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ST

 男が家を出ると子供たちが待ち構えていた。「ST、話をしてよ」「うるせえ。失せろ」「ねえねえ」「STって呼ぶな。おれはストーリーテラーじゃねえ。ストーリーセラーなんだ。お前らに話をしても一銭の得にもなりやしねえ。いいかよく聞け」子供たちは息を呑む。男の話はいつもこうして始まった。

即席彼氏

 即席彼氏を買ってきた。湯を注いで三分待つとカップから頭が生えてくる。見る見る間に身体も膨らみ私の目の前に立派な彼氏が現れる。だが彼は何故か無表情だった。話しかけても機械的に返事をするばかり。がっかりだった。生ゴミに出そうとして気づいた。感情の素を入れ忘れていた。


家出

 パンツが家出した。全員だ。困った。風呂上がりなのに穿くものがない。ふと机を見ると書き置きが残されている。「乾燥機の導入以来、我々は日光浴もできません。お日様が恋しいのです。パンツ一同」俺は一人取り残された使用済みパンツに使いを頼む。仲間に伝えてくれ。明日からは毎日天日干しだと。

 五年ほど前から雨が降らない。不思議なものだ。晴天が何年も続くとあれほど忌んでいた雨空が妙に恋しくなってくる。妻と相談して傘を買うことにした。新式の傘の内張りは曇天。柄に付いたボタンを押すと雨が降りはじめる。そうそうこれこれ。妻と私は目を細めて笑い合う。五年ぶりの相合い傘の下で。

掃除機

 掃除機の吸いが悪い。ゴミが溜まっているかフィルターが詰まっているかどちらかだろうなと思い本体を開けてみるとお父さんが入っていた。ぶはーっ。お父さんはほうほうの体で出てきてぐちぐちと文句を言いはじめる。うるさい上にお酒くさい。私は掃除機をセットしてもう一度お父さんを吸い込んだ。

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