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第20話 家族

 コルロ総合病院の一室で、上半身を包帯だらけにし、点滴のチューブを腕に刺した真太郎がベッドに横たわっていた。
 その傍らには、見舞いに来ていた秘書のミミーが椅子に坐っていた。
「痛みます?」
「こんなの傷の内に入らないよ。ハハハ――」
 真太郎はミミーに余計な心配をかけまいと、わざと作り笑いをした。
「でも、大事に至らなくて本当によかった。あ、今、アイスコーヒー作りますね」
 ミミーは病室隅にある小さな洗面所で、アイスコーヒーを作り始めた。
 真太郎は横目でミミーを見た。ミミーは右手で涙をぬぐっていた。
「(すまん、ミミー)」

 

 真太郎はアイスコーヒーを飲みながら、朝刊の大きな見出しに目をやった。


 “コルロタウン再開発に巨悪の影! ブルドック市長に事情徴収。逮捕は時間の問題か?”


 ミミーが真太郎に話しかけた。
「父が言ってましたわ」
「え?」
「今回の事件は、市長と大手ゼネコンと組んだ裏組織が黒幕だ。でも、地上げ騒動はまだ氷山の一角。叩けば次々とボロが出てくるはずだ、って。 父は、絶対全貌を暴いて、全員に罪のつぐないをさせてやるって、張り切ってましたわ」
「なるほど。――ところで、シェパードとドベールはどうなった?」
「シェパードさんは重体でしたが、一命は取りとめたそうです。ドベールさんも思ったほど傷は深くなかったようで、今、警察の取調べを受けているそうです」
「そうか――。あと、アンとブラッキーは?」
「先日、警察で事情徴収を受けたあと、自由になったと聞いていますけど――」
 軽くドアをノックする音が聞こえた。
「どうぞ」
 ミミーが答えるとドアが開き、見舞いの花束を持ったアンとブラッキーが顔を見せた。
「やあ、アン、ブラッキー! よく来たな」
 真太郎は思わぬ訪問者に顔をほころばせた。2人は照れくさそうに部屋の中に入ると、花束を真太郎へ渡した。
「犬塚さん、花ってがらじゃないだろ? 俺は酒かタバコがいいってアンに言ったんだけどね」
 アンが申し訳なさそうな顔をして、うつむいた。
「いやいや、そんなことはないよ。きれいな花だ。ありがとう。やっと、俺のことを名前で呼んでくれたな」
「へへへ――」
 ブラッキーは照れ笑いをした。その笑顔は、暴走族で頭(あたま)をやっていた頃がウソだったかのように、明るく、さわやかだった。
「アン」

「はい?」

「だいじょうぶかい?」
 真太郎は、アンの気持ちを察して優しく声をかけた。
「はい、ありがとうございます」
 アンはにっこりと微笑んで答えた。
「今日の朝、父から電話をもらいました」
「何て言ってた?」
「俺に代わって、犬塚さんに礼を言っといてくれと。あと、しばらく家には戻れそうにもないから、俺の代わりに仕事を引き継いでくれと」
「ハハハ――。あいかわらず仕事熱心な奴だな、ドベールは」
「その仕事のことですが――。実は、今やっている仕事を全て廃業させ、資産全部を使って“希望の園”を建て直し、運営の手助けをする手続きを取ってくれと言われました」
「え?」
 予想もしないアンの報告に、真太郎とミミーは驚いて顔を見合わせた。アンは話しを続けた。
「父は言ってました――。

 新しい“希望の園”を建てることだけで、すべてを解決させようとは思ってない。
これからは、“あの家”で育ち、社会へ巣立って行った家族の故郷(ふるさと)が、もう二度となくならないように、そして“新しい家”で暮らす家族がいつも笑顔でいられるように、俺は残りの人生をすべてかけて守る。それが“あの家”で育ててもらった不良息子の、せめても“親孝行”だ、と――。
そのことをお母さんに話したら、とても喜んで下さいました」
「そうか――」
 真太郎は、二人からもらった花束を見つめながら微笑んだ。
「――と、言うことは、ドベールさんは“希望の園”のお父さんになるのかな? じゃあ、シェパードさんも、いつでも安心して“家”へ帰れますね」
 ミミーが嬉しそうな顔でアンに言った。
「はい!」
 アンは目を輝かせなから答えた。
「ブラッキー。大きなお世話かもしれないが、おまえはこれからどうするんだ?」
 真太郎が訊くと、ブラッキーは頭をかきながら照れくさそうに答えた。
「俺? 俺は“新しい家”ができたら、そこで兄貴になって、子供たちの面倒をみてあげる事にしたんだ。だから、これから資格を取る為の勉強をしようと思ってる」
 真太郎の顔が明るくなった。
「そうか、頑張れよ。でも、おまえの乱暴な運転だけは、子供たちには絶対教えるんじゃないぞ」
「えっ? そんな事しねーよ。まいったなぁ――」
 病室内に4人の明るい笑い声が響いた。


「それでは、私たち、このへんで失礼いたします。カレンさんも心配されていたので、今から報告に行きます」
「カレンに、傷が治ったらまた店に行くと言っといてくれ」
「わかりました」
 アンとブラッキーは、真太郎とミミーに向かって深々と頭を下げてお礼をし、部屋から出ようとした。
「アン! ブラッキー!」
 2人が真太郎の呼びかける声に振り返った。
「なんでしょう?」

 アンが応えた。
「なんかあったら、いつでも気軽に俺の事務所(ところ)に遊びに来てくれ。君たちの“家”は別にひとつじゃなくてもいいんだろ?」
「――!」
 真太郎の優しい言葉に胸が一杯になったアンは、溢れてくる涙を止められなかった。
 言葉が出ないアンに代わって、ブラッキーが答えた。
「ありがとう――。犬塚さん」
 2人は頭を下げ、病室を出て行った――。

 

「よかったですね」
 ミミーは真太郎の方を振り返って言った。
「ああ――」
 真太郎は窓の外を見ながら答えた。
「ミミー」
「はい?」
「新しい“希望の家”が完成したら、お祝いに行こう――」
「ええ。もちろん!」


 ミミーは真太郎が見ている窓の外を見た。
 外には青空が広がり、大きな雲の横に、小さな雲がいくつも連なっていた。

 それはまるで大空の家に住む家族のようだった――。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私立探偵 犬塚真太郎

 

 

― 終 ―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


奥付



私立探偵 犬塚真太郎~後編


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著者 : 平野文鳥
著者プロフィール:http://p.booklog.jp/users/hiranobuncho/profile


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