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 あなたごはんよ。水槽に金魚の餌を入れる。夫は溺れた人のようにぱくぱく口を開けて餌に食らいつく。金魚のメリルとの争奪戦が繰り広げられる。いつもは穏やかな夫も必死だ。メリルが夫に体当たりしたかと思うと夫はほどけたネクタイでメリルの首を絞める。あらあらたいへん。殺さないようにね。


出勤

 あなた朝よ。水槽に掛けた暗幕を取ると夫は眩しそうに目を細める。朝食用の金魚の餌を水槽に入れる。今朝は夫も金魚のメリルも仲良く食べている。夫の出勤は楽なものだ。なにしろ水槽と夫の会社はウォータースライダーで繋がっていて、水槽側のハッチを開けるだけで夫は勢いよく飛び出していくのだ。

退勤

 あらもうこんな時間。そろそろ夫を迎えに行かないと。金魚鉢を小脇に抱えて夫の会社へ向かう。水槽タイプの社屋の表で待っていると夫が二階から泳いでくるのが見える。空中に飛び出した夫を無事金魚鉢で受け止める。ハニー、今日の夕飯はなんだい? 私は微笑みながら答える。金魚の餌よ。

スカイツリー

 スカイツリーが2メートルしかない。君が泣き続けたせいで。潮風が吹くとツリーの穂先に結わえつけたロープがぴんと張ってゴムボートはきれいな円を描く。水平線のほかは何も見えない。ボートの底に溜まる涙をマグカップで汲み出しながら僕は言う。ねえ。いいかげんに泣きやんでくれないか?

ひな祭り

 珍しく娘が和室でテレビを観ている。「まだ寝ないの?」「今日は好きなバンドのライブがあるから」ところが新聞のテレビ欄を見てみてもライブ番組なんてひとつもない。「あなた日にちを間違えてるんじゃない?」「間違えてないよ」「なんてバンド?」娘はひな飾りの方を指差す。「五人囃子」

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