閉じる


<<最初から読む

55 / 140ページ

音楽と小説

 香織はソファに深く沈み込んだままヘッドフォンで音楽を聴いている。嫌なことがあった時に彼女がよくやる行動だ。小説なんてしょせん音楽には敵わないよな。僕が言うと香織はそうでもないよと言って外したヘッドフォンを僕に渡す。彼女が聴いていたのは僕の小説のオーディオブックだった。

指輪

 僕は山の頂に、彼女は麓の村に暮らしている。連絡の手段は糸電話だけだった。君に指輪を贈るよ。どうやって? 嶮しすぎるこの山には郵便山羊も登ってこれない。僕は電話の送受信器を外して糸に指輪をそっと通す。ふたたび送受信器を取りつける。コツリと音が鳴り、彼女の歓声が響いた。

プレゼント

 背中に隠していたプレゼントを渡すと彼女の顔は朝陽のように輝いた。「開けてもいい?」「もちろん」中身を目にした彼女の表情が急に曇る。「気に入らなかった?」「わたし、ピアスはだめなの」「だって今も」「これはイヤリング。穴は開けられないのよ。わたしの身体は風船だから」

ゴミ捨て

 一人でゴミ捨てに行った。本当は二人で行く決まりになっていたけど佐々木くんは私一人に掃除当番を押しつけて先に帰ってしまった。先生に告げ口すんなよと言い残して。クラス一チビの私には大きすぎるゴミ箱と格闘しているうちに焼却炉に落ちた。 暖くて嬉しかった。家はいつも寒かったから。

パンツ何色?

「今日のパンツは何色?」第一声がそれである。付き合いが長くなるとかくもデリカシイを欠くようになるものか。私は彼女に小一時間説教をする。「君が私と出会った頃にはね。廊下ですれ違うだけで頬を染めていたものだよ。いい加減にし給え」「ごめんなさい」「よろしい。パンツは白だ」

読者登録

laybackさんの更新情報・新作情報をメールで受取りますか?(読者登録について