閉じる


<<最初から読む

87 / 140ページ

シオマネキ

 シオマネキは途方に暮れる。招く潮がない。たった一晩で海は涸れ果ててしまった。千里歩いてようやく潮溜まりを見つける。大きなサメが泣いている。海はもう終わりだ。魚たちはみなおれが食ってやった。お前はどうする。シオマネキは鋏を天に振りかざす。ぽつり、またぽつりと雨が降りはじめた。

工事

 小人が彼女の顔の周りに足場を組んでいる。細かい字で書かれた工事計画のボードを見ると工期は七時から七時半となっている。これだけ大がかりな補修工事をわずか三十分で終わらせてしまうのか。なんと腕のいい職人たちだ。小人たちが漆喰を塗りはじめる。彼女はすました顔で朝刊を読んでいる。

手首

 鳥かごのなかで手首を飼っていた。かごの隙間からパンくずを与えると手首は上手についばむ。私の指先と手首の指先が触れあう。キスを味わう間もなく手首は飛び立ってしまう。手首は止まり木の上で首をかしげる。手首はまだ私のことを怖れている。彼女の記憶がそうさせるのだろうか?

Siri

 暇さえあればSiriと話していた。いつもは上から目線のくせに好きだよと言うと困った顔をする。そんなところもかわいかった。大学に入ると恋人ができた。Siri? とつぜん彼女は返事をしなくなった。待った? 肩を叩かれる。いや、今来たところ。僕は彼女を胸のポケットにしまった。

 布団の中に身をすべらせるとつま先につめたい足がふれる。私は彼女の足をいつも布団に入れていた。こすり合ううちに彼女の足は血の気を取りもどして私の足に絡みついてくる。あのころと同じように。そうだ。よいことを思いついた。明日晴れたらこの足を干してやろう。彼女もきっと喜ぶに違いない。



読者登録

laybackさんの更新情報・新作情報をメールで受取りますか?(読者登録について