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あの子

 あの子と遊んじゃだめ。ママはいう。あの子じゃないよ。たくみくんだよ。とにかくだめなの。あの子もだめ。あの子もだめだわ。毎日あの子の数はふえていって公園はあの子だらけになってしまう。もうあの公園はだめね。あのねママ、ぼくもほんとはあの子なんだよ。ママはぼくの手をサッとはなした。

トイレ

 不動産屋の女はドアを開けて客の男に中を見せる。「きれいですね。広さもちょうどいい。決めた。このトイレにします」「ありがとうございます」「私はトイレの中がいちばん落ち着くんですよ」男は晴れ晴れとした表情で言う。「みなさんそうおっしゃいます」女はにっこりと微笑んだ。

めも

 よなかにめがさめたしんさくのあいであのしっぽをつかまえたきがしてめもしようたすけてとするたすけてとかってにたすけてもじがにゅうりょくたすけてされるこんなたすけてことかくたすけてつもりじゃなたすけてかったのにこんなはずたすけてじゃたすけてなかたすけてたすけてたすけてたすけて

消灯

 別居中の夫の部屋を訪れた。夫は照明の紐で首を吊っていた。どうすればいいのか分からなかった。ただ幸いなことに焦る必要はなかった。夫の体は風鈴の短冊のようにゆらゆらと揺れていた。ちっぽけな男に相応しい最期だった。おやすみなさい。あなた。冷たい足首を引いて明かりを消した。

クロ

 クロがクローゼットの扉を開けろと催促する。開けてやるとクロはするりと中に身を滑らせてコート類の影に溶け込んでしまう。おかしな子ねえ。扉を開けっ放しにしたまま私はパスタを茹でにゆく。部屋に戻るとクロはストーブの前に座り、頭の上に雪をのせていた。君はどこに行ってきたの?

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