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人間山

 もはや人間の力士は人間山だけだった。ラジコン行司にラジコン親方。観客さえもラジコンだった。人間山は何としても人間の意地を見せたかった。千秋楽結びの一番は優勝決定戦。人間山はラジコン横綱を豪快に投げ飛ばす。人間山は雄叫びを上げる。空にはラジコン座布団が舞っていた。

廃れた街

「ごめんなさい。私は行けない。お父さんをこの街に置いていくわけにはいかないの。どれだけ廃れていてもお父さんにとっては大切な街だから」「おれが受かったら一緒に行くって」「あれは嘘。そうでも言わないと此処に残るって言ったでしょ? あなたみたいに未来のある人が東京なんかにいちゃだめ」

 腐った花が温室を取り囲んでいた。厚い雲から月が顔を覗かすと泥塗れの花々が青白く浮かび上がる。季節感などお構いなしにありとあらゆる花の屍が蘇ってしまったようだ。半分顔の溶けた向日葵がぬめついた葉で温室の扉を開けようとする。私は手近にあった鍬で扉にかんぬきを掛けた。

ガラ・ルファ

 彼の部屋の水槽には小さな魚がたくさん泳いでいた。なんて魚? 私が訊ねると、彼はガラ・ルファと答えた。食後すぐに私は携帯用歯ブラシで歯を磨く。彼はと言うと鏡の向こうで口を膨らませていた。なにを入れてるの? 彼はメモに書いた。ガラ・ルファ:別名ドクター・フィッシュ。

蝙蝠傘

 風が強い日をずっと待っていた。今日こそがその日だった。男は蝙蝠傘を携え外へ出る。傘の先には大蝙蝠の顔が付いている。風の丘に辿り着くと蝙蝠の目がギラリと光った。傘は羽ばたいた。宙に浮いた男の体は空を駆け雲を破り成層圏をも突き抜けてどこまでも高く舞い上がっていった。

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