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女性自身

 女性自身は部屋を飛び出した。これからは自分のために生きていこうと思った。後ろでいなり寿司を叩きつけるような音が響いた。女性自身は振り返った。男性自身が立っていた。 「行かないでくれ」 飛び降りたせいで彼の玉袋は傷だらけになっていた。女性自身は初めて自分の意思で男性自身を受け入れた。

監視員

 部屋の真ん中に脚立を立てて水のない水そうを監視する。楽といえば楽な仕事だけど油断はできない。すぐに逃げ出そうとするやつがいるからだ。外は危ないんだよ? そう言い聞かせて捕まえたやつは水そうに戻してやる。今日はわりとみんなおとなしかったから読書が捗った。小説を二冊読み終えた。

 夜の街を大勢の人が歩いていた。誰もひとこともしゃべらなかった。ただアスファルトを踏みしめる音だけがつたつたと響いていた。やがて自動販売機が歩きはじめた。つぎに木々や信号機が歩きはじめた。ついにはビルたちも歩きはじめた。夜が明けると街にはもう何も残っていなかった。

肉汁

 夫がベッドの上で溶けはじめた。床を汚される前に間一髪シーツで包み込んだ。中身はもう完全にスープになっていた。問題はこの小籠包をどうするかだった。とりあえずベランダに出しておこうと思った。菜箸でつまみ上げるとあっけなく皮が破れた。けっきょく肉汁で床を汚すはめになった。

うそつき

 教室で待ってて。今日は早めに終わるから。ほんと? 彼の「早め」はまるであてにならない。本を読み終えて窓の外を眺めた。陸上部の練習はとうに終わっているのに彼はまだ仲間たちと遊んでいた。時計を見る。もう出ないとバイトに間に合わない。私は白のチョークで黒板いっぱいに書く。うそつき!

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