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やさしい小説

 ザラメで綿菓子を作るように活字を入れると小説ができる機械があった。作家の夫は毎晩活字を枡で量っては機械へ入れてゆく。ある日そこへ娘が花を混ぜてしまった。活字の花ではなく本物の花を。私が叱ろうとすると夫は止める。きっとやさしい小説ができるだろう。気難しい夫が珍しく笑った。

触れたいよ

 娘にせがまれて花を見せる。再生ボタンを押すとすぐにすみれがあらわれる。娘は花びらにふれようとする。小さな手は空振りしてしまう。お花さわりたいよ。ごめんね。今のきみにはできないんだ。私は娘の頬に手をのばす。指先は虚しく空を切る。パパももう一度きみを抱きしめたいよ。

フォークボール

 彼女はいつもフォークボールを投げる。そして僕が捕りそこねるのを見て楽しむのだ。たまには真っ直ぐを投げてくれよ。私がフォークボールしか投げられないの知ってるでしょう? 彼女はよく手入れされた指にボールを挟む。大きく振りかぶって投げる。やっぱり僕は彼女の球が捕れない。

ブクブク

 バスタブに潜る。今日はいつもより深い。どこまでも潜っていける。しかも全然息が苦しくない。これは世界新が出せそうだぞと私は思う。バスタブダイビングの記録は確か115m。今日の私ならいける。ブクブクブク。白い天井が見えた。脱衣所に寝かされていた。隣で母が泣いていた。

ハンバーガー

 ハンバーガーが男の寝床だった。掛けバンズと敷きバンズ。二枚のバンズの間で男は眠る。今月から其処へレタスとベーコンが追加された。厚みが増して快適になるかと思いきやレタスの水気は冷たいわベーコンの脂はべとつくわで散々だった。男は月を見ながら嘆く。嗚呼、玉子が恋しい。

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