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個人情報

「うちにシュレッダーはないわ」「弱ったな。問題は個人情報なんだ」「パスタマシンならあるけど」「それでいい」裸になった彼はパスタマシンの上に膝を抱えて座り込んだ。「回していい?」「頼む」ごりごりめきめきぶちゅぶちゅと彼の身体は押しつぶされて平らなメンになってゆく。

札束

 一人で寝るのは寒い。道行く女の頬を札束で引っぱたいて連れ帰った。シャワー浴びていい? ああ。札束のベッドの中で縮こまっていると女がすっと隣に入ってくる。おれは人肌の温もりに心底ほっとする。不意に女が身を離した。しないの? ああ。役立たずね。朝目覚めると札束も女も姿を消していた。

 牧場の朝は早い。東の空が白みだす頃にはすでにひと仕事終えている。いつもそんな調子だった。ところが今日に限ってサムは寝坊した。鶏が鳴かなかったのだ。野狐にでも襲われたか? それならそれで鶏が暴れて音がするはずだ。サムは銃片手に鶏の様子を見に行った。鶏は寝坊していた。 

バウムクーヘン

 軒下に野良バウムクーヘンがいた。腹を空かせているのかくんくんと穴を鳴らす。ところがミルクを深皿に入れて置いてやっても警戒してなかなか近づいてこない。家の中に入り、窓を薄く開ける。バウムクーヘンはこくこくとミルクを飲んでいた。慌てて飲むなよ。溶けちまうぞ。私は静かに窓を閉めた。

少女

 こっちよ。少女は男の手を引いて湿った森の奥へと入ってゆく。男はふと自分の手を見下ろして呆然とした。ヒルがべっとりと張りついている。声を上げようとすると少女が振り返った。可憐な唇の間から赤黒い舌が伸びて男の口を塞いだ。甘い香りがした。血の味がした。そして男は眠りに落ちた。



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