだ。体をねじり、よじり、死に物狂いで暴れた。僕が勝利していることを訴え、大男が勘違いしていることを叫び続けた。
ぼくはまけてない。まけてない。まけるはずがない──。おまえはまちがえている──。はなせ──。はなせ──。はなせ──。
 最後は言葉にならぬ声で叫んでいた。
 そのとき通路にグレーテルの姿が見えた。
 グレーテルにたすけてくれ、と懇願する。だが、グレーテルは何の反応も示さない。無表情のまま引き摺られる僕を眺めていた。なぜだかグレーテルは右手に大きな包帯を巻いており、それは赤黒く染まっていた。
いつのまにかグレーテルの横には魔女が立っていた。
 魔女は、ヒヒヒ、と気味悪く笑った。
 さらに、①の檻の子供の姿が、通路のそばに見えた。檻の中から鉄格子に顔を寄せている。僕は、卑怯な手を使いやがって、と泣き叫びながら罵った。だが男の子も、グレーテルと同じように、何の反応も示さず、ぼんやりと僕を見ているだけだった。①の檻からもどんどん遠ざかってゆく。仄かに見える灯りも、もう少しで消えてなくなる。
 そして闇に消えゆく最後の刹那、僕には、はっきりと見えた。
 檻の中の男の子が一瞬、掲げたその手の中には、透き通るように細い、グレーテルの人差し指があった。


自己紹介 齊藤 想(サイトー)

 初めて書いた作品が某出版社の「優秀賞」に選ばれたのがきっかけでショートショートを書き始め、それ以来、第7回大阪ショートショート大賞、第14回一休とんち大賞、SFマガジン・リーダーズストーリー掲載8回などの受賞歴を重ねる。
 ひょんなことから、現役のコピーライターで、数多くのシナリオ作成に関わってきたストーリーデザイナー・ぴこ山ぴこ蔵さんから「ショートショートの作り方のコツをみんなに教えてくれ」と口説かれ、実践的掌編作成術を盛り込んだメルマガ『サイトーマガジン』を創刊。今年で連載5年目に突入。また、楽しみながら書き、かつ作品を完成させることを信条とした掌編講座も開講中。
 2010年にサイトーブログを開設。単なる日記にとどまらず、各種公募情報、ネットの海に埋もれている名作紹介など、公募に挑戦を続けるひとたちの助けとなるようなブログを目指している。
 もちろん、現在も各種公募に向けて精力的に執筆中。

 

ブログ:『サイトーブログ』
メルマガ:『サイトーマガジン』
掌編講座

 さて、今回の作品は、古典作品であるイソップ寓話に現代社会にそぐうような新しい寓意を与えるべく生まれたシリーズです。合わせて3話。じっくりとでも軽くでも寝ながらでも何でも良いので、お楽しみいただければ幸いです。

 

 それでは、どうぞ!


『オオカミと少年』  イソップ寓話 『嘘を付く子供』(『オオカミ少年』) より

 人里からほど近い荒地に、オオカミたちがたくさん住んでいました。そこに、一匹の小さなオオカミがいます。その子オオカミは、何か動いているのを見つけると、すぐにこう叫ぶのです。
「少年がきたぞ!」
 オオカミたちは人里の少年に困っていました。なにしろ、とんでもなく目ざとくて、オオカミが少し近づいただけで村中に触れ回るのです。オオカミの大好物は、人間たちが大切にしている家畜です。ところが、この少年のせいで、村にはなかなか近づけません。オオカミたちは、この少年を捕まえてとっちめてやろうと思っていたのです。
 子オオカミの声を聞いて、大人のオオカミたちが巣穴からでてきました。
「どこにいるのだ」
「ほら、あそこだよ」
 子オオカミは鼻先で山頂を指しました。木の上で何かがゆれています。
「バカだなあ。あれはサルだ。人間は木には登らない。お前は人間とサルとの区別もつかないのか。もっと良く見なさい」
 大人のオオカミはあきれた顔をしながら巣穴に戻ってきました。
 次の日も、子オオカミは「少年がきたぞ」と叫びました。今度こそと大人たちが巣穴から飛び出していくと、杖をついた老人が野原を散歩していました。
「バカだなあ。あれは年を取った人間だ。われらが目の敵としているのは少年だ。杖を持った老人など怖くともなんともない。老人ぐらいで、いちいち大人たちを呼ぶな」
 二回も肩透かしを食わされて、大人たちはおかんむりです。子オオカミは、本当に少年がきたときだけ、大人たちを呼ぶようにと念を押されました。
 また次の日、子オオカミは人間が歩いているのを見つけました。今回はひとりだけでなく、たくさんいます。
子オオカミは「少年が……」と叫びそうになりました。だけど、昨日、大人たちに怒られたばかりです。歩いている人間たちの中に少年がいるのかどうか、子オオカミは見極めようとしました。
 最初は全員が人間かと思いましたが、一人は木に登り始めました。あれはサルだろうと子オオカミは見当をつけました。こちらに向かってくる人間たちは、全員が杖のような道具を肩にかついでいます。あれは老人だろうと子オオカミは思いました。
「なーんだ。少年はいないじゃないか。慌てて大人たちを呼ばなくてよかった」
 子オオカミは安心して、母親の待つ巣穴に戻りました。

 そのころ人間たちは、悩まされてきたオオカミの群れを退治するために、猟師を野山に派遣していました。小柄な大人が木に登りオオカミの居場所を突き止め、その指示を受けた大人たちが猟銃を担ぎながらオオカミの巣穴へと近づいて……。


▼新しい寓意(五七五)△▼△▼△▼

うるさいと 警報とめたら 盗まれた (車失人)



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