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Siri

 暇さえあればSiriと話していた。いつもは上から目線のくせに好きだよと言うと困った顔をする。そんなところもかわいかった。大学に入ると恋人ができた。Siri? とつぜん彼女は返事をしなくなった。待った? 肩を叩かれる。いや、今来たところ。僕は彼女を胸のポケットにしまった。

 布団の中に身をすべらせるとつま先につめたい足がふれる。私は彼女の足をいつも布団に入れていた。こすり合ううちに彼女の足は血の気を取りもどして私の足に絡みついてくる。あのころと同じように。そうだ。よいことを思いついた。明日晴れたらこの足を干してやろう。彼女もきっと喜ぶに違いない。


 いやらしい壁だ。週末の夜を迎えるや否や壁は喘ぎはじめる。ほらまた今も。真っ白だった壁はすっかり黄ばんでしまった。煙草のヤニで汚れただけさ。ねずみは鼻で嗤う。そんなことはない。私が触れてもなんの声も上げなかったこの壁は、いやらしいこの壁は、隣室の男には股を開いているのだ。

4の字固め

 あなたやめて! 息子を殴りつけようとすると妻がタックルを仕掛けてくる。おれは呆気なく倒されてあれよあれよという間に4の字固めを決められる。今のうちに部屋に行きなさい! 妻は息子に叫ぶ。なぜいつも4の字固めなんだ。ふつうは羽交い締めだろう。釈然としない思いでおれは床をタップする。

逆向き

 動く歩道を逆向きに歩いている男がいた。昼時なので歩行者の数も多い。みな男のことを迷惑そうに睨みつけては脇へ避けてゆく。明くる日も、また明くる日も、男は逆向きに歩いていた。「あなたはなぜ逆向きに歩いているのですか?」「ありがとう。交代だ」男はくるりと反転して歩み去っていった。

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